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闇竜と騎士団  作者: 山﨑
292/293

292話

大陸の中央にありながら各国に強大な影響力を持つ中央の国グラナルド。その広大な国土に反し、人の手が入った場所はあまりにも少ない。それでも周辺大国よりも国民の数が多いのは、気候的にも過ごしやすい立地に理由があるのかもしれない。

そんなグラナルドは自然が多く、ほとんどの民は知らずとも地下深くに竜脈が走る土地も多いためか、ダンジョンも周辺各国に比べれば多い部類に入るだろう。一般的にダンジョンと言えば、冒険者や領主にとって宝の山とも言える資源ではあるが、それはそこに潜む魔物に対処できるという前提ありきなのは当然だ。

グラナルドはダンジョンが多い分、多少強い程度の冒険者や軍隊では浅域すらも踏破出来ないような凶悪な難易度のダンジョンも多くあるのが難点ではあった。

しかし。周辺各国では対処できずとも、グラナルドにはドラグ騎士団が在る。常勝無敗の護国騎士団。そう呼ばれる事も多いドラグ騎士団であれば、適度に魔物を間引く事やダンジョンを踏破しコアを破壊する事でこれ以上の拡大を阻止する事は容易である。

だがそれはグラナルドであれば、という注意書きが付けられる程に、他国ではそうはいかないのは常識であり、むしろ非常識なのはグラナルドなのだというのは周辺国からすれば当然の認識ですらあった。


何が言いたいかと言えば、この日零番隊の諜報部隊であるゆいな隊が向かった先である大森林は、エルフ族がそこを彼らの国であり領土であると宣言しているため、表立ってドラグ騎士団が入ることの叶わぬ他国であり、グラナルド周辺諸国と同じくダンジョンに巣食う魔物を駆逐する武力がない。

つまりは難易度の高いダンジョンを放置出来ない、本来ならば滅びを待つしかないような立場であるエルフ族。ヒトの国であればこの大陸中に設置してある冒険者ギルドによって帝の位を持つ冒険者を呼び寄せ、コアの破壊を依頼する事ができるのだが。


しかしエルフ族の国である大森林は、多種族の立ち入りを厳しく禁止している禁断の地。グラナルド西部の大森林には世界の魔素を調整循環する役割を持つ世界樹があるためそれも仕方のないこととはいえ、冒険者を招いてコアの破壊を依頼する事は不可能だった。結局はそれもドラグ騎士団が行った事で解決した経緯がある。

だが問題はそこではなく、コアを破壊しても崩壊するダンジョンとしないダンジョンがあり、大森林に発生したダンジョンは後者だったという事。

コアはあくまでダンジョンの拡張をする魔素の塊であり、魔物を生み出す原因ではない。つまり、ダンジョンはそれ以上大きくならないだけで、そもそもダンジョンが発生するほどその土地の魔素が濃いのであれば、そこに吹き溜まりのようにして魔素が溜まりやすい環境が出来ればどうなるか。そう、魔物が生まれるのである。

簡単な話、コアを破壊してもそのダンジョンが消えなければ魔物は増え続ける。そして、増え続けた魔物はダンジョンという殻を脱ぎ捨て外に出る。そうして起こるのがスタンピードと呼ばれる現象であった。


ダンジョンでなくとも、森や山で増えすぎた魔物が食糧を求めてそこから大群となって移動をする事もある。それもスタンピードと呼ばれるが、結局のところ増えすぎて移動をするという点では同じ事だろう。

ダンジョンの中ではダンジョン由来の物は破壊出来なかったり、誰が設置したのか宝箱が配置されていたり、魔物の生態系が地上とは違ったりもする。ダンジョンを研究する学者によれば、それはダンジョンの中自体が別次元だから、という意見もある程である。

冒険者はそれを、「ダンジョンだから」で済ましてしまうのだが、ダンジョンの不思議の一つであるスタンピードはそのダンジョンの法則から解き放たれた魔物が外に出るためか、外で生まれた魔物と変わらない生態となる魔物も多いという。

その辺りは学者の研究がどこまで進むかにかかっている所ではあるが、ずっと大した発表がされていない事からも謎はまだ解明されそうにないのは確かである。


話は飛躍したが、ダンジョンからスタンピードが発生する時期や間隔は、ダンジョンによって異なるとしか言いようがない。つまり、エルフ族は自身らの里の隣にいつ爆発するかも分からない爆弾を置いたまま生活する、という現実が差し迫っていた。


今回、二度目の里への訪問となるゆいな隊。だがそれは一度目の求められて訪問した時と違い、案内役も無く結果的には不法侵入という形になっている。それは何故かと言えば、前回と今回で彼らの立場が違うからである。

部隊長のゆいなが腰に提げたポーチ型のマジックバッグには、グラナルド現国王のエルフ族に対する書簡が入っている。つまりは彼女たちは国の正式な使節なのだ。

通常であれば国家間のやり取りは事前に伝令が行き、そこで日程を話し合う事で使節の来訪となるのが正しい形であろう。だが今回のそういった諸々を端折った訪問は、宣戦布告の際と大して変わらない、大変無礼とされるものであった。


なぜそんな荒っぽい方法で大森林を訪れているかと言えば。グラナルド国王からの書簡の内容に理由があった。

仰々しく書いてあるとはいえ、内容をザックリと纏めれば次の通り。


"お前らうちの国民になにしてくれんじゃ、コラ"


という内容だ。


何がどうしたと案じるなかれ、エルフ族にはそう言われるだけの理由がある。

大陸中から優秀な若者が集まる魔導学院にて生徒を誘拐しようと暗躍したエルフ族の事、騎士学校との交流試合で医務室を襲撃しようとした事、グラナルド西部の大森林に面した貴族家領地で活動する冒険者や、治療院で働く者の誘拐。その他諸々の事情により、遂にグラナルド国王が動いた、という訳である。


とは言え、このタイミングで動いたのには、とある天竜の一声があったからという理由以外に無い。天竜率いる護国騎士団の働きがなければ各地の誘拐騒ぎがエルフ族によるものだったと判明したかは置いておいても、それが分かっていたらとっくに国王は軍隊を率いて大森林を攻めていたかもしれない程の案件であった事は間違いない。事実、国王は何度も怒りに拳を握り、その度に暴れ馬を宥める騎手のように国王を止めた天竜がいたという背景がある。


しかしやっと出た許可に大手を振って軍隊を向かわせる訳にもいかず、結局は護国騎士団に任せたというのも、グラナルド国王が賢明な判断をしたという証左であろう。

彼が王族として、建国王から脈々と受け継がれてきた当時の言葉を思想として掲げているからこそ出来た判断とも言える。


"王は国民の奴隷たれ。国は王のためにあるのではあらず。国や王は民のために在る。"


幼き日よりそう言われ育った国王にとって、その国を形成する最重要なものたる民を拐かそうなどというエルフ族は、滅ぼしても足りない程の怒りを抱くのになんの無理もなかった。

そんな国王を至極アッサリと流して次の動きを述べた天竜は、この大陸でどの国からも注目され機嫌を窺われる立場にある中央の国の国王に対する態度ではなかった、という事だけここに記そう。













「里が見えた。各自散開、所定の位置について連絡を待て。」


亜人部隊とも呼ばれるゆいな隊の大隊長が指示を出す。索敵によって周囲にエルフ族がいない事が分かっているためか、その指示は念話ではなく口頭によるものだ。

これは魔力の節約と言うことが出来れば大隊長の格好もつくのだが。単純に、不特定多数に念話を同時に繋げる事は技術的に厳しいからという理由である。零番隊の他の部隊にはそれを得意とする者もいるのだが、それを習得している者は実力者揃いのドラグ騎士団ですら数人だというのだから、その技術の習得が余程困難であるという事が分かる。

端的に言えば、それが出来るならどの国でも高級将校と同じ待遇でと声をかけられる事必至である、といったところだろうか。


大隊長の口頭での指示を受けた部隊員達は、小隊ごとに分かれて姿を消していく。既に西の国側から大森林へと侵入していた複数中隊が、グラナルド側と反対にある里の入口方面へと向かっているはずだ。

散開した部隊はこの後、エルフ族の里を取り囲むように各小隊ごとに配置される。そしてゆいなとアレックスを含む数人が里へと向かい、ダンジョンと里を監視しながら部隊員は指示を待つ。

今回の作戦は、先ずはグラナルド国王からの書簡を渡したエルフ族の王がどういった反応を見せるかで行動が変わる。

果たしてエルフ族はどういった行動をとるのか。王の行動一つで世界が変わる。その規模の話になっている事に王は気付いているのだろうか。その時は死神が首元に鋭利な鎌を添えるかの如く、着実に背後に迫ってきていた。







「偉大なる王、王子が大迷宮より戻らず、既に二月が経ちました。その、如何なさるおつもりか…?」


エルフ族の王が住まう大樹、王の部屋にて。普段王族の世話をするエルフ族の長老が、眉尻を落とし肩を縮こまらせて問う。長老とてここ数ヶ月毎日機嫌が悪い王にそのような事は申し上げたくはない。ないが、問わずにいられる問題でもない。エルフ族はその永い時間を生きる種族性からか、とにかく繁殖能力が多種族に比べ劣る。そのため、如何に王がまだエルフ族にしては若かろうとも、跡取りたる王子の身を蔑ろにして良い理由にはならないのだ。

しかしここ最近の王の様子からは、大事な身であるはずの王子を側に寄らせず、里の誇る戦士達が幾人も行方不明もしくは戦死している大迷宮へと、勅令でもって送り出した。将来への不安を抱く民達への慰撫または激励であると言ってはいるものの、長老からすれば程の良い厄介払いにしか見えなかった。

エルフ族は総じて魔力が多く、その容姿も非常に整ったものではあるが、長老のその煌めく金髪がどことなく燻んで見えるのは、老いによるものだけでは無いはずだ。長老と言われていても、まだ見た目は人間の三十代ほどである事からもその予想を裏付けているだろう。


そんな苦労の絶えない長老の言葉に、王は視線すらも向けずに返事もしない。唯一あった反応といえば、フン、と鳴らした鼻で笑ったように微かに漏れた音だけであった。


「王よ…。」


どこか縋るような哀しげな瞳を王に向ける長老だが、それも見てもらえなければ何の意味も成さない。会話や意思の疎通が行われないこの部屋で、張り詰めたような緊張を感じるのは長老だけであろうか。

何の反応も見せない王に肩を落とした長老が、ゆっくりと頭を下げてから直り、退室のために王へ背を向ける。そして部屋から立ち去ろうとしたその時、慌てて走るようなドタバタとした音が遠くから聞こえ、哀しそうな表情に疑問を混ぜた。

そしてそれは背後の王にも聞こえたようで、長老の後ろ数メートルから急に魔力が膨れ上がる気配がした。


誰だ、王の住まうこの大樹を騒がせている莫迦者は。

咄嗟にそう考えた長老は悪くない。寧ろ当然の感情だろう。毎日毎日、亡骸を回収できた戦死者の数を報告し、大迷宮の調査及び魔物の駆逐が進まぬ事を告げ、毎日行われる葬儀について述べる長老は、如何に王の機嫌を損ねぬように報告するかに生命を賭けていると言っても過言ではないのだから。


だが聞こえてくる慌ただしい足音は徐々にこちらへ近づいて来る。背後の王程ではないにしろ、長老も魔力を昂らせようかという程に怒りの感情が押し寄せていた。王族らしく膨大な魔力を荒れ狂わせている王とは違う理由ではあるが。


そんな殺伐とした王の部屋へと、遂にその足音の要因が現れた。その者の顔を見た長老が怒鳴ろうと息を吸うが、その必死な表情に緊急事態を悟る。この大樹に慌ただしく走る者がいる時点で緊急事態なのだが、その事に頭が回らぬ程に、長老も疲れが出ていた。


エルフ族は王と直接会話出来るのは基本的に世話役の長老だけである。であれば、この慌てたエルフは長老に用があってここまで来たのだろう。その表情を見て幾分か冷静になった長老が改めて王へと向き直り頭を下げてから部屋を出れば、慌ただしい足音も長老を見つけたのか、まっすぐに長老へと進路を変えた。


「静かにせぬか!ここは王のおわす部屋だ。中まで聞こえる程に騒がしくしおって…」


「それどころではありません!ドラグ騎士団が来ております!」


厳しい目をした長老の叱責をものともせず、報告を口走るエルフ族の若者は、王の住まう大樹の警備をする戦士であった。告げたその内容に長老が驚き、ほんの一瞬だけ考えを巡らせる。そしてその頭が一先ず王への報告へと切り替わった時、先ほど長老が出てきたばかりの王の部屋から怒声が響いた。


「天竜の犬が今更何をしに来た!!追い返せっ!!二度と奴らにこの地を踏ませるな!!」


何をしに、どうやって。そんな疑問を抱いていた長老が、王のその怒声に肩をビクリと揺らす。先ほどの戦士の報告が聞こえたのだろう。本来ならばエルフ族の慣習に従って言葉を仲介する役目の長老だが、この時ばかりは王の目の前で報告せずに済んだ事を、目の前の若い戦士に感謝したい気持ちであった。

疑問は多々あれど、既に王の命令は下された。であれば長老がやるべきはそれの実行であり、考える事ではない。王の言葉を民へと伝えるのが仕事の一つである長老だが、目の前の戦士にもその声は聞こえた事くらい分かる。長老に向かって窺うような目を向ける若い戦士に対し、頷く事で返事とした長老だったが、その胸中は穏やかでは無かった。考える事が仕事ではないとはいえ、ドラグ騎士団が里を訪れた理由というのに心当たりが無かったからである。それを考えてしまうのも仕方ない事だと言えた。


だが、事態はそれ程簡単なものではなかった。長老の頷きに頭を下げた若い戦士がその指示を実行しようとしたその時、彼が現れたその道を別の者が歩んで来るのが見えたからである。そしてその者は、本来ここにいるはずのない者だった。


「もう遅ぇんだ。悪いな、邪魔してるぜ。」


複数いる侵入者は揃いの服を着ている。黒を基調としたその服には銀の差し色が入っており、人間にしては平均よりも大きいだろうその体躯は服で隠しきれない程に鍛えられているのが分かる。王の部屋から放たれる膨大な魔力の奔流をものともせずに、ゆっくりと、しかし確実に堂々と歩いて来るその者は、長老にとっても見覚えのある者だった。

その後に続く者達にも見覚えがある。というより、忘れようもない者達であった。


「退け。」


そう言ってから呆然とする長老を押し退けた男は、強行突破したというよりは、王の部屋の入口を塞いでいる長老が邪魔だったから横に退けた、といった風である。短く鋭い言葉とは裏腹に、なんとも優しい力加減である事だ、などとどうでもいい事を考えるくらいには、長老の頭はこの侵入者達が何故ここにいるのかという事に衝撃を受けすぎていた。


そんな長老を横目に、侵入者アレックスとゆいな、その部隊員二名が王の部屋へと足を踏み入れる。部屋の中で迸る王の魔力を、アレックスが鬱陶しそうに軽く片手で払う。するとまるで何事もなかったかのように魔力が霧散し、元の静かな部屋へと空気を変えた。

魔法の扱いが得意なエルフ族だからこそ、その圧倒的な技術と実力に裏付けられた超絶技巧に目がいく。だがそこに驚くような暇は与えられる事がなかった。


「邪魔してるぜ。用件は一つ。グラナルド国王からの書簡に返事を寄越せ。読むまでは待ってやる。」


アレックスの圧倒的なまでの無礼な態度も、先ほど見せたその実力を見れば黙るより無い。自身の怒りによって制御が甘くなった事は自覚しているとはいえ、それでもエルフ族の王が発した魔力を、手を払うだけで霧散させた事について、この場の誰よりも王自身が衝撃を受けていた。


「グラナルドの王が何の用だ?」


それでも王の矜持で返事を返せば、隣に立つゆいなが腰のポーチから仰々しい書簡を取り出す。それに目をやりながらも、王はその手を伸ばしたりはしない。本来、エルフ族の王は世話役の長老以外とは物はおろか言葉さえやり取りしないのだから。

それが分かっている長老が自らの役目を思い出し行動するよりも先に、ゆいなが傷ひとつ無い白い手で書簡を王の前にある机へと置く。国王からの書簡ともなれば人の命よりも重く扱われる事さえある重要な物だが、それを扱うゆいなの手つきは普通の手紙を扱うのと大差なかった。


「まずは読め。そしてさっさと返事を聞かせろ。」


ゆいなが手紙を机に置いた事を確認したアレックスが、王を急かすように言う。自尊心の塊のような王が黙ってその書簡へと目を向けているのは、偏にゆいなから王へとピンポイントに放たれる強烈な殺気が原因だろうか。

王が渋面を浮かべながらも書簡を手に取れば、鷹揚に頷いてみせるアレックス。着いてきた部隊員二人は、長老を部屋に入れぬよう入口を塞いでいた。


「…なんだこれは?我ら誇り高きエルフが、何故人間共の王からこの様な物言いをせれねばならん。大体なんだ、世界樹の守護者たる我らの治療を行えるのだ。寧ろグラナルドが低頭して治癒師を差し出すべきではないのか?それをせぬ愚か者ばかりだからこそ、こうして我らが出向いてやっているのだろう。こちらに手間をかけさせた事を詫びるなら兎も角、それに文句を言う程に暇なのか?人間の王とは。」


ゆいなの殺気によって反抗的な行動は起こさないものの、書簡を読んだ王の発言は十分に強気なものだった。世界樹がこの世界に必要な物であるのは事実だが、その守護者たるエルフ族の王として、肥え太った自尊心はもう、その伸びた鼻が世界を一周かの如く引き返せないところまで来ているようだ。


だが、そんな王へと冷静な声が返される。それは王が書簡を読む間腕を組んで黙って待っていたアレックスのものだった。


「昔、エルフは一部の人間から奴隷として乱獲された事があったな。まぁそれは今は居ないとは言えねぇが。だがな。お前らがやってるそれはお前らがやられた事と同じだって事に気付いてんのか?」


感情の乗らない冷めた言葉に、苛立ちを見せていた王がたじろぐ。だがその発言には気分を害したのか、椅子に座っている故に下からではあるものの、睨め付けるようにアレックスへと鋭い視線を投げた。


「お前らが人間を見下してるのは伝わった。だが、お前らがやってる事はその見下してる人間と同じだって事、分かってんだろうな?やられたらやり返す。そんなことは不毛だ、負の連鎖は断ち切るべきだ、なんて詭弁を言うつもりは無ぇ。無ぇが、それならそれに俺たちもやり返す。それだけだ。」


アレックスは王族である。だからこそ、正も濁も併せ呑む度量がある。理想だけでも力だけでもヒトの世は成り立たないと分かっているからこそ、そして国同士人同士の行いが理想論だけではうまくいかない事を知っているからこそ、このような発言に繋がっていた。


しかしそれはそれとして、エルフの王には関係がない。だが言わんとする事は分かるのか、少しだけ考えるような素振りを見せる。そして黙ったまま促すように顎でアレックスを示した。


「簡単な話だ。俺たちはエルフを飼う趣味なんざ無ぇ。世界樹の守護者がエルフである必要性も感じねぇ。なら、お前らを駆逐すれば良い。簡単な話だ。なんせ、エルフの上位種のハイエルフである王が、こんな雑魚だからな。」


淡々と告げるその言葉は、アレックスが本心から言っているのだと否が応でも伝えている。そして、王にとってもそれが虚言であるなどとは言えない。それが出来るのは先ほどのやり取りで十二分に分かっているからだ。


「…どうせよと言うのだ。貴様の、いや、天竜の望みはなんだ。」


嫌々、渋々といった様相で言う王に、アレックスは表情を変えること無く冷静に視線を返す。そして放った言葉は、王にとって到底受け入れられるものでは無かった。

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