表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
闇竜と騎士団  作者: 山﨑
36/293

36話

ドラグ騎士団入団試験の、最後の試験は面接試験である。

毎回、最初と次の試験は内容が様々に変わる。しかし、騎士との手合わせと面接は必ずある。騎士となる以上、どんな武器だとしても戦えないとならない。それは、普段の業務内容が書類整理だったり料理人であってもだ。

使う武器は何でも良い。剣でも魔法でも、テイムした動物や魔物でも。代理受験は認められていないが、そういう者は基本的に最初と次の試験で落ちる。


さて、野外炊事場で走っていた栗鼠だったが、今は三番隊隊舎にいた。

作戦立案室と呼ばれる会議室にて、三番隊隊員の肩に乗り、貰った木の実の殻で汚している。


「ふーん。じゃあ予定通り五人は最後まで残すんだ。それって、デメリットにならないかな。次回とか。」


一人の隊員が誰に向けるでもなくそう言うと、他の隊員も頷く。


「それはあれだ、団長のお考えだろう。理由は隊長たちなら分かるんだろうが…。俺らには理解が及ばんな。」


カラカラと笑いながら一人がそう言うと、他の隊員も釣られて笑った。

一人では大笑い、複数人で大笑いすると爆笑、という表現になるが、まさに爆笑している隊員たち。自分で自分を貶しているというのに、豪気なものだ。しかし、三番隊とはそうなのである。皆優秀で、諜報面で大活躍するにも関わらず。情報を集めるのはプロだが、その情報から真理を導き出すのは致命的に下手なのが三番隊だ。

彼らも一応考えている。しかし、全ての考察は、リクが喜ぶかどうかに帰結する。故に上の判断に対して迷いなく頷き行動する。考え方によっては危険な者たちだが、そのトップであるリクに悪意がないため特に問題は起こらない。


そもそも、リクが隊長になるまでは真面目で規律の厳しい、諜報部隊として正しくイメージ通りな部隊だったのだ。リクは部隊長や副隊長、副官の地位を経験していない。平隊員から隊長に抜擢されたのだ。しかも三番隊全員一致で。隊長格の推薦や団長の承認を経て隊長になったが、隊長に任命される前から既に隊長兼アイドルは確定していた。

今の三番隊に対して、ヴェルムも認めている。前より腕が上がったし、あれ見て誰も諜報部隊だと思わないでしょう。とはヴェルムの言だ。




爆笑が落ち着き、またも真面目に報告を纏める三番隊。テイマーの隊員の肩の上で、栗鼠が扉に向けて顔を上げた。それを見たからではないが、一瞬遅れて隊員たちも扉に目を向ける。

数秒後、ノックの音が響く。既に扉前まで移動していた隊員が、音も立てずに扉を開いた。


入ってきたのは五番隊。そして五番隊隊長スタークの副官だった。


「お疲れ様です。我が隊長から、三番隊隊長殿との連名で指示を受けて参りました。こちらをどうぞ。」


副官から差し出された指示書に、三番隊の面々は釘付けだ。

よし、やるぜ!や、お前は違う担当だろ!などと騒がしくなる三番隊。五番隊の隊員は呆れ顔か真顔の者しかいない。副官は呆れ顔だった。


「それと、予定通りに今は進んでいますが、アドリブはあっても構わない、とのお言葉を団長様から頂いております。つまり、好きにせよ、という事ですね。こういう案件は我が隊よりもそちらの方が適任でしょう。"いつも通り"の基準で考えれば宜しいかと。」


それを聞いた瞬間、三番隊は更に盛り上がる。五番隊はそのまま扉を閉め去っていた。そして、あまりに五月蝿いからか、栗鼠は飼い主の肩を汚したまま姿を消していた。











「き、緊張する…。」


面接試験が行われるという会議室前。廊下に並んだ椅子に座る少年。商業区から来た少年だった。

直前の試験で騎士と戦った。いや、二振りだけで終わったあの戦闘は、戦闘と呼べないものだったと認識している。

満足に身体を動かした後ならば、このように緊張で固まる事もなかったのかもしれない。

思考が定まらないまま、遂に少年の番が来た。


「こちらへどうぞ。」


物腰丁寧で、柔らかな笑顔を浮かべる女性団員に案内される。それを見て少し気分が落ち着いた少年は、開かれた扉に向かう。入口で頭を下げると、中から男性の声が届く。


「中へどうぞ。そのまま座ってください。」


少年は言われた事に従うほかない。面接は始まっているのだ。一挙一動見られている。

少年が席に座ると、面接官は数人いる事に気が付いた。いや、その後ろに立つ者も合わせればもっと多い。何故こんなに面接官がいるのか気になったが、よく見ればそれは、各隊の者が来ているのだと気付く。

面接官たちは、黒を基調にそれぞれの隊を表す色で差し色が入った隊服を来ていた。


「さて。今日はどちらから?」


簡単な質問から始まった面接は、少年の緊張を解そうとしてくれている気遣いだと直ぐに分かった。少年は昨晩、父親から聞かされた圧迫面接というものでない事に安堵した。しかしため息など吐けない。慌ててため息を飲み込み、続々と飛び交う質問に答えていた。


「では次。騎士団に入って君は何を成す?つまり、何のために騎士団に入りたいのか、だね。」


二番隊の隊服を着た男性からそう聞かれ、少年は迷う事なく言葉を紡ぐ。


「私は、父の商売についてこのアルカンタに来ました。昔から父は行商を行っており、拠点はあるものの滅多に帰ってきませんでした。昨年、急にアルカンタへの引っ越しを宣言され、母と共にアルカンタへ来ました。漠然と父の跡を継ぐと考えていたのに、アルカンタに来てからドラグ騎士団の方々を見て、自分の将来は自分で決めるべきだと思ったんです。行商に出るなら剣の腕もある程度あった方が良い、と父から言われてずっと続けてきたのがここで活かせるのではないか、と。何より、アルカンタに来てから右も左も分からない自分達家族を、近くの住民の方やドラグ騎士団の方々に助けて頂いたんです。ならば、私に出来ることで恩を返したい。ドラグ騎士団に入ることが出来れば、アルカンタだけでなくこの国中、つまり自分の故郷も含めて護る事が出来るのではないかと考えました。」


少年の話は用意していないものだったために、順序もまとまりも無い言葉だったが、面接官には伝わったようだ。質問した面接官以外も頷いていた。


「最後だ。君は筆記試験で天竜教に対して面白い回答をしていたね。何故なのか聞いても?」


最後の質問は五番隊からの質問だった。

その質問に少年は心当たりがあった。最初の試験、筆記試験での問題の一つだ。


問:天竜教について自身の考えを述べよ


これについての少年の答えがこうである。


答:天竜様は世界を支える存在であるため、自身を崇める宗教が必要だとは考えていない。つまり、人族が勝手に祀り上げただけの宗教。それにより人族の心が救われるならばそれで良いが、天竜様に迷惑をかけるのは唾棄すべき事である。


公にしていないが流石に天竜をトップとするドラグ騎士団。この答えを見て質問しない訳にはいかない。何故天竜の考え方が分かるのか。一番知らなくてはならないのはここだった。


「この話は誰にしても信じて貰えません。しかし、敢えて此処で言いますが…。私は幼い時分、天竜様にお会いした事があります。妹と二人で森に出かけ、魔物に襲われて妹と逸れました。そして天竜様に救われたのです。しかし、妹は既に魔物に殺されておりました。天竜教の教義の通りなら、天竜様はあの時私の妹も含めて助けてくださったはず。しかしそうではなかった。つまり、天竜様も私たち人族と同じく、この世界に生きる生き物の一つ。不可能は不可能なのでしょう。その時に天竜様からお聞きしたのです。天竜教と天竜様に関係はない、と。私の目的の一つとして、あの時助けてくださった天竜様に、強くなった私を見てもらいたいというものがあります。だからこそ、竜の別名を冠する騎士団の下で働ければと思うのも、入団したい動機の一つです。」


少年の話に面接官は黙った。その反応に、少年は失敗を悟る。

やはりこの話はするべきではなかった。天竜様に会ったことがあるなど、酔っ払い冒険者の戯言と大差ない。ここまできて不合格だろうか。


そんな考えに支配され、顔を上げることが出来なくなった少年に、声がかかる。


「失礼、あまり堂々と天竜様にお会いしたと聞かないものでね。だが安心してくれ。君の話は丸ごと信じよう。君の語った内容に何一つ矛盾がないからね。」


「さて、良い話を聞いたところで結果だ。君は合格。来月頭から勤務になる。詳しいことはこの部屋を出てから着く案内に聞いてくれ。」


「確かに良い話だった。というより、色々と疑問が解決した。ありがとう。」


次々に面接官から声をかけられ、少年は聞きたいことが聞けない。しかし、終了を宣言されているため質問は出来ない。素直に礼を告げ、退室した。


少年が退室した後の面接試験会場は、言い合いが起きていた。


「おい、お前口が滑りかけてたじゃないか。気をつけろ。」


「なに?お前も意味深な事を言っていただろう!あの少年が聞いてこなかったから良かったものの。」


「そもそもあの質問にあんな答えが返ってくると思わないじゃないか!」


「あぁ、やはり団長様は遊びに出かけたと仰っていましたが、そこでも人助けをなさっていたのですね…!やはり団長様は素晴らしい…!」


カオスだった。次の受験者を通したい案内の女性騎士が怒鳴るまで、面接官と補佐官たちは賑わっていた。











「いやぁ、今回は豊作だね。期待の新人が沢山出て嬉しいよ。果たして何人、私の家族が増えるのだろう。」


紅茶を飲みながらヴェルムがそう言うと、ほっほ、と笑ったセトが報告書をヴェルムに手渡しながら言う。


「どうですかな。戦闘面、実務面、生産、様々な専門家が合格しておりますからな。ファンガル伯爵推薦の彼も、高評価で合格しておりますな。さて、隊員になれるのは何人でしょうか。」


毎回、新しい騎士が生まれる度に二人でこうして話すが、当てる気の無い予想が当たることはない。


「しかし、あの時助けた少年が大きくなってうちに来るとはね。確か彼には魔法の才能があったと記憶しているが。これからどれだけ成長するのか楽しみで仕方ないね。」


ヴェルムも少年の事は覚えていた。魔法を覚えれば強くなれると言おうかとも思ったが、当時少年はまだ十に満たない子どもで。それに住んでいると言う村も貧しい村だった。それでは魔法など期待を持たせても、教わる環境が無いだろうと思い言わなかった。しかし今はドラグ騎士団に来たのだ。教えられる者はいくらでもいる。ヴェルムは少年の将来が楽しみでしょうがなかった。


「君も、安心しただろう?長い間彼を守ったんだね。もう心配はないさ。これからの彼の将来は輝いているよ。君も、早く産まれなおして、彼を守れるといいね。」


ヴェルムが誰もいない場所に向けてそう言うと、一瞬その場が揺らぎ、そして消えた。

その瞬間、ヴェルムとセトには確かに聞こえた。ーありがとう。と。


満足そうに頷いたヴェルムは、少年の生まれ故郷で作られる茶の香りを愉しみながら飲む。団長室には、セトの、ほっほ、という笑い声以外何も聞こえない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ