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闇竜と騎士団  作者: 山﨑
272/293

272話

一方、魔導学院に侵入した賊達は本来ならばいないはずの国軍を相手に戦っていた。彼らは皆雇われた者であり、雇い主からは警備がそこまで厳しくないと聞いていたのだ。

だが実際は国が誇る攻撃の要である国軍が警備をしており、それに気付かず哀れな襲撃をかけた事に、この段階でやっと気付いたのである。


「話が違うっ!」


それは誰が発した言葉だったのか。しかしその言葉は襲撃者達の心の内を的確に表しており、誰もがそう思ったが交戦状態となった今、それを言っても仕方ないという諦観に似た感情すらあった。

そんな中、国軍と戦闘する一団から離れて侵入を試みる集団がいる。その者達は揃ってローブで姿を隠し、腰と背中に見える剣と弓の形状からして、襲撃者達とは別口の集団である事が分かる。

実際、国軍と戦う襲撃者達を隠れ蓑にして行動しているのは事実だった。


「もう少しで現場だ。到着してすぐに突入するぞ。」


最小限まで声を顰めた指示が飛ぶと、周囲にいた者達が各々に頷きや了承の意を示した。作戦指示に声を出したり、それに同意する意思を行動で示す辺り、専門の諜報部隊や暗殺者というわけではなさそうだ。

では彼らは何者なのか。深く被ったフードの隙間からは、金色が美しい軽くウェーブした髪が見え隠れしている。前が開いたローブからは、時折風に捲れて中が見える。彼らの服装は、森に潜むための物のように緑で統一されていた。




襲撃者達が国軍と争う中、数と実力で劣る襲撃者達は次第にその数を減らしていった。一対一だったのが一対二になり、そしてまた敵が増える。

捕まれば死罪は免れないのが分かっているからか、敗れかぶれで捨て身の攻撃をする者もいる。だが多くは既に逃げ出してしまったようだった。

学院の守護が任務である国軍はそれを追ったりはしない。何人か生きていればその者から雇い主を吐かせる事が出来るからだ。

そうして一人、また一人と倒れていく。遂には最後の一人になり、その者も多数の騎士に囲まれて武器を投げた。


「貴様がこの襲撃の指揮官か?指示した者を大人しく教えれば生命は助けると約束しよう。」


捕えられた襲撃者達の中で、生き残ったのは僅か数名だった。指揮官は何人が生き延び、何人が死んだのか、そして何人が逃げ出したのかも分からない。分かっているのは己の運命だけであり、少しでも部下が逃げられていたら、とさえ思う。

後ろ手に縛られた手は動かせない。その上で腕にも縄をキツく結ばれている現状で、何も出来ない己の力不足を嘆く暇もない。

彼の目の前に現れたのは、国軍が現場にいた事から予想できた人物であった。


「なるほど。スピア公爵の指示だったか。そこまで賢いという印象はなかったが…。」


死が目前となれば勇気など勝手に出てくるものだ。それが分かった指揮官は、今更そんな事が分かっても、と一人自嘲するしかない。しかし部下の生命を救うためには、多少強気に出ておく必要があった。


「ほう?私の姿を知っているか。貴様らの揃えられた装備。そして最後まで任務に殉ずるその姿勢。どこの私兵だ?」


やはりある程度はバレている。だがここで簡単に口を割ってしまえば、大恩ある主君に顔向け出来ない。どの道、彼が口を割らずとも部下を拷問すればいずれ分かる事。であれば、少しでも時間を稼いだ上で己が裏切り者の誹りを受けよう。

それで部下の生命が助かるのであれば、己の死後どう言われようとも構わない。


そんな覚悟を決めて目の前の公爵を睨むように見れば、公爵も彼を見て笑っていた。

途端、何故かゾッとする何かが背筋を走った気がした。何か嫌な予感がする。しかし何が。

そんな訳もわからず一瞬だけ混乱した指揮官を見て満足そうに嗤った公爵は、顎を摩りながら言い放つ。


「私は二度聞いた。それでも話さぬなら構わん。おい、生き残りを二人始末しろ。首は明日、此奴らの雇い主の玄関にでも飾っておけ。」


公爵の指示を受けた騎士が一人、公爵に敬礼して去って行く。そちらに彼の部下がいるのだろうか。しかし視界の中にはいない。この大柄の公爵がいなければ見えたかもしれないのに。

このままでは部下の生命はない。最早時間稼ぎなどと言っていられなくなったのは確かだった。であれば指揮官の取れる行動は一つ。


「ま、待ってくれ。答える。質問には答える!だから部下の生命だけは!」


できれば必死な様子がより伝わる方がいい。これで公爵の気が引けるのであれば安い演技だ。そんな打算を含んだ、彼の人生で最上と言ってもいい迫真の演技。

しかし、公爵はそれを黙って見ているだけで命令の撤回はしなかった。答えると言っているのに何故。ポカンと口を開いたままの指揮官は、自身の予想と違う反応を見せる公爵にただ混乱するしかなかった。


「雇い主なら言う!だから、部下の生命は助けてくれと言っている!如何に公爵と言えど、そう容易く人の生命を奪うのか!交渉にすら応じないというのか!」


貴族とは面子や名誉を食べて生きる生き物。そう思っていた。確かにそれは間違いではなく、貴族によっては時に平民からは想像できない部分で拘りを見せる事がある。

目の前の公爵も同じだろう。であれば指揮官の言う事を認める訳がない。そう考えた彼の予想は、彼にとって最悪な形で裏切られる事になる。


「次が三度目だ。雇い主を言え。私は会話をしようとしている。犬畜生のように吠えるだけではなく、まずは私の質問に答えたらどうかね?先ほどから何やら吠えているが、いつになったら質問に答えるのか。それとも、もう一人くらい部下を斬らねば教えてもらえないか?」


それは宣告であった。公爵は指揮官の言葉を無視しているのではない。会話を行おうとしている。それは公爵の言葉の通りで、確かに指揮官は公爵に返事をしていない。己の要求を通そうとしているだけだ。

その事にやっと気付いた彼は、慌てて口を開く。今度は間違えないように。


「アデレイド侯爵だ。私の雇い主。私たちはアデレイド侯爵家の私兵だ。」


指揮官の口から飛び出した名前を、公爵はよく知っている。それは文官として城に勤める文官筆頭の男で、貴族派ながら王家派や中立派とも卒無く仲を取り持つ事が出来る優秀な者である。

加えて言えば、グラナルドと朧の友好条約に反対する貴族の筆頭でもある。反対派には公爵家もいるが、家の力の大きさでいえばアデレイド侯爵家の方が強い。その寄子も優秀な者が多く、爵位が低くとも重要な職に就け活動させる事で彼の勢力を押し上げることに手を貸している。


そんなアデレイド侯爵が今回の襲撃の犯人だという。つい先日も侯爵に会ったばかりの公爵は、そこに少しの違和感を抱いた。

しかし部下の生命を大事にしているらしいこの指揮官が、嘘をつけばどうなるか分かった上で嘘を言っているようにも見えない。であれば裏を取るしかない。

指揮官の言葉が嘘ではないという確信さえあればそんな事をする必要はなかったが、ここに来て部下にも尋問する必要が出てきた。

すんなりと終わらない事に少しの苛立ちを見せた公爵だったが、これも武門の公爵家に対する悪印象を払拭するため。ため息を吐きたい衝動に駆られながらもその指示を出すべく騎士を呼んだ。













「貴様が聖女だな?一緒に来てもらおうか。」


「な、なんだ貴様はっ!」


「煩い。雑魚は黙っていろ。」


「んなっ!」


襲撃者達の正体に疑念が残り再調査となった頃、後夜祭は急遽中止され学院生達は安全が確保されるまでホールに待機するよう指示が出た。

だがそれを聞かなかった集団がある。それが今、襲撃者達と別行動していたローブの集団によって剣を突きつけられていた。


「聖女?確かに彼女は聖女といって良い程に清らかで美しい。でも、見るからに怪しいあなた達に渡す訳がないだろ?」


聖女と呼ばれた学院生の周りには、四人の男がいた。一人の男はローブの集団に雑魚と呼ばれ顔を赤くしているが、別の男が前に出て女子生徒を護るようにその背に隠す。


「ほう?騎士が四人もついていたか。が、そんな雑魚ではな。」


「おい、早くしろ。既に戦闘音は消えているぞ。」


「チッ。分かってる。…そんな訳でな。時間がない。聖女には着いてきてもらうぞ。お前から来い。そうすれば小僧共は殺さずに済ませてやる。」


ローブの集団は時間がない事に焦っている。彼らは耳が良いのか、外で行われている戦闘音が止んだ事に気が付いていた。

まだ国軍が残党の処理と遺体の片付けをしているところだろう。今ならば通常の警備体制に戻っていない。聖女を連れて抜け出すのなら今しかないのだ。


四人の男に囲まれて一言も発していない女に提案したのは、これが一番手っ取り早い可能性があるからだった。それでも動かないようであれば、ここに姿を現していない仲間が女以外を弓で狙撃する予定だ。なるべくせんとう戦闘にならないようにしたいとはいえ、時間がないのも確かなのである。


そんな彼らの焦りを察したのか、四人に護られるようにして身を小さくしていた女が出てくる。四人はそれを止めていたが、女の意志は固いのか首を振って悲しそうな笑みを浮かべた。


「私が行けば、この人たちは傷一つなく解放してくださいますか?」


無論、そんなつもりはない。女を移動させている間に騒がれても困るのだ。多少口がきけない程度に痛めつけるか、眠らせる必要がある。

だがそんな事を一々教えてやる義理などない。交渉役のローブの男はそんな考えを面に出さず極めて平坦に言葉を返した。


「そちらから来るのなら手は出さないと約束しよう。」


その一言で女の決心は固まったようだった。女は四人の男を一人一人見つめ、ニコリと微笑む。これが今生の別れだと悟っているのかは知らないが、あまりに感情の乗ったその茶番を見ているだけで吐きそうになったローブの男がそれを止めた。


「さっさとしろ。行くぞ。」


必ず助けるからな!

迎えにいきますから!

クソッ、彼女に傷つけるんじゃないぞ!

護れなくて、ゴメン。


「皆んな、今までありがとう。ごめんね。」


四者それぞれに違う言葉を投げる男達に、女は淡い微笑みを見せる。そして涙を一粒溢して振り返ると、ローブの男達と共に去って行った。




残されたのは男四人と、ローブの集団の一部。何故ここに残っているのかと彼らが疑問に思えば、殺意は突然襲いかかってきた。


「グッ…!おい、約束が違うだろう!」


男の一人が迫り来る刃から辛うじて急所を避けて叫ぶ。しかし避けきれず肩に刃を掠らせている。鋭く研がれた刃は、後夜祭のために見た目重視で作られたスーツを容易く斬り裂く。

肩から血を流していても止まる事の許されない程に斬りつけられ、四人の男はそれぞれに魔法を紡ぐ。しかし実戦はこの日行われた試合とは訳が違う。

明確に己へと襲い来る殺意に身を竦ませれば、たちまち骸と化す事は想像に難くない。いつ散るとも分からぬ緊張感の中、精神の集中と魔力操作が必要な魔法の発動がすんなりいくはずもなかった。


しかし、一人だけは違う。確かに混乱してはいるが他の三人と比べれば幾分落ち着いている男がいる。その男はこの学院の教師であった。貴族の生まれではあるが長男ではなかったために家を継げず、魔法の才があったためにそれを研鑽し魔導学院の教師の職を得た秀才。

彼の専門は戦闘ではないが、それでも学院生よりは強い自負がある。先ほどは女子生徒を護れなかったが、せめて彼女が己を犠牲に護った男達だけは護らねば。そんな想いだけが彼を突き動かしていた。


「風よ!」


彼が得意とするのは風属性魔法。詠唱短縮による初級魔法の連発は、同じ詠唱でも違う効果を及ぼすという器用な技術であった。

実際に発動しているのは軽い鎌鼬程度の魔法だが、それを風刃と叫ぶよりは相手に効果を予想されにくい。実際、ローブの男達はその魔法の対処に苦労していた。


「先生!ありがとう。おかげで立て直せる。今度はこっちの番だ!火よ、我が敵を焼きつくし浄化せよ!火球!」


しっかり集中できれば魔法の発動など容易である。だからこそ大陸一の学院に入学できたのだから。火属性魔法が得意な学院生が、教師の風に合わせて火球を放つ。すると風によって火が掻き乱され、やがて周囲のローブの男達に襲いかかる。

しかしこの魔法で勝負がついたかと思われたその時。


「大陸一って言ってもこの程度なのか。やはり人族の魔法は弱いな。」


ずっと動いていなかったローブの男達の一人が呟いたかと思えば、教師の風も学院生の火も突如消え去る。

そこには手を向けた姿勢で立っている男がおり、魔法の余波でローブがバサバサと揺れていた。


「んな!あの威力の魔法を簡単に…!?」


次に放つ魔法を準備していた他の学院生も、驚きによって集中を散らす。その隙を見逃してくれるような相手ではないと分かっていたが、風によって強化された火の球は、普段の授業でみるような魔法の何倍も強いように見えたのだ。それが一瞬で消されてしまえば、その方法を賢いが故に知っている事が、結果的に彼らにより強い衝撃として齎された。


「この程度の魔法に怯んでいるんじゃない!さっさと片付けろ!」


魔法を消した男は、先ほど女と去って行った者の後を継ぐ司令塔であるらしい。しかしそんな事が分かっても遅い。彼らは武器もなく魔法を唱える集中力も乱された状態で、迫り来る刃に視線を向けるしか出来なかった。




「はいはい。そこまでね。」


ため息混じりの声が聞こえた。それと同時に、男四人の周囲が急に暗くなる。一体何が起こったのかと思えば、すぐ近くからガキンッと何か硬いものを叩くような音が聞こえてきた。


「な、なんだ!?」


「落ち着け。これは土壁の魔法だ。何故か天井まで覆われているようだがな。」


そう、彼らを囲っているのは土の壁。聞こえてきた硬質な音は、彼らに迫っていた刃が壁を叩いた音だった。何故土壁が囲っているのか分からないが、事実この壁が彼らを護ったのは確かだった。

助けが来たのかと思えば、死を覚悟しかけた気持ちにも多少のゆとりが戻ってくる。そこでやっと壁の外に耳を澄ませれば、聞こえてくるのは少しの会話と短い戦闘音だった。


「誰だ貴様らはっ!」


「おいおい、そちらは侵入者だろうに。その台詞はこっちのもんだろう?」


邪魔が入った事やその存在に気付けなかった事に焦り、

そしてあまりに早い魔法の発動速度に驚愕している事を隠して、ローブの男は乱入者に鋭い視線を向けながら殺気を飛ばして牽制した。


「そんなに睨むなよ。照れる。」


「なに言ってるんですか。他の皆んなは仕事を終えましたよ。こっちも済ませましょう。こいつらで最後です。」


後頭部に手を当てて照れたように戯ける乱入者の横に、いつからいたのか女性が立っている。そしてその女性は、ローブの男にとって聞き捨てならない言葉を吐いた。


「最後、だと…?どういう事だっ!」


彼らがここに残ったのは、聖女と呼ばれる女を連れ出すためにここで多少の騒ぎを起こして警備の目を引きつける事。そのために男四人を襲撃し、女を連れ出した事が発覚しないようにその喉を潰す予定だった。

騒ぎを起こしつつその目的は悟らせないようにするのが目的で、そろそろ時間としてはギリギリだったのである。司令塔である彼が動いたのもそれが理由で、この攻勢で片付けて逃走する予定だった。

しかしここにきて正体不明の乱入者が現れた。流石に逃げきれないだろうというのは、先ほどの魔法の強さで分かる。まさか目の前のふざけた二人がどちらも同じ実力という事はないだろうが、それでも彼以外にここに残ったローブの男達はまだ若く実力も乏しい。

やはり時間ギリギリまで粘らずにさっさと撤退していればよかった。


だが、もしも目の前の女性が言う事が確かなら、女を連れ出したチームは既に捕まっているのかもしれない。だが気付いていない可能性もあると声に出してから気付き、これ以上情報を与える訳にはいかないと口をつぐんだ。

しかしそれは既に遅かった。


「学院生を拉致しようとしたエルフ族は既に捕縛済みです。敷地内に残っているエルフはこの者達だけですし、敷地外で待機していた者も同様に捕縛済み。アルカンタで拠点にしていた伯爵家の屋敷も制圧が済んだと報告が来ています。なのでさっさと片付けて帰りましょう。そうしましょう。」


突然現れた女性が一息に早口で捲し立てる。ふざけた態度の男はそれを聞きながら苦笑していたが、その隙に逃げようと考えたローブの男に視線を向けて牽制してきた。

見た目は隙だらけなのに、どんな動きをしても全て封じ込められる未来しかないように感じる。それはエルフ族の戦士として生きてきたローブの男にとって初めての事だった。


「よし、分かった。隊長に怒られるのも嫌だからさっさと終わらせよう。お前達、もう良いぞ。」


ふざけた男が、ローブの男の背後に目を向ける。そこには誰もいない。ブラフに掛かるとでも思っているのならば舐められた事だ、と怒りの感情を抱えたローブの男は、しかしそれがブラフではない事を直後に知る。


「動くな。これで傷がついたら死ぬぞ。」


耳元から聞こえた低い声に、ゾワリと背筋が震える。先ほどまでいなかったはずの背後に、確かにその男はいた。首に当てられている短剣からは独特の匂い。これは森で生きるエルフの民にとって知らないはずが無いもの。解毒が大変難しい、とある魔草の毒だ。


「い、いつのまに…。」


彼が言葉を発する事が出来たのは、たったのそれだけだった。いつの間にか当てられていた短剣はいつの間にか喉元を離れ、気付かぬ内に後頭部を殴られて意識を失う。

それと同時に、他のローブの男達もドサリと音を立てて倒れた。


「学院生はどうするかね。」


先ほどまで立っていたはずの場所から大きく動き、ローブの男の一人を手刀で倒した男。彼の腕には小隊長を示す腕章があり、彼らが着ている服には茶色の差し色が入っていた。


「離れてから土壁を解除してください。姿を見られるのは好ましくありません。」


早口で話していた女性が小隊長へと指示を出す。立場が逆転しているように見えるのは気のせいだろうか。しかし他の隊員たちもそれに反応しない辺り、これがこの小隊のいつも通りなのだろう。


彼女は先ほど、敢えて現状を口頭で報告した。それはエルフ族に動揺を齎すためであり、ついでに土壁で閉じ込めた学院生たちに女は無事であると伝えるため。

因みに、エルフ族が云々の辺りは土壁周辺に遮音結界を張って聞こえないようにする徹底ぶりである。

その魔法の発動に、魔法が得意な種族であるエルフが気づかなかったのだから、彼女の実力の高さが窺える。


「よぉし、んじゃ撤退するぞ。」


小隊長ののんびりした声が響いた時には、隊員によってローブの男達は全員縛られて担ぎ上げられていた。

小隊長も二人の男を両肩に担いでおり、それでいて力を入れているようには見えない。他の隊員も同じくで、なんと女性隊員すら嫌そうにしながらもローブの男を一人担いでいた。




「た、たすかった、のか?」


土壁が崩れた時、周囲は既に静かだった。

恐る恐る顔を出してみても、そこには誰もいない。


「…そうだ!彼女は!」


一人がそう叫べば、女が連れて行かれた方向に向かって全員が走り出す。その後ろで、土壁を作っていた土が音もなく空気に溶けるように消えて行った。

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