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闇竜と騎士団  作者: 山﨑
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3話

報告という名のお茶会が進み、そろそろお開き、となる頃。

団長室の扉がノックされ、騎士の声が聞こえる。


「失礼します。三番隊隊長、並びに五番隊隊長がお越しです。」


どうやら、二隊の帰還を聞いて出向いたようである。

団長の、どうぞ、という声に合わせ、執事のセトが扉を開ける。

姿を現したのは、薄緑の癖っ毛を高い位置で括った小柄の少女と、反対に一般的には大柄とされるガイアよりも大きく、身体もがっしりとした髭面の大男。

何故か、小柄な少女は大男に肩車され、その大男の硬くて太い直毛の茶髪を掴んでいる。痛くないのか我慢しているのか、大男は表情も変えずに、少女を肩車しているからか目礼しつつ部屋に入ってくる。


「なんだ、また楽してんのか?姫。」


呆れた顔をして少女に話しかけるガイア。どうやらいつもの光景らしい。


「違うよ!じゃんけんして負けた方が肩車するって約束で私が勝ったの!つまり、せーとーなほうしゅう?だよ!」


頬を膨らませながら少女が言う。

おそらく、首を傾げながら言った後半の単語に関して、意味は分かっていないのだろう。大人ぶった子ども、といった風だ。しかも使い方が違う。この場合、勝者の権利、であろうか。

さておき、大男が勝った場合どうなったのだろうか。百四十センチと少しの小柄な少女が二百センチ近い大男を肩車するという謎の光景が見られたのであろうか。


「団長、このような格好で申し訳ない事です。ほら、リク、団長室までって約束だろう?もう降りよう。あぁ、二人ともおかえり。無事で何よりだ。」


ほのぼのとした雰囲気でもしっかりと団長に謝り(そもそも入室前に降ろせ)、ガイアが姫と呼び大男がリクと呼んだ少女をソファへ優しく降ろす。

その後、帰還した二人の同僚への挨拶も行う。実に流れるような言葉と行動であった。


「ただいま、スターク。こちらは見ての通り、無事に帰れたよ。そちらも何もなかった?」


微笑んでそう返すアズ。

スタークと呼ばれた大男も、あぁ、何もなかったよ、と返した。


「で?二人ともどうした?顔見に来ただけじゃないんだろ?」


リクと言い合いをしていたガイアが、二人(主にスターク)へと問う。

騒いでいたリクも、しっかりとソファへ座り直し、少し考えた後スタークを見る。

リクと目が合い、一瞬呆れた顔をしたスタークだったが、すぐに真面目な顔をする。


「団長、もともとこの件の報告が来てすぐこちらへ参ろうとしていたのですが、そのタイミングで二隊の帰還と、二人が団長室へ向かったとの連絡があったために、先に二人の報告をと。しかし、二人にも関係する話ですので、報告が終わる頃を見計らってリクと参った次第です。」


スタークが団長へと事情を説明する。それを聞いた団長は、穏やかな笑みでスタークへと軽く手を振った。


「うん、そんな事かなと思ったけど、やっぱりか。気を遣って貰ってありがとうね。二人の顔を早く見たかったからさ。」


「いえ。とんでも御座いません。私も元より心配などしておりませんでしたが、それでも二人の無事な顔を見て安心しました。」


問題ないと告げられても頭を下げるスタークに、団長は少し困ったように笑いながらも、想いは同じだと同意してみせる。


「そうだね。本当に。それで?報告は何かな。リクも来たって事は、三番五番両隊に関する事だよね。一番二番も。先日の続きかな。」


真面目な顔のスタークに対し、穏やかな笑顔を崩さない団長。報告の内容を予想しながら続きを促した。


「はい。仰る通り先日の報告の続きです。が、一番二番の二人にはまだ報告を読んでいないと思いますので、簡単に説明してもよろしいでしょうか。」


スタークは頷きつつも、内容の予想が出来ないであろうガイアとアズへの説明の許可を求める。


「勿論。二人に関わる事だからね。」


許可をもらうとスタークはガイアとアズへ向き直り、説明を始めた。

曰く、ここ本部ではなく、首都近郊の街に存在する騎士団支部の一二番隊合同隊舎に、侵入しようとした形跡が見つかった、というものであった。

三番隊と五番隊は諜報も熟す隊で、表向きの警備はあまり関わっておらず、裏からの支援が多い。警備は裏からする。つまり、隠し通路など、要人や客人から見えない所での警備だ。

今回の報告は裏からのものであった。表の警備をする一番二番両隊の多数が、今回の国境防衛戦へ参加した事が大きな理由だろうか。

その報告は隊長に上がると同時に団長へも上がっている。今回はその続きのようだ。


「ふぅん?じゃ、なんだ。うちとアズんとこの隊員が弛んでたってか?人数減ってるのは言い訳にならねぇだろ。ちょっと訓練見直すかぁ。今回の戦闘も怪我したやつそこそこいたしなぁ。」


ガイアが片眉をあげて言う。

それに合わせアズも頷きながら口を開いた。


「そうだね、遠出の度に侵入のチャンスだと思われるのも嫌だし、支部とはいえ、資料を盗まれたりするのは困るなぁ。うちも鍛え直さなきゃかな。」


綺麗な顔をして強かな事を言う。そして二人して席を立ち、団長に跪き首を垂れる。


「団長、すんません。我が騎士団に在るまじき怠慢です。訓練、意識ともに見直しますので、どうぞお許しを頂ければと。」


「申し開きのしようも御座いません。次は有りません。徹底的に究明、改善致します。どうぞお許しを。」


ガイアとアズが言うのを黙って聞いていた団長が、一つ頷いた後、微笑む。


「うん、大丈夫。二人ならこの後ちゃんと処理するのも分かってるから。ほら、座って。隊員達も、君達と訓練出来て嬉しいよ、きっと。たまにはこういう刺激もないとね。」


そう言ってソファを指す。紅茶を飲みながら、黙って見ていたスタークとリクへ視線を向け、続きを促した。


「ガイア、アズ。痕跡から何処の者かは調べがついている。リクのとこの隊員が証拠を集め終わったところだ。後は黒幕を引き摺り出すだけになっている。礼ならガイアの淹れた珈琲と、アズの作るケーキで良いぞ。その方がリクも喜ぶ。」


スタークが二人に向かって軽く言う。リクが喜ぶ、と言うが、スタークが甘い菓子と紅茶、もしくは珈琲を併せて飲むのが好きなのを、この場の全員が知っている。つまり、リクとスターク二人ともに喜ばれる礼になる。


「ガイちゃんとあーちゃんのとこ、みんな悔しがって自主訓練してたよ?うちの隊員に、裏から見た警備の仕方で表に活かせる事ないか聞きに来てたもん。あんまり厳しくすると泣いちゃうよ!あと、ガイちゃんの珈琲はお砂糖とミルクたっぷりが良いな!あーちゃんのケーキはね、苺乗ってるやつ!」


座り直したガイちゃんことガイアが、くしゃりと笑いリクへ顔を向ける。


「ありがとな。助かる。てか、何事もなかったんじゃねぇのかよ。問題有りまくりじゃねぇか。まぁ、姫の言う通り、反省して改善しようとしてるなら手加減はするが。どの道良い機会だし、全体に共有してから訓練内容やら講義やらは内容弄るけどな。兎に角助かった。」


「本当に。迷惑かけてごめんね、二人とも。ありがとう。気を引き締める良い機会だから、うちも色々見直してみるね。苺は大きくて甘いやつ、取り寄せておくね。一緒にミルクも良いやつ手に入れるから。期待して待ってて。」


あーちゃんことアズも苦笑いしながらリクへ言う。

リクは満面の笑みで、楽しみ!とはしゃいでいる。そして団長へと向き直り。


「団長も一緒に食べよ!あーちゃんのケーキもガイちゃんのミルク珈琲も美味しいから!みんなで食べたらもっと美味しいよ!」


と言った。


「良いのかい?スタークとリクへのお礼だけど。まぁリクが言うならご相伴に預ろうかな。楽しみにしているね。」


うん!と元気の良い返事と共に、満面の笑顔を向けるリク。スタークも楽しみなようだ。

ガイアとアズも、何処となく楽しそうに笑っている。

けじめとして団長へ謝罪したが、そもそもそんな事で団長は怒らない。というより、二人がそのままでは許さない事を知っている。信頼し任せている形だ。

護国騎士団に関する噂の一つ、団員は家族として扱うらしい、というものが真実であると思わせる空間がここにはあった。







「それで?黒幕はどっちだった?やっぱりカルム公爵令嬢かな。」


団長が微笑みながら問う。


「はい。団長の最初からの予想通り、カルム公爵家長女、オルテンシア嬢でした。もう一方でなくて残念ですな。あれは予想というより、希望、願望の類いでしたから仕方ないのですが。」


スタークが頷きながら答えた。団長の"どっち"という言葉にも答える。どうやら外れて欲しい方の予想が当たったようだ。

それに合わせてリクも情報を追加する。


「なんかね、あーちゃんが狙いだったみたい。本部は無理だから支部を、ってなって、あーちゃんが支部に立ち寄る時の部屋に入ろうとしたみたいだよ。ガイちゃんのとこの隊員の交代時間にたまたま侵入しようとしたから敷地には入れたみたい。ってくーちゃんが言ってた!」


くーちゃんとはリクの副官、クルザスの事である。リク特有の渾名で呼ぶため、本名で呼ばれる者はそう多くない。本名が二文字の者だけだ。二文字でも、一文字目を伸ばされる者もいるが。

因みに、例外がスタークだ。リクはスタークの事をスタークと呼ぶ。以前はすーちゃんだったが、その後リクの副官に着いたクルザスの相方が新しいすーちゃんになったため、スタークはスタークと呼ばれるようになった、らしい。真相はリクしか知らない。


「アズの部屋で何を探ろうとしたのか調べたところ、アズの服を、出来れば隊服を入手する予定だったそうだ。とりあえずは、カルム公爵家に対する手札として情報管理をしているが、どうするかは団長とアズ次第だと思っている。正直なところ、手札としては弱いと言わざるを得ない。こちらの警備の甘さも追求されるしな。実際に侵入できたのは隊舎周辺までで、建物には一歩も踏み込めずに撤退したようだが。アズの部屋も何処にあるか分かっていないようだ。まぁそんな事貴族の連中には関係ないのだろうが。侵入された、という言葉を拾って追求されたら面倒だ。」


スタークからも補足が入るが、アズは目を、瞬きせずに大丈夫か心配になるほど見開いたままで、ガイアは苦笑いで紅茶のお代わりをセトに頼んでいる。

団長は変わらず微笑んだまま。

リクは自分が話し終わると、茶請けのクッキーの入った皿を団長の許可を得て自分の方に寄せ、幸せそうに頬張っている。


「アズはモテるね。因みに、御令嬢がその隊服をどうするつもりだったかも調べてると思うから聞くかい?あぁ、そう言えば、かの御令嬢の執事はコバルトブルーの瞳に、蒼い長髪だそうだね。髪こそ深い蒼じゃないものの、誰かにそっくりだね。」


団長がそう言うと、アズの見開いた目がさらに開き、その後段々顔が青くなる。瞳、髪に加え顔も真っ青になると、正にブルーマン、といったところだろうか。貧血で倒れた者でもここまで青を揃える事は難しいだろう。


「おい、アズ、帰ってこい。どうせ隊員の訓練じゃ違う意味でその青い顔量産すんだからよ。お前までそんな顔すんな。そりゃその御令嬢、ハッキリ言ってきもちわりぃけどよ。」


笑いながら励ましているのか分からない言葉をかけるガイア。微妙に分かりにくい彼なりのボケを混ぜた励ましの筈、である。


「ガイちゃん、それ略してキモい、って言うんだよ!それか変態!くーちゃんが言ってた!」


えへん、と言わんばかりのドヤ顔で言うリク。その様な言葉は隊長として不適格だぞ、と嗜めながら、クルザスは変なことを吹き込むな、と呟くスターク。

アズは真っ青な顔をしたまま、今度は目をギュッと閉じ、深く息を吸って吐いてを繰り返している。


「かの御令嬢は何処かの誰かに似た執事に、その隊服を着せて如何なさるのでしょうな。」


落ち着こうと必死だったアズにトドメを刺したのは、今まで黙って控えていたセトの一言であった。







「アズはどうしたい?好きにして良いよ。これを機にこの国と縁を切る勢いで追求するも良し、黙って訓練して二度と侵入する気も起きないほど厳重な警備にするも良し、盗まれるくらいなら御令嬢に隊服を贈るのも良し。どうする?」


笑顔のままそう言う団長に、やっと落ち着いたアズはまた固まり、苦笑したガイアが待ったをかける。


「団長、ちょい待ってください。アズがフリーズしたり戻ったり繰り返してます。いや、その反応楽しんでるのは俺も一緒なんで構わないんですけどね?一番目の提案はどーゆー事ですか?」


「まさか…、また何かありましたか?」


スタークも緊張した顔で団長に問う。すると、リクが嬉しそうに、ハイハイ!と手を挙げながら、更に場が凍る事を言った。


「私知ってるよ!団長ね、王太子からまたあーちゃんを公爵令嬢の婿に寄越せって言われたの!でね?団長も第一王女を娶れって言われたんだよねー!」


「あぁ、そうだな。あの時近くで聞いていたのはリクの隊員だったか。スタークのとどちらかな?と思ってはいたんだけど。風も土も持つ隊員だろう?だからどちらか分からなかったよ。」


少し上を見つつ、思い出しながら言う団長。ありゃ、やっぱ団長にはバレてるか〜、と舌を出しながら言うリク。両者目を合わせて笑っているが、他の面々は固まっていた。


「だ、団長。前回似たような事を王太子から言われた時は、国王自ら、二度と言わせぬからと、直々に謝りに来た覚えがあったのですが。それなのにまた?」


「うん、そうみたい。母親の血を強く引いてるのか、教育の結果なのかは知らないけど、自己中心的なのは治らなかったみたいだね。前回、国王には、次は無いって言っちゃったしさ、これも決着つけなきゃいけないね。だからアズ、どうしたい?後でみんなに多数決取るけど、アズの意見先に聞いておきたいな。」


最初に復活したスタークの質問に、辛辣な言葉を返しつつアズに振る団長。

もちろん、最終決定は団長だが、騎士団としての行動を決める殆どの議題は隊長会議で多数決を採る。今回はアズの意見を団長の意見としても支持し、会議にかける、という意思表示だ。


「分かりました。公爵の件と王太子の件、すぐに行動するのではなく、今代までの契約履行とする形を提案致します。」


アズは少し考えた後、そう答える。

アズの言う契約とは、騎士団設立時の国王との契約の事だ。簡単に言えば、攻める戦は参加しないが、国の安寧のため、つまり防衛戦闘はするが国の命令ではなく依頼で動く、というもの。

護国騎士団と言われているが、別に国に忠誠を誓っている訳ではない。国王を護るのは近衛騎士団、他国へ侵略戦争するのは国王や貴族の騎士団及び私兵である。

それらを国軍と呼び、各街の警備は領主の騎士団や私兵、首都は富裕層の住む市民街から王城にかけての範囲を国軍、庶民の住む商人街から職人街、貧民層の住む貧民街までをドラグ騎士団が警備する。


「分かった。じゃ、明日の会議はその方向で話し合おうか。」


そう言って団長は紅茶を飲み切った。

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