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闇竜と騎士団  作者: 山﨑
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17話

旧イェンドル王国首都、貴族街の屋敷の一つの中で慌ただしく動き回る使用人の姿があった。中年のその男は、とても使用人とは思えぬ巨躯に、顔には大きな傷があった。


「準備はどこまですんでおる。予定通りか?」


そんな男に声がかかる。嗄れた老人の声だった。


「はっ。明後日には作戦通りに動けるかと。しかし、良かったのですか?冒険者などを雇って。」


男は報告と共に疑問を呈す。


「ふん、冒険者は最後に斬れば良い。それよりも、王城に入っておる俗物共と、リク王女の確保が優先よ。特にリク王女の方はどうなっておる。最悪、その辺の女を見繕ってくれば良いが…。二十代後半の女は確保出来とるのか?」


老人の聞き取りにくい嗄れた声に、男はハッキリと返した。


「はっ。女は既に準備しております。国境から、グラナルド王国への使者は入国すら出来ぬと連絡が。」


「そうか。確保出来ぬなら仕方あるまい。先に国を獲る。」


そう言ってから老人は去って行った。男はその後姿に頭を下げていたが、姿が見えなくなるとすぐ移動した。







「ここか?随分と堂々と国内にいたもんだな。普通に貴族街の屋敷にいるとはな。大罪人のくせにどうやったんだか。」


零番隊の隊服の上からローブを着た男が言う。


「それだけ、クーデターから逃げ出せた奴が多かったんだろ。そいつらを懐柔して抱き込めば、いくらでも戻ってこれるだろ。元々、北の国はクーデターの時、別件で忙しかったからな。徹底的に潰すのは失敗したと聞いてるぞ。」


別の隊員が男に答えた。二人は、貴族街の屋敷の一つにいた。そこに、鉄斎が音もなく現れる。


「どうじゃ。動きはあったかの。」


「いえ、中では慌ただしく動いているようですが…。その辺は冒険者として潜り込んだ他の部隊が上手くやるかと。対外的には何も動きはありません。」


男たちは鉄斎に敬礼し、片方が報告する。それに鉄斎は頷いて返し、懐から懐中時計を取り出す。


「もう少し作戦時刻じゃ。奴らは明日動く気らしいからの。準備が終わる前にさっさと片付けるぞ。」


はっ、と声を揃え、また見張りに戻る二人。二人がまた視線を向けた頃には、鉄斎はもう居なかった。







「じゃ、行こうか。既に冒険者として内部に入ってもらってるし、鉄斎の部隊が包囲まで済ませているよ。北の国の内務省の人も到着してるから、存分に暴れてもらって構わないよ。今回の最終目標は元宰相を始めとする、クーデターに関わった貴族の確保。残りは斬り捨てて構わないよ。…時計合わせ!」


ヴェルムの言葉の後、カサンドラがカウントダウンを始める。

作戦開始一分前に全員が時計の時間を揃えると、一斉に散って行った。


「じゃ、留守番よろしくね。ここで作戦の成功を祈っていてね。帰ったらリクとたっぷり遊ぼう。それじゃ。」


「団長も、ご武運をお祈りしております。」


ヴェルムの言葉に敬礼と共に返すガイア。ガイアは今回、拠点で留守番だ。と言っても、重要人物を確保し次第ここにアイルが転移してくる予定だ。地下の牢屋も既に準備がしてある。ガイアは見張りだ。


「頼むぜ、みんな。」


そう呟いて拠点の扉を開け入って行った。







貴族街の屋敷では、使用人の男が書類を準備していた。城を確保したら直ぐに元イェンドル貴族が集まるはずだ。その時に使う物である。

ふと、後ろに気配を感じ、右足で回し蹴りをする。しかし、そこには誰もおらず、当然右足は空を切る。


「む?気のせいか…?いや、確かに気配を感じたと思ったが…。ふむ。」


そう言って首を傾げ、また書類に目を落とした。

その瞬間、後ろから手刀が降ってくる。男は身体を捩りギリギリで避けようとするが、左肩に食らってしまう。


「ほう?これを回避するのか。やるじゃないか。でももう遅い。」


使用人の男を襲撃したのは、ローブに身を包む大柄な者だった。顔以外は全てローブによって隠れており、性別も分からない。先ほどの声からして女性のようだ、と使用人は考える。唯一見える顔は、赤い塗料で様々な紋様が描かれていた。どこの部族だろうか、暗殺者か、などと考え、宰相閣下が危ない!と思った瞬間。


「もう遅いって言ったろ?それにお前は使用人じゃなく元将軍だろう?これで確保だ。」


カサンドラの姿が消えたかと思えば、既に男の後ろに回り込み首に手刀を当てられていた。

カサンドラは倒れた男の懐を漁り、武器を全て取り出す。すると部屋の扉が開き、アイルと零番隊隊員が現れる。


「お見事です。連れて行きますので、カサンドラさんは証拠集めを彼に任せて確保に向かってください。」


アイルと共に入ってきた隊員が頷き、カサンドラも頷いた。


「多分そいつが将軍だ。鉄斎に負けてられないからね。後は頼むよ。」


カサンドラはそう言って部屋を出て行く。アイルも、後はよろしくお願いします、と言って男を連れて転移して行く。

残された隊員も、すぐに部屋を捜索しにかかった。







「なんじゃ?なぜ呼び鈴を鳴らしても誰も来ん。まさか、侵入者か?ちっ、脱出が先か。何者じゃ、このようなタイミングで。」


屋敷の最奥の部屋で、呼び鈴を鳴らしても誰も来ない事に気付いた元宰相が、侵入者の存在を予測し部屋の棚に向かう。

一冊の本を引っ張ると、棚がズレて扉が現れた。

現れた扉のノブに手をかけた瞬間、後ろから声がかかる。


「そこにあったのか。教えて貰うて助かる。ではさらばじゃ。」


元宰相が聞いたのはそこまでだった。首に強い衝撃を感じ、気を失う。

次に気がついた時、そこは自身の知る屋敷ではなかった。


「おう、目が覚めたか?お前さんが最後だぜ。」


現状を把握するのに忙しい元宰相に、明るい声がかかる。

声をかけてきた男は大柄で、燃えるような紅い髪を乱暴にかき上げている。


「何者じゃ!儂を誰だと思っている!この様な事をしてただで済むと思うなよ。」


「おいおい、そこは牢だぜ?じいさんが俺に何をどうするってんだい?それに、魔法使うんだろ?じいさん。だから魔封じの手錠もかけてんじゃないか。とりあえず、気が付いた事報告したからよ。もうすぐじいさんに話聞きたい人が来るぜ。」


大柄の男、ガイアが元宰相に言う。元宰相は眉尻を上げ、手錠を外せ、儂を誰だと思っている、などと喚いている。

そこに、別の人物が姿を現す。


「やぁ、元宰相殿。我々の拠点にご招待させて頂いたが、その部屋の居心地はどうかな。これでも準備は丁寧にしたんだ。楽しんでいてくれたら僥倖だよ。」


ヴェルムだった。登場から毒を吐きまくっている。ガイアはそれを見て引いているが、ヴェルムの怒りを考えれば当然かと、納得した。


「誰じゃ貴様は!儂にこの様な事をして…」


「あぁ、そういうのは良いよ。お前以外もそう言ってたからさ。正直、聞き飽きたかな。さて、本題。お前は死んでもらう。良いかな?」


騒ぐ元宰相を遮り、ヴェルムの口から死刑宣告が出た途端、元宰相の顔色が変わる。


「な、何を言っておる!わざわざ確保したということは、人質か何かじゃろう!丁重に扱うのが普通じゃろうが!」


確かに、戦時は貴族の捕虜を丁重に扱う。捕虜交換の時、扱いを丁寧にしているからと、有利に進めるためである。


「いや?お前は殺すために連れて来た。まぁ、私が殺すわけじゃないが。て事で、お前を殺す者は彼女だよ。」


ヴェルムがそう言うと、地下室の扉が開いて小柄な少女が入ってきた。薄緑の癖っ毛を高い位置でポニーテールにしている。普段は爛々と輝いている瞳も、光が無かった。


「ま、まさか…。年齢と合わぬが…、その姿は正しくリク王女!おぉ、こんな所でお会い出来るとは…!さぁ、イェンドル王国の復興を致しましょう!儂が側で全てやります故、王女は玉座に座っておられれば良い!さぁ!」


元宰相が牢屋の鉄柵を掴みリクに言う。リクは無表情でその姿を見つめていた。


「リク。これを殺しても、リクが愛した家族は戻ってこないよ。でも、それでも君はあの日、この男を殺すと言ったね。あの日の誓いは変わらないかい?」


騒ぐ元宰相を無視してヴェルムがリクに声をかける。リクは無表情にヴェルムを見上げ、静かに頷いた。


「そう。なら好きにすると良い。ただね、一つ覚えておきなさい。私たちという家族がいる事を。君は新たな家族を得たんだよ。君の様な過去を持つ者もたくさんいるけれど、皆そこで自分で選択したんだ。だから君も好きにしなさい。終わったら上がっておいで。」


ヴェルムはそう言って出て行った。ガイアも、姫…、と心配そうな顔をして見ていたが、ヴェルムの後について出て行った。







「お疲れ様です。屋敷の確保、撤収まで終了しております。今は鉄斎殿の部隊が北の国内務省の方に資料を渡しているところです。それと、冒険者として潜入した部隊から、クーデターに関わった貴族の居場所を特定したとの連絡がございましたので、カサンドラ殿の部隊が確保に行っております。残りの部隊は後始末に。」


一階に戻ったヴェルムとガイアに、アイルが珈琲を渡しながら言う。報告と珈琲のどちらにも礼を言いながら、ソファに座り寛ぐヴェルム。ガイアは眉間に皺が入ったままだった。


「ガイア。リクはそこまで弱くないよ。大丈夫さ。実際、将軍の時は冷静だっただろう?首謀者たる元宰相には流石に心が冷えていたようだけど。」


「そう、ですね。姫なら大丈夫だと分かっているんですが。心配くらいしか出来る事がないのは歯痒いです。」


ガイアが悔しそうにそう返すと、そうだね、とヴェルムは言った。

結局、リクが一階に上がって来たのはそれから直ぐだった。部屋に入ってきたリクを見て、ガイアが心配そうな顔をする。しかし、リクは無表情のままだった。


「姫…。大丈夫か?いや、大丈夫じゃないよな。とりあえず、座ってココアでも飲むか…?」


オロオロするガイア。それを見てヴェルムが笑う。


「ガイア。大丈夫。リク、おいで。」


ヴェルムがリクに手招きし呼び寄せる。リクは無表情のまま黙って従った。ヴェルムの元に着き、ヴェルムの腰に抱きついた。ヴェルムはリクを優しく撫でる。


「お疲れ様。突然だったけど頑張ったね。でも、これでリクも一つ大きくなった。私はそれが嬉しいよ。明日はお父さんたちに挨拶に行こう。城の一角にお墓を作ってあるそうだよ。」


よしよし、と言いながら撫でるヴェルムは、親愛に満ちた表情だった。

それを見ていたガイアも、ホッと一息吐く。

次第にリクが肩を揺らし始め、鳴咽としゃくり上げが部屋に響いた。







「おやぁ?姫さんは目が真っ赤じゃないか。ほれ、氷だしな!」


拠点に戻ったカサンドラの部隊。泣き腫らしたリクの顔を見てカサンドラが驚き、すぐに自身の部隊員に声をかける。

呼ばれた隊員はすぐに手元に氷を作り、ハンカチで包んで渡す。

リクはそれを、ソファに座るヴェルムの膝の上で受け取った。ありがと、と言うリクに、氷を渡した隊員はにこやか笑顔でリクの頭を撫でる事で返した。


「あぁ、すまないね。ありがとう。そちらを向いていたから目まで見えてなかった。私がすぐ出してやればよかったね。」


ヴェルムも隊員に礼と謝罪を言うが、隊員は、いえいえ、と手を振るばかり。


「で?団長。今回はこれで解決で良いのかね?どこの部隊が残る?」


カサンドラはそんな光景は無かったようにヴェルムに問う。


「そうだね。鉄斎の部隊を残そうかと思っているよ。連携にもう一部隊を使うけど、君の部隊は西に向かってもらう。それが終わったら南に戻ってくれて構わないよ。」


「お?西で任務か。久しぶりだねぇ。よし、そうと分かれば準備しな!目的地等決まったらすぐ出るよ!」


カサンドラの一言で部隊が拠点を出て行く。物資を調達したらすぐ出るのだろう。カサンドラはこういうところ、即断即決する。思い立ったら即行動だ。


「じゃあ頼むよ。命令書は後で届けるから。よろしくね。」


ヴェルムがそう言うと、カサンドラは頷く。


「で?西に行く理由は?それだけ聞かせてくれりゃ後は自由でいいんだろう?」


「そうだね。西はさ、そろそろ一つに纏まって貰おうかなって。小さい国が多すぎるからね。今後付き合うのに丁度良さそうな国が統一するように出来るかい?」


サラッととんでもない事を言っているがいつもの事だ。

カサンドラも特に驚かず、了解だ、と言って出て行った。


「あー、カサンドラの姐御が出るなら本当にそうなるんだろうなぁ。なんたって炎帝。そりゃあ冒険者のトップが先導すりゃ、国なんてすぐ纏まるか…。団長も悪どいな。」


ガイアがボソッと言った言葉に、ヴェルムは微笑むだけで何も言わない。


「ガイちゃん、キャシーは団長が言ったこと絶対出来るもん。朝もちゃんと自分で起きられるし。ガイちゃんとは違うんだよ?」


いつもの調子が戻ったリクの一言に、ガイアが撃沈する。それを見たヴェルムとリクが笑う。張り詰めた空気はもう何処にもなかった。

お読み頂きありがとうございます。山﨑です。


この様な素人作品を毎日10名以上の方が見に来てくださる事に感謝、感謝で御座います。

私自身、スマホで小説を読むことが多いのですが、アクセスはpcからの方が多いという事に驚いております。


先日、仕事で九州は長崎県にお邪魔しまして。

ランタンフェスティバルの時期ということで月餅とよりよりを購入しました。皆さまご存知でしょうか。月餅は有名ですが、よりよりは堅くて捻れた揚げ菓子です。どちらも大変美味で御座いました。

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