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闇竜と騎士団  作者: 山﨑
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57話

東の国との国境線を監視する三番五番混合の中隊は、本部からの連絡を受け一人の零番隊隊員を待っていた。

小隊ごとに分け監視地点を巡回しているが、司令部を置く狩猟小屋と周辺に設置した天幕では、彼らよりも立場が上である零番隊が来るとあって騒がないにしても普段より動きが多かった。


その落ち着かない雰囲気が伝染しているのか、監視地点を巡回する小隊からも日頃より少しテンションの高い報告が相次いでいた。


「こちらデグーツー!侵入者二名を確保!引き取りの人員を送ってください。」


相変わらずの可愛い呼び名で報告が飛んでくるが、既に慣れた五番隊の隊員たちは反応しない。

司令部にいた待機中の小隊が飛び出して行った。




それからしばらくして夜になり、零番隊の隊服をキッチリと着込み腰に長刀と小太刀を帯びた男が司令部に現れた。


「お待ちしておりました。遠路お疲れ様です。飛竜はこちらで返しておきますので、お預かりします。」


司令部で報告書を書いていた中隊長が零番隊の男へ敬礼しながら出迎え、声をかけた。

男は真面目な表情を崩さないまま、中隊長へ敬礼を返した。


「丁寧な出迎えかたじけない。急ぎの任務である故、拙者はこのまま国境を越える。飛竜の事は頼む。ここまで良く飛んでくれたのでな。ゆっくり休ませてやってくれ。其方らも任務中である故、見送りは要らぬからな。」


男がそう言うと、中隊長は慌てて今晩だけでも泊まって行かないかと問う。しかし、男は首を振って司令部を出て行った。


「それだけ急ぎの任務って事か。流石に零番隊は忙しそうだな。なんせ彼らの任務地は基本外国だからな。」


零番隊に会えると喜んでいた部下たちのためにも一晩泊まって行ってほしかった中隊長だが、任務と言われれば引き留められない。

副中隊長と共に少しため息を吐き、男が出て行った方を見る。


「彼が出るという事は東の国の上の方に問題があったって事ですかね?最近大陸中で国境線が変わりまくってますからね。ここも変わるような事にならないといいんですが…。」


副中隊長がそう言うと、そればかりは分からないな、と中隊長も返す。零番隊が関わるのだ。何もないなんて事はないだろう。何より、五隊が関われるような案件でない事は確かだ。


それよりも、零番隊に会えると思ってやる気に満ちていた部下たちをどう宥めるかを考える事に思考を切り替えた。











「やぁ、久しぶり。やっとこちらに着いたか。待っていたよ。」


東の国のとある街。ここでは旧東の国の建築や文化を残しつつ、本島の文化も取り入れた新しい文化が独自に出来上がっている。

街並みは石造りで、道も石畳だ。この地域では良質な石材が採れるため、石加工品の技術は大陸有数である。東の国は大陸の国と大掛かりに貿易しないため、今ではこの街の石加工品は大陸で高値で取引される。


そんな石の街に、二刀を腰に帯びた零番隊の男がやって来たのはつい先ほどだ。

街に入って宿を取り、併設する食堂で食事をしていると男女二人組が目の前に現れ言った言葉が先ほどのものである。


「お待たせして申し訳ない。先ほど到着しました故、指示通りこちらで食事を摂っておりました。」


男は箸を置き立ち上がって頭をさげる。それを手で制したのは、現れた二人組の内、男の方だった。


「目立つからやめてね。一度会っているけど一応自己紹介を。僕はアベル。こちらは僕の部隊の副長、ルルだよ。」


「ちゃんと挨拶した事はなかったもんね。ルルだよ。よろしくね。」


アベルとルルの二人が男へ名乗る。男は席に座ったまま頭を下げた。


「拙者は源之助。姓は捨てた故に、源之助と呼んで頂けると助かります。」


そして自身も名乗る。源之助が姓を捨てたというのはまだ比較的最近の事ではあるが、アベルとルルは詳しく知らない。それに新しい家族である源之助の嫌がる事はしない。よって深く聞いたりもしなかった。


「よろしく、源之助。これからの行動は頭に入っているかい?」


アベルの質問に、源之助は少し考えた後に頷く。ならば良いとその話は終わり、アベルとルルも食事を注文した。


「食事が済んだら直ぐに行動するよ。事前の準備は終わらせてあるからね。後は源之助と協力して"お話"しに行くだけさ。」


「成程。拙者が着く前に全ての準備は済んでおりましたか。何もお手伝い出来ず申し訳ない。本番は拙者が矢面に立ちます故。」


そんな二人の会話を聞きながら、ルルはニコニコと笑顔だった。それに気付いたアベルは、ルルに怪訝な顔を向ける。


「ルル、どうしたんだい?僕たちの会話は何かおかしかったかな。」


アベルがそう言うと、源之助も気になったのか首を傾げる。

ルルはおかしそうに笑うと、傷ひとつない指を立て胸を張った。


「だって、源之助くんは普段本部にいるじゃない?私たちは全然本部に戻ってないから、本部の皆んなの事源之助くんから聞きたいんだろうなぁ、って思って。だからさっさと終わらせて源之助くんから皆んなの様子を聞こうと思ってるんでしょ?アベルは。」


ルルが自信に満ちた表情でそう言うと、源之助は呆気に取られていた。反対にアベルは顔を赤くし、ルルへと食ってかかる。


「な、何を言っているんだい、ルル?僕は別に皆んなの様子を早く聞きたいからさっさと済ませようとしているんしゃなくてね…?一刻も早く今回の騒動を止めないと国境警備が大変だろう?だからだね…。」


しどろもどろになりながら弁明するアベルに、ルルの笑顔は深まるばかり。源之助はもう着いて来れていない。

そしてあーだこーだと言うアベルに、ルルのトドメが刺さった。


「一番聞きたいのはカインの事だよね?元気にしてるか、とか。どうせ聞いたってカインはアベルに対抗意識を燃やしてるだけなのにねぇ?」


今度はアベルが黙る。そして源之助はやっと自分が分かる話になったのか、直近の話を持ち出した。


「カイン殿?あぁ、南の国との戦線にファンガル伯爵軍として参加しておられるな。アベル殿はカイン殿と仲が良いのですか?そういえばカイン殿はアベル殿と良く似ていらっしゃる…。まさか、ご兄弟ですか?」


源之助の言葉にルルは笑顔で頷き、アベルの兄だと言う。源之助は納得したようで、本部に訪れたカインの様子を語る。

憮然とした表情を崩さないアベルも、源之助の話に耳を傾けているのが良く分かった。

ルルはその様子を見て微笑み、源之助は真面目に語る。

ルルの気遣いだと分かっているアベルは、大人しく話を聞くしかないのだった。




「では行こうか。敵はあの城にいるんだけど、それより上の指示みたいなんだよね。だから、とりあえずは今日あの城に行く。指示を出した上の名前を聞き出したら後日そちらに向かうよ。大まかにはこんな感じだけど、源之助の準備は良いかい?」


食堂を出た三人は街の大通りを歩いていた。

アベルの言葉に、その隣を歩く源之助が頷く。


「勿論。いつでも準備は出来ております故に。アベル殿もルル殿も前衛ではないであろう?戦闘時は拙者が前に出る故、後方は任せます。」


源之助の力強い返事に、二人は満足そうに頷いた。


これより、東の国からグラナルド王国への妨害策を打ち破る作戦が始まる。

城へ向かうのは三人だけではない。アベルが率いる部隊の部下も、既に作戦予定地へ各々の担当する場所に潜んでいる。


アベルが率いるのは特殊魔法を使う者が多く所属する部隊。

特殊魔法は六属性に含まれない特殊な魔法を指す。

他の部隊に所属する特殊魔法使いもいるが、ほとんどの特殊魔法使いはアベルの部隊に集まる。それは、アベル自身が特殊魔法使いだからだ。


執事であるアイルが使う転移魔法も、その双子の姉カリンが使う空間魔法も特殊魔法である。


副部隊長であるルルも、特殊魔法使いの一人である。


零番隊自体が特殊な者の集まりであるが、その中でも特殊魔法を使う者が集まるアベルの部隊は、普段は北の国と東の国周辺で活動している。

今は任務のため東の国のかなり奥まで入ってきているが、普段はこの辺りは別の部隊が活動しているのだ。


しかし今回は特殊魔法を使う前提の作戦であるため、アベルの部隊がこちらへ来た。

源之助がここへ来たのは別の理由だが、それも作戦をより確実に進めるためのピースである。


三人は観光に来た旅人を装いながら街を歩く。敵にとっては終わりの始まりがゆっくりと近づいていた。











「炎帝様にお繋ぎ頂けますか?」


天竜国ドラッヘの皇都にある屋敷に、子どもが二人来ていた。歳は十二歳くらいだろうか。男女ではあるが二人とも良く似た容姿をしており、男の子は無表情で女の子は笑顔なのを除けばそっくりな二人だった。


屋敷の門番は二人を見て直ぐに連絡を走らせ、二人は屋敷へ通した。


門から玄関までは口を開かなかった門番が、玄関に着くと扉を開けながら二人へ声をかけた。


「二人ともよく来たな。指示書は自分で渡すか?預かっても良いが。」


どうやら顔見知りのようだ。男の子は無反応だったが、女の子が笑顔で首を横に振った。


「大丈夫ですよ。師父からの指示書ですから。ちゃんと直接渡します。もう血継の儀も終えたんですから、いつまでもそうやって試されても困ります!」


そう言って頬をパンパンに膨らませるが、門番は笑うだけで二人の頭を撫でた。


「すまんすまん。ちゃんとお遣い出来てるか確認しただけだよ。ほら、案内が来たからまた後でな。本部の話、楽しみにしてるぜ。」


門番はそう言うだけ言って二人を送り出し、玄関から出て門へ戻って行った。

二人はご機嫌斜めな様子を隠しもしないが、案内に来た男に連れられて屋敷の主が待つ部屋へと向かう。


その道中でも同じように案内の者から色々言われたが、二人は耐えていた。


「失礼します!姐御にお客さんですよ!」


案内の者のかなり失礼な言葉と共に扉が開き、屋敷の主の部屋へ通される。

そこには燃えるような紅髪の大柄な女性がいた。


「おや、二人ともよく来たね。アイルは魔力足りてるかい?ここまで遠かっただろう?」


優しい笑顔で迎えたその女性の顔には、赤い塗料で複雑な紋様が描かれていた。


「カサンドラ様。お久しぶりです。魔力は問題ありません。ご心配頂きありがとうございます。ヴェルム様より指示書を預かっています。」


男の子、アイルはカサンドラへ感謝を述べつつ、訪問の理由を告げる。アイルの言葉と同時に、隣に立つ女の子は空間魔法から指示書を取り出した。


「カサンドラ様、こちら指示書になります。」


女の子は取り出した指示書をカサンドラへ渡す。カサンドラは笑顔で受け取った。


「カリンもおつかれさん。二人で来たって事は、二人とも協力してくれるって思って良いんだろう?」


カサンドラがそう言いながら指示書を開封する。二人は肯定してからカサンドラが指示書を読み終わるまで黙った。


「…なるほど。確かに、黒幕はこの国の者だね。じゃあ早速私らは動くからね。調査と裏付けが終わったら二人にも動いてもらうよ。それまでこの屋敷で好きに過ごしな。あぁ、アイル。あんたは私が帰ったら珈琲を淹れてくれるかい?マグマのように熱く濃いやつを頼むよ。」


カサンドラがそう言うと、アイルは綺麗な礼で肯定の意を示した。




「さて、じゃあ私らクランで動くかね。指示書には国を潰さなきゃ好きにして良いとあるからね。国力を下げないで黒幕を潰す。それでいて再発防止までやってやろうじゃないか!あんた達!私らの実力、団長に見せつける時だよ!指示書には私らの火消しは鉄斎の奴がやるって書いてある。そんな事私らが許すわけないだろう?火消しなんて必要ないくらい燃やし尽くしてやんな!」


アイルとカリンが下がった後、カサンドラは屋敷の訓練所に来た。既に部隊のほとんどの隊員が集まっており、カサンドラは全員に顔を向けながら演説をする。


カサンドラとは犬猿の仲である鉄斎の名前が挙がると、部隊員たちは鬨の声を上げる。


南の国へ攻め込んだ二国を唆した黒幕を滅する部隊が動き出す。

天竜国ドラッヘ、その国の在り方が変わる日も遠くない。

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