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闇竜と騎士団  作者: 山﨑
189/292

189話

グラナルド王国で一番大きな建物。それは間違いなく王城である。少なくとも、国民はそう認識している。

建物というより空間という意味では、ドラグ騎士団本部の地下が最も広い人の手が入った物となるのであろうが、その存在を知る者は限られる。


そんな一般的には最も大きく立派な建物であるグラナルド王城の最上階には、国王が休むための私室があった。


最上階の廊下以外はほとんど全てが国王の私室で、残りは護衛や侍女の待機所である。とは言っても、下のフロア程広い訳ではない。中央の大きな建物から縦に伸びた形の塔のようにも見えるそれは、歴代の国王が王を閉じ込める監獄のようだと言うくらいには王専用の部分になっている。


現グラナルド国王のゴウルダートは、私室の一つ下のフロアにある王専用の食堂で食事をし、同じフロアのこれまた王専用の湯殿で侍女たちによる介助付きの風呂を済ませ、最上階に上がって来たところだった。

いつもならば私室で少し酒を飲みながら考え事をし、また明日が来る事を憂鬱に思いながら眠りにつく。王の睡眠中は最も襲撃されやすい時間である事から、ドラグ騎士団の零番隊が一時も目を離さず護衛している事は知っている。だがその気配や存在を感じた事など一度もない。

であれば気にしても仕方ない、と寝顔を見られる事を気にしなくなったのはいつだったか。


そんな事を考えながら私室の扉前を護る近衛騎士が開けた扉を通る。

おやすみなさいませ、という侍女の声を背中に受けながらそれに返事を返すと、扉はゆっくりと閉まるのだった。

生まれてこの方、一人の時間はこの眠る時間のみだった国王。それが王族たる者の宿命なのは分かっていても、やはり一人の時間は肩の荷が降りたような気がしてホッとするものだ。

だが、今日はまだその一人の時間は訪れないようだ。扉の外からは見えない位置にある、ソファとテーブルが設置されたその場所で一人優雅に酒を飲む友の姿を見たからだ。


国王は友に向かって露骨に嫌な顔をする。無論、友が訪れるのはいつだって歓迎なのだが、国王の父や祖父、祖先とも友だったというこの男は、国王に会いに来るのが大抵、碌でも無い案件を持ってくる時と経験によって知っているからである。

まずは話を聞かねば分からないか、と淡い期待を胸に抱いた国王は、嫌そうな顔から困り顔に変えてソファへ歩き出す。

相変わらず穏やかな笑みを浮かべて、挨拶するように手を軽く振る友に若干の苛つきを覚えながらも面には出さないのは、王族として生きる上で必須な能力を遺憾無く発揮した結果だった。


「やぁ、ゴウル。やっと終わりかい?随分と遅くまでやっているんだね。」


友はいつもの調子で国王の心配をするような言い方をしているが、言いたいのは違うと国王は知っている。もっと早く終わらせられない程効率が悪いのか、と揶揄っているのだ。

だが同時に、言葉に含めた労りの気持ちも本物であるため、裏の裏まで読む必要があるこの会話に疲れを感じずにはいられない国王だった。


「やめろ。そのような面倒臭い会話は貴族どもだけで十分だ。いつもの様に本音だけを言え。」


疲れたように首を振って言う国王に、友ヴェルムは一瞬だけつまらなそうな顔をしてから拗ねたように軽く頬を膨らませた。

それから笑ってワインを呷り、国王が部屋に来た時には既に開いていた瓶からトクトクと音を立ててグラスに注ぐ。もう一つ準備してあるグラスにも注げば、ヴェルムはそれをスッと対面に滑らせるのだった。


「つまらないなぁ。私とも遊んでおくれ。古狸に勝てる君なら私など子犬のじゃれあいだろう?」


茶目っ気たっぷりにウインクなどしてみせるヴェルムに、国王はドカッとソファに座ってため息を吐く。ヴェルムが差し出したグラスを手に取ると、香りや色を楽しむ事なく喉に滑り込ませるのだった。

勿体無い、と言わんばかりの目で見てくるヴェルムに少しだけ溜飲が下がった気がした国王だったが、その直後に鼻腔を駆け抜けた香りに目を見開いて己の手にあるグラスを見る。

次いで正面に座るヴェルムを見れば、彼は笑っていた。穏やかな笑みではなく、声をあげて。

慌てて扉を見る国王だったが、同時に目の前の男が防音結界を張っていない訳がない事に気がつく。何となく癪に障った国王はそのままヴェルムを睨むも、彼はまだ声をあげて笑っていた。


やられたお返しとばかりにテーブルに置かれたままの瓶を手に取り、己の空になったグラスへなみなみと注ぐ。グラスへ流れ入る際に空気と混ざり、直上へと散らす葡萄と酒精の香り。あまりに芳醇で豊かなそれは、国王も過去に何度か飲んだ事がある銘柄の証だった。

しかし、国王の記憶にあるのはどれも、目の前のこれより些か味が落ちる物だったと記憶している。その時でもあまりの美味さに驚いたものだったが、これはそれを軽く凌駕していた。

それでもその銘柄だと気付いたのは、独特で他の追随を許さない圧倒的な香り。この香りが苦手な者は一定数いるが、それは若いワインを飲んだからであろう。そう思わせるくらいには、手元から漂う香りは完成されていると感じたのだった。


「何処で手に入れた?相当な歳月寝かせてあっただろう?」


笑うヴェルムに一瞬だけ苛つきを忘れ、素で問いかける国王。普段なら絶対にしないこの行動が、果たして友のせいか希少な酒のせいか。それは国王自身にも分からなかったが、そんなものはどうでもよかった。

湧き上がる好奇心と喜び、友が自分のために持って来たという優越感。それらが混ざり合った複雑な感情は、国王を青年のような純粋な眼でヴェルムに問いかけさせていた。


ヴェルムはそれを見て笑いを収め、もう一度クスリと笑ってから瓶を撫でるように触る。するとその瓶にはなんのラベルも無かったはずが、手を退けた時には最初からラベルがついていたかのような姿の瓶があった。

まるで手品のようなその技に見惚れかけた国王は、自然とラベルの文字を眼で追って驚愕の表情を浮かべる。

そこには信じられない文字があった。


「…なっ!こ、これは…!」


国王の舌と記憶は確かで、ラベルには生産地が国王の想像通りに書いてある。だがそこには、何時封をしたかも記載されていた。


出荷 グラナルド歴150年 3月

製造 グラナルド歴100年 10月


そう、今から丁度二百年前である。この大陸で出回るワインは、半年から数年の熟成を経た物が主流で、十数年熟成された物は滅多に出回らない。

それはワインを飲む人口が増えたのと、パーティーなどで大量に消費されるため量を優先したという背景がある。


しかし昔は数十年寝かせた物も扱っており、当時もそれは大変に貴重な物だった。

何故なら、ワインの熟成には樽を使うからである。木を曲げて鉄枠で保持した樽は、当然ながら微細な穴がある。ワインは呼吸をするため、樽の原料である樫の木の香りを吸い込みその身に宿らせる。それから瓶詰めされて出荷されるのだが、数十年も熟成させるとどうしても気化して量が減る。

その分味わいも洗練され深みが出るのだが、それが苦手な者も一定数いた。

故に当時から若いワインと長く熟成されたワインは両方とも飲まれており、今から考えれば贅沢なものであった。


更に国王を驚かせたのは、生産地である。予想していたため驚く事はないのだが、それには理由があった。

このワインの生産地は現在、昔ほど広くないのだ。

グラナルドでも有数のワインの生産地だったその地域は、当時に比べれば半分程しか葡萄畑が広がっていない。それは、凡そ百五十年前にその地域に出現した、ダンジョンのせいである。


当時伯爵領だったその地域は、ダンジョンの発見が遅れた事によるスタンピードによって一度滅びている。襲撃の知らせを送る余裕もない程あっという間に滅ぼされていく町や村には、魔物から身を護る兵や冒険者がほとんどいなかった。

その理由は簡単で、そもそもほとんど魔物がいない地域だったのである。


人々は逃げる暇もなく魔物に追われて栄養にされた。それは伯爵家の者も同じで、アルカンタに知らせが入ったのは最初の村が襲われてから一週間が経ってからの事だった。

その時ヴェルムはアルカンタにいなかった。東の国本島に出向いており、従魔による知らせを受けて戻った時には既に騎士団は準備を整えて出撃した後だった。

出撃したドラグ騎士団によって魔物は駆逐されたが、既に魔物の領域として伯爵領の半分は占拠されてしまっていた。縄張りなども出来ており、迂闊に手を出せない状況になったのだ。


それでもドラグ騎士団はダンジョンまでの直線ルートを無理矢理切り開き、ダンジョンを攻略。スタンピードの心配はなくなったものの、あまりに広大に広がった魔物の領域を取り戻すのは後回しにされたのだった。

それは、治めていた伯爵家が誰一人生きていない事や、代わりに誰が領主をするかで貴族が揉めた事、手に入れても領民がほとんどいない地で税収もないのにどうするのか考える必要があった事が原因である。


当時は他国との戦争も多く、その場で武功を挙げた者が貰えるのではないかと予想した貴族たちは、戦争を待ち望むようになった。それまでは飛び地の王家直轄領として復興させる事が決まり、更に貴族たちの願いも虚しく戦争はしばらく起こらなかった。


それから時が経ち、現在まで続く侯爵領として存在するその地域は、昔程ではないにしてもワインの生産地としてまた有名になった。


「これは伯爵領だった時に作られた最後のワインだよ。現在は魔物の領域だけど、部下が立ち寄って土産に持って帰ってくれたんだ。そういえばゴウル、東部の伯爵領や南部の元小国郡に支援しているだけじゃなく、粛清した貴族たちの領地が王家直轄領として入ったからお金が足りないと言っていたよね?私に良い案があるんだけど。」


ワインの話から急にお金の話になるのが理解出来なかった国王は、どうしてもラベルに目が行く自分を律してヴェルムを見る。鼓動がやけに大きく聞こえるのは、先ほど一気飲みした幻のワインのせいか、目の前で不適な笑みを浮かべる友のせいか。彼には判断がつかないのだった。


「…確かに、ここ数年で国庫から出る金額は増えておる。入るのも増えたがな。多少の赤字は仕方あるまい。…それを覚悟で妻や子供、そして妻の実家を処断したのだから。」


苦しげに言う国王の目に後悔はない。だが、上手くいっていない夫婦仲や子供の教育という事実があっても、やはり長年連れ添った妻と自らの血を継いだ子供達を処断するのは気が重かった。

後悔はせずとも、国王として、夫として父として。この行いは一生背負うべきものだと考えていた。


カルム公爵家の失墜。それにより宰相をしていた公爵がいなくなったため、財務大臣や外務大臣などにも打撃があった。

それはつまり、国庫の管理にも影響が出るということ。数年で現在の宰相が持ち直したが、カルム公爵が宰相職にいた時ほど裏金がないため、清浄化はしたが金の動きは減った。

そこにきて民の反乱や南方戦線である。

新たに領地となった地域に領主として任じられた貴族には、国から支援金が贈られる。更に、戦場となって荒れた大地を農業が可能なまでに戻す数年の間は税が安くなる。

これも国庫を減らす理由になっていた。


まだ国債を作るほどの危機ではないが、これから出費が増える事件などあれば視野に入るくらいには不安があるのも事実だった。

そして国王はそれをヴェルムに愚痴った事がある。ヴェルムはそれを覚えていたという訳だ。


だが、何故ワインから金の話になるのかは未だ理解出来ない。問いかけるような目を向ける国王に、ヴェルムはやんわりと笑うのだった。


「実はね、当時熟成させていたワイン樽がある倉庫が見つかったんだよ。全部で二十ほどの樽が、ね。」


発見された幻のワイン。そして金の話。そこでようやく友の言いたい事を理解した国王は、一瞬で目に喜色を浮かべて立ち上がりかけるが、急にハッとして座る。そこに先ほどまでの喜びの表情はなく、拗ねたような目でヴェルムを見ている。

その理由は国王の口から明かされた。


「樽だろう?ならば中身はほとんど無くなっているか、あってもとてもじゃないが飲める物じゃないだろう。これのように瓶なら価値があるがな。」


国王が言っているのは正しい。樽で百五十年も放置された物など、飲める訳がないのだ。瓶に入っていたのなら兎も角、飲めない物を買う意味がない。そんな物を買うのは馬鹿だけだと考える国王には、ヴェルムがその話をした本意が見えていなかった。


「違うよ、ゴウル。そもそも、国王が貴族に物を売るなど出来ないじゃないか。私が君に手伝って欲しいのは、王家主催のオークションを開いて欲しいという事。売りは出来なくても、オークションを開く事は出来るだろう?そのオークションで、金はあるけど知識は無くてプライドは高い、そんな貴族に売れば良い。運ぶのも警備も私達がやるよ。ゴウルは会場と、他に出品する物を貴族や商人、冒険者から集めてほしいんだ。売り上げは手数料として付いた値の内から割合で払わせれば、国庫も潤うよね?あぁ、ワインの売り上げは丸ごと王家にあげるよ。私達はお金に困ってないからね。」


ヴェルムが不適な笑みを浮かべて国王に提案を重ねる。このような笑みの時は碌でも無い事を言われると経験で知っている国王は、あまりに王家に有利な条件に怪しさしか感じなかった。

だがそれでも王家にとって魅力的な提案なのは事実。国王が気軽に頷けないのは、そこにドラグ騎士団の利益が無いからだ。

魑魅魍魎の巣である貴族たちとの会話に慣れすぎたのか、ヴェルムの性格からしてこちらが美味いだけでは終わらないという直感からか。国王は逆に警戒を強めて目の前で幻のワインを飲むヴェルムを見た。


「確かに、話の通りにいくのなら王家にとって益しかない。そんな物を買うのは馬鹿貴族くらいなもので、そんな馬鹿貴族は碌な統治をしとらん。なのに金は持っておる。金を取り上げて無理に増税なんぞしたらこちらが介入するいい口実になる。だがな…。ドラグ騎士団は何を得する?タダ働きでもしようと言うのか?お主が?」


訝しげに見る国王に、ヴェルムは笑って見つめ返す。それでも誤魔化されない国王に、ヴェルムは軽く息を吐いてから諦めたように眉尻を下げるのだった。


「やっぱりゴウルには通じないか。でも理由までは分からないんだね。ゴウルならもしかしたら分かるかもしれないと思ったんだけどね。」


そう言って空間魔法からナッツの乗った皿を取り出して一つ摘み口に放り込むヴェルム。それからその皿をテーブルの真ん中に置くと、まるで問題を解く教え子を待つ教師のように黙って見守る姿勢に入った。

そんなヴェルムを見て、その口からは答えが出てこない事を悟った国王は、幻のワインを一口飲んでナッツに手をつける。


しばらくは互いに黙り込み、ナッツを咀嚼する音とワインを嚥下する音だけが国王の私室を支配した。

それから数分の沈黙を経て、国王が閉じていた目と口を開く。そして出てきた予想に、ヴェルムは笑みを深めるのだった。


「まさか、暗殺ギルドか?」


側から聞いていれば、何のことだと首を傾げただろう。だがその答えはヴェルムを大いに満足させ、褒めるような笑みを貰う。

正解だと言外に示された国王は、難しい顔をしたままである。国王が思いついた理由を言ったは良いが、それでは得をするのがやはり王家となってしまう。

だが国王は、友であるヴェルムの一番の望みを頭から離れさせてしまっていた。


「馬鹿な貴族が大金でワインを買う。すると欲しかった他の馬鹿な貴族は暗殺ギルドを動かす。ここアルカンタから一番近い暗殺ギルドの支部は?…そう、サイス公爵領だ。ここまで言えば私の益が何か分かるかい?」


サイス公爵。その名を聞いて国王は全てを理解した。

そういえば、サイス公爵がドラグ騎士団本部に私兵を連れて押しかけた結果堀に落とされたと報告があがっていた。

ヴェルムなら心配ないと聞き流したおかげで、今の今まで忘れていたのであった。


「なるほど。お主たちの復讐は恐ろしいな。嫁に欲して滅ぼされるなど。」


国王はそこでやっと背もたれに背を付ける。友との語らいの時間は大切で癒しだが、度々こんな案件を持ってくるのは困った物だ。

頭を使って疲れた脳を、幻のワインの酒精は蕩けるように包み込む。何とも心地よいそれに身を任せそうになった時、対面のヴェルムから声が聞こえた。


「復讐なんて生産性のない事はしないさ。私達の目的は一つ。穏やかで平和な暮らしさ。まぁ、私の愛する家族に嫌な想いをさせたツケは払ってもらうけどね。」


やはり復讐じゃないか。国王はそう思ったが口にする事はなかった。人前では絶対に気を抜かない国王だが、友と晩酌するといつの間にか寝てしまっている事が多い。

今日も寝落ちするのか、と考える頭は他にも様々な思考が巡る気がするが、重たい瞼を上げようと必死で何を考えたかなどすぐに忘却の彼方だった。


「おやすみ、ゴウル。ゆっくりしてまた明日も頑張って。」


ヴェルムの声が聞こえた気がしたが、もう国王の意識はなかった。


ヴェルムは寝てしまった国王を見て目尻の皺を深めて音もなく笑う。それから魔法で国王を天蓋付きの大きなベッドに運び、身体に回復魔法をかける。

日々書類や魑魅魍魎と戦う友に癒しを、と願いを込めて。


国王は、ヴェルムと飲んだ次の日は何故か身体の調子が良い、とは思っている。だがそれが魔法をかけられているからだとは思っておらず、友と気分よく酒が飲めたからだと思っていた。

ヴェルムはそれを知っているが、魔法の事は敢えて言う事ではないと思っているため言わない。赤子の頃から見てきた国王は、ヴェルムにとって友であり子どもなのだ。


グラスに残ったワインを飲み干し、国王のグラスにも口をつけ空にする。ナッツが残った皿も空間魔法に片付けるが、ふと思い立って空間魔法にまた手を伸ばす。

出したのは先ほどのナッツが入った保存容器だった。それから幻のワインの未開封の物を取り出して横に置く。飲みかけの物は空間魔法に片付けた。


ナッツもワインも、会話や思考に集中して楽しめていないのをヴェルムは分かっていた。

一人で楽しむと良い。そんな思いでテーブルに置いたプレゼントを、友は朝一で見て驚くだろうか。起こしに来た侍女に知られるのは不味いと焦るだろうか。

気遣いの中に悪戯心が入るのはヴェルムの癖だ。それを悪いともやめようとも思っていないのがヴェルムたる所以だが、そんな彼を周りは愛した。

今現在、この悪戯の一番の被害者は間違いなく国王だろう。起き抜けで驚き怒る国王を想像してクスリと笑ったヴェルムは、転移魔法によって夜闇に消えた。

ヴェルムが立っていた場所に差込む月の光がカーテンから漏れている。国王の私室には部屋の主人の寝息だけが聞こえていた。

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