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闇竜と騎士団  作者: 山﨑
167/293

167話

建国記念祭も終わりグラナルドも穏やかな日々を取り戻してきた冬真っ只中。

周辺諸国から祝いに来た使節団も、各々の国へと帰った頃。

ドラグ騎士団は連日の任務の慰労会が開かれていた。


というのも、冬の間に建国記念祭が行われる行われるため、アルカンタまでの道がグラナルド北部では雪に閉ざされてしまうためだ。

ドラグ騎士団は北の国と東の国の使節団を護衛して国境線まで送り届ける任務がある。国内の治安は大陸一良い国ではあるが、それでも護衛しないという選択肢は無い。

各国との関係を維持する為にも、お客様は無事に送り届けましたよ、というスタンスも必要になるようだ。


当然、国内の任務については五隊が担当になる。そのため五隊は北の国と東の国の護衛、冬場の国内見回り、魔物に対処できない村への支援など、方々で忙しい日々だった。

準騎士たちもアルカンタの巡回がいつものようにあり、冬の間はアルカンタで過ごす民も多い為この時期は人口が増える。彼らは彼らで忙しい日々を過ごしていた。


また、年末にもなるため騎士団の内務官たちは怒涛の忙しさである。

その年の予算など収支の見積もりや、騎士団で使用する備品などの一斉点検。挙げればキリがない程に業務はある。

五隊が任務を終えても、内務官は年末ギリギリまで仕事があるのだ。


今回の慰労会は五隊へのお疲れ様、準騎士や内務官たちはこれからもう少し頑張ろう、という意味を込めた物だった。


「忙しい中集まってくれてありがとう。今年も無事に記念祭が終わったよ。これも皆の頑張りのおかげだ。まだ年明けまで追い込みがあるけど、例年通りこの慰労会で英気を養ってまた一緒に頑張ろう。さぁ、今夜は仕事を忘れてはしゃいでおくれ。乾杯。」


ヴェルムが宣言し団員が大盛り上がりして乾杯を交わすのは、なんと野外炊事場だ。夜のため気温は摂氏零度ほどまで落ちる上、アルカンタの外は雪が積もる程に降っている。

しかし、そもそもアルカンタには降雪を防ぐ魔法陣結界が魔道具によって展開されているのに重ね、ヴェルムによる魔法で野外炊事場は暖かい。

仮に酔って裸踊りをしたとしても風邪をひくことはないだろう。

…おそらく。




今回の慰労会は特別大きなものではない。もっと大きな宴会は年内最後の日から年始の日にかけて行われる。

団員たちはこれをカウントダウンパーティーと呼ぶが、ヴェルムは分かればなんでも良い派なので年越しの宴会と呼んだりもする。


それじゃオシャレ感がないっすよ!


という団員も多くいるが、別に呼び方に拘る必要がないのは誰もが思っている事のようで、どのように言っても団内なら通じるのである。


この団員曰くカウントダウンパーティーだが、実はアルカンタの民もこれを楽しみにしている。

それは、年が明けたと同時にヴェルムが夜空へ放つ火属性魔法を楽しみにしているのだ。


東の国に花火という文化があってね


などと毎年語るヴェルムを、団員たちはウキウキした表情で聞くのだ。毎年語られるそれは団員にとっても耳にタコが出来る程に聞いた話だが、それでも飽きたという者はいない。

それはヴェルムが酷く懐かしそうに、それでいて哀愁を漂わせて話すからかもしれない。

彼が話すその昔話は、団員たちにも年越しの為に必要な物となっており。


これがないと年越しって気がしないよな


などと言う団員もいるくらいである。




話が逸れたが、毎年行われているこの慰労会は団員を労うためのものである。よって、ヴェルムもこの会の開催に色々と手を尽くすのだが、今回はどうやら大きな物を会場に運んで来た。


宴会も終盤に差し掛かる頃、ヴェルムが調理部の者と共に運んで来たのは大きなワゴンである。木製のそれはヴェルムがお遊びで作った物で、実は二百年ほど前に作った物だ。

団員たちの間では、材料は世界樹なのでは、などと言われている。


そしてそのワゴンには、何やら大きくて茶色い物が乗っていた。


「ん?団長、これは?」


偶々近くにいたガイアがヴェルムに問う。すると気になっていたのか他の団員たちも興味津々といった風に覗き込み、あっという間にワゴンの周りには人集りが出来た。


「これはね、西の国で生まれたケーキだよ。名をブッシュドノエル。聖誕祭の丸太、もしくは薪、という意味だね。」


言われてみれば、ワゴンに乗ったケーキは倒木のようにも丸太にも見える。


木かと思った…


などと呟く団員に同意する周囲の団員。口にはしなかったものの、ガイアも同じ事を思っていた。


「これ、木に似せて作ってあるんすか。この明るさじゃ木と間違えるとこですよ。しかし、聖誕祭とは?」


ガイアが後頭部を掻きながら言う。他の団員も頷きながらヴェルムを見ると、ヴェルムは少し困ったように眉を下げていた。どうやら話しにくい事のようだ。


「あ、もしかして。いや、話しにくいなら良いっすよ。」


ガイアは慌てて取り消すが、察しの悪い団員はなんでなんでと話を強請る。気付いた団員が殴って止めるも、ヴェルムは苦笑して首を横に振った。


「いや、私が恥ずかしいだけだからね。良いんだ。聖誕祭とは、今代天竜が生まれた事を祝う天竜国の習慣さ。彼らは闇竜と聖竜どちらも崇めているが、どうやら彼らにとって私たちは年末の忙しい時期に生まれた事にされているらしい。」


そう言って恥ずかしそうに笑うヴェルムに、多くの団員は見惚れていた。ガイアは予想していたのか笑って、ほらな、と言っている。

ヴェルムは若干気まずそうにガイアを見るが、それですら珍しい表情で、団員たちはラッキーだとはしゃぎ始めた。


「それで、樫の薪を聖誕祭の間燃やしていると、その家は一年無病息災でいられるだとか、その灰は厄除けになるとか。他にも、貧しい青年が恋人へ薪をプレゼントした、なんて話もあるそうでね。それに因んで作られたのがこのブッシュドノエルという訳さ。初めて作ったけど、要はチョコレートケーキだからね。皆で食べてほしい。」


ヴェルムが続けてそう言うと、待ってましたと言わんばかりに歓声が湧き起こる。

それでこの騒動に気付いた者も集まり、そのタイミングを見計らっていた調理部の者も各所にて同じケーキをワゴンで運ぶ。流石に、如何に大きいと言えど数千の団員に分ける程量は無い。当然沢山作ってある。




その日は盛大に盛り上がり、夜明けまで騒いだ団員は朝からまた仕事に向かう。

早朝まで飲んで騒いでいた癖に、しっかりと朝食を摂りに食堂ホールに集まった団員を見て料理長は叫んだ。


「お前らさっきまで食ってただろうがぁ!!!」


賑やかで騒がしい、けれど楽しいドラグ騎士団は朝から元気である。













この日、ヴェルムは街に出ていた。

服装は隊服ではなく、セーターを着ている。今日は私用で出かけるのだ。

普段、滅多に休みがないヴェルム。先日も団員たちを労う慰労会を開いたが、その場でリクがこう言ったのだ。


「団長は私が労ってあげる!」


その言葉で十分ヴェルムは労われた気がしたが、有言実行なリクはこの日を指定しアルカンタ中央広場で待ち合わせだと言って強引に予定を決めたのだ。

流石に元王女ともあって、根回しに関しては流石の一言だった。

セトやアイル、内務官や零番隊まで巻き込んでヴェルムの仕事を減らし、中々休みが取れないヴェルムの休暇を作り上げたのだ。

誰一人文句も言わず、それどころか手伝いを申し出る団員が多かったのは言うまでもなく。仕事を減らすだけでなく、これから向かう先のルート作成など様々に協力した。


「団長!こっちこっち!」


嬉しそうにぴょんぴょん跳ねるリクも隊服ではなくお洒落服である。今日は背中にいつものウサギのリュックの姿は無く。ピタリとしたパンツにロングブーツ、上はとある地方の民族衣装であるポンチョという羽織りを着ている。

更には耳まで覆う毛糸の帽子を被り、防寒は万全のようだ。


ヴェルムは跳ねるリクを見て苦笑しながら歩み寄り、既に注目を浴びているリクに手を挙げて落ち着かせた。


「リク。今日も元気で何よりだね。その格好も可愛らしくて素敵だよ。まるで冬の妖精が訪れたみたいだね。」


朝の食堂にヴェルムが訪れた際、リクはいなかった。リクは準備のために早起きして、食堂ホールが開くと同時に朝食を摂ったからである。


褒められたリクは顔を紅くしながらもニコリと笑うと、ヴェルムの姿を一通り見てから口を開いた。


「団長も素敵な装いだね!今日は一杯労ってあげるから、覚悟してね?」


そんなヴェルムはアイルに選ばれた外行き用の服装である。そもそも、隊服のまま出かけようとしたヴェルムを引き留めて着替えさせたアイルは偉い。そして事前にリクの服装をリサーチしてそれに合う服装を選んだのだから、専属執事の面目躍如である。


今日のヴェルムの格好は、ユルふわなリクとは対照的にスタイリッシュな格好だった。

長くスラっとした脚に合うようにキッチリと採寸されたパンツに、裕福な老紳士が羽織るようなジャケットを着ている。中はモックネックシャツで、髪はリクからプレゼントされた髪留めで緩く纏められている。


貴族街や市民街の高級区画でしか売られていないような服装だが、実はその価値はその程度ではない。

何を隠そう、この服一式は制作科総動員で作られた、最高級魔物素材の逸品である。

テイムされた魔物から獲れる糸や、討伐によって得られた素材。着色にも拘り、一から全てを団内で制作している。

これは制作科の意地とプライドの集大成だ。


「ありがとう。今日を楽しみにしていたんだ。皆に苦労をかけた分、私が全力で楽しまないとね。」


そう言って自然にリクをエスコートするために腕を曲げるヴェルムは、貴公子と見紛うほど様になっていた。

そして元王女なリクもそれを自然に受けると、二人は腕を組んで歩き出す。身長差はあるが、リクの履くロングブーツは底の厚い物だ。普段よりかなり近づいた身長差は、程よく二人の距離を縮めた。

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