表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
闇竜と騎士団  作者: 山﨑
223/293

223話

世界樹の根元に突如出現したダンジョン。そこは大陸で数ヶ所確認されている難易度の高すぎるが故に立ち入り禁止となったダンジョンと同じく、広さも罠も魔物の強さも数多あるダンジョンとは比べられぬ程の難易度があった。

初日の調査によって得られた情報は多く、各班の持ち帰った情報を擦り合わせる事でそれが分かったのである。


「救助できたのは行方不明者の半分ってとこか…。だが誰も遺品は回収出来てねぇんだよな?」


報告を受けたアレックスが唸るように言えば、各班の班長を務めた中隊長や小隊長達が黙って頷きを返す。その表情には悔しさが浮かんでおり、全員を救い出す事は出来なかった事が彼らを焦らせていた。

このような救出を目的とした任務の場合、時間が経てば経つほど対象の生存率は下がる。元より帰ってきていない者の生存は諦められているのだが、それはエルフ族の考えであってドラグ騎士団の考えでは無い。僅かでも可能性があればそれを掴みに邁進するのが彼らだからだ。


しかし、初日の調査では救助だけ出来た訳ではなかった。既に息を引き取っていたエルフを発見し亡骸を連れ帰った班もある。

現在エルフの里では連れ帰られた亡骸を埋葬し、その死を悼む葬送の儀が行われている。既に騎士団は献花を済ませ、泣き崩れる遺族に謝罪を述べてから集会所へと引き上げて来たところだ。


"あなた方のせいではない。だが、あと一日早ければ彼が助かったかもしれないと考えてしまうんだ。"


先ほど遺族からゆいなが言われた言葉である。すぐに他のエルフ族が遺族を嗜めながらも退がらせ、騎士団のせいではないと言葉を足して遺族に付き添い去って行った。

エルフ族の救援要請を受けてここまで来たアレックス達は、最初からこのような事態を想定していたため深く傷付く事は無い。他の任務でも似たような事は幾らでもあったからだ。

しかし、それでも己らの実力がもっと高ければ一人でも多く救えたかもしれないと気を沈める部隊員は少なからずいた。


「んなら、まだ希望はある。お前ら、沈んでる場合じゃねぇぞ。明日から効率を上げる。階層を突破する事を重視して進む班を編成するからな。」


どことなく元気のない集会所内で、アレックスが場違いな明るい声をかけた。それは誰から見ても仲間の気持ちを切り替えさせるために無理矢理出しているのは一目瞭然だったが、こんな時にこうして部隊の行く先を率先して示す事が出来るアレックスは指揮官向きなのかもしれない。

本来の部隊長であるゆいなは現在ここにおらず、エルフ族の里の長に会いに行っている。そのため代わりにアレックスが亜人部隊の彼らを元気付けようとしているのだった。


「奥へ、ですかい。つまり、さっさと核を潰してこれ以上の拡大を抑えようって話ですか。」


狼人族の中隊長がアレックスに問えば、火の周りに集まる班長達も同じような目でアレックスを見た。それにニヤリと返したアレックスは、人差し指を立てて己の考えた計画を話し始めるのだった。


「そうだ。今日と同じように探索と救助は続ける。が、一班は俺と一緒に核へ真っ直ぐだ。救助探索班は明日から泊まりの準備をして突入な。勿論、俺と来る班はもっと泊まり込み出来るように準備だ。」


アレックスは語るのは、探索や救助と同じくして本来の目的である迷宮核の破壊を同時に目指すというもの。何階層まであるかも分からないダンジョンを一度の突入で踏破してしまおうという無茶な事を言っているのは彼も自覚しているが、正直に言って時間が無いのも関係しており誰も反対は出来なかった。

ゆいながいれば反対したのかもしれないが、ゆいな自身も時間が無いのは理解しているため悩みながらも頷いた可能性はある。


「でもアレックスさん、誰がアレックスさんと一緒に行きますか?」


一番気になる事を聞いたのは鳥人族の男だったが、彼だけでなく集会所内の全員がそれに興味を持っている事が分かる。その証拠に、アレックスは自身に全ての視線が向いた事を気配で感じたのだった。


連れて行け、と強い意志を感じる視線もあれば、不安げな視線も混ざっている。確実に並の冒険者では歯が立たないダンジョンなのは一階層目で既に判明しており、何処まで続くか分からないダンジョンを一度で踏破しようなどという前代未聞なこの挑戦に怖気付くのも仕方ないのかもしれなかった。

だがアレックスは敢えてこれを提案し、己とこの部隊ならやれると考えている。無謀な賭けをしている訳ではないのだ。それを部隊員に説明するのは時間がかかるため端折っているが、彼の自信溢れる目に希望を見出した部隊員は存外多いようだった。


「俺と一緒に行くのは…」


こうして、核まで一直線の班と探索救助班に分かれた行動が決定したのである。













「昨日アレが出たのって、この先か?」


少し不安そうな班員が言えば、その隣を進む班員は頷いてから進む先を睨んだ。

彼らは探索救助班。昨日と引き続きダンジョンの調査及びエルフの戦士の救助が目的の班である。昨日突入した班全てが書き記したダンジョンの地図は全班で共有しており、彼らは未到地域を目指して走っているところだった。

この二人が話しているのは、昨日この付近を探索した際に遭遇したとある魔物の存在についてだ。発見されたばかりの難易度が高いと予想されるダンジョンで地図を作成する任務も多く受けてきた彼らが、アレと言って嫌がる魔物がいる。

それとまた遭遇するのではないかという気持ちが、彼らの気分を下げていた。


「各員警戒を!十二時の方向から高速で接近する魔物あり!」


突如響いた索敵担当の班員の声に反応した彼らは、話を止めてすぐに武器を構える。

零番隊にもなればその武器はアクセサリーの形に変わる特殊な武器を持たされており、各々好きな形で常に身につけている。それをすぐに武器へと変えた班員たちは、報告の通り進行方向へと注意を向けた。

するとすぐに聞こえてきた地響きのような音に、一人の班員が露骨に嫌そうな顔をするのだった。


「おい、この音…。」


「だな。なんだって俺らばっかりアレと遭うんだよ…。」


そう、近づいて来ているのは班員が嫌がるアレであった。

ドドドドという地を掘り進むような音が近付くにつれ、その振動が地を伝って足にも届く。それは彼らが嫌がるアレの存在を否応なく予感させ、ついでに諦めの境地も送り届けるのだった。


「アレが口を開くまで我慢しろよ?開けたら一斉に放て。良いか、撃ち漏らすなよ!」


班長の指示は落ち着いていたが、それを受ける班員の気分は優れない。正直に言えば目を開けていたくないのだが、攻撃の機会を知るためには開けていなくてはならない。何より、身体能力の優れる彼らドラグ騎士団は視力も良いため、見たくもない物を見るのが彼らには運命づけられており、それを厭う気持ちが強いのだった。

だが嫌だからと避けて通れる訳もなく、それぞれに覚悟を決めて移動を止める。待つ姿勢になった彼らの顔は、既に覚悟を決めた戦士の面立ちだった。


「来たぜ…。一発で仕留めてやる。」


誰かがそう呟いた瞬間、彼らの視界に壁が映り込む。否、壁ではない。魔物だ。

しかし壁にしか思えぬほど通路を塞ぐその巨体は、それだけでまだ顔面なのだと誰もが知っていた。


ダンジョンイーター。通称迷宮喰い。それは芋虫のようであり、しかしその体躯は芋虫のそれではない。

通常、ダンジョンの構造物は壊す事も持ち出す事も出来ない。持ち出す事が出来るのはそこに生息する魔物の死骸であったり、ランダムに出現する宝箱から得られる宝などだけである。

だが宝箱を持ち帰る事は出来ず、開けずに持ち帰って罠を解除するなどという行為は出来ないのだ。


そんなダンジョンでも、例外という物がある。魔物ですらダンジョンの構造物は壊せないというルールからは逃れられないはずなのに、ダンジョンイーターは別なのだ。

この巨大芋虫はただ移動するだけで通路を拡張させてしまう。壊せないはずのダンジョンの地面や壁を破壊しながら進み、そこにいた邪魔な者は魔物や冒険者を問わず全てその巨大な口で飲み込む。

それは移動を一切止める事なく行われ、迷宮喰いが通った跡は誰もが一目で分かるほど何も残らない。

不思議な事にその後破壊された通路や地面は元に戻るため、迷宮喰いが破壊せずとも動き回れるようになる日は来ない。


そんな迷宮喰いは戦闘能力が高い訳ではない。寧ろ、高難易度のダンジョンに生息する魔物の中では最弱だろう。だが、迷宮喰いは戦闘自体を行わない。ただ進み続けるだけで誰も止められないからだ。

だが大人しく食われてやる訳にもいかないドラグ騎士団は、この魔物を毎回討伐している。ダンジョンの構造物と同じなのかどのような魔法でも傷が付かないその皮膚は無視して、眼前の邪魔者を飲み込むために口を開いた瞬間を狙って火力を集中させるのだ。

しかし、彼らが迷宮喰いを嫌がる理由がここにあった。ハッキリ言って、グロテスクなのだ。様々な物を飲み込む迷宮喰いの口内は胃とほぼ同じなのか、口に入れた物が半分溶けた状態だ。それを目にハッキリと写してしまう彼らが、目を閉じていたいと願うのは当然の事だろう。

戦闘で負け無しのドラグ騎士団零番隊であっても、食事が喉を通らなくなる気持ち悪さは後を引くのだった。


「今だっ!」


班長が叫ぶと同時かそれよりも瞬きの時間早く、迷宮喰いに魔法攻撃が炸裂する。班員達は余程迷宮喰いが嫌なのか、心なしか女性部隊員の方が魔法の威力が高い。

明らかな過剰火力と言える魔法を叩き込まれた迷宮喰いは、身体の内部に入り込んだ魔法によって爆発四散するのだった。


「…やったか?」


爆発による煙で周囲が見えない状態で、班員の一人が呟く声が聞こえた。誰もそれに返さないが、気配からすればもう迷宮喰いの生命反応は感じられない。それでも呟かずにいられなかったのは、他の班員にもよく分かる心境のため誰もそれを指摘する事など出来ないのだった。


「まったく。皆さん攻撃に集中しすぎですよ。僕が結界を張らなきゃ中身がこっちまで飛んできてましたからね?威力を考えてくださいよ。」


そんな中、呆れたような声が後方から届く。それは班の後方警戒を担当する班員の声で、風属性魔法によって散らされた煙から全員の表情を窺えば、どことなく申し訳なさそうな表情を浮かべているのが分かった。

特に女性陣はかなり萎縮しており、己の放った魔法が過剰な火力を生み出していた事は気付いているらしい。


「まぁでも、この火力なら飛び散った中身を見る事なく済みますからね。今後この班ではこの戦法で行くのもありではないですか?僕がちゃんと結界を張りますから。」


そう続けた班員の言葉に、やっと笑顔を浮かべた女性陣。そしてそれは班長によって即断で採用され、班全員が喜びを見せるのだった。


「じゃあもうちょい火力上げてもいいか!?」


「俺も!」


結界担当がいるならもっと徹底的に焼き尽くしてやりたい班員がそう提案すれば、班長は結界担当を申し出た班員をチラリと見る。それに頷きを返されれば、班長もニカっと笑って許可を出すのだった。


迷宮喰い。ドラグ騎士団にとって厄介な相手である。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ