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闇竜と騎士団  作者: 山﨑
178/292

178話

特徴の有りすぎる三人組がドラグ騎士団本部に帰ってきた。その連絡はすぐに団長室にも届き、三人組が団長室の前に来た時には既に、テーブルの上に茶菓子とポットが準備されていた。


長身の男、奇抜な男、そして妖精族の男が団長室に入室すると、すぐに声をかけて来たのは団長専属執事のセトだった。


「ご苦労様です。戻るのは同じ頃になるだろうとは予想しておりましたが、まさか本当に被るとは思いませんでしたなぁ。」


好々爺然とした笑みを浮かべて言うセトに、長身の男と妖精族の男は軽く手を挙げて挨拶する。しかし奇抜な男は急いでセトから距離を取った。


「ソウダッタ、ジジイガイタンダッタ。タァ…。」


どうやらセトの存在を忘れていたようで、呆れた視線を向ける長身の男は無視して部屋の隅に逃げる奇抜な男。室内にいるため防寒具は全て外しており、ただ露出の多い男となっている。


「お前はまだセト殿が苦手なのか。お前の多々ある弱点だな。」


長身の男がそう言っても尚無視する奇抜な男。彼は部屋の隅で置物のように固まってしまった。


「よぉ、団長!任務も終わって帰ってきたぜ?もてなしの茶はあるかい?」


そんな二人を無視してヴェルムに話しかけたのは妖精族の男。そう言いつつも既に茶の準備されたテーブルに近寄り、一人がけのソファに飛び込む。最高級の素材で作られたそのソファは、驚くほどに沈み込んだ。


「皆おかえり。君たちが帰ったと聞いたから、そこに紅茶と菓子を準備したよ。まずは一息ついてから報告をしてくれるかい?」


ヴェルムがそう言ってテーブルを指せば、長身の男はヴェルムに向かって頭を下げてからテーブルへ向かう。奇抜な男も軽く頭を下げたものの、やはり部屋の隅からは移動しないようだ。


長身の男が背中の十字剣を外して二人がけソファに座ると、アイルが彼の前にカップを置いて紅茶を注ぐ。それに礼を言った長身の男は、まじまじとアイルの顔を見てからセトを見た。


「この子は?どうやら竜の血は継いでいるようだが若い…。妖精族か?」


セトに向かってそう聞く長身の男だったが、アイルが執事服を着ているためセトに聞いたのだろう。それにセトはニコリと微笑んで口を開くが、その前に口を挟む者がいた。


「あぁ!?そいつはどう見ても人族の子どもだろうが。俺たちみたいな誇り高き妖精族とはちげぇよ。」


その声の主は、沈み込んだソファから身体を起こせずもがいている。身体が小さいため、長身の男が座ってもゆとりのあるサイズのソファでは地に足もつかないようだ。

段々とイラついてきた様子の妖精族の男が、さっさと助けろよ!と叫ぶ。

その声を聞いて長身の男が彼をソファの沼から掬い上げ、座面の手前に座らせる。彼はやっと普通に座ることが出来た。


「おせぇよ!はやく助けろよ!」


文句を言う妖精族の男だったが、長身の男は紅茶に口をつけていた。自身に言われたのだと遅れて気付いた彼は、カップをソーサーに戻してから長い指で頬を掻く。


「すまない。遊んでいるのだと勘違いしてしまった。勘違いばかりするのが俺の唯一の弱点なんだ。」


長身の男はそう言ってから、テーブルに置かれたアフタヌーンティーのセットに手を伸ばす。三段に皿が積まれたこのアフタヌーンティーと呼ばれる形式は、近年グラナルドの貴族内で流行している茶会の形式である。

一番下の皿から食べて行くのがマナーとされてはいるが、それを知らない長身の男は取りやすい位置にある一番上の皿に手を伸ばしている。

ここにはマナーを気にする者などいないため、好きな物から食べれば良いようだ。


マイペースな態度を崩さない長身の男に、妖精族の男はまだ何か言いたげではあったものの、目の前に置かれた紅茶に視線を移して目を輝かせている。

どうやら彼は紅茶が好きなようだ。


「君たちは知らないよね。君たちが任務に出てから団員になったアイルだよ。まだ乳飲み子の頃に私がこの双子を保護したんだ。姉のカリンは任務で出ているけどね。カリンは私の弟子として育てているよ。そしてこのアイルはセトの弟子。今は私の執事として働いている。本部に戻ったのならよく顔を合わせるだろうから、可愛がってあげてくれるかい?」


ヴェルムが口を挟むと、アイルが壁から一歩進み出て頭を下げる。三人から異口同音によろしくと言われ、アイルはもう一度頭を下げた。


「アイルと申します。所属は零番隊特務隊、ヴェルム様専属執事です。よろしくお願い致します。」


ドラグ騎士団内で畏まった話し方をする者は多くなく、特に零番隊は癖の強い者が集まっているためその傾向が強い。

彼ら三人も零番隊所属で、更に言えばヴェルム直属の精鋭隊である。ヴェルムと気安い話し方をする彼らから見れば、アイルは零番隊に馴染んでいないように見えるだろう。

三人は温かい目でアイルを見て、もう一度よろしくと返した。









「そういえばさ、団長。なんか五隊の人数少なくね?出陣してんの?」


三人の任務報告が終わった頃、唐突に妖精族の男がヴェルムに問う。それはドラグ騎士団本部の様子であり、現在ヴェルムが一人頭を抱えている事だった。

ヴェルムはその問いに困ったように眉尻を下げ、手にしていた紅茶のカップをソーサーに置いた。


「それがね、特訓しているんだよ。五隊が落ち着いたら次は裏方もだって。皆強くなりたいんだそうだよ。」


困った表情のままそう言ったヴェルムに、妖精族の男だけでなく長身の男やセトが退室したおかげでソファに座れた奇抜な男が一斉に顔を上げた。


「あ?どーゆーこった?なんかやべぇ敵でも出てきたか?」


三人の疑問を代表して聞いたのは妖精族の男で、他の二人も興味津々にヴェルムを見ている。

ヴェルムがうーんと言い淀むと、アイルがスッと一歩前に出て主人の代わりに説明を始める。事情の説明ならばヴェルムでも出来るが、何故特訓が流行しているのかまでは理解出来ていない。それを察したアイルの行動だった。




「ナルホド?ソリャア、五隊ヤラ裏方ドモノキモチモワカルッテモンダナ。団長ノチカラニナリタインダヨナ。ナァ。」


奇抜な男が納得したように言い、長身の男がそれに頷く。妖精族の男は何やら考え込んでいるようだ。


「団長、零番隊が指導しているとアイル君は言うが、具体的には誰が?」


長身の男がヴェルムに問う。それならばすぐに答えられるヴェルムは、アイルに感謝を込めた視線を送った後口を開いた。


「暁、極道隊、亜人部隊、鉄斎隊、それから精鋭も少しだけ、だね。」


精鋭と聞いて三人の表情が変わった。それにヴェルムが驚くより先に、妖精族の男が身を乗り出して手を挙げる。

それを見た他二人は身体をピクリと動かしたが、妖精族の男に任せるように力を抜く。そして二人揃って菓子をつかんだ。


「ならさならさ!俺たちも特訓手伝ってやるよ!」


子どものような高くて元気な声で言う妖精族の男に、他二人も菓子を掴んだまま頷く。だが返ってきたのは期待した答えではなかった。


「いや、君たちにはしばらく休んだ後に頼みたい事があるんだ。五隊の三分の一が毎日特訓している現状、国内の調査がどうしても疎かになる。大きな街には騎士団支部があるけれど、辺境の方まではカバー出来ないんだよ。今は私以外の竜が動いているみたいでね。半端な実力では掻い潜られてしまう。だからこそ君たちに頼みたいんだけど、どうかな。」


ヴェルムにこのような頼み方をされてしまえば、三人は断るという選択肢を失くす。寧ろ自分たちだからこそ頼みたいという姿勢に、三人のやる気は否応なく上がるのだった。


「勿論やるぜ!五隊がのんびり特訓してる間に、竜の眷属どもを蹴散らしてきてやる!」


「ソウイウコトナラシカタナイダローナ。オレタチシカデキネェコトナラオレタチガヤルシカネーカラナ。ナァ。」


「教えるのが苦手な事は俺の唯一の弱点だ。ならば眷属狩りも良かろう。」


三人は上手くヴェルムの言葉に乗せられたようだ。そもそも、零番隊の中でも精鋭隊は別格の力を持つ。あまりに隔絶した力を持つため、その殆どが単独任務で諸外国や大陸外に散っており、怪しい二人組は例外なのである。


ヴェルムは三人がやる気を見せてくれた事に微笑み、しばらくは休みを取るように伝えた。だがそこに計算外の答えが飛んできた。


「ならさ、休みの間暇だから特訓手伝ってやるよ。本部を離れた数十年の内にどの程度弱体化したのか知りてぇからさ!」


そう、彼らにとって休暇など有って無いような物。長い任務を終えた者とは思えぬ発言だが、これでも彼らはヴェルムの事を思って言っている。

三人共通の思いとしては、五隊が少しでも早く強化されればヴェルムも楽になるのではないか、というものがあった。

そしてそれはあながち間違っておらず、休暇中に働くのは、と渋るヴェルムもそれを理由にされては断り切れなかった。


結果的に三人の特訓参加が認められ、先に参加していた精鋭隊のアレックスと協力して指導する事に決まった。







「皆頑張っているね。無理していないと良いんだけど。」


騒がしい精鋭三人が出て行った後、ヴェルムはポツリとこぼす。


「…皆様はヴェルム様の事が大事なのです。ヴェルム様のお力になりたい一心でする多少の無理は、どうかお赦しになってください。」


呟きに返ってきたのは、こちらも呟きのような声量。発したのは精鋭三人が飲んだ後のカップを片付けたアイルだった。


「そうだね。皆には本当に感謝しているよ。でもね、私にとって一番は君たち家族であって、他の竜の眷属ではない。彼らが私の家族を傷つけるなら、私も黙ってはいないさ。」


窓から外を見て静かに語るヴェルムの眼には、家族を護るという覚悟が浮かんでいる。

アイルはその背中に強い尊敬を覚えた。そして、ヴェルムに仕える事の意味を再確認したのであった。

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