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闇竜と騎士団  作者: 山﨑
18/292

18話

その日、騎士団本部は静かだった。寧ろ、人があまりいない。それもそのはず、今日はグラナルド王国の建国記念祭がある日だ。

街の外では雪が積もっているが、城とその周囲の街を覆う結界が雪を溶かし、周囲に張り巡らされた水路に流れる。これにより街は雪掻きを必要としない。


ドラグ騎士団は、祭で浮かれた人々が喧嘩した時や、スリや窃盗などの犯罪に対処出来るよう、全隊をもって巡回する。祭は三日間なので、休みながらの交代だ。この日は、いずれ国軍となるべく日々研鑽する、騎士学校の生徒も巡回に就く。どこも人手不足は変わらない。

しかし、生徒たちが巡回するのは主に貴族街と市民街である。市民街は兎も角、貴族街など祭だからといって賑わう訳ではない。むしろ、貴族はそれぞれが開催する茶会やパーティーなどに忙しく、庶民とは違う祭の過ごし方をする。

騎士学校の生徒も、大半は貴族の第二子以降が入学する事が多い。貴族は貴族であるため、パーティーに参加するのも家の義務だ。よって、貴族の子息である生徒は、巡回は一日だけとなる。


そんな建国記念祭がもうすぐ開始宣言される、というところまで迫っており、街はどこか落ち着きがなかった。

商業区の一番大きな広場では、祭の開始を今か今かと待つ人でごった返していた。


「えー、おほん。ただいまを持ちまして、グラナルド王国建国記念祭を開始致します。明日の式典に向け、今日から張り切っていきましょう!」


拡声の魔道具を持った小太りの中年男性が特設の壇上に上がり、開始宣言をする。その瞬間、広場に集まった人々が歓声をあげた。そこかしこで乾杯の声が聞こえ、大通りに並ぶ様々な屋台から威勢の良い売り子の客引き声が飛び交う。

建国記念祭は始まったばかりだった。







街が賑わいだした頃、首都アルカンタの中心の丘に建つ巨城の謁見の間にて。グラナルド国王、ゴウルダート・ラ・グラナルドは玉座に深く座り、眉間に皺を寄せていた。


「父上、この度は建国記念祭の開催、お慶び申し上げます。父上の統治が素晴らしいからこそ、このように盛大な祭が開催出来るのだと毎年痛感しております。私が国王となりましても、変わらず建国記念祭を続けていけるよう、精進致します。」


国王に向かって頭を下げるのは、王太子である第一王子だった。言っている事は定型文、顔はニヤニヤとしていて気持ちが悪い。日頃から、自身の取り巻きの貴族に対し、国王は早く私に王位を譲るべき、と言って憚らない王太子。国王からすればその態度は、心にも無いことを、としか考えられないものだった。


王太子が挨拶から下がった後、他国の大使やグラナルド王国の各大臣など、様々な高貴な身分を持つ者が訪れ首を垂れて行く。一通り挨拶が済んだ頃、近衛騎士団の団長である大柄の男が謁見の間に現れた。


「国王陛下。此度は建国記念祭の開催、誠に目出たく。忠誠を誓う国王陛下の元、本年も問題の起こらぬよう誠心誠意警備させて頂きます。」


膝をついて首を垂れる近衛騎士団長。うむ、と国王が言うとすぐにまた口を開いた。


「陛下、私から申し上げたい事が一つ御座います。」


例年は先程の挨拶で終わりだった。しかし、今年はまだ何か言いたい事があるらしい。国王が一言、申せ、と言う。近衛騎士団長はすぐに話し始めた。


「はっ。ドラグ騎士団に不穏な動きあり、との事で御座います。なんでも、次期国王に王太子殿下ではなく、第二王女を推そうとする動きがあるとの事。勿論、事前に察知出来ました故その様な真似は私の命に代えても阻止致します。護国騎士団などと銘打ってやりたい放題のあの者共は、全て捕縛して参ります。」


国王は、深く刻まれた眉間の皺が伸びきる程に目を見開き、驚きで何も言葉が出てこない。顔を伏せているためにそれが見えない近衛騎士団長は、その間を肯定と取ったのか、更に言い募る。


「陛下、いつまでも国の言う通りにならない騎士団など必要ありません。普段彼奴等が護るのは国ではなく庶民。貴族や王族を護らずして何が護国騎士団でありましょうか。我ら近衛が居れば陛下の護りは十分。そして何より、外敵を滅ぼし領地を増やしてこその騎士団でありましょう。陛下の御代になってから侵略戦争は御座いません。であれば、国軍は必要ないと仰りますか?違うはずです。真に必要ないのはドラグ騎士団でしょう。彼奴等が居なくとも、我らは防衛と攻撃どちらも熟せます。ドラグ騎士団など、この国には必要ないのです!陛下、どうかご英断を!」


近衛騎士団長が言いたい放題言い切った直後、謁見の間の扉が開き、随分前に出て行ったはずの王太子が入ってくる。


「その通りだ!よく言った、近衛騎士団長!私も前から父上にはずっと上申し続けていたのだよ。しかし聞き届けて頂けない。私の力はこの程度かと、悔やまぬ日はなかったよ。父上とはいえ、国王に間違っている事は間違っていると言える存在であろうと日々努力しても、父上に聞く耳がなければそれも意味は無いのだと、そう諦めていたよ。しかし、君の言葉を聞いて私と同じ考えの者がいる事を知った。私と君なら、父上の凝り固まった固定概念を打ち崩せるはずだ!そして父上!私が見事ドラグ騎士団を解散させた暁には、その功績をもって王位を譲って頂きたい!周りは何も言わぬ筈だ!」


謁見の間の外には声は漏れないはずである。しかし王太子は近衛騎士団長が語った事を詳細に把握していた。示し合わせて来たのか、と頭が痛くなる国王。そこに、国王の隣に座る王妃から声がかかった。


「陛下、畏れながら私も賛成ですわ。あんな亡国の貴族の娘などを次期国王になどと担ぎ上げる騎士団など、必要ありません。母親の実家などもう存在しない、謂わば庶民ですわ。庶民に王位を継がせようと目論むなど、護国どころか国に蔓延る病原菌ではありませんか。そうなる前に手を打つのが国王たる陛下の役目ではありませんか。それを王太子たる息子が代わりにやると申しているのですから、陛下は安心して任せてはいかがですか。」


王太子を溺愛して止まない王妃だ。弁護するのは当然だと国王も分かっていた。

そもそも、ドラグ騎士団が第二王女ユリアを旗頭にしようとしているなどと聞いたこともない。それにドラグ騎士団は政とは無関係だ。代々の国王との契約をもって護国の立場に就いてもらっている身である。ヴェルムの、友のために力を尽くすという理念に頼っているいるに過ぎない。ドラグ騎士団との契約は今代で終了だというのはなんとなくヴェルムから匂わされていただけに知っている。しかし、今すぐにでも解消されそうな雰囲気であった。


「そなたたちが言う事は分かった。しかし、ドラグ騎士団は政と無縁の存在。そのような事実はありはせぬ。どこから拾ってきた噂か知らぬが、そのような噂に振り回されるとは情けない。真実を見抜けぬというなら、そなたの王太子の地位は考え直した方が良いかも知れぬな。」


国王がそう言うと、王太子はあからさまに表情を歪め、王妃は騒ぎ始めた。この子以上に相応しい者などいない、陛下は耄碌されたか、などと横から前から喧しい。

国王は頭を抱え、強制的に謁見を終了させ、謁見の間を出て行く事にした。謁見の間を出て扉が閉まる瞬間まで、王妃と王太子の罵倒は罵倒は続いていた。











「ふーん?セト、どうやら面白い事になってるみたいだよ。」


騎士団本部の団長室にて、書類と睨めっこしていたヴェルムが徐に顔を上げ、ニコニコと笑顔で執事のセトに言う。


「そのようですな。こちらにもいま報告が。如何なさいますかな?」


どちらも念話魔法で報告があったようだ。二人して笑顔で話しているし楽しげだ。しかし、会話の内容は全く楽しいものではない。


「とりあえず今サイにユリア王女を連れてくるよう言ったよ。全ては彼女次第さ。」


「承知しました。隊長の召集はよろしかったですかな?」


「うん、建国記念祭の只中だし、みんな忙しいだろうからね。夜でも良いよ。どの道、先に王女の意志を確認しておかないと。元々そうなる予定だったのが、繰り上げられただけの話さ。」


それから二人は、四番隊隊長サイサリスと、ユリア王女が来るまで無言だった。


数分すると、団長室の扉がノックされた。それに続き警備の団員の声が響く。


「失礼します。四番隊隊長、ならびにユリア隊員がお越しです。」


すぐにセトが扉を開け、ようこそいらっしゃいました、と声をかける。サイとユリアは上品にセトに挨拶し、団長室に入ってすぐヴェルムに頭を下げた。


「団長、遅れて申し訳ないですわ。お申し付け通り、ユリアを連れて参りました。」


サイが代表して口を開くと、ヴェルムはすぐに、楽にしていいよ、と返してソファを勧める。二人は頭を上げ、一礼してからソファへ腰を下ろした。

サイは話の内容が予想出来ているのか落ち着いているが、ユリアは緊張からか挙動不審にも見える。しかし、王女として育てられた教育がこの場でも発揮され、一見いつも通りだ。そんな事周りの全員が見抜いてはいるが。


「そんなに緊張しないで。別に騎士団を追い出そうって話じゃない。寧ろ、追い出されるのはこちらかもしれないね。」


そう言って笑うヴェルム。ユリアは何のことか分からず、どうしていいか分からないといった表情である。逆にサイは、やっぱり、と呆れ顔だ。


「ヴェルム様、いえ、団長。一体なんのお話でしょう。追い出されるとは…?」


おずおずとユリアが聞くと、笑っていたヴェルムは真剣な表情に変わる。それに驚き何か悪い事でも言ったのだろうかと縮こまるユリア。そこに、サイがユリアの肩に手を置き、大丈夫よ、と声をかける。それだけで何故か安心してしまう包容力があった。


「怖がらせてすまないね。君は護国の契約について何か知っているかい?」


ヴェルムが突然そんな事を聞き出した。しかし、ユリアは首を捻るだけ。一度も聞いたことのないものだった。正直にそう伝えると、返ってきたのは苦笑いだった。


「そうか。代々国王にしか伝えないって本当なんだ。確かに、契約の更新は戴冠式の直前だしね。でもそれなら、代々の国王は苦労してるんだね。別に話しちゃいけない事じゃないんだけど。まぁそれはいいよ。ユリア王女、護国の契約というのはね?」


そうボヤいてからヴェルムが話し始めたのは、護国の契約という聞いたことのない物の正体について。ユリアには全てが初耳の事だが、普通とは違うこのドラグ騎士団について納得できる事が多かった。







護国の契約は、建国王と呼ばれる初代グラナルド国王との契約が始まりだ。現在のグラナルド王国は当時、部族毎に集落規模で存在していたコロニーがたくさんあり、お互いの食糧を奪い合うため戦うような状態だった。そんな中、ある部族に産まれた建国王は、まだ若者であった頃戦いの中で傷を負い、森の中へと逃げ延びる。そこにたまたま来ていた黒竜に出逢い、交戦した。

竜は、地方によっては現在でも神と崇められる存在。当然、そうでない地方では恐怖の対象になる。滅多に人里まで来る事はないが、それでも出会えば死ぬしかないと教わる。しかしそれでも、若者は黒竜に立ち向かったのだ。満身創痍の状態で。

黒竜は、吹き飛ばしても立ち上がる若者に対して声をかけた。何故立ち上がるのか、と。そこで意思の疎通が出来る事に気付いた若者は、黒竜と会話をした。

会話する事で互いの存在に敬意を払うようになった一人と一頭は、怪我の治療のために数週間共に過ごし、友となった。


「なぁ、俺の里に遊びに来ないか?人は食べ物をそのまま食べないって言っただろう?色んな味付けをして長期間保存したりするための知識や、栄養と味を良くしてみんなで食べる、料理ってものがあるんだ。黒竜はさ、肉を焼くのが好きみたいだから。俺と一緒に来てくれよ。」


そう言う若者に対し、黒竜は底から響く声で唸るように言う。


「私は竜族だ。それも、天竜という立場にいる。世界の根幹を担う一翼が、ヒトの縄張りにウロウロするのもおかしかろう。君と話をするのは楽しかった。君が戻れば私はもう此処には来ない。互いの縄張りは侵すべきではないのだ。」


黒竜は若者の提案に頷かなかった。しかし、友となってくれた礼にと、鱗を一枚若者に持たせた。


「これは…?というか、鱗千切って痛くないか?大丈夫なのか?」


そう言って心配する若者に、黒竜は喉を震わせて笑った。


「黒竜である私を心配するか。君は本当に面白い奴だな。心配はいらない。鱗もすぐ生える。痛くもないさ。」


「そうか?なら良いんだが。友が急に自分の身体を傷つけていたら心配くらいするだろう。君が偉大な黒竜だというのは分かっている。しかし、それでも心配なんだ。」


若者は黒竜に対し感情を隠さなかった。価値観の相違で口論になる時も、相手が黒竜だろうと食ってかかる。互いに納得出来るところまでとことん話し合い、その後口論になった事を謝る。黒竜はそんな清々しい若者に好意を抱いたし、若者も黒竜を友と呼んだ。

友の意味が分からず若者に聞いたのも、今では笑い話になる程に会話を重ねた。

それからしばらく話したが、暗くなるといけないと黒竜が言い、若者は森を出て行った。


それから若者は里に戻り、奇跡的な帰還を里中で喜ばれた。当時里で一番強かった若者は、リーダーとして様々な場面の矢面に立って里を引っ張る存在だった。里は、若者が死んだとして次のリーダーを決めていた。しかし、若者が帰ったことでまた若者にリーダーを任せた。それが次にリーダーになった者も含めて里全体の意見だったのだから、素晴らしいカリスマ性だっただろう。


数年経ち、里は大きくなっていた。周囲の里を取り込み、どんどん大きくなる里。更に数年経ち若者が大人になり、里は街と言える規模になっていた。粗末な家がしっかりした姿に変わり、周囲は壁に覆われていた。石を使った物作りが得意な里を取り込んでからは更に文明が進んだ。そして、様々な人種を取り込んで増やし、邪魔をする里は滅ぼした。

この一体では同じような規模の街が他に二つあるのみ。小さな里や集落は全てどこかに取り込まれるか滅ぼされた。

そして事件が起こる。


遊牧民族を取り込んだ時に教わった馬術を駆使し、草原を駆け別働隊を指揮していた彼は、伏していた兵に横を突かれ落馬。そのまま命を落とすかと思われた瞬間に、着ていた革鎧の内側が光って兵の攻撃を止めた。兵が驚いた隙に彼は体制を戻し、返す槍を兵の胸に叩き込み難を逃れた。馬を駆りその場を離れて味方と合流し、光った原因を探す。

光っていたのは、黒竜から貰った鱗だった。そして、その時頭の中に黒竜の声が響いた。


『おや、思っていたより発動が遅かったようだ。伝え忘れていたから念話したが、元気だったかい?その鱗は君の命の危機に力を使って君を守る。まぁ、使い過ぎればいつか効果は消えるがね。それに、君にか使えない。それだけだよ。では。』


驚きで固まっていた彼は、思わず声をあげた。


「ま、待ってくれ!君はどこにいるんだ?頭に響く君の声はなんなんだ。いや、そんな事より君に会いたいんだ!君に会って伝えたい事がたくさんある。話したい事がたくさんあるんだ!頼む、また友と語り合いたいんだ!」


しかし、それ以降黒竜の声が響く事はなかった。


その後の戦闘は上手く進み、遂には勝利する。しかし、街を降伏させるところまでは来ておらず、三つの街が睨み合いする形になった。

彼は忙しく、黒竜の事を考える暇はなくなった。しかし、それでも諦められなかった。鱗を手に毎晩話しかける。妻が出来たんだ、子どもが産まれたから見せたい、こんな料理があるから食べに来い、君に私の誇る街を見てほしい、など。その日あった事から過去の事まで、なんでも鱗に向かって話しかけた。

彼の妻は、竜に助けられたという話を聞いていた。そしてその鱗が竜の物だとも。その話を最初から信じ、次第に会ったことのない黒竜に対して感謝と尊敬の念を抱いていた。

鱗が光ったところは他の部下も見ていた。そのため、夫を二度救った存在として感謝していた。そのうち妻も彼と一緒に夜鱗に話しかけるようになった。

お読み頂きありがとう御座います。山﨑です。


基本的には話の区切りがつくように書いておりますが、今回は長くなりそうなのでここで切りたいと思います。

土日は仕事で遠方に動く事が多く更新が出来ないために、本当はここで切りたくはなかったのですが、申し訳ない事です。


この小説は基本的にはほのぼの進む予定です。そこに少しずつ本編の話が進めば良いかなと思っております。


読んでくださる全ての方に、感謝を。

ご意見ご感想など御座いましたらお寄せください。

また月曜日にお会い出来る事を楽しみにしております。

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