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闇竜と騎士団  作者: 山﨑
170/292

170話 竜の血

「あぁ?伯爵領で革命?あー…、遂に来たか。んで?第二会議室だな?分かった。すぐに行く。」


ドラグ騎士団一番隊は隊舎横の訓練所にて日課の訓練を行っていた。隊長であるガイアは隊員の一人と手合わせをしていた所だったが、内務官が訪れ召集の言葉を発した事でその手を止め表情を変えた。

いつもの飄々とした態度は鳴りを顰め、真面目で凛とした雰囲気がガイアの印象をガラリと変える。

唯ならぬ隊長の雰囲気に隊員たちも訓練の手を止めガイアを注目していた。


「用事が出来た!訓練は中止にして、いつでも出撃出来るように準備して待機!休暇の奴も本部にいるなら待機させとけ!」


ガイアの指示に隊員は一斉に敬礼を返す。ガイアが副隊長を連れてその場を離れると、隊員たちはすぐに行動に移す。詳しい事情はわからなくとも、何かあった事は察する事が出来た。

大隊長が臨時で指揮を執り、いつでも出撃出来るように準備が始まる。一番隊が準備するのだから国内の問題に違いない。しかし一番隊が動くのかどうかも分からない。準備は無駄になる可能性もあるが、それでも即応してみせるのがドラグ騎士団の心得だ。

普段の一番隊からは想像できない速度で動く隊員に、大隊長は感心しながらも厳しく指示を出し続けた。







第二会議室では既に五隊の隊長が集まっていた。

ガイアが到着したのは最後である。とは言っても、ほとんど誤差のような差ではあったが。

どうやら最初に来たのは四番隊隊長のサイらしい。彼女は自分の席に着いてゆっくり紅茶を飲みながら何やら資料を読んでいた。


「おう、俺が最後みたいで悪いな。」


ガイアが室内にいた全員に向けそう言うと、各々挨拶を返してきた。そのどれもが遅くなった事を責めるものではなく、お疲れ様、といった内容なのがガイアには擽ったくもあり有難くもある。


「僕たちは偶々本部にいたんだよ。ガイアは隊の訓練所でしょう?一番遠いから仕方ないよ。はい、これ。ガイアの分ね。」


一番隊の横に座るのは二番隊である。そこに座るアズがガイアに珈琲の入ったカップを渡しながら言う。

長く伸ばした髪を耳にかけながらガイアに珈琲を差し出すアズの後ろには、二番隊副隊長がアワアワと何やら慌てている。

上司に給仕のような事をさせてしまうのが気になるらしい。


「一番は私だったんだよ〜!?偉いでしょ?」


ガイアが有難く珈琲を受け取り早速飲んでいると、ガイアの対面に座る三番隊隊長のリクが全力のドヤ顔でそう言い放ってきた。ガイアの遅れを責めたりはしないが、自分が誇れるところは誇っていこうというスタイルである。

だが、その試みはガイアから最も遠い位置に座るスタークによって阻止された。


「リクは会議が決まった瞬間に団長室にいたのだから当然だろう。誰よりも早く情報を仕入れたのだから。…諜報隊としては満点の働きだが。」


突っ込みつつも最後は褒めるスタークに、怒るに怒れないような表情をするリクを見てガイアは笑う。

ガイアが内務官から受けた報告は、首都アルカンタから東に位置するとある伯爵領で、民が蜂起したというものだった。

民は自らを革命軍と名乗り、伯爵が住む館を包囲。伯爵家の私兵が鎮圧するよりも先に館は民によって占拠され、伯爵家が人質として取られている。


この情報を持ち帰ったのは五番隊で、スタークが急いで報告に団長室を訪れた際、リクが先にいてゆっくりココアを飲んでいた、という訳だ。

スタークがリクより遅く会議室に入った理由は、情報を持ち帰った部下を労い情報を資料に纏め、部下に指示を出してから来たからだ。

更に言えば、リクはその辺りを全て副官に任せて一人で会議室に来た。そして暇だからと編み物をして待っていたのである。


「てことは、この情報は五番隊からか。流石にまだ全員分は資料出来てねぇか?」


ガイアがその辺りの事情を察してそう言うと、スタークは申し訳なさそうに眉尻を下げて頷いた後、サイの方を見た。

それだけでガイアは気付く。サイが読んでいる資料がそれなのだと。


「待ってね。後少しだから。内容は頭に入ったから、最後まで読んだら私も書き写すのを手伝うわ。」


資料から目を離さず、緩くウェーブした金の長い髪を耳にかけながら言うサイ。耳にかけたせいで少しズレたフレームレスメガネの位置を調整し直した指は細く、普段から武器を握る手には見えない。

彼女曰く、スキンケアは欠かしていない、との事だが。団員に多くいる女性たちから常に美容の相談を持ちかけられるくらいには彼女は美しい。

隊服を脱ぎドレスを着れば、誰もが深窓の令嬢だと信じて疑わないだろう。生まれが西の国の名家なのもあり、その所作や雰囲気は洗練されていた。

何せ、元王女のリクがサイのような女性になりたいと言うのだから間違いない。


すまんな、とサイに言うスタークも手元はペンがカリカリと動き続けている。見れば五番隊の副隊長もスタークの後ろで小さなテーブルを利用してペンを動かしていた。




しばらくして隊長が全員一斉に動きを止めた。そして数瞬遅れて副隊長が動きを止めると、全員が席から立ち上がる。そして会議室の入り口に向かって最敬礼を向けた。

その動きにズレは無く、しかし合わせようとしている訳でもない。一体感のある動きは敬礼によって動から静に変わる。室内の空気を一瞬で緊張感が支配した。


そして開く扉。当然、現れたのは団長であるヴェルムだ。会議室前に立ち扉を開けた準騎士に礼を言いながら入室したヴェルムは、一歩入室して直ぐに隊長たちへ綺麗な敬礼を見せた。

ヴェルムの後に続いて入室したセトや、内務長官もそれに倣う。そして一番奥の席にヴェルムとセトが。扉から最も近い席に内務長官が座る。

内務長官が座ると同時に隊長たちも席に座り、これで会議参加者が全員揃った。


「遅くなってすまないね。では、始めようか。」


ヴェルムの言葉で会議が始まる。

第一会議室ではなく第二会議室に集まった理由。それは参加者が多いからだ。副隊長や内務長官なども参加する場合はこうして第二会議室が使用される。第一会議室は隊長会議専用だ。


「まずは私から。今回…」


事のあらましをスタークが報告する。既に全員が資料に目を通しているが、これは確認のためである。

余程の緊急事態ならこんな会議は行われず、団長の判断によって各隊に指示がされる。しかし今回は国内で起こった民の一斉蜂起。

そしてその要求は、伯爵領を治める伯爵家に関するものであった。

故にヴェルムは国王とその対処について相談するため登城しており、それで会議への到着が遅くなったという訳だ。


民たちの要求は二つ。税を軽くする事。そして伯爵家を処罰する事。

この要求を知らせる早馬はきっと今頃、アルカンタに向けて街道を走っている事だろう。馬を変えながら伝令は休息も取らずに駆けるのだ。

既に国王はヴェルムによってこの連絡を受け取っているため無駄な努力になる、という事もない。公式には国王がその情報を受け取ったのが伝令が辿り着いた時になるため、他の貴族にはその様に通達される。

実は先に知っていたとなってしまえば、貴族たちは国王に対して不信感を募らせる事になる。早馬よりも先に情報を手に入れたという事は、事前にそれが起こる事を見越していたと見做されるからである。

更に言えば、知っていてそれを放置したのか、と思われる事になり、貴族を監視する国王と思われる事にも繋がる。


つまり、伝令は国王が公式に行動するために必要なものだった。

今も国王は早く来い、と思いながら陰ながら手回しを始めている。




「さて、今回は国王からの依頼になるよ。私としては情報収集に五番隊、そして民が傷ついた時のために四番隊、そして鎮圧に向いている二番隊から合同で編成して出撃して貰おうかと考えているんだけど…。」


ヴェルムが会議室を見回してから言う。その表情に緊張感は無く、あくまでいつも通りの穏やかな笑みを浮かべていた。

名を挙げられた三隊は同時に頷き、呼ばれなかったガイアとリクはつまらなそうな顔をしていた。

それを見たヴェルムは苦笑するも、二人とも適材適所という言葉を知っているのはわかっているため特にフォローもしない。


「指揮は誰が執りますかな?」


そこにヴェルムの斜め後ろに座るセトから声がかかる。皆の目がセトへ向くが、すぐにその目はヴェルムに向けられた。


「そうだね…、ではスタークに。サイが補佐を。アズは本部待機で。何かあった時に動けるようにね。その間アルカンタの守護はガイアとリクが共同でやってくれるかい?」


ヴェルムの決定に異を唱える者はいない。隊長と副隊長全員が了承の意を示してみせた。


「では私はこの決定を国王に伝えて参ります。皆様のご武運を。」


内務長官がそう告げると、隊長たちはそれに敬礼で返す。


伯爵領で起こった民衆の一斉蜂起。伯爵家の圧政によって噴き出た憎悪の連鎖がこれ以上の惨事を起こす前に、ドラグ騎士団は動き出す。

会議の終了と共に動き出す五隊を見ながら、ヴェルムは国王と交わした会話を思い返していた。


"これを機に国内の膿を出してしまおうかと思ってな。カルム公爵の件に隠れた小悪党はまだ存在しているが、それを残したまま世代交代するのはユリアに悪いだろう?親バカと笑うか?ヴェルムよ。"


"笑わないよ。私には親子の情は分からないが、位を譲るにあたって少しでも環境を良くしたい気持ちは分かるからね。私にも手伝える事は手伝うさ。友と、その子のためだからね。"


"お主がおれば百人力だな。頼りにしている。"


"なに、友のためだよ。その代わり、こちらは好きに動かせてもらうからね。後でこんな予定じゃないと言われても困るよ。"


"言わんさ!お主のする事が私の不利益になる訳がない。それも含めて頼りにしていると言っているのだ。次はこんな話題じゃなく、楽しい話をしながら酒でも飲もう。"


"いいね。ゴウルの秘蔵の酒を飲むのを楽しみにしているよ。"


"なっ!…仕方ない。一本だけだぞ?"


お読みいただきありがとう御座います。山﨑です。


年末で仕事が忙しく、更新が減っている事をお詫び致します。

急に寒くなった最近ですが、皆様が体調など崩すことのないよう、お祈りしております。


更新が遅れても、少しずつでも執筆できる様時間を捻出して参りますので、寒さも吹き飛ぶ程の温かい目で見守ってくだされば幸いに御座います。


本作品が皆様の日常の一つの華となりますよう。

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