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闇竜と騎士団  作者: 山﨑
19/292

19話

街が周辺一帯を支配するには、守るだけでは駄目だった。

この頃既に長となっていた彼は悩んでいた。彼の悩みの種、それは他二つの街からの移民である。


「長、今日も移住許可を求めて移民が。北の街から25名、西の街からは20名。合わせて45名です。先日のように敵の密偵が含まれているかも知れないので、今は隔離しています。」


まだ里だった頃から側にいてくれる、右腕とも言うべき男からの報告に、長は頭を抱えた。

ここ最近、移住してくる民が増えた。それは、他二つの街の徴税が厳しすぎるが故だった。この街以外の街は、軍備の増強に余念がなく、そのため民に課す税が重い。これは為政者としては分かる話ではあるが、その日を暮らすので精一杯の民には辛かった。また、徴税官として派遣される者は横柄な者が多いようで、本来徴税として回収される以上の物を取り立てられるらしい。

結果、この街に逃げてくる民が増えた。人口は飛躍的に増えているが、その民を守るために兵も増やす事になる。また人口が増えたとは言え、すぐに働き口が見つかる訳ではない。移民が増えた当初は街で支援をしていたが、今となってはそれも苦しい状況である。


更に困った事に、街の運営をする者の中でも意見が割れていた。

直ちに他二つの街を攻め、こちらが統治する事で民を救うべきという人情派。どうせ待っていれば向こうが勝手に瓦解するという慎重派の二つだ。

個人としては人情派に九割心が傾いているが、どちらかの街を攻めればもう片方から攻められる。守るだけの兵を準備する余裕もなく、また長としてどちらかに偏った意見を出す訳にもいかず、最近は慣れぬ政治に辟易としていた。


しかし、そんな時にこそ救いの手は差し伸べられるのである。


「あなた、お客さんがお見えになっているわ。あなたの古い知り合いだと仰っているのだけれど。白銀の長い髪に背の高い方よ。お知り合いかしら?」


長の自宅兼政治の中心として存在する石造の屋敷で、右腕の男と頭を捻っていた所、長の妻が部屋に入ってきて言った。


「白銀の髪に長身の…?男、か?いや知らんな。だが、ここでその者に会えば何か変わる気がする。俺の勘は外れん。会ってみよう。」


長は勘が鋭かった。嫌な予感がする時は大抵何か起こる。黒竜と初めて会った時は、嫌な予感がしながらも不思議と不快感がなかった。結果的には怪我をしたが、それ以上の出会いがあったために気にしていなかった。それからも長の勘はよく当たり、周りも長の勘は信じた。今回もその長が勘を働かせたと言うのだからと、右腕の男も会ってみようと言い出した。


「久しいな。ヒトとはこんなにもはやく老けるものなのか。前に会ったのは最近の事だと思っていたが。友よ、君が私に語りかける話が気になって、思わず飛び出してきてしまった。勿論、君に会いたかったのが一番だがね。あぁ、君が友の番か?君の話も楽しくて毎晩楽しみにしているよ。最近は何やら悩みがあるようだが…。それでも友と一緒にいてくれる事に感謝するよ。」


男は部屋に入ってくるなりそう言った。長はこの男に見覚えは無い。それどころか、声も聞き覚えがない。しかし、どこか懐かしく感じた。意味不明な事を言っているが、誰か分からずにいると、横にいた妻が驚いた顔をし、それから頭を下げた。


「これは黒竜様!貴方様のおかげで夫は今無事に過ごしております。まさか鱗の持ち主のお方にお会い出来るとは思いませんでした。先程は気付かずに大変失礼をしました。あなた、この方はあなたがずっと仰っていた、あの黒竜様ですよ。畏れ多くもかの天竜様と友だと仰っていたではありませんか。」


そう言って長に男の正体を告げ、その男黒竜も頷いた。

驚いて口をパクパクしていた長も、妻から背中を叩かれて正気に返り、まじまじと黒竜を見つめてからやっと口を開いた。


「まさか、本当に友なのか?あぁ、奇跡だ。また君に会えるなんて。来るなら教えてくれれば良かったのに。話したい事がたくさんあるんだ。しかし、その姿は一体…?」


黒竜だという男は、一度苦笑してから真顔に戻る。


「君が毎晩語って聴かせるヒトの営みに興味が湧いた。しばらく各地を歩いたが、ヒトは興味深いな。ヒトの営みを見て回る中で君の生活が見てみたくなって来た。魔物と同じく縄張り争いは続いているようだが、ヒトはそこに工夫を見出す。戦闘は武器を使うし、自分で食す物を生産する。それをお金という石で交換する。ヒト以外にそのような種族は存在しない。見ていて飽きないな。」


こう語る男の表情は真顔だが、目は爛々と輝いていた。まるで玩具を与えられた子どものように。


「なるほど。鱗に話していた事は全て君に聞こえていたのか。それなら返事をしてくれても良かったのに。」


長がそう言うと、男は首を横に振った。


「君は魔法を使う素地が出来ていない。そのため、直接魔法で連絡は危険だった。あの時は鱗に宿る魔力を媒介にして語りかけたのだ。しかしそれを何度もやれば鱗の魔力が消費されてしまう。いざと言う時君を守れない物など、意味がないではないか。こういうのをヒトは御守りと言うのだろう?」


最後は自慢気にそう言った。長はこの説明に納得したが、魔法というのがいまひとつピンとこない。素直に尋ねると、男は魔法について実演を交えて教えてくれた。それを黙って見ていた長の右腕の男が、急に声を出した。


「黒竜殿、でよろしいか。確かに魔法は存在するが、そこまで人族は使いこなせない。人族でもそこまで魔法が使えるようになるのだろうか。」


説明していた口を閉じ、少し考えた後に男は返した。


「可能だ。生憎、我が友は魔法の才覚がないようだから厳しいが、友の番であるこの者であればある程度出来るようになる。君も少しは使えるようになりそうだ。覚えてみたいのか?」


長の隣にいる妻は驚き、長は告げられた事実にショックを受けていた。右腕の男は、是非に、と言い教えを乞うた。


「ところで、友の事は何と呼べば良い?何時迄も友や黒竜では不便だろう。」


長がそう問えば、男は驚いた表情を一瞬浮かべすぐ真顔に戻り、少し悩んだ後言った。


「これがヒトの文化の一つ、名付けか。個体毎に名を付けるのは興味深い。ここは一つ私も名を持つとしようか。君は私に何と名を付ける?」


逆に名を付けてほしいと言う男に、長は少し悩んだがすぐ何かを思いつき口にした。


「友は私にこの世界の真実を告げた。これからも沢山の真実を私に告げるのかもしれない。何より、真実の友とはどういうものかを教えてくれた。よって、私の部族の古い言葉で真実を意味する、ヴェルムという名を贈ろうと思う。どうだろうか。」


男はそれを聞き、嬉しそうに笑う。その笑顔に三人は見惚れた。


「そうか。では私はこれからヴェルムと名乗ろう。心地よいものだな。名を貰うというのは。これからその名を呼ばれる度に君を思い出そう。ありがとう。」











それから数ヶ月が経ち、黒竜ことヴェルムは、魔法の才能がある者に魔法の手解きをしたり、街の困りごとに魔法で力を貸したり、長夫婦と毎食を共にしたりして過ごした。事あるごとに、あれはなんだ、これはなんだ、と聞いてきたのも最初のうちで、今では街の全ての人から頼られる存在となった。


しかし平和は長く続かない。

この街より北にある街で、民による反乱が起こった。しかしその反乱は一日として保たず鎮圧された。その後、反乱の首謀者として農民の代表が処刑された。それだけで終わればまだ良かった。しかし、北の街は何を考えているのか、反乱に加担したかどうかは関係なく、農民を片っ端から殺し始めた。

こうなれば崩壊は近い、と慎重派は喜んだが、人情派は今すぐに助けに行くべきだと主張した。

長は、街が大きくなる前に取引で付き合いのあった農村の者も、北の街が一番近いからと傘下に入っていた事を思い出した。知り合いが無惨にも殺されていくのをただ見ているだけなのか、何のために長となったのか、と悔しさに歯を食いしばっていると、そこにヴェルムが現れた。


「友よ、何を悩んでいる?いつも言っているだろう。君は君の思うようにやればいい。そうして着いてきた者たちは、君が心に素直に行動する事を望む。そうでない者は街が大きくなり、権益に縋った者だ。君は何方が大切だ。君の心は何と言っている?長ではなく、君個人がどうしたいかが一番大事なのではないか?」


「しかし、私たちが攻め入れば西の街から攻撃される。この知らせは向こうも受け取っている筈だ。どうなっても良いよう、兵を準備している事は分かっている。守りに割く余裕は無い。」


悔しそうにそう言う長は長としての立場を崩さなかった。しかし、ヴェルムはまた続けた。


「私が聞いているのはそんな事ではない。出来ない理由では無く、やる理由、やりたい理由を聞いている。もう一度だけ問おう。君の心は何と言っている?」


頑として質問を変えないヴェルムに、長の気持ちが動いた。しばし迷った上で、震える唇を掌で抑えながらも声を発した。


「私は…。私は、民を救いたい…!私が一帯の統一を望むのは、民が心豊かに生きる為だ!他の街の、命を命とも思わぬ行為に立ち向かう為だ!そのために私は皆を率いてきた!だが、その皆を守るための力がない!私は無力だ。皆を守る力がほしい。」


段々と萎んでいく言葉ではあったが、確かに長の心の叫びだった。その言葉にヴェルムは頷き、笑顔になった。


「言えるではないか。では行ってこい。この街は私が護ろう。ヒトの縄張り争いに関わる気は無いが、世話になった街のヒトを護るくらいの事はする。君は後ろを見ずに前だけ向いていれば良い。君が死する時まで、私は君の家を護ろう。家族を護ろう。この街は君の家であり家族なのだろう。ならば友である私がそれを護る事に文句は無かろう?」


ヴェルムがそう言うと、長は涙を流し何度も礼を言った。長は今まで、絶大な力を持つ黒竜であるヴェルムに、直接の力の行使を頼まなかった。そもそも、その様な考えに至らなかったのである。周囲の人々はヴェルムに他の街を攻める手伝いを依頼しろと何度も言ったが、わざわざ訪れてくれた友に、命の恩人でもある友に、何故その様な事を頼めよう。そう言って断り続けたからこその今があった。


「ありがとう、友よ。私は必ず一人でも多くの民を救ってくる。君はここで私の帰りを待っていてほしい。私の家を、家族を頼む。」


そう言って下げた頭を上げた時には、涙は止まっていた。その涙を拭って一呼吸し、力の限り叫んだ。


「皆、出陣だ!本日私は北の街の上を獲る!各隊準備が整い次第北門に集合!急げ!お前たちの動きに民の命がかかっている!」


その場の全ての者が、はっ!と声を揃えて出て行く。ヴェルムは微笑んでその様子を見ていた。すると、そんなヴェルムに近寄る一人の女性がいた。長の妻だ。


「ヴェルム様。街の防衛、是非私たちにもお手伝いさせてください。いえ、私たちが主軸となってやらせて頂きたいです。ヴェルム様に魔法を教わった者たちは皆、この街を守るために日夜研鑽を積んで参りました。まだまだ未熟ではありますが、ヴェルム様に見て頂きたいのです。どうかお願いできませんでしょうか。」


ヴェルムが魔法の使い方を教えた者は、全員メキメキと魔法の腕を伸ばしていた。魔法使いだけを集めた隊を作り、いつかは長が率いる兵と連携を、と言っていたところだった。まだまだ魔法が安定しないため、同士討ちを避ける目的で未だ編成されていないが、数年で戦闘の主軸になると長は考えていた。


「ふむ。良いのではないか?君たちの街だ。自分で護ってこそ意味がある。しかし、私も友と約束した身。一人でも危険があれば私が出る。その時は魔法の勉強だと思って見ている事。それを約束してもらえるなら好きにすれば良い。」


ヴェルムも長の妻に許可を出し、成長を確かめる事にしたようだった。ありがとうございます、と頭を下げた妻は、準備があると部屋を出ていった。


「済まない、友よ。世話をかけるが頼む。私は君を世界で一番信頼しているよ。」


長がヴェルムの元へ戻ってきて言う。ヴェルムは困った顔で首を振った。


「そんな事を言っては君の番、いやヒトは妻と呼ぶのだったか。その妻が怒るぞ。確かヒトは、妻の機嫌を損ねる事を"逆鱗に触れる"と言うのだろう?ヒトは滅多に竜族に会わないのに、怒らせ方は知っているのだから面白い。さぁ、君の大事なものは私に任せて、君にしか出来ない事をして来ると良い。君の妻とここで待っているよ。あぁ、ヒトはこういう時こう言うのだったね。ご武運を。」


そう言って手を振るヴェルム。長は笑顔で、応!と返事し部屋を出て行った。

街から軍が出陣したのは、それから一時間後の事だった。











「ヴェルム様。予想通り西の街から軍隊です。西の街は遊牧民族を多く有していますので、騎馬隊が一番の脅威です。ですので、壁に篭って戦えば時間は稼げます。しかし、今回は壁を壊す兵器も持ってきているようでして。時間を稼ぐだけではどうにもなりそうにありません。先程ヴェルム様の指示通りに、地属性の得意な者から工作が完了したとの報告が来ました。確かにあれならば効果はあると思いますが…。」


そこで一度口を閉じる長の妻。不安そうな表情だった。


「大丈夫。魔法を使えると言っても、魔力が尽きれば赤子同然。であれば、魔法使いの意義とは何か。それは、ヒトの手で出来る事を速く正確に行えるということ。つまり、このように時間の無い時でも工作が可能だ。この近辺では戦闘は正面からのぶつかり合いが多いようだが、もう少し西に行くと戦闘はもっと巧妙化している。地形を活かしたり兵種に多様性を持たせたり。斥候を沢山放ち情報の収集に余念が無い。ヒトはそういった創意工夫で勝利を掴む。大事なのは勝つ事だろう。そのために使える手は使う。今回の工作は、その第一歩になる。」


ヴェルムが説明すると、妻の不安そうな表情はいつの間にか消えていた。近くで聞いていた他の魔法隊の者も、関心を持って聞いていた。


そうこうする内に、西の街の軍隊が視認出来る距離まで近付いてきた。

先頭は騎馬隊。その後に歩兵と車輪のついた櫓。他にも兵器が見える。輜重隊まで連れた大規模な軍隊に、魔法隊の者は皆驚いていた。皆一様に緊張し不安げだ。


「心配はいらない。数だけ揃えても勝てない。魔法を取り入れない軍は魔法に負ける。それを君たちが教えてやればいい。初めて私から魔法を教わった時、君たちは何と言った?奇跡だ、そう言ったんだ。しばらく驚きで固まった者もいたな。あの軍隊は嘗ての君たちだ。つまり、君たちの魔法で驚き固まるだろう。そこに攻撃をするだけだ。簡単だろう?戦は強い者が勝つのではない。如何に入念に準備をし、想定通りに進められるかで決まる。ここに来る前に違う国で聞いた言葉だ。さぁ、君たちの出番だ。存分にやりなさい。」


ヴェルムが話し終える頃には、魔法隊は誰も不安そうな表情をしていなかった。やる気に満ち溢れていて適度な緊張感もあり、これなら大丈夫だろうと思わせる何かがあった。


それから始まった戦闘は、振り返ってみれば呆気なかった。

工作隊が作った小さな凹み。これに馬が足を取られ、次々に落馬してゆく。機動力を失った騎兵など、ものの数に入らない。慌てた様子で歩兵と入れ替わるが、その次は深い堀だった。こちらからみれば堀だが、軍隊の方から見ると近付くまで堀だと分かりにくいように掘ってある。そのため、気づいて止まろうにも、軍隊は急には止まれない。後ろから来る味方によって押し出され、次々と堀に落ちて行く。

軍隊の後方が異常を察知した時には、歩兵の半数は既に堀に落ちていた。更にそこに熱湯がかけられる。魔法で作った熱湯だ。地属性が得意な者によって土も被せられるため、高温の泥が降り注ぐ。この地は焼き物が盛んで、水を含めば粘り気出る上、乾燥が早い土が多い。高音の泥を浴び、その上風魔法によってすぐ乾いて固まるため、金属の鎧を身に纏う者はすぐ動けなくなった。


戦闘開始から一時間、西の街の軍隊は前進も出来ず、ただ矢を散発的に打つだけとなっていた。しかし、その弓が脅威だった。魔法隊の一人の顔に矢が刺さりそうになった時、ヴェルムの魔法で矢が弾かれ事なきを得た。

それからしばらく矢が降り注いでいたが、味方に当たってもいけないと思ったのか歩兵は前進してこない。矢が尽きるまでは現状維持かと思われたその時、ヴェルムが前に出て言った。


「では、そろそろ皆の魔力も尽きた頃だろう。結界を張るので物見に上がりなさい。一つ手本を見せてみよう。」


そう言った途端、ヴェルムの見本を見るために魔法隊は全員物見に上がる。矢がそこに殺到するが、届く前に全て地に落ちた。


「さて、君たちには今まで、それぞれの得意とする魔法を中心に教えてきた。しかし、魔法の真髄はそこではない。違う魔法を組み合わせる事で、その効果は何倍にも膨れ上がる。君、冬の風が強い日は、火災が起こるとどうなる?」


そう言って近くにいる男性に声をかけた。


「冬は乾燥しているため火の回りが早いです。風があると飛び火もしますし、はやく消火しないとその辺一帯が火事になります。」


急に話を振られても、落ち着いて答える男性。これは普段の魔法の勉強と同じ光景だった。背景が軍隊で勉強場所が戦場というだけで。


「そう、満点だ。ではこれを魔法に置き換えるとどうなる?じゃあ君。」


そして次の者を指名する。


「この場合、火属性の火を、風属性で強くする、という事でしょうか。」


少し自信が無さそうに答えるが、ヴェルムは満足そうに頷いた。


「そう。そして後一つ、冬の季節独特の乾燥がある。これは?じゃあ君。」


「乾燥、ですか。乾燥は空気の水分が少ない状態とヴェルム様が仰っておられました。と言うことは、水属性、でしょうか。」


更に満足そうに笑顔で頷いたヴェルム。片手を上げ魔法を実演しながら説明する。


「そう、水属性には物の水分を移動させる魔法がある事は先日教えたね。何名か出来る様になったはずだ。焼き物が割れぬようしっかり乾燥させるのにも使ったね。それを空気に使う。当然、空気は移動しているからすぐに次の魔法を使わないといけないがね。次に使うのは着火の魔法。これは火がつけば何でも良い。今回は軍隊の規模だから大きめの炎球が良いだろう。そこに風。風は渦巻き中心に向かうよう吹くのが効果的だ。火の温度を維持して吹き上げる。これも焼き物の時に使ったね。そう、この三つは全て、君たちが協力して焼き物を作った時に使った魔法。それを合わせるとこうなる。」


長い説明を終えた瞬間、辺りの空気が乾燥した。乾いた空気を感じた瞬間、街より少し離れた場所にいた西の街の軍隊の真上に巨大な炎の球が浮かぶ。その炎の球が軍隊に落ちたかと思えば、強風が吹き竜巻を作った。それはそこにある物全てを巻き込み、炎の渦となって軍隊を襲う。数分で渦は収まったが、そこに残っていたのは焼け焦げた地面だけだった。


「魔法は便利な反面、強力だ。だからこそ、使う者の心に左右される。悪しき事に魔法を使う者はこの中にはいないだろう。誰よりも魔法の恐ろしさを知る君たちだからこそ。しかし、魔法を使う全ての者がそうとは限らない。故に君らは知らなくてはならない。正しい魔法の使い方を。ヒトが富み繁栄する事に活かせる魔法を。殺す為では無く、生かす為の魔法を研鑽しなさい。同じ魔法で焼き物を焼くのか、同族を殺すのか。よく考えなさい。私は世界を支える存在だが、別に無差別に殺して回っても誰も何も言わない。ただ世界が滅びるだけだ。無駄に殺して回る気は無いがね。しかし、だからと言って友を傷つける者たちを黙って見ている気はない。今回は力を貸したが、次は君たちで護れるようになりなさい。その為の教えは続けていくつもりだ。」


ヴェルムのこの長い教えは、魔法隊全員の心に刻まれた。

お読み頂きありがとう御座います。山﨑です。


前回から引き続き、ヴェルムの過去の話です。過去は人と接する事が無かったため、固い話し方をしていますね。


投稿し始めてから、やっと10万文字を突破致しました。

そのおかげか分かりませんが、10万字を越えてからアクセスが少し増えました。本当に有難い事だと喜んでおります。

これも偏に、読者の方々のおかけです。本当にありがとう御座います。


この作品を読んでくださった方の、日常にちょっとした華を添えられれば幸いです。

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