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闇竜と騎士団  作者: 山﨑
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98話

パーティーは夜遅くまで続いた。

国王はサイを伴ったまま参加し、貴族たちの挨拶が終わった後少ししてから会場を去った。

長旅の直後であるため、誰からも不審に思われる事なく下がる事が出来たようだった。


サイは国王と共に会場を去り、着替えの時間だけ部下に護衛を任せ、着替えた後は国王が滞在している最上級の客間の前を護っている。


四番隊の隊員からは、パーティーで疲れているだろうから休んでください、と言われていたが、飲酒はしていないから大丈夫だと言って聞かなかったようだ。

結局、交代の時間までしっかり扉を護り、副隊長と交代してからやっと与えられた部屋に戻った。


サイに宛てがわれた部屋は、国王が滞在している部屋からすぐ近くである。

護衛としてすぐに駆けつけられる場所にあり、何か異変があればすぐ報告が届けられるようになっている。


そのため、隊服を着たまま寝る事になったサイ。

流石にジャケットは脱ぐが、寝にくい格好なのは間違いない。若干の息苦しさを感じながらも、疲れを自覚した身体は正直で、すぐに寝入った。











「何か問題はなかったかい?」


一方、ヴェルムが宛てがわれた部屋ではガイアとアズ、そしてスタークが警備の報告に訪れていた。

まずはガイアが報告のために一歩前へ出る。


「会場内及び会場周辺担当の我が隊からは二点です。一つは、国王の滞在場所を突き止めようと、国王が退席した後尾行を画策した令嬢を発見。足止めし未遂に終わらせています。もう一点は、リクのことをイェンドル王家の人間と結びつけて考えた者がいました。ファンガル伯爵の寄り子である子爵家の者でした。こちらは隊員の闇属性魔法で記憶を曖昧にさせております。かなりの飲酒量でしたので、周りも不審に思ってはおりませんでした。」


ガイア率いる一番隊は、会場内と会場周辺を警備していた。勿論、伯爵家の領軍も警備に参加していたが、人手不足なのとファンガル伯爵からの要望もあり一番重要な警備にドラグ騎士団一番隊の力を借す事になった。


アズ率いる二番隊は、ファンガル伯爵の居城内部をカバーし、スターク率いる五番隊はその外である。

それぞれの特性を活かした配置にする事で、大小様々なトラブルを回避したようだ。


次の報告はアズだった。


「二番隊からは一点です。先ほどの一番隊の報告と多少似てはおりますが、国王が退がった後、令嬢を連れた貴族が国王の滞在している部屋の方へ向かっていたため足止めしました。話を聞けば迷ったと言ったそうで、お帰りはあちらですと玄関に案内したようです。」


城内の警備だけに、ガイアと似たような報告になるアズ。

ヴェルムはそれを苦笑しながら頷いて聞いていた。

アズも言いながら困ったように眉尻を下げているし、先に報告したガイアなど苦笑いが隠せていない。

スタークはまだ真面目な表情を繕えていたが、頬がヒクついているのは見れば分かる。


皆、貴族の困った行動に呆れているようだ。


「まぁ、こうなる事は分かっていた訳だしね…。だからこそサイを伴わせた訳だから。会場内で露骨にアピールする者もそんなにいなかったし、概ね成功したと言っても良いね。それで?スタークは毛色の違う報告があるようだね。」


ヴェルムは苦笑したまま言い、最後にスタークへと視線を向ける。

同じく苦笑していたガイアとアズも、表情を引き締め直してスタークへと視線を向けた。


三人の視線を一身に受けたスタークは、一歩分前に出ていたアズと入れ替わるように前へ出た。


「五番隊から数点。まずは城の敷地内ですが、パーティー開始前までに四つ、開始後に一つ、設置型の魔道具を発見しております。これは三番隊との協力で発見しました。今夜は三番隊が周辺の警戒に出ていますので、もしかしたら追加の発見があるかもしれません。設置されていた魔道具ですが、大きな音を鳴らす物、爆発する物、極め付けは魔物を誘き寄せる香を撒き散らす物までありました。こちらは数キロ範囲の魔物を呼び寄せる物ですので、領都周辺はほとんど魔物がいない為効果は殆ど無いかと。」


報告をそこまでで一旦止めたスターク。腰に提げたマジックバッグから報告書を取り出し、ヴェルムに渡す。

そして別紙を追加で取り出すと、ヴェルムだけでなくガイアとアズにも渡した。


どうやらこの別紙には、発見された魔道具の効果と発見場所が詳しく記載されたものであるようだ。

ガイアとアズはその種類と数に驚いているが、直ぐに疑問が湧いたのか、首を傾げている。


「これに関しての疑問は尤もだけど、スタークの考えを先に聞こうかな。」


ヴェルムも同じ疑問を持ったのか、最初に報告を受け同じ疑問を持ったであろうスタークに意見を聞く。

ガイアとアズもスタークの答えを待った。


「実際に発見した隊員たちは、兎に角騒ぎを起こしたかっただけではないか、と言っていました。ですが、魔道具に詳しい者から見ると違うようで。どうも、チグハグに見える、と言っておりました。」


「チグハグ、とは?」


スタークの言葉に反応したのはガイアだった。魔道具に詳しい者の言うチグハグとは何か気になるようだ。アズも口にはしないが気になっている。


スタークはガイアを見て一度頷いて続きを語る。


「まず、効果がしっかりと発動出来たとしても弱い。それこそ、発見者の言うように騒ぎが起こしたいだけに見える。だが、魔道具に詳しい者が見ればすぐ分かるらしいが、どうも設置した者が違うようなのだ。それに、魔道具を作っている国も違う。おそらく、それぞれに設置した意図が違うのだろう。ただ、共通している事がある。それは設置された時期だ。厳密に言えば、国王が避暑へこの領地に来ると発表があってから今日までだ。」


スタークはガイアに向かってそう言うと、今度はアズが何か閃いたように頷いた。

ヴェルムはアズを見て頷くと、アズはそれに頷き返した。


「と言う事は、設置者は西の国と南西の小国ですか。流石に北の国はないでしょう。つまり、今回の国王の目的とは合致しない。」


アズの言葉に、ガイアはなるほど、と頷く。

スタークとヴェルムも同意見なのか、二人も軽く頷いた。


「でも、決めつけるのには少し情報が足りないね。そんな君たちに追加の情報だよ。」


ヴェルムが笑顔でそう言うと、空間魔法から報告書を取り出す。一部しかないため、アズが持ってその左右からガイアとスタークが覗き込む。三人の中では一番背が低いアズが持つのが丁度いい。立ち位置としてもアズが丁度真ん中だった。


「あー、こりゃあ完璧な関連性が出てきたな。だけど丁度良いじゃねぇか。ついでにこっちも片付けられたら楽だけどな。」


「うーん、それはどうかな。北の国がどう動くか次第な気がするよ。別働隊がいるから良いけど、手は足りるかな?」


「そこは零番隊の力の見せ所じゃないか?それに、西の国にはカサンドラ隊が。南西の小国には今暁が居るはず。なら大丈夫だろう。私たちは降りかかる火の粉を払うだけで済みそうだ。」


ガイア、アズ、スタークの順でそう言うと、三人は揃って報告書から目を上げた。

相変わらずヴェルムはニコニコと笑顔で、三人の感想に満足しているようだ。


「そう。どうやらその魔道具は西の国とその属国になりかけている小国の歪な連携で行われたようだね。流石に全ての国境は見張れないし、なんのための辺境領なのか、だね。ファンガル伯爵家は世代交代したばかりだし、そこを突かれたのは仕方ない。でも、それで国王に危険があれば意味がない。ただ、ファンガル伯爵領で問題が起こるのは国王としても困るんだよ。だから今回ここを選んだというのもある。護衛として私たちが着いてくれば、付随して諸問題を起こす前に解決出来るから。今回私たちが五隊皆んなで来たのも、そういう事情があっての事なんだ。」


当然だが、どうやら本当にピクニックに来た訳ではないらしい。

国王が来ても来なくても、いつかファンガル伯爵領は問題が起こっただろう。他国の手によって。


だが、ファンガル家は建国当時から続く名家だ。"ラ"を受け継ぐ貴族で、武門のファンガル家。辺境伯に任命されても良いところを、歴代当主が断っているため伯爵のままだが、中央に近い領地ならとっくに侯爵家になっているところである。


寧ろ、今まで王族と婚姻関係を結んでいない事の方が驚きの忠臣なのである。


そんなファンガル伯爵家のお膝元で他国から侵略と取れる行為を許せば、国内外からファンガル伯爵家が舐められる事は容易に想像がつく。

国内には、"ラ"を羨む貴族は多い。そのため、常にやっかみが付き纏うのである。


また、外国にはファンガル伯爵は英雄を出した家として有名であるため、その領地で今問題が起これば、英雄の息子は大した事なし、という評価を受ける。

それだけは国王としても避けたいところだった。




「なるほど。確かにそりゃ一理あるなぁ。んじゃ、明日からは一番隊と二番隊で交代しながら領内巡回っすかね。」


ガイアが首の後ろをポリポリと掻きながら言う。先を読んだ発言はいつもの事だ。


「そうだね。その辺りの連携は任せるよ。三番隊と五番隊は領都を含めた主要都市を回ってくれるかい?この際、ファンガル領に潜む悪意を根こそぎ排除する勢いで。」


ヴェルムが何か企むような笑みを浮かべながらスタークに向かって言う。スタークはそれを受け、似たような笑みを返した。


「ではリクと相談してすぐに動きます。本来の目的のタイミングはどう致しますか。」


「大丈夫。それは手を打ってあるよ。」


三人の隊長が退室する時には、皆悪い笑顔で笑っていた。

もしこの光景を国王が見ていたら、きっとこう言うだろう。


"ヴェルムが四人おるぞ!?"











ファンガル領は大陸の中央より南部のため、高温多湿である。

だが、領都は山と河川、森に囲まれており、山から吹き下ろす風が心地よく、湿気も溜まらないため過ごしやすい。


更に、天気も急に変わったりしないため出かける予定も組みやすい。


グラナルド北部は気温は低めだが、天気が変わりやすいのが難点なのだ。

これでは限りある避暑の予定を綿密に組む事が出来ない。

そのため、北部に避暑で出かける際は予定を大雑把に組む必要があった。




今回の国王のファンガル領への避暑は、かなり細かく日程が組まれていた。

表向きは避暑だが、その予定を聞けば視察と言って差し支えない程の予定の過密具合だった。


だが、国王とは誰よりも忙しい仕事である。

朝早くから夜遅くまで、国民のために身を粉にして働くのだ。暇な訳がない。

当然、王妃もそれに近い。


王妃がやるべき公務が多数あり、グラナルドは主に外交が多い。

しかし、王妃の一番重要な仕事はそれではない。当然、世継ぎを産む事である。


そうなると大変なのが国王である。

夜遅くまで仕事をしていては、子作りもできない。

ではどうするのか。


単純な話、子作りしてまた政務に戻るのだ。


今代国王、ゴウルダートはまだ良い方だ。何故なら、先代国王が亡くなる前に王太子として婚姻を結び、戴冠前に王太子と第一王女が産まれたのだから。


だが、第二王子の時は結局前述のような生活だった。

第一王子が産まれれば、次はスペアとなる第二王子の誕生が望まれる。王女なら王女で、婚姻による他家他国との結びつきに利用出来る。


そんな激務の中で側室を迎え入れたゴウルダートは、心の安らぎを求めていたのだろう。

ユリアの母親である側室には随分と入れ込んでいたようだ。




それはさておき、現在は王妃がいないためユリアが代わりにその公務を担っている。だが、ユリアには次期女王としての教育もあるため国王の政務も同時に手伝わせている。

そのため、国王も王妃の仕事を分担して行う必要があった。


そのように忙しい日が一年以上続けば、流石に慣れる。

避暑に来ているのに多量の書類を片付け、更に領都へ視察をしに街に出る。


夕食は領内の貴族と共にし交流を図る。

その度にサイが付き合わされるのも定番になった。


現在、国王の直接の護衛は四番隊のみで行っている。

実は零番隊が一部隊ついているのだが、五隊には言っていない。

気付いている者もいるが、周知されないという事の意味を正しく理解し黙っているようだ。


そんな忙しい国王のもとへヴェルムが訪ねて来たのは、ファンガル伯爵領に滞在して三日目の事だった。


「やぁ、ゴウル。避暑は楽しんでいるかい?」


ノックに返事を返した国王が、その声を聞いて顔を上げる。

机の隅に置かれた紅茶に手を伸ばすと、既にかなり冷たくなっていた。


「これを見て楽しんでいると言えるなら、お主の目は余程の節穴だろうな。」


「ふふ、違いないね。」


挨拶程度の軽いやり取りだったが、それだけで国王が全く休めていない事が分かる。

ヴェルムとしては、友であるゴウルダートに少しでも休んでほしいという気持ちがある。

だが、歴代国王も大変な時は根性を見せて乗り切った。ゴウルダートだけ特別扱いはしない。

だが、心から応援している事もまた事実だった。


「それで?お主のことだからまた厄介な話を持ってきたんだろう?休憩がてら聞こう。」


国王はそう言うと、紅茶を置いて背もたれに体重を預けた。

ヴェルムはニコリと笑ってから、部屋に備え付けられている茶道具で紅茶を淹れ直す。

国王は礼を言ってからすぐ紅茶に口をつけた。


「とりあえず、今回の避暑で予定していた目的は団員に話しておいたよ。ファンガル家には伝えないつもりだけど、良いよね?」


ヴェルムは問いかけというより事後承諾のように確認を取る。国王はそれにすぐ頷いた。


「やっぱり色々と仕掛けてきてたみたいだけど、昨日と今日で大体片付いたみたい。残るは北の国の問題かな。実際、ゴウルはどう思ってる?」


一番隊と二番隊による領内の巡回、そして都市部を三番隊と五番隊による調査が入ったため、領内に潜む悪意はほとんどが摘み取られた。


都市によっては、警備隊の隊舎の牢屋が足りず、馬車に纏めて放り込み他の都市で尋問をしたというケースもある。


国王は少しだけ考えた後、カップを置いてため息を吐いた。


「十中八九、仕掛けてくるだろう。だが十ではない。何か起爆剤があれば解決するのだが?」


そう言いながらヴェルムの方を意味ありげに見る国王。その口元は不敵な笑いを浮かべている。


「流石ゴウル。話が早くて助かるよ。じゃあ国王の許可も降りたし、早速起爆剤を起動させるけど良いかい?こうなると三日後には帰る事になるけど。」


まさかそんなに早くだったとは思わない国王は、少しだけ焦った表情を浮かべる。

だが少し考えた後なにか思いついたのか、ヴェルムへ目を向けて力強く頷いた。


「よかろう。お主の言葉通り起爆してから三日後に帰れるよう調整する。だが起爆は少し待ってくれ。こちらも準備がしたい。いつでも良いようにはしているつもりだったが、相手に合わせる必要がないならやりようがある。一日くれ。そうすれば整う。」


「じゃあ、明日一日あげるよ。起爆は明後日の朝こっちでやっとくから。ゴウルは四日後に帰るつもりで過ごしてて。お土産買うならその間にね。」


真面目な話をしているのに急にお土産について言及するヴェルムに、国王は少し肩透かしをくらった気分になる。

だが、それも気負わせないようにするヴェルムの優しさの一部だとわかっているため、特に何か言う事は無かった。


書類仕事も程々にね、とだけ言って去ったヴェルム。

残された国王は、丁度良い休憩になったようだ。

疲れは見えるが表情は晴れやかで、その後すぐ引き締まる。


友と話し再度気合を入れ直したようだ。

ゴウルダートはまたペンを握り書類と格闘を始めた。

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