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闇竜と騎士団  作者: 山﨑
49/293

49話

「おい、なんだあれ!」


「ま、魔物だ…!魔物が来るぞー!」


「キャーッ!!」


「女子供を村長宅へ!男どもはなんでもいいから武器になる物を!」


グラナルド王国南部の辺境の村に、災厄が降りかかっていた。突如現れた魔物の群れに、村人はなす術なく襲われる。村の男衆は農具を手に反抗するが、普段から戦いとは無縁の生活をする者にとって、それは無意味以外の何物でもなかったのだろう。


数時間後、魔物は家に立て篭もる女子供、そして年寄りまで殺し尽くし、村には夥しい量の血痕が残るのみとなった。







「これは…!ひどい、なんて事だ。」


数日後、この村に立ち寄った行商人が村の異常を街で報告し、派遣された冒険者によって細かな報告がなされ、現在はドラグ騎士団が調査の担当をしている。


調査の第一隊として派遣されたのは、五番隊だった。


「小隊長。凡その調査が完了しました。一度報告に戻りましょう。」


「…あぁ。だが、何故ここなんだ。この辺りは冒険者も多い。あんなに大きな被害を齎す群れはあり得ない…!」


「そうですね…。そこだけが不思議なんです。ですが、だからこそ見える答えがありそうな気がします。早く戻って報告しましょう。」


小隊は近くの街に戻り、報告書を作成。テイマーの隊員による鷹便で送った。











ドラグ騎士団本部本館、隊長と副隊長が集まる会議室では集まった者全員が深刻な顔持ちで配られた資料に目を向けていた。


「うーん、やべぇな。予想だにしてない方向からの群れは流石にマズいだろ…。」


「そうね、零番隊でも察知出来てなかったとするなら由々しき事態かも。」


「そうですね。起きた事に関しては国がどう補償するかですが、護国の観点からしても再発の防止は必須です。」


「我が隊の報告によれば、魔物の種類は多岐にわたるらしい。これも通常ならあり得ない。」


各隊の隊長が言葉を交わす中、ヴェルムとリクは黙っていた。ヴェルムはリクへと顔を向け目が合うと頷いた。


「あのね、一つ思ったんだけど…。」


リクがおそるおそるといった形で声をあげると、会議室にいる全ての者の視線が向いた。


「こないだ捕まったから違うとは思うんだけど、カルム公爵の魔石技術って事はないかなぁ。それが、たとえば南の国とも接してる小国群のどこかに流れて…とか。流石にないかぁ。」


ごめんね、と言って小さくなるリク。しかし、隊長格の四人は考えもしなかったという表情だった。


「たしかに。姫の言うことは一理ある。それどころか、それ以外に今んとこ考えられねぇってのが本音だろ。」


「そうですね。リク、その線も含めて調査が必要だと思います。」


「そうね。リク、お手柄よ。」


「あぁ、そうだな。」


それぞれから褒められたリクは、照れくさそうにしながらも、違うかもしれないし…、と言っている。そんな事は皆百も承知なのだ。一つでも可能性を模索していくしかない状況で、柔軟な発想を持つリクにはこうして度々救われる。誰もが想像しなかった事に対するリクの勘は、今までほとんど外れた事がないからだ。


「そうなると範囲は零番隊になるね。三番五番の二隊は国内の可能性を潰していって。今回は予想してなかった事態だけど、これからもそうで良いわけじゃない。五番は国内の警備と可能性潰し、三番はそれを補助しつつ魔石技術が他に流出してないかの調査。しばらく巡回や遠征は一番二番が変わって。」


ヴェルムが指示を出すと、それぞれ呼ばれた隊長が返事を返す。

その日から本部は慌ただしくなった。











「それで我らの出番という訳か。」


「そうみたいっすね。どーします?まずはこの国からっすかね?」


「あぁ、そうなる。小国群に散っておる我が部隊が団に貢献する良い機会だ。この件が片付いたら、皆で久々の帰還としよう。」


南の小国群のうちの一つ、まだ国として数十年しか機能していない国に、その者たちはいた。この国が誇るSランク冒険者を筆頭としたAランクパーティである。

そのリーダーの男は、国の有力者とも繋がりが有り、国境線の小競り合いにも参加する事が多く、多大な戦果をあげている。


背中には大太刀を背負い、数多の敵を屠ってきたその姿に、国王ですら無碍にはしないという。


「そういやリーダー、緊急事態なんであれっすけど、実際どこまで予想ついてます?」


軽薄そうな男がリーダーに話しかける。慣れているのか口調にはとやかく言わないようだ。


「リク殿の言う通りであると考えている。確かカルム公爵に内通している貴族がいたはずだ。そこをあたるぞ。」


「あいあいさー。」




この国では国軍による魔物の討伐は行わない。それは全て冒険者が担う。冒険者たちも、自身の住む街を守るために日々魔物と戦う毎日を続けている。


そんな冒険者に多大な援助をする貴族がいる。この国の三大貴族と呼ばれる内の一つである、とある侯爵である。


小さな国であるが故に侯爵家は二つしかなく、その二家と伯爵家の三つが三大貴族にあたる。

そんな侯爵家の屋敷は、小国とは思えないほどに立派な屋敷だった。


「すまない、侯爵はご在宅だろうか。約束などは特にしていないのだが。」


リーダーの男が門番に話しかけると、門番はリーダーの顔を覚えているらしく、すぐに敷地内へと案内された。

豪華な応接室に通され待つ事半刻。部屋にやって来たのは壮年で小太りの男性だった。


「おぉ、暁の皆さん。よくぞ参ったな。少々手が離せない案件があってな。待たせてしまって済まぬ。」


悪びれた表情一つ見せずにそう言う男性。この者こそ侯爵家当主であった。


「いえ、こちらこそ突然の来訪に対応していただき有り難く。今日は数点聞きたい事があって参った次第。」


侯爵の態度には慣れているのだろう。リーダーは自らの非礼を詫びてから本題に入る。しかし、そこで侯爵から待ったがかかった。


「こちらもドタバタしておってな。喉が渇いておる。少し茶に付き合ってくれんかの。」


先触れなしに訪れたのはこちらである。茶の一つくらい付き合うべきだった。

急いては事を仕損じると判断したリーダーは、頷いてゆっくりする姿勢をとった。


「暁は相変わらず飛ぶ鳥を落とす勢いじゃの。儂も鼻が高いでな。」


愉快そうに話す侯爵は、実力ある冒険者たちを度々屋敷へ招待して話を聞きたがる。このリーダーが率いる暁というパーティも、何度か呼び出された事がある。

しかし、暁は依頼を受けていたら招待には応じない。それが侯爵の琴線に触れたのか、更に気に入られてしまったのである。暁が他の貴族の招待に一度も応じていないのも理由にあるのかもしれない。


「でな、南の大国は今は捨て置き東に注力すべきと王に進言したのよ。まずは一帯を平定し力を付けねば、とな。しかし中々聞き入れてくださらん。北にはグラナルドもあるというのに。しかし、東に注力するためには魔物をどうにかしないと話にならないと言われてはなぁ。それで儂はグラナルドを逆手にとってやろうと画策したわけよ。」


侯爵は冒険者の話を聞くのも好きだが、気に入った冒険者に対しては寧ろ語りたがりになる傾向がある。

暁が招待された時は、リーダーではなく軽薄そうな男がずっと語っており、リーダーは目を閉じて腕を組んでいる。

しかし、今回は流石に気になったのか目を開き侯爵を見つめていた。

それに気を良くした侯爵は更に熱を入れて語り出す。


「ここからは内密に頼むぞ?信頼する暁だからこそ話すのだ。この儂の国に向けた忠誠心をな。」


そう言ってから一度紅茶を飲む。この地方では濃く淹れた紅茶に香辛料を入れて飲むのが貴族の基本である。高価な香辛料を飲み物に使えるほどの財力を示すためである。

紅茶が濃いのも同じ理由だ。何度も同じ茶葉で淹れる必要などないという財力アピールである。


「それがな、グラナルドのカルム公爵から一つ譲り受けたのだよ。魔物を統率する事ができる魔物をな。何でも、魔石を加工する事で弱い個体を進化させる事が出来るようになったらしい。元々弱い個体だが使える能力だった魔物に使用すれば、弱いが故に大した力を持たなかったその能力も、絶大な効果を及ぼすと言うのだ。元々南側は魔物が少ない故、北側で使用したのじゃよ。そしたらどうだ、瞬く間に村を数個潰したではないか。今頃グラナルドも護国騎士団が出張っておるじゃろ。しかしな、その隙にカルム公爵が王宮を制圧し王太子を王にすると言うのだ。半年も前に指示された事ではあるが、こちらは約定通りにことを成したのだ。これで王位継承が上手くいけば、我が国はグラナルドとの戦争は考えなくて良くなる。どうじゃ?儂のこの完璧な策は!」


他の冒険者なら長い自慢話だったで済むのだろう。しかし、暁にとっては問題の核心であった。


リーダーは真面目な表情をしたまま聞き終わると、頷いてみせた。


「侯爵、一つ疑問なのだが。もうその魔石もしくは魔石が入った魔物は持っておらぬのだろうか。」


これだけは聞いておかねばならなかった。警戒させるかもしれないのが分かった上で切り込んだリーダーだったが、気分良く話し終えたばかりの侯爵には疑問に思われなかったようだ。


「ん?なんじゃ、普段は聞いておるのか分からんのに、今日の儂の話は余程素晴らしかったか?それも仕方ない事だがの。それで魔石じゃったか。あれは今回の事が成せればまた送ると約束されとるでの。すぐに手に入れる算段はついとる。暁も欲しいのか?悪いが我が国のために必要なものでな。もっと数が揃ったら一番に分けてやるから待て。」


どうやら勘違いしているようだが、リーダーにとっては好都合。このまま詳しく話を聞く事にした。







「いやぁ、思ったよりすぐ分かって、なんか拍子抜けっすよ。」


侯爵家を辞した二人は、パーティの拠点である戸建ての家に向かって歩いていた。普段からよく立ち寄る店も、今日ばかりは立ち寄らずに足早に帰宅する。

家に着いて中に入ると、ドワーフ族の青年が待っていた。


「あ、リーダー。おかえりなさい。どうでした?」


「あぁ、収穫はあった。おい、連絡を回せ。」


挨拶を返しながらも軽薄そうな男に指示をだすリーダー。既に報告にあげられる程に纏まっている情報なのかと、ドワーフ族の青年も背筋を伸ばした。


「部隊員に通達。原因は侯爵により放たれた魔石付きの魔物と判明。北方周辺の部隊員は直ちにその他の魔物の動向を調査報告せよ。また、今回の件は東への侵攻を前提とした策と判明。国境付近にいる部隊員は情報の収集を。周辺国の部隊員も同様に情報を収集せよ。次報は定期連絡にて送るものとする。以上。」


軽薄そうな男の普段からは想像できない事務的な連絡を黙って聞いていた二人。こちらが隊での姿であるため慣れているのは当然だった。


「お二人ともお疲れ様です。やはり侯爵でしたか。リーダーはこのまま報告書の作成ですよね。私たちは情報の収集で良かったですか?」


ドワーフ族の青年がリーダーに向け質問すると、あぁ、とだけ返事が返って来た。それに敬礼で返した青年は、念話魔法を使用しながら家を出て行く。軽薄そうな男は疲れたのか、ソファに座り込んだ。


「あぁー、疲れた。やっぱりこの魔法は一日一回っすわ。夜また定期報告があるとかしんどい…。」


そう言って倒れ込んだ男。リーダーはそれを見て、フッ、と笑った。


「夜まで休んでいろ。お前の広域通信魔法はしばらく必要になる。上で魔力回復ポーションでも貰ってこい。」


うぃーす、とダラけた返事をしながらノソノソと起き上がり、二階へ続く階段を上がっていった。それを見る事なく机に向かい報告書を書き始めるリーダー。時間がかかるかと思われた調査だったが、最初に当たりを引いたのは大きい。これは帰郷も存外早くできるかもしれないな、と思いながら羽ペンに墨をつけた。











アルカンタ中央の小高い丘に聳える王城。その最上階にある国王の私室に、来客を告げる声が響いた。


「お休みのところ失礼します。ドラグ騎士団団長がお見えです。」


通せ、との声が響くとやや間があってから扉が開く。入室して来たのはヴェルム一人だった。


「どうした、ヴェルム。お主がこちらに顔を出すのは久方ぶりではないか。」


時刻は深夜であるにも関わらず、まだ寝間着にも着替えていない国王。机に向かって何やら書類と格闘していた。


「遅くに悪いね、ゴウル。これ、報告書だよ。」


ヴェルムはスタスタと歩いて近づき、国王とは机を挟んで目の前まで来ると、書類の山の上に封筒を置いた。この部屋にある書類は、国王の執務室にも置けないような国王一人のみで処理せねばならない書類だ。その全てが国の暗部によって作成された書類で、仮に宰相でも側近でも見る事は叶わない。そんな書類があるにも関わらず、国王はヴェルムが近付く事を許していた。


「報告書?私に直接か?一体なんの、…!!」


封筒から書類の束を取り出しながら訝しげに話していた国王の言葉が止まった。それは封筒の中身を見たからだった。

それきり黙ったまま最後まで報告書を読んだ国王は、怒りで報告書を掴む手が震えていた。


「あやつ、他国まで巻き込んでおったか…!確かに、やつの屋敷から押収した書類の中にこの国との取引の形跡はあった。しかし書類に残すほど馬鹿ではなかったのか、明確に何を取引したのかは分からなかったのだ。まさかこのような…。」


そこまでをやっとの事で絞り出した国王だったが、また黙ってしまった。

ヴェルムはそれをただ見ていたが、唐突に頭を下げた。

ヴェルムの行動に怒りも忘れた国王は、急にアタフタし始めた。


「ヴェルム!何故お主が頭を下げるのだ!お主は王太子の一件も陰ながら支援してくれたではないか!それに此度もこうして直ぐに情報を集めてくれた。頭を下げる理由などないではないか!」


カルム公爵に向けた怒りなどどこへ行ったのやら、ヴェルムに頭を下げられた事のない国王は只管慌てていた。


「ゴウル、私は護国騎士団の団長だよ。君の祖先であるレクスと約束したんだ。彼は助けを求める民を救うため攻める力を。私は友の帰る家を護るための力を。しかし今回、辺境の村人たちを護る事ができなかった。これは約束を守れなかった謝罪だよ。今は君が契約者だ。なら私が頭を下げる相手は君だろう。」


ヴェルムはそう言って頭を下げたまま。国王はその言葉に落ち着きを取り戻したが、内心はまだ混乱していた。一先ず頭を上げねば話も出来ない、と説得し何とか頭を上げさせると、深いため息を吐いた。


「ヴェルム。当時とは状況が違う。それに、元々お主との契約では、護る範囲は首都だけだろう。騎士団の規模が大きくなったため数代前に国内と範囲を広げたそうだが…。そもそも護れなかった時の罰は二人で決めたではないか。ならばそれを実行してもらえればそれで良い。国民に対する責任は全て私にある。お主は再発防止に全力をあげてくれればそれでな。」


国王の言葉にヴェルムはまだ眉尻を下げたままだったが、一応の納得は見せた。

そして空間魔法から一枚の絵を取り出した。


「はい、これ。あの時二人で決めた罰。確かゴウルとの約束は、初代と私が描いてある絵だったよね。残ってるのはこれとあと二つだけ。一つは私が。もう一つはある人が持ってるよ。」


そう言って手渡したのは、グラナルド王国初代国王と妃、そしてヴェルムが描かれた絵だった。決して豪華とは言えない質素な木枠の額に入れられたその絵は、まだ描かれて数日しか経っていないように見えるほど綺麗なままだった。


「こ、これは…!確かにあの時初代の顔が分かるものと言ったが…!こんなもの国宝になるに決まっておろう!ポンと出すな!」


ヴェルムとしては約束通り渡しただけなのに、何故怒られているのだろう、といった具合である。

それからもしばらくグチグチと言っていた国王だったが、段々いつもの調子が戻って来たヴェルムに気付き、グチグチ言うのをやめた。


「なぁ、ヴェルム。確かに今回は我が国から出た錆だ。王太子の一件からも分かるように、少なくない貴族が私に反意を持っているのは分かっている。それは、父の代を知っているからこそなのだろう。現在の国土のおよそ三割は、父が齎した成果だ。だからこそ、戦に疲れた我が国民を癒すためにも私の代では攻め込む事はせぬと決めていたのだ。しかし、今回の件があってまだ腰を上げぬは臆病者と言われるのは確実。別に私がなんと言われようと気にせぬが…。実はな、先日まで来ておった南の国の王女は、貿易強化のために来たのではないのだ。今回ちょっかいをかけてきた国には随分と攻め込まれておるそうな。そこで、共同戦線を張らぬかという連絡でな。正直なところ、小国郡がなくなる方が南の国との貿易の面では一番なのだ。しかしなぁ…。」


どうやら国王は戦争をしかけるかどうかで悩んでいるようだった。そんな国王にヴェルムは慈愛の表情を浮かべていた。

そしてまだ悩んでいる国王に、ヴェルムは一つの書類を差し出した。


「ん?なんだこれは。…これは、あの国の、か…?」


「そうだよ。君が侵略戦争を嫌っているのは分かっていたからね。それこそ君の曾祖父の代にはこの体制だった。だから君の曾祖父も祖父も、父ですらも知っている。でも色んな理由から優先順位が低かったんだよ。まずは国民を護る事に優先した時もあれば、東の国からの侵略後の地を救うために後回しにした時も。君の気持ちは固まっているんだろう?全てはユリア王女の手を汚させないために。ならこれがあれば君の重い腰も上がるかなって。」


「なんと言う事だ。お主に私の気持ちが筒抜けなのは気に食わんが…。この情報が今も事実としてそこにあるのなら、私は動かねばなるまい。初代よりの教えに従う事こそ我が国の王族よ。王太子の件で初代を始めお歴々には随分と心配をかけている事だろう。グラナルドの力を見せる時が来たようだ。ヴェルム、お主にも協力してもらうぞ。防衛はお主に全て任せる。それと、昔の約束通りお主の家族を貸してもらうぞ。良いな?」


「わかった。零番隊から部隊を貸してあげる。これも約束だからね。じゃあ、細かい事決まったら教えてよ。今日はこの辺で帰るからさ。」


ヴェルムはそう言って立ち去ろうとするが、国王がそれを止めた。

そして机の後ろにあるキャビネットを開けボトルを取り出す。


「一杯くらい付き合わんか、馬鹿者め。私は妻と子ども三人を失ったばかりの傷心者だぞ。」


そう言いつつグラスを別の棚から取り出し魔法でコルク栓を抜く。ヴェルムはやれやれ、と肩を竦めてからソファに座り込んだ。空間魔法から摘みになる物を出して準備万端だ。


「何を呆れた顔をしとる。お主だって楽しみにしとるではないか。全く…、それが友を慰める態度か?」


ブツクサ言いながらも笑顔で対面のソファへ移動し、静かにグラスを合わせる二人。

ヴェルムから渡され今は机に放り出された一つの書類には、グラナルドから例の国へ人身売買で取引があった記録が載っていた。

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