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闇竜と騎士団  作者: 山﨑
67/293

67話

ドラグ騎士団本部には、本館を囲うように五隊の隊舎がある。

最も大きな門である南門近くに建てられているのは四番隊隊舎で、その理由は主に、緊急時の野戦病院的扱いとなるからだ。


健康診断などもあるため、四番隊隊舎に入った事がない団員はいない。

しかし、それも一階まで。

二階より上は隊員かそれ以上の立場の者しか入れない。

隊長室や会議室、そして隊員の私室があるからだ。


そんな四番隊隊舎の隊長室に、五隊の隊長全員が集まっていた。


「お茶を淹れるから待ってて。適当に寛いでてね。」


サイが言うと、アズがそれを止める。僕が淹れるから、とサイを座らせようとしていた。

互いに譲らないかと思いきや、ガイアがアズに加勢する事でサイは渋々ながらもソファに座った。


「さっちゃん負けてるー!ほら、これ美味しいよ?食べよう?」


最近部隊長よりも上の者に配布された、腰に提げるポーチ型のマジックバッグからクッキーやマドレーヌを取り出し食べているリク。それを勧められて大人しく食べるサイ。


拗ねて菓子を食べる姿はリクと大して変わらないな、などと下らない事を考えていたスタークは、何故かサイから睨まれてドキリと心拍数を上げた。


「スターク?失礼な事考えてるでしょう?」


全力で首を横に振った。助けを求めてリクを見るが、リクはクッキーとマドレーヌを両手に持っており、口は既にパンパンだ。この状態のリクから言葉を引き出せるのはヴェルムしかいない。


結局、ガイアとアズが隣の給湯室から戻ってくるまで肩身の狭い思いをしたスタークだった。




「んで?相談ってのは団長にどうやったら休みが出来るか、って事か?」


アズが三人分の紅茶を、ガイアが自身の珈琲とリクのココアを淹れて戻って来ると、早速とばかりにガイアが切り出した。

自然と四人の視線がサイへと向かう。

それを受け、サイは一度頷いてから口を開いた。


「それもあるんだけど…。最近、色んな事が重なって忙しかったじゃない?ほら、元王太子と公爵たちの反乱とか。」


「私のために北の国にも行ったよ。」


「あぁ、天竜国の騎士団との模擬戦もありましたね。」


「零番隊も色々動かしてるらしいしな。」


サイが言うと皆最近の事を振り返りながらそれぞれ口にする。スタークは相槌だけ打っている。


「そうなの。リクの事もそうだけど、私も個人的に長らく会ってなかった叔父に会わせて頂いたりもしたわ。きっと私の知らないところで皆んなも何かしてもらってるでしょう?なのに私たちは何もお返し出来てないなって。」


サイが頬に手をあてため息を吐くと、四人はそれぞれ顔を見渡して苦笑した。


「なら、考えるべきは決まったな。いつ、何を、どうやって、だ。一個ずつ決めていこうぜ。」


「そうですね。決めやすいのは、何を、でしょうか。それが決まらないと他も決めにくいですよね。」


ガイアとアズが続けて言う。スタークもそれに頷き、サイはなるほど、と顔を輝かせた。


それからしばらく色々な意見が出たが、皆がこれだ、と思う物が浮かばない。

そんな中、今思い出したとばかりにリクが手を挙げた。


「どうした、姫?なんか良い案あるか?」


ガイアが渡に船とばかりにリクを指す。


「今思い出したんだけど、前にさっちゃんの叔父さんに作ってもらった物があるの。団長と皆んなにあげようと思って。」


「叔父様に…?」


「さっきの話では、サイの叔父上は高名な鍛治師なのではなかったか?」


「そうよ。それにリクが接触したって話は叔父様から聞いてないもの。いつの間に?」


「さっちゃんも含めて皆んなには内緒だよって約束したの!さっちゃんの叔父さん良い人だよ!」


血族であるサイにも内密にする程の依頼。リクは一体何を作ってもらったのか。

それは直ぐに分かった。


「失礼します。三番隊の者がリク様に頼まれた物を持ってきたと来ております。」


扉がノックされた後、サイの副官の声が聞こえる。

通してちょうだい、とサイが声を返すと、三番隊隊員が一人入室してきた。その手には紙袋がある。


「ありがと。下がって良いよ。」


リクがそれを受け取り礼を述べると、隊員はまるで誕生日プレゼントを貰った子どものような表情になり、一礼して去っていった。


それからリクは紙袋から包みを取り出す。包みは五つあった。


「これは?開けても良いかい?」


アズがリクへ問うと、リクは頷く。アズが丁寧な手つきで包みを開けると、中から出てきたのは黒竜の形のブローチ。


「もしかしてこれ、マントの留め具?」


サイが予想を言うと、リクはだいせいかーい!とはしゃいだ。


「すげぇなこれ。どこまで繊細な造りしてんだよ…。しかもこれ、付いてるの魔石じゃねぇか。」


「ガイア、それだけじゃないみたいだぞ。どうもこの黒竜、団長の姿にそっくりじゃないか?ただの黒い竜じゃない。」


呆気にとられるガイアに、横からスタークも気付いた事を言う。アズとサイもそれに気付き、四人はリクを見た。


「私がね、団長の竜バージョンの絵を描いたの。と言ってもスケッチだけど。それを叔父さんがブローチにしてくれたんだよ。他のは付いてる魔石の属性が違うんだよ!凄いでしょ?」


それから四人はリクの許可を得て他の包みも開ける。意匠は一緒だが、付けられた魔石に込められた魔力が違うようだった。

最初にアズが開けた物は澄んだ水色をしており、水属性の魔力が込められている事が分かる。


「まさか、これ全部リクが込めたの!?」


サイが驚いた顔でリクを見る。するとリクは少し困った顔で首を横に振った。


「そうしたかったんだけど…。私闇は上手く込められないの。普段も使わないし。だから、じーじに頼んだよ。」


「セトに…?」


そう、リクは全属性の魔法を使いこなす"魔法の申し子"と呼ばれる存在だ。魔石に各属性の魔力を込めるのは造作もない。しかし、闇と聖は属性としては少し特殊なのだ。聖属性が得意な者は闇属性が苦手である事が多く、その逆もそうだ。


リクはどちらも得意ではないが苦手でもない。だが、何故か魔石に闇属性の魔力だけ込められなかった。

これはリク本人も、この作業をするにあたって最近気付いた事であった。


「なるほど。だからこの闇魔石だけやたらと濃いのが入ってんのか。姫はどの魔力も澄んでて綺麗なのにおかしいと思った。」


ガイアが納得していると、確かに、と他の三人も頷く。


「でも入ってるのはちゃんとリクの魔力だね。でも何か違う…?まるで、リクが誰かに魔力を渡して、その人の魔力と混ざらないように魔石に込めた、みたいな遠回しさを感じるよ。」


リクは驚いた。アズが言うのは殆ど当たっている。

リクとしては全ての魔石に自分で魔力を入れたかったのだ。特に闇魔石だけは。

しかしそれは難しいと分かり、仕方なく、本当に仕方なくセトに頼んだ。


そんなリクを見たセトは一つ提案してくれたのだ。

リクの魔力をセトに送り、セトがその魔力を闇属性に変換して魔石に込めるのはどうか、と。

かなり迂遠で面倒臭い作業だが、リクの魔力が込められる事が重要だと考えたセトの、精一杯のアイデアだった。


リクはこれを了承し二人で時間を見つけてコッソリ魔石に魔力を込めた。数日間、寝る前に少しずつ込め、やっと込め終わった時は二人でハグして大喜びした。

リクは魔力を送るだけだが、セトはその魔力を自身の魔力と混ざらぬよう闇属性に変換し、魔石に込めなくてはならなかった。

相当な疲労だっただろう。しかし、リクがそこまでする魔石はきっと、セトの主人への贈り物だ。セトが手を抜く理由がなかった。


完成から三日後、セトはリクから手編みのマフラーを貰った。端にはセトとアイルが可愛くデフォルメされた執事姿の刺繍。

その裏側には、セトの竜の姿が刺繍されていた。


リクは一度しか見た事がない筈のセトの竜の姿。それを覚えていてくれたのか、とセトは涙を流して喜んだ。


あまりに喜びが溢れていたのか、団長室でヴェルムに、ご機嫌だね、などと聞かれた時にセトは珍しく焦り言葉が詰まった。

結局、マフラーはヴェルムにバレた。貰った理由ははぐらかしたが、それからしばらくヴェルムに羨ましがられた。

セトとしてはさっさと魔石をプレゼントしてほしい。


「なるほど。だからこのデザインなんだな。竜は宝を集める習性があるのは確かだからな。団長の宝は家族だもんな。いいデザインだ。」


スタークがしみじみ言う。このマントの留め具のデザインはリクが考えたもの。

闇竜が魔石を大事に抱え込むデザインで、スタークの言う通りの意味がある。


「で、だ。俺たちは団長に礼を返すって話をしてたんだよな?リクはこれで良いにしたって、俺たちはどうする?それぞれで考えて一斉に渡すか?」


ガイアが話題を振り出しに戻す。軌道修正と言ってもいい。


「そうですね。ですが、被らないようにするのも、団長にバレないようにするのも難しい気がします。」


アズはその難易度が気掛かりなようだ。スタークも同じようで、腕を組み考え込んでいる。


「ねぇ、折角ならこういうのはどうかしら。隊服や団服と違って式典装は加護付きじゃないわよね?だったら意匠の変更も出来るって事じゃない。この際団員皆んな巻き込んで…。」


この後かなり遅くまで話し込んだ五人。どうやら大掛かりになりそうだった。











「突撃!そのまま蹴散らして城を崩せ!」


小国郡の残党処理は迅速に行われた。

五隊だけでなく零番隊も複数部隊が参加し、その鎮圧を早めた。


小国郡にあった残党も、逃げ場がなくなると次々投降した。

しかしそれは遅すぎた。早くから投降した者たちはそれを受け入れられたが、ギリギリまで粘った者たちは須く斬られた。


逆らう者は徹底して排除するのがグラナルド王国の基準だ。

それに従ったドラグ騎士団の行動は正に疾風の如しだった。


この行動によって現地民は寧ろ喜んだ。

小国故に国民の数が少なく、大国と渡り合うために税は高かった。グラナルドに吸収され税は半分以下になった。それだけで国民は吸収を受け入れた。


それだけではない。グラナルド王国は農地をほとんど荒らさなかった。戦地は荒野や平原を選び、農地は極力荒らさない戦場選びをしたのはファンガル伯爵だ。


更に、残党処理に来たドラグ騎士団は、それでも荒れてしまった農地を復活させた。

また、土の汚染を取り除き栄養を取り戻した。


戦地となった区域に住む者は、戦後一年は税が免除される。

ドラグ騎士団によって豊作が約束された地になった村はこの一年をどう生きるかで今後が変わるだろう。




旧貴族が立て篭もった城は、魔法によって全てが消失した所もある。

消失前に宝物庫や食糧庫は全て空になった。これも全てマジックバッグが開発された事が大きいだろう。


一番無惨だったのが、三番隊が攻めた場所なのは言うまでもない。現在は城だった物が散乱する瓦礫の山となっている。

この城は突然の竜巻に襲われ、逃げる暇もなく全てが宙に吹き飛ばされた。そして元あった場所に叩きつけられたのである。


ヴェルムは五隊と零番隊による報告書を読み、後片付けが大変だね…、と嘆いた。

どうやら戦時体制による団員のストレスを見誤ったようである。

これは早急に休暇を与えねば、と決意したヴェルムだった。

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