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闇竜と騎士団  作者: 山﨑
199/292

199話

暗殺ギルドサイズ公爵領支部に集まっていたギルド員達。作戦の詳細を聞き、既に五指の男や精鋭の数名は支部を出ていた。しかし大多数の精鋭達は未だ自分の担当する街や対象を決められておらず、支部内で待機している状態だった。


支部があるのはサイス公爵領の中心にある領都で、公爵の寄子の貴族達の屋敷なども領都にある。アルカンタほどではないにしても、公爵領として恥ずかしくない程度には発展していた。

この地域は鉱山が多く、鉄鉱石や銀鉱石が多く獲れるためそれらを用いた商いによって発展してきた歴史がある。領都には多数の金属加工工場が並び、グラナルドの発展を長い間支えてきた根幹とも言えた。


そんなサイス公爵家だが、元々は王家が貴族同士の力のバランスを均等化するために興した家でもある。王家に連なる者が治める事により重要な資源を王家主体で国内に分配する。それによって過剰な武力を持つ事が出来なくなった貴族達は、王家に背面服従しながら大人しくするしかなくなったのである。


戦争も多く味方である貴族の裏切りに備えなければいけなかったのが理由ではあるが、今となっては堂々と王族を批判する公爵家となってしまったのだから、時の流れとは悲しいものだ。

サイス公爵は当時から、その豊富な鉱物資源によって私兵の強化に力を入れており、当主も含め一族は皆大鎌を手に戦場を駆ける猛者であった。アクス公爵とはその頃から戦場で功を競う仲であり、その確執が現代まで続いているのである。


サイス公爵は前当主まで武芸を嗜んでいたというが、今代国王になって戦争が無かった事や現当主に武芸の才能が皆無だった事が重なり、現在当主は武官ではなく財務関係の職に就いている。

だがそんな現当主のおかげもあって発展の方向が少し変わったのも、今のサイス公爵領の特徴だろう。

暗殺ギルドを支援しているのは昔からだが、始まりは武力に才能を偏らせているため内政に弱いサイス家が考えた反撃の手だった。

鉱物資源を国内に供給する役目があるサイス家は政敵も多く、甘い話で釣って安く仕入れようとする貴族は多かった。それに憤慨した当時の当主が暗殺ギルドを呼び込み、今の今まで関係が続いているのである。


ここ何代かは気に入らない貴族や言うことを聞かない商人などへの脅しや暗殺のために利用していたようだが、暗殺ギルドにとっては目的など何の関係もない。

依頼されて暗殺する。それだけで多額の報酬を得られるのだから有難い事だ。しかし、グラナルド王国は護国騎士団による防衛が激しく、目標の貴族がいる首都アルカンタに潜入する事すら精鋭以上でないと難しかった。


そこで暗殺ギルドは、アルカンタに支部を置くための一大作戦を決行する。現在全ての五指がグラナルドに入っており、それだけでギルドの本気具合が窺える。

サイス公爵領支部には多数の精鋭が入っており、会議室にて順番を待っていた。


そんな中に、場にそぐわない明るく無邪気な子どもの声が響いたのは、昼を少し過ぎた時だった。


「はーい、失礼しますね〜。」


十代前半と思われる少女の声に、扉を開く音。その場にいた精鋭たちは扉が開くまでその気配を感じ取れなかった事に警戒して各々の武器を取る。それは暗殺者の精鋭と呼ばれるに相応しい反応だった。

だが、その警戒も一瞬で無意味となる。少女の後から入ってきた無表情の男の子が、彼らが反応できない速度で魔法を発動したからだった。


「ありがと。さて、皆さーん。このまま捕まるか、皆さんが殺してきた人たちみたいに殺されるか。どっちが良いですか〜?」


侵入者はニコニコ笑顔と無表情の二人組で、成人前の子どもにしか見えない。だがその実力は既に精鋭たちの身をもって実感させられる程に隔たりを感じるのだった。

その異様な光景に、本能的に畏れを抱く精鋭たちの一人が小さく呟く。それは侵入者の着ている揃いの服について。


「そ、その服は…!ドラグ騎士団…貴様らかァ…!!!」


その呟きは部屋にいる全ての者に届く。子どもが暗殺ギルドにいるという事実と、精鋭の自分達すら一瞬で無力化する実力に動揺した事で、相手の正体を推測する事すらしなかった。否、出来なかった。

だがそれを反省する暇などあるはずもなく、子どもらしさを全面出した少女の悪魔からの無慈悲な選択肢が、彼らの頭を悩ませるのだった。


ここは暗殺者ギルドの支部だ。ならばこのまま時間を稼げば助けが来るかもしれない。しかし、そんな考えを打ち砕くかのように少女は笑うのだった。


「助けは来ないよ。既に騎士団によって接収されてるから。この部屋は最後。ただ…ね、困った事があるの。教えてくれたら命は助けてあげるけど…。どうする?」


生殺与奪の権を少女に握られ、大の大人がその命と引き換えに情報を求められる。情報を渡す事は己らの組織を売る結果になる事は間違いない。だがそれでも、自分の命を優先するのは生物にとって当たり前の行動だった。


「い、言う!何が聞きたいんだ!?支部長の居場所か!?」


誰か一人が言い出せば、少女が問わずとも勝手に情報を吐き出す。これが騎士などであればこうも簡単にはいかない。暗殺ギルドは横の繋がりが薄く、仲間というよりは蹴落としたい商売敵でしかないため、自身の命と引き換えに組織の情報を売るという行動に躊躇いなどなかった。

彼らは我先にと情報を語り出す。それは二人にとっても手間がなく、実に効率的だった。




必要な情報は大体得た少女カリンは、後ろで魔法の維持をしているアイルに合図を出す。敵に情報を漏らさぬために名前で呼び合ったりはしない上、言葉も少なくなる。だが二人には言葉など必要なかった。

アイルはカリンに何も返さず、無言のまま魔力を練り上げる。彼は転移魔法が得意だが、他の魔法も得意なのだ。特に闇属性魔法は本人の希望もあってかなり打ち込んでおり、師匠であるセトもその才能とセンスには太鼓判を押す。

アイルが闇属性魔法に強い拘りを持つのは、師匠と主人の影響が大きい。二人は闇属性を司る闇竜と眷属だ。当然ながら世界最強の闇魔法使いは主人となる。


実親の顔など記憶の隅にもない双子だからこそ、育ての親であり仕えるべき主人というのは強い憧れの対象となるのだった。

故にアイルは闇魔法を鍛えてきた。そして今、その闇属性魔法によって暗殺者たちを纏めて捕える事が出来ているのだった。


双子は天才である。それはヴェルムもセトも認めており、ヒト族では突出した魔力量と高い質、そしてそれを活用できる想像力があった。

カリンは考えるよりも動く気質だが、それでも魔法の鍛錬を重ねている。それ以上に武具による鍛錬を重視しているのだが。

アイルはその逆で、魔法の鍛錬に重きを置いている。それ以外については、徒手空拳と暗具による戦闘をセトから教わっている。これは執事として主人の側に侍るのに、武器など持っているのは無粋だというセトの考えからだ。暗具もその辺にある石や木、ペンやペーパーナイフといった小道具で戦うことを主軸に置いている。果てには椅子や本までも武器にしてしまうのだから、セトの拘りは強かった。

しかしそれすらも修めたアイルは、東の国の忍である鉄斎やゆいなから見ても達人級で、そこらの暗殺者では手も足も出ないと認められている。




そんな二人が支部から出てきた頃には、支部を監視していた五番隊によって精鋭以外の者たちは既に捕縛されていた。

時間も大して経過しておらず、支部に乗り込む事で必要な情報は得た。だが二人は休む暇などないとばかりに、次の目的地に向かうため準備を始めるのだった。


「お疲れさま、アイル。おかげで楽だったよ。でも今回は私の出番が無かったから、次はやるぞ〜!


身体を天に向かって伸ばしながら言うカリンに緊張は無い。まるで子どものお遣いかのように気楽でいつも通りのカリンに、アイルは無表情のまま同意の頷きを返すのだった。


二人が支部を訪れたのは、ここで暗殺ギルドの作戦を阻止するためだ。しかし到着した時既に幾人かは出立してしまっていた。そのため何処へ向かったか情報を集める必要が生まれ、それに手をかけたために予定としては多少押しているのだった。

しかしそこで得た情報によれば、時間をかけて事件を起こすという。ならばすぐに向かって一件ずつ処理していけば、間に合うのではないかという判断だった。


これにより五番隊は情報にあった街へ調査に出ており、ギルド員を発見次第アイルとカリンが向かう。現在は隣町に発見したギルド員を倒すために向かうところで、五番隊の準備が出来るまで待っているのだった。


「カリン。これ食べておいて。昼食を摂る暇が無かったから。」


ぶっきらぼうにアイルが差し出したのは、料理長が持たせてくれた携帯食糧である。

通常の携帯食糧は冒険者や行商人などがよく食す、硬くて味のない、とにかく栄養が補給できれば良いというものである。しかしドラグ騎士団のものはそうではない。

調理部と錬金術研究所が協力して開発されたそれは、栄養価が高い上に甘くて美味しい。硬さは噛み応えがある程度に抑えられており、これは少ない量で満腹感を得る為に敢えて残している。


更に言えば、アイルがカリンに手渡したのはそれに加えて改造が施されていた。

双子に甘い騎士団の皆が、あれこれ言って改良したものだ。任務で外に出る事が多いカリンに、少しでも美味しいものをという優しさから生まれたそれは、上から粉糖を振ってチョコレートで包んだ物になっている。

一つ食べれば成人男性の一日に必要な栄養を補給できるそれは、異常なほどに甘くアイルは苦手である。だがカリンはこれを好んでおり、手渡されたそれを見てパッと目を輝かせるのだった。


「ありがとっ!アイルも食べる?」


「ううん。僕はこれで良い。」


二人の穏やかな会話に、準備が整った事を報告に来た五番隊隊員は数分だけ待つのであった。

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