31話
西の国、天竜国ドラッヘの騎士団との模擬戦から数日。
ドラグ騎士団本部では、日課の訓練が行われていた。
今日は一番隊と五番隊の合同訓練である。
攻撃に特化した一番隊は、守りに特化した五番隊の守りを崩すべく猛攻を仕掛ける。それを防ぐのが五番隊の訓練になる。
今は小隊同士の小規模戦を行なっているところだ。
「今だ、押し込め!」
一番隊の小隊長の掛け声に、二名の一番隊隊員が突貫する。並の魔物なら一撃で穴を開ける程の威力を持った、炎を纏った槍の一撃に、五番隊隊員は正面から地属性魔法"土壁"で迎え撃つ。歩みを止められる形となった一番隊隊員に石礫が襲い掛かる。
「クッ、無理だ!壁を破る威力が足りない!一度下がってもう一度だ!」
五番隊隊員一人で一番隊隊員二人を止める形となっているため、数的不利を悟って退こうとする一番隊隊員。しかし、その判断は遅すぎた。
一番隊二人の後ろから、悲鳴が上がる。
「ぐわっ!何故後ろに!しかも三人だと!?」
後ろに居たはずの小隊長の声だった。今まさに退こうとしていた一番隊二人は、まんまとやられた事を悟り踵を返す。しかし、それこそが五番隊の作戦だった。
「土石落とし!」
魔法を発動するためのキーワードだけを唱える"詠唱省略"が聞こえたかと思えば、二人の隊員は土や石の波に飲まれた。
うわっ、と驚く声が聞こえた後、二人の隊員は姿を消す。土壁の向こうから、三人の五番隊隊員が姿を現した。
「うむ、上手くいったか。このまま作戦通りに散開。後も作戦通りだ。」
五番隊の小隊長がそう言うと、他二人の五番隊隊員は散開した。
先ほどの一番隊の小隊長が発した声は、五番隊隊員による声真似であった。風属性も使える隊員が、一番隊二人の後ろに回り込み一番隊の小隊長の声を風属性魔法によって再現し混乱させ、一気に二人を戦闘不能に陥らせる作戦だった。
それが綺麗に嵌り、数の上で倍の戦力差となった五番隊。しかし一番隊もそれで負けるわけもなかった。
散開した五番隊の、一人の悲鳴が響いた。
戦闘開始時からすぐに単独行動していた一番隊隊員が、各個撃破に向かったのである。
五番帯は守りが強い分、集団戦で特に力を発揮する。
しかし、一番隊は個人の技量が重視される部隊である。散開した五番隊など、一人ずつ相手をすれば問題なかった。
五番隊は普段、諜報などを主に担当する部隊である。故にこういった正面きった戦いの遣り取りが上手な小隊と下手な小隊がある。今回は後者だったようだ。
結果、五番隊の作戦は瓦解した。各個撃破していた一番隊隊員も倒れ、最後に残ったのは小隊長同士。それよりも幾分一番隊隊員が倒れるのが遅かったため、勝者は一番隊となった。
ほとんど一人で倒した形となった一番隊だが、反省も多かったようだ。四人で集まって反省会をしている。
五番隊も、最初は上手くいっていたのに何故負けたのか、四人で集まって反省会をしていた。
「おい、スターク。お前んとこ実戦経験無さすぎじゃないか?結局あれは何がしたかったんだよ。」
少し離れた場所で戦いを見ていたガイアとスターク。近くにはそれぞれの副隊長や副官がいる。
「うーん。分からない。すまんが、私の教えた戦術にあのようなものはない。恐らく自身で考えた作戦なのだろう。最初は良かった。風魔法も良かった。完璧な錯乱だった。だが何故散開したのかが分からん。それと、一番隊の一人の場所が分からないまま散開した理由も分からん。力になれずすまないな。」
スタークは腕組みしながら訓練場の方を睨みながらそう言った。
現在訓練場は、スタークの魔法によって森林となっている。今回の戦いの舞台を森林としているからだ。五番隊が上手く利用するかと思われた森林だったが、一番隊にあそこまで上手く場を利用されると思っていなかった五番隊はしてやられた。
「ありゃ悪手だろ。あのまま固まってりゃうちの方は手も足も出なかっただろうに。無双してるように見えたが、あいつは個人戦の力は大した事ねぇぞ。あいつは身軽だから偵察なんかはよくやらせてるが。」
「なるほど。それが今回上手く作用したな。こちらがあの者の姿を捉えられなかったのも、木の上を移動していたからだしな。一番隊は突貫専門とでも思っていたのだろう。良い学びの機会となっただろうな。」
それぞれの隊長がそのように話しているとは知らず、反省会を続ける小隊二つ。負けた五番隊は小隊長が何やら指示している形なのだが、勝った一番隊は最初に負けた二人が五番隊を各個撃破していた隊員の肩を叩き戦功を讃えている。
隊の雰囲気の差がよく出ているが、互いにそれは承知している事だ。
隊の雰囲気としては、一番隊は三番隊と気が合う者が多い。一番隊の中にも風属性魔法を使えるものは多いし、その逆もそうだ。
一番隊は二番隊と作戦行動が一緒の事が多いが、隊長同士は仲が良いのに、なぜか隊員同士仲良くない。
二番隊は一番隊を五月蝿い奴らと思っているし、一番隊は二番隊をノリが悪い奴と思っている。
五番隊は二番隊や四番隊と気が合う。
諜報部隊として三番隊と行動を共にする事が多いのに、隊員同士はあまり仲良くない。というよりは、三番隊のノリに五番隊がついていけない。作戦行動中は静かで冷静なのに、終わると急に三番隊隊長の追っかけとなる三番隊に頭が追いつかないのである。
そんな相性は存在するが、かと言って喧嘩になるかと言われればそうでもない。たまに起こる喧嘩は、近くにいた者が止める事が多い。運悪く隊長や副隊長に見つかれば、仕置きとして訓練が増えるだけだ。連帯責任でその小隊が。
各小隊の反省会が終わったのか、今度は互いに近づき二小隊で話し合っている。これは敵の視点での自身の行動がどう見えたかを聞きあうためだ。戦いはいつも相手がいて起こるもの。相手の視点から語られる事がある意味全てなのだ。自身がこうと思ってやった事も、相手にそれが伝わらなければいけない時と、伝わってはいけない時がある。それも含めて自身の思うように相手の思考を誘導出来たかどうかが語れるのは、敵しかいないのである。
そんな二小隊を眺めながら、ガイアとスタークは難しい顔をしていた。
それは今しがた届けられた連絡が原因だった。
「スターク、これどうする?」
「団長が決めたなら従うしかあるまい。おそらく考えがあるのだろう。」
「そーだな。アズは今頃顔が真っ白になってるだろうなぁ。見てぇな。よし、さっさと終わらせて見に行こうぜ!」
二人にはそれぞれ連絡がきていた。それの内容をすり合わせ、相違がないことを確認。
それは近衛騎士団からの果し状だった。
「勝っても負けても地獄だが、どうするのかねぇ、団長は。」
「さぁな。まぁ上手く纏めるのだろう。団長を信じて動くしかないだろう。」
「そりゃそうだ。おい、三番隊と連携して情報集めとけ。あと、五番隊とも連携しろ。おそらく、二番隊は本気で動くはずだ。負けんなよ。」
ガイアはスタークとの会話が終わるとすぐ部下に指示を出す。スタークは後ろ手にハンドサインで指示を既に出していたが、五番隊とも連携しろ、との言葉で追加のハンドサインを出していた。
五番隊の弱点は融通が効かないところだと考えているスターク。トップである自分がまずは実践せねばと、まずは一番隊との歩み寄りを考えていた。どうやらそれはガイアも同じだったようだ。
それならば問題ない。これから一番隊と五番隊は仲良くなれるだろう。スタークは楽観していた。
「あーちゃんみーつけた!こんなとこにいたの?ほら、リクちゃんが来たよ!」
二番隊隊舎、隊長室にてアズが机に沈んでいた。別に仕事が追いついていない訳ではない。先ほど届いた連絡のせいだ。
「あぁ、リクか…。いらっしゃい。ゆっくりしていってね。」
どうにも覇気がないアズにリクは一度苦笑してから歩み寄る。しかしそれをアズの副官が止めた。
「お待ちください。隊長は現在お疲れで御座います。三番隊隊長殿は緊急の用でないならまた後ほどお越し下さい。」
アズ至上主義を掲げる彼女は、相手が隊長だろうとこういった強硬姿勢をとる。リクはそれを一瞥しただけで無視した。
副官が止めても止まらないリクに、遂に副官もリクの肩を掴もうと手を伸ばす。しかしそれは悪手だった。
「もう少し伸ばしてたら切ってたのによ。残念残念。」
そこには今まで姿が見えなかった三番隊隊員。その手には小刀が握られており、それはアズの副官の首に向けられていた。よく見ればリクの護衛としてついて回っている男だった。
「な、何者ですか!入室の許可もしていない者は出て行きなさい!全く、三番隊はこれだから困ります。まともに人前に出れるくらいの教養くらい学んでから出直してきなさい。」
首に小刀を向けられたまま騒ぐアズの副官。リクは無視したままアズの横にたどり着いた。
「ねー、あーちゃん。連絡見たでしょ?私からあーちゃんにね、とっておきの情報を持ってきたよ。」
リクの言葉にアズがピクリと反応した。先程から己の副官がどれだけ声をかけても、今のようにヒステリックを起こしても無反応だったアズも、リクのとっておきは気になるらしい。
「それは聞くのに覚悟がいるかい?それともサラッと聞き流せるようなもの?」
アズが子どものような表情で尋ねる。リクは、にっしっし、と笑いながらアズの執務机に飛び上がり腰を下ろす。
「どうだろうね?あーちゃんにとっては嬉しい知らせだとは思うんだけどなぁ〜!」
リクが楽しげにそう言うと、アズは起き上がりすぐに言った。
「よし、まずは紅茶を淹れよう。」
リクはすかさず、クッキーも!と要求する。アズは聞こえているのか聞こえていないのか、返事をしないまま隣室へと消えた。
「本当に隊長にとって良い知らせなのでしょうね。そうでなかったら許しませんよ。もし隊長が更に落ち込まれるような内容だったら、私が直々に罰を与えます。覚えておく事ですね。」
副官はそう言い放ってからアズを追いかけた。部屋の主人がいなくなるのも問題だが、客を残したまま重要書類が多数ある部屋にその隊の者が残らないのも中々だ。
アズはその辺りしっかりしている筈だ。それなのにこんなことになっているのは、アズが本調子でないからだろうか。
そんなことを考えながらリクの護衛隊員は、ソファへと移動するリクを見ながら納刀してまた姿を消した。
先に戻ってきたのはアズだった。しかしその後ろにすぐ副官が続く。単純にアズの側にいたかっただけのようだ。
「リクはこれで良かったかな。あとこれ、クッキーね。」
ソファに座るリクへホットミルクを差し出すアズ。リクの発言を聞いていたのかは分からないが、要望通りクッキーも出してきた。リクは礼を言ってホットミルクに手を伸ばす。アズは微笑んでそれを見ながら、自身はリクの対面のソファに腰を下ろした。
後から着いてきた副官も、アズの隣に腰を下ろす。
「で、良い知らせってなんだろう。もう覚悟は出来たよ。いつでもどうぞ。」
アズはそう言って腕を組み目を閉じた。いつでも来いという強い覚悟を感じる。しかし、リクは無言でホットミルクを飲み、カップを手放さないままクッキーにも手を伸ばした。
それからしばらく、リクがクッキーを齧る音と、ホットミルクを飲む音だけが部屋を支配していた。変わらずアズは目を閉じているし、リクは無言。副官はリクを睨んでいた。
その静寂を破ったのは副官だった。
「如何に三番隊隊長とは言え失礼でしょう!隊長がお言葉をお待ちです。早々に情報を伝え退室して下さい。今ならまだ間に合います。私から罰を与えられたくなければ、早くすることです。」
リクはそれでも無言だったが、徐に顔を上げた。副官はさっさと話しなさいと視線を強くするが、リクが見ているのは副官の方向ではなかった。
それからすぐ、リクが見ていた方、つまり扉からノックの音が聞こえる。
「隊長、そろそろ総務に書類持って行きたいんですが。入ってもよろしいですか?」
女性の声だった。アズはすぐ入室の許可を出す。そして執務机から数個の封筒を取り出して、入室して来た女性に渡す。
「あら、リク様。ようこそ二番隊へ。隊長、護衛隊員の方にお茶はお出ししましたか?」
そこでアズがしまった、という顔をしてから追加の紅茶を用意する。が、途中で何を思ったのか、数杯のホットミルクを準備し始めた。
「すみません、本日は隊長がこの通りでして。私がこちらで仕事をしていれば良かったですね。リク様、後ほどマカロンをお持ちしますね。隊長のスペースにありましたので、きっと美味しいですよ。」
その女性は、ふふっと笑いながら資料を手に退室した。
「あーちゃんには勿体ないくらい良い人だよね。大事にしなきゃダメだよ?私みたいに。」
リクはそう言ってカップに残ったもう冷めたミルクを飲み干した。
「もちろんだよ。彼女は僕にとって必要不可欠な人だからね。大事にしてるよ。」
アズがそう言ってホットミルクを二つリクの前とその隣に置く。
そしてリクが軽く手を払う仕草をすると、ホットミルクが一つ消えた。単純に、リクの許可を得た護衛隊員がホットミルクを掴んだだけだ。姿を消す魔法の範囲に入ったためホットミルクも消えたという訳だ。
アズの言葉に感動したのか、アズにキラキラした笑顔を向ける副官。頬は朱に染まっている。
それからしばらく関係ない話をしていたアズとリク。その間ずっと、副官はアズを見つめていた。
「失礼します。隊長、ただいま戻りました。」
部屋にノックの音が鳴り、アズが入室の許可を出す。先ほどの女性が戻ってきたのだった。その手には先ほどとは違う書類と、可愛らしく梱包された箱があった。
「リク様、お待たせしてしまいすみません。こちらが先ほどの話に出ましたマカロンです。どうぞ。」
女性はどうぞと言いつつ、リクではなくその隣の空間に箱ごと差し向けた。
そこには護衛隊員がいる。護衛隊員は箱を受け取ると、すぐに開けて中を確認。綺麗に閉じて元通りにすると、リクの前に置いた。
リクはそれをじっくりと見てから、かわいいね〜と言いつつ蓋を開け、中から出てきた色とりどりのマカロンに感動している。
アズも、どこからの差し入れ?などと女性に聞いている。女性は、隊長宛はどれがどれか分かりませんから。検査は通っていますので。と淡々と返していた。
検査というのは、薬物が入っていないかを検査するチェックの事だ。これまで、アズだけでなくドラグ騎士団員はさまざまな物を贈られてきた。アズの中でトップクラスに酷かった贈り物は、贈り主自身の髪で編んだというマフラーや、呪いの人形にしか見えない醜悪な見た目をした人形。そして一番多いのが薬物入りのお菓子だ。紅茶が好きな事は比較的広まっているので、それに合う菓子を、と考える者が多いのは理解出来る。しかし、薬物入りは流石にマズいだろう。主に精力の付く薬が多いが、たまに毒物もある。検査は必須だった。
副官の女性は何故か顔を青くしていた。マカロンとそれを持ってきた女性で視線を彷徨わせている。そして次第に顔が赤くなっていった。
「なぜそれがここにあるのですか!それは私が隊長にお贈りしたもの!断りもなく勝手に持ってくるなんて、貴女非常識です!隊長、せっかくここにあるのですからお一つ如何ですか?ほら、私が食べさせてあげますので。」
副官はキレたが、急にスッと静かになりマカロンをアズに勧める。そして一つ手に取りアズの口もとに持っていったが上から言葉が降ってきて止まった。
「あら、貴女いたの?とりあえず黙ってなさい。今はお客さまがいらしているのだから。」
副官は反発した。なぜ貴女の言うことを聞かねばならないのか、と。するとリクがマカロンを持ってきた女性に目を向けて言った。
「ねぇハルちゃん。これ、だれ?私が来た時からなんかうるさいの。そろそろ殺していい?」
その場が一瞬で冷えた気がした。元々、リクにはこういうところがある。子どもの頃の残虐性がまだ残っているのだ。気に食わなければ殺せばいいと思っている。矯正するより簡単だと。
しかし、女性が返したのは温かな笑みだった。
「リク様、いつもサイサリス様やスターク様から言われておりますでしょう。すぐ殺すなどとは言わないように、と。ですがリク様には大変ご迷惑をおかけしました。この者はこちらで片付けさせて頂きます。では私はこれにて失礼させて頂きますね。」
女性は笑みを浮かべたまま副官を連れて退室した。そこにリクの護衛隊員が姿を現してため息を吐いた。
「隊長、アズール様はあれに関して見えない聞こえない、でしたよね?そりゃあそうもなりますよね。しかし、副隊長殿が連れていったという事は、処分が決まったんですかね?」
護衛隊員の口から出た言葉は色々と真実を含んでいた。
一つ目は、アズが副官をいない者として扱っていた事に対する真実。それは、アズの癖にある。
あまりに出先で女性に囲まれ、様々な問題に巻き込まれたアズ。彼が女性不信になるのは自然な流れだった。
彼が少年だった頃は、厨房の下働きだったために、よく街に買い出しなど使い走りをさせられていた。しかし、ある事件があってからはアズは買い出しをさせてもらえなくなった。それは、買ってきたはずの荷物が全て腐っていたからだ。仕入れ先の店の若旦那が、アズに許嫁を取られたと後に主張した事から真相が明らかになった。しかし、持ち帰る前に何故中を確認しなかったのか、とアズは怒られて落ち込んだ。
結果的にこの事件は、店はドラグ騎士団との取引を失い、他のドラグ騎士団との取引がある店とも取引が出来なくなり規模を縮小するしかなくなった上、アズも買い出しなどで街に行く機会を失った。誰も得をしない事件だった。
このような事件が何度も起こり、次第にアズは自身に言い寄る女性は存在を認識出来なくなった。それは本能で分かるのか、どれだけ隠していてもアズに認識されなくなるのだ。先ほどの副官もそうだった。だから隣に座っても注意しないし、失礼な発言をしても聞こえないのだ。
何故そんな女性が副官をしているかは、また別の問題がある。それは国王の推薦で入団した者だからだ。
グラナルド国王の推薦を受けた副官は、最初はまともだったのだ。しかしいつの間にか、アズが彼女を認識しなくなった。そして彼女の名さえ忘れたのだ。
周りの隊員もそれが分かると、副官の彼女をアズの前では居ない者として扱った。
三番隊ほとでないにせよ、二番隊も隊長好きか集まっているため、副官の立場から降ろせないのならと言って様々に対処を考えた結果の行動だった。
二つ目は、副官を連れていった女性、リクがハルちゃんと呼んだ者が副隊長という事実。
そう、彼女は二番隊副隊長、ハルル・フルールである。
冷静で才能溢れる隊長と、それを補佐する美人副隊長はとても有名だ。二番隊で唯一アズに対してキツい言葉もかける人物だ。アズが大事にするのも分かる。
三つ目は、処分が決まった、という部分。これは憶測でしかなかったが、護衛隊員の予想は当たっていた。
実は、副官がアズに贈ったというマカロンには惚れ薬、所謂媚薬のような物が含まれている事が検査で分かっていた。それは中でも強い薬で、男女問わず多量摂取すると数日欲求が治らず、最後には全て枯れたように死んでしまうという恐ろしい薬だった。
もちろん、この国どころか殆どの国で禁止されている違法薬物である。
いまリクが食べているのは同じ店のマカロンだが、別の物だ。薬入りはとっくに処分されている。今回は副隊長が副官の反応を見るために同じ物を準備した。
流石に違法薬物の持ち込みなど問題である。国王推薦という部分もあり、彼女の処罰は国王の顔に泥を塗る行為とは言え、流石にもう限界だった。
遂に国王からは先日、その様な者は国王の推薦を受けた者の中にはいない、という返信を貰っている。
責任逃れにも聞こえるが、貴族や王族というものは普通そういうものだ。それに、当初は本当に優秀な人材だったのは確かなのだ。それだけに惜しいことではあるが、彼女は法に従って処罰される事が決定した。
リクはアズに向け、とっておきの情報をやっと伝えていた。そこでアズは輝く笑顔をリクに向けていた。
これが女性不信の原因だ。この笑顔で魅了するのがいけないのだ。それにアズ自身が気付くのはいつになるのか。
そしていつ、家族以外の女性に恐怖を感じなくなるのか。
隊長格やヴェルム、そして二番隊がアズを見守っていた。
お読みいただきありがとう御座います。山﨑です。
まずは謝罪を。
一昨日の仕事が遅くまであり、昨日投稿分を書けておりませんでした。一人でも更新を楽しみにしておられる読者様がいらっしゃいましたら、本当に申し訳ない事です。
初投稿から、平日昼12時投稿を守ってきた本作品ですが、遂にペースが崩れてしまいました。
本作品のあらすじにも書かせて頂いておりますが、仕事の都合でこれからも予定が崩れることがあるかと存じます。
極力そういったことが無い様、執筆を続けていきたいと思います。
何卒ご理解頂けますよう宜しくお願い申し上げます。




