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闇竜と騎士団  作者: 山﨑
166/292

166話

今週は忙しく、へいじつに投稿が殆ど出来ませんでしたので週末にも1ページだけ投稿致します。

ご迷惑をおかけしております。

「お、団長。どしたんすか。お客さん来てるって聞いてたけど。」


団長室から訓練場に移動した一行は、そこで訓練をしていた一番隊と準騎士を見つけた。団長が姿を現したのを見てすぐに整列した彼らの中から、一番隊隊長のガイアが進み出てヴェルムに問う。それはこの場の団員皆の意見だった。


ヴェルムは敬礼したままの団員たちに手を挙げる事で楽にしなさいと指示を出し、ガイアに視線を向ける。

その表情は穏やかないつものヴェルムだ。


「こちら、騎士の国からのお客さんだよ。騎士王と、その後継候補。騎士王からの要望で、数日彼らを鍛える事になった。まずはその実力を見ようと思ってね。」


ヴェルムがそう言うと、団員たちの視線が騎士王たちへと向く。

数多の視線が向けられるが、王や側近ならばその程度の視線は慣れたものである。三人ともそのままの姿で立っていた。


「へぇ…?騎士王さんが強いのは分かるが、この二人が後継候補ですか。こっちのおっさんは無理でしょう。うちの準騎士全員にボコられる未来しか見えねぇ。こっちの坊ちゃんは槍使いですかね。坊ちゃんなら誰か数人くらいなら倒せるでしょう。」


ガイアの目利きは正確だ。特に戦闘力においてはほとんど外れない程の正確さで実力を見抜く。

青年は槍使いだとまたもバレた事に一瞬表情を崩したが、二度目ともあり先ほどまで驚く事は無かった。

騎士王は楽しげにニヤニヤと笑っており、おっさんと呼ばれた筋骨隆々な騎士はまたも顔を赤くしている。ヴェルムと同じ評価をされた事が気に食わないらしい。


因みに、シドは既にドラグ騎士団の者だとバレているのでヴェルムの横に立っている。もうお客さんをやるつもりはないらしい。


「うんうん。私もそう思ってね。ガイア、今日は君たちの訓練に混ぜてあげてくれないかい?死ななければある程度は許すから。」


突然の危険な言葉に驚いたのは、筋骨隆々な騎士だけだった。

青年としては、自分が隠してきた槍使いという秘密をいとも簡単に見抜かれ、自分の直感で勝てると思える相手が数人しかいないという事実がある。そしてそれは団長と隊長に宣言された。ならば間違いないという事だ。

で、あれば。ここで数日訓練するというのはおそらく、地獄を見る事になるのだろう。

彼にはその覚悟が既に出来ていた。


「うし。なら今日の合同訓練にひよっこたちも入れてやりますか。おいお前ら、まずはタイマンからやるぞ。ちょっと予定変更だ。」


ガイアの指示に即座に動く団員たち。この合同訓練は準騎士たちのための訓練である。よって、準騎士と一番隊が一対一で模擬戦を行う。当然準騎士が負けるのだが、一番隊の戦い方を直に体験出来る良い経験となる。

こうして他の隊とも合同訓練を重ね、準騎士たちは将来入りたい隊を決める。どれにも合わなかったり、元々内務官や研究者などの裏方になりたい者もいるが、それは座学や実習の時間に裏方の講義があるためそちらも経験出来る。

言ってしまえば、準騎士というのはドラグ騎士団に本格所属するための研修生の様な立ち位置なのだった。


そんな準騎士の中には、血継の儀を経ていない者も多くいる。だが、準騎士でいる期間は人それぞれとは言えど、一般的な職業から考えればかなり長い。

現在の準騎士の最長所属者は二百年になる。別に彼に才能が無い訳でも実力がない訳でもない。彼自身、準騎士としての職務に誇りを持っているのだ。直接民を護っていると実感出来る準騎士に残りたがる者は実は多い。彼もその一人だ。


ガイアの指示によって訓練場に散らばった団員たちは、各々のタイミングで模擬戦を始める。騎士の国から来た三人は、その光景にただただ唖然とするばかりだった。

一番隊は突撃部隊。敵の群れに穴を開けて突破する事が仕事の隊だ。ならばその火力、突破力は何処から生み出されるのか。

当然、隊員たちの魔法である。


刹那の時間で魔法を構築し繰り出す速度。その場その場で適切な魔法を生み出す引き出しの多さと判断力。そしてその判断をするために戦場を見渡す把握力。

勿論隊員一人一人に得手不得手があるが、それを纏め指示を出す小隊長、中隊長がおり。更にそこに指示を出していく大隊長。そして全てを統括する隊長と、一番隊は連携と個人技術のどちらも求められる命の危険と隣り合わせの部隊だ。


そういった技術を磨くために日々の訓練があり、それを日課とする一番隊の訓練は当然厳しい。

開始二分もすれば準騎士の多くは地面に這いつくばっていた。


「なんという戦闘力…!これが天下のドラグ騎士団か。シドの話では、更に上の隊があるのだろう?やはり来て正解だったな。これに関しては天竜国は良い仕事をしたと言える。」


騎士王が誰に向けるでもなく呟く。それは本心が溢れてしまったという風でもあり、彼が若い頃に一度会ったきりのヴェルムを頼って良かったと思っている証拠でもあった。


そんな騎士王の呟きを拾う者がいた。


「えぇ。僕はこの数日で必ず強くなってみせます。後継候補の一人として、名誉ある騎士の国の騎士として。ドラグ騎士団の方々に負けないような戦士に。」


青年は瞳に強い光を抱いていた。既に意識は目の前の戦いに向いているのか、本人は王の呟きに返事をした事にも気付いていない。

それ程に一番隊と準騎士の模擬戦は彼に何かを与えたのだろう。


騎士王もそれが分かってか、返事をするでもなく視線を向けるでもなかった。

後ろに立つ筋骨隆々の騎士はそのやり取りを聞いているのかいないのか。目の前の模擬戦に視線を奪われている事は確かだった。


しかし、それから数秒後。彼の閉ざされた口が開いて音を紡ぐ。それは誰もが予想しない言葉だった。


「なんだ?準騎士というのは一般人の集まりか?準、と付くだけあって正式な騎士とは言えんのだろう。それを正式な騎士が甚振って遊ぶのがこの騎士団の訓練だというのか…?」


その言葉に騎士王と青年は現実に引き戻されたように振り返る。そして憤怒の形相を浮かべ怒鳴ろうとした騎士王よりも先に笑い声が波となって押し寄せた。

怒りを飲み込む程の笑い声に、騎士王は混乱して先ほどまで見ていた訓練場を見る。笑っているのは一番隊の隊員達であった。


おい、聞いたか!?俺たちが弱い者虐めしてるってよ!


あはは!お前ら弱いんだってよ!雑魚から雑魚認定されてるじゃねぇか!


まぁこの程度で根を上げるなら雑魚よねぇ


俺たちゃ弱い者虐めの騎士団です、ってかぁ!?


正義の味方は弱い者虐めなんざ見てられませんってよ!


一番隊は総じて性格が荒い者が多い。ガイアは育ちが良いため所作に気品を感じる事もあるが、他の者はそうではない。勿論、貴族出身もいるが。

突撃部隊をやるのだ。お淑やかで人見知りではやっていけない。そういう者もいるが、戦闘では性格が変わる。


騎士の国の騎士は平民でもなれるため、先ほどの言葉を発した彼の育ちがどうかは分からない。だが、弱い者虐めと言われて怒る者は一番隊にはいなかった。


未だ笑い声が響く中、ガイアがスッと騎士王たちの前に立つ。すると自然に笑い声は止んだ。


「おっさん、言ってくれるじゃねぇか。だがな、俺たちの今の仕事は国を護る事だ。それはお遊びじゃねぇ。殺し合いだ。訓練だから死なない?そんな事はない。絶対に死なない訓練に意味なんぞ無いんだよ。そして、絶対的に敵わない存在がある事を知るのは、己の命を繋ぐ結果を引き寄せる。確かに準騎士の連中はまだまだ雑魚だろうよ。だがな、てめぇらの言う一般人が化け物と呼ぶくらいにはやれるぞ。ちょうど良い、準騎士と戦ってみろ。死んでも良いならな。」


そう言って団員の方を向いたガイアは丁度目が合った準騎士に顎で指示を出した。その準騎士は既にボロボロで、彼の横に立っている一番隊から開始数秒でボロ雑巾のようにされていたのだが、ガイアと目が合うと瞳にやる気を激らせ立ち上がる。

横にいた一番隊隊員はピュ〜と口笛を吹いてから場所を空ける。

周囲にいた団員たちも同じように場所を空け、散っていた者たちも観戦しようと集まってきた。

そうして出来た半円の人集りの中央で待つのはボロボロの準騎士。だがやる気は十分とばかりに屈伸して身体を解している。


「そんなボロボロな状態で私の相手をするのか?私までお前達のように弱者を甚振れと…?」


そう言って剣も抜かない騎士。一番隊や準騎士たちはそれを黙って見ているだけだ。

するとそのボロボロになった準騎士がニヤッと笑って剣を抜く。そして言った。


「御託はいいからかかってこいよ。それともその筋肉と剣は飾りか?」


シンと静まり返るこの場に、騎士が手に着けた革のグローブがギシギシと音を立てる。強い力で握りしめられたそれはまだ新しいのか、やけにハッキリと音がした気がした。


「よかろう。その状態で良くぞ言った。…後悔するなよ?」


騎士はユラリと剣を抜き構える。ニヤリと笑ったままの準騎士は剣を持たぬ手でクイッと手招きして挑発を重ねた。

それを合図に両者が駆け出し、騎士と準騎士の勝負が始まった。












結果だけ言えば、地に伏したのは騎士だった。

当然一番隊からは散々に笑われ、騎士王と青年は大きな恥をかいた。しかしそこは一番隊の流儀でもってすぐに青年と騎士は受け入れられ、その日から数日の訓練が行われた。

騎士は準騎士と共に座学にも参加し、青年は五隊を日替わりで訪れ訓練を共にした。


結局一週間ほど滞在した彼らは、笑顔で帰国したのである。







「コイツらが思ったより時間かかって助かった。俺もヴェルムと沢山打ち合えたからな。」


帰りの道中、シドはそう言った。騎士王はそれを見て満足気に笑っていたし、いつもならここで文句の一つでも言う騎士は黙っていた。

この一週間で、青年に実力を大きく離された事を根に持っているのである。


「いいか、いつまでもお前が強いと思うな。私はいつか槍を持ったお前に勝つ。そして王になるのは私だ。」


そう言う騎士の顔にはもう、嫌味な表情は浮かんでいない。対する青年もそれには気付いているようで、この一週間で変わったのは己だけではない事を実感していた。


「えぇ。負けませんよ。僕はこれから、貴方よりも遥か先に行きます。未だ準騎士の方々に負けているような貴方では無理ですよ。」


言い返してみせる青年の姿も、一週間前では見る事もできなかっただろう。

二人の後ろ姿を見たシドはニヤリと笑って呟いた。


「いいぞ、そのまま俺の相手が出来るくらいの相手に育ってくれよ。騎士の国は退屈でしょうがねぇ。」


騎士王の護衛として着いてきたシドは常に騎士王の側にいる。よってこの言葉は不敬にも当たるのだが、騎士王はそれを聞かなかった事にした。

盛大に含み笑いをしながら。

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