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闇竜と騎士団  作者: 山﨑
145/292

145話

「あぁ〜さみぃ〜。」


グラナルド南西の国境線。

一番隊と五番隊は特別訓練として国境線付近の魔物討伐に来ていた。


一番隊隊長のガイアは最近めっきり寒くなった国内に飽き飽きしていた。彼は火属性特化の魔力を有しているため、寒い場所では力が出ない。寒さに負けた彼は自身の周囲に結界を張る。気温が一定になる結界だ。


ファンガル領の端でもあるこの地は冒険者も多く、普段ならドラグ騎士団が来る討伐任務など無い。

だが、今ファンガル領の冒険者は国境線の向こうに多数が渡っている。

国境線の向こうは最近亡国となり、更に向こうの騎士の国が重い腰を上げ平定した。


騎士の国が動くまでは敗走兵崩れの盗賊や、秩序を失った民による暴動が起きており、滅ぼした西の国はそれに手をつける余裕など無かった。

そのためグラナルドと南の国から打診を受けた騎士の国が接収する形で平定し、軍が巡回する事で治安の安定を図った。

冒険者達はその前から亡国入りし盗賊や魔物を狩っていたのである。


騎士の国が平定した後、冒険者たちは国から報奨金を受け取った。

そう、それが彼らの狙いだった。


そんな経緯でグラナルド側に冒険者が少なくなり、ドラグ騎士団がそこに派遣されたという訳である。


「やはり魔物が増えているな。強さは大した事ないが、数が多い。これは手間だぞ。」


結界で周囲の気温が上がりホクホク顔のガイアにスタークが言う。

ガイアは愛馬の上でのんびりその鬣を撫でながらスタークに顔を向け、今も隊員たちが戦う場所を見る。

二人がいるのは少し高い丘で、眼下に広がる戦場を見下ろしている。


五番隊による地属性魔法で戦場が整えられ、一番隊の圧倒的火力で続々と現れる魔物を殲滅しているのを眺める二人。

魔物が増えているのはこの辺りだけではなく、近くにあるダンジョンも氾濫の可能性があると報告を受けた。明日はそちらに出向かねばならない。


予定を考えればゲンナリしてしまうため、ガイアは敢えて何も考えない事にした。今回のリーダーはスタークだ。ならば己は言われた通りに動こう、と。

しかしそうも言ってられない事態になった。


「ガイア。明日は両隊の半数ずつでこちらとダンジョンに分けようと思う。このままでは追いつかん。何故こんなに急に増えたかも調査せねばならん。こちらは私が受け持つ。ダンジョンは任せても良いか。」


スタークがこう言い始めたからである。

スタークは比較的、効率を求める性格をしている。そんな性格でなくともこの場合はスタークと同じ選択をする事くらいガイアにも分かるが、まぁスタークだし仕方ないか、などと自分のことを棚に上げて思う。

長年同じ隊長職に就く二人だ。スタークとてガイアの考える事くらいお見通しである。

しかしガイアがそう考える事も分かった上で提案しており、更にはその提案を断らないという確信すらある。


ガイアはため息を飲み込んで頷いた。

どちらにせよ、早く終わらせてさっさと家族がいる本部に帰りたい。そんな想いが面倒さに勝った。


「よし、なら俺はそろそろ出るぜ。明日の調査のためにも数を減らしておかないとな。」


ガイアはそう言って愛馬と共に駆け出す。スタークの返事も聞かないまま飛び出した人馬は、緩やかな下り坂を駆けグングンとスピードを上げる。

そのままの勢いで魔物の群れに飛び込み、やがて見えなくなった。


「遅れてきておいて戦果だけ最大だとまた隊員に文句を言われるぞ。全く。」


スタークの呟きは当然ガイアに届かない。しかし愛馬に跨るガイアはその時ニヤリと笑っていた。

互いにこんな時どう思うのかくらい予想はつく。それでいてガイアは笑い、スタークはため息を吐くのだから両者の性格の違いがよく分かる。


スタークは視界から消えたガイアの方を見ながら、盛大なため息を吐いた。


「あぁ、団長が夜いらっしゃると伝えるのを忘れた。まぁいいか。」


スタークもスタークでこういう良い加減なところもある。今回は内密にせずキチンとスタークに告げたヴェルムも、これは予想してなかったかもしれない。













一番隊にとっては楽しい楽しい討伐。

今回は強い魔物はおらず、ただただ数が多いだけではあったものの、戦闘が大好きな者が多い一番隊は概ね満足出来る一日だった。

だが、五番隊はそうではない。

一番隊がかろうじて秩序を保ったままやりたい放題に進撃していくのを、地属性魔法で整え、魔物を誘導した。途中から魔物ではなく一番隊の行動を制限するように動いていたのは仕方ない。

そうでもしなければ進むにつれ一番隊が散らばって行ってしまうのだから。


まるで初等学校の遠足だった、と五番隊の隊員は語る。

初等学校とは、街くらいの規模であれば何処にでもあり、七歳から十二歳までの六年間、読み書きから計算、剣術や魔法など、生きていくのに必要な知識と技術を教える学校の事である。

学ぶばかりでなく、コミュニケーションも大事な要素として捉えられており、年に一度全体で遠足に行くのだという。当然、近場にはなるが、多くの冒険者が護衛に雇われ、子ども達はそれを興味津々で見るのだ。


初等学校の子ども達はある意味秩序なき混沌である。

そう語ったのは元冒険者の五番隊隊員で、遠足の護衛と本日の訓練は似たような物だったと言う。


一番隊は直情タイプの者が多く、五番隊は冷静だ。ある意味、下の兄弟を見守る兄や姉のような立ち位置にいるためこの二隊で喧嘩など起こらない。


「おい、もうちょっと周り見て動け。フォローするこっちの身にもなれ。」


五番隊が一番隊にそう言えば、一番隊はキョトンとした後こう言う。


「お?わりぃわりぃ!お前らの援護が的確すぎてついもっとイケる!ってなっちまうんだよな!」


あはは!と笑いながら言う一番隊に反省の色はない。そして五番隊もこれがいつもの事だと思っているため、ため息を吐くだけで終わる。

このように、仕方ないなぁ、で終わらせられる程度には信頼関係があった。


このようなやり取りは野営地の各地で行われており、明日の予定を告げられてからは特に増えた。

一番隊は陽気に笑い、五番隊はため息を吐く。

ガイアとスタークのやり取りがそこかしこで行われているのを見て、夕方からここを訪れたヴェルムは笑った。


「隊長に似るって事かな。それはそれで面白い考察だよね。しかしそうなると私に似た部隊が零番隊…?いや、部隊毎に特色があるから違うか…。そうなると精鋭?うーん、似てないな。」


大真面目に考察しているヴェルムに、スッと串焼きが差し出される。本日の討伐で倒したコカトリスの肉だ。


コカトリスは大きな鶏の尾が蛇になっている魔物で、地属性と闇属性の魔力を持つ。

その爪には毒があり、受ければ身体が徐々に石化してしまう。脅威度Dの魔物でありそこまで討伐は難しくないものの、冒険者には毎年コカトリスによる石化被害が出る。

コカトリスの肉と卵は人気があり、討伐依頼が冒険者ギルドには常に掲示されている。

因みに、尾の蛇は捌いて蒲焼にすると大変美味である。

近年は少しずつ東の国の調味料も入ってきているため、コカトリスの尾の蒲焼が少しずつ認知されている。

東の国の民はそれを見て、何故鰻じゃないんだ!と言うとか言わないとか。


串焼きを差し出したのはガイアだった。もう片方の手には同じくコカトリスの串焼きが。

先日の三隊合同訓練では四番隊が秩序を保って配給していたが、一番隊と五番隊では篝火の両側に設置された竈で作った端から自由に持ち去るようだ。

ガイアもそこから手に入れたらしい串焼きを頬張りつつ、ヴェルムに食べてみろと目線で促す。


「あぁ、美味しいね。料理長の料理も美味しいけど、こうして外で皆んなと食べる串焼きもまた絶品だよ。」


ヴェルムが零した言葉に、周囲の隊員たちは湧き立つ。

敬愛する団長からそんな言葉が出れば喜ぶのも仕方ない。そのままの勢いでどんどん酒が進み、いつしか大宴会となっていく。


「で、さっきは何を真剣に考えてたんですか。」


いつの間にかガイアの手にあった串焼きは無くなり、代わりに珈琲が入ったカップを持っている。

ガイアの横にはスタークもおり、ガイアと同じくヴェルムを見ていた。


「いや、大した事じゃないよ。君たち二人のやり取りを、隊員たちもしていたからね。隊長に似るんだろうか、と。」


ヴェルムは少し気恥ずかしそうに言う。真剣に考えていたように見えたのなら、己が考えていた事がどれだけ下らない事だろう。

それを己の口から言うのも気恥ずかしいが、それを躊躇うような性格ではない。

言ってみてやはり気恥ずかしかったが、ガイアとスタークはヴェルムの予想と反して真剣に考察を始めた。


「確かに、私の隊は発想がどうしても私に寄る所はありますね。目の付け所が違うのは有難い事ですが、普段の生活では似ている所もあるかもしれません。」


最初にスタークがそう言えば、ガイアも真面目な顔で続く。


「それはあるな。俺はてっきり一番隊が昔からそうなのかと思ってたけどな。しかし姫のとこがそうじゃねぇ事考えると、確かに隊長に似るってのはあるかも。」


三番隊は今でこそリク至上主義みたいな所があるが、前任の隊長の時はこれぞ正しく諜報隊、という規律に厳しい隊だった。

リクが隊長になってから、お祭り騒ぎ大好きな陽気な集団に変わったのだ。

勿論、前の隊長の時と変わらない者もいる。だがそういった者も表情が柔らかくなったのは確かで、リクの事を最優先にするようになったのも変化だろう。

そう考えれば隊長に似る、というのはあながち間違いでもない。

そこまで考えてガイアとスタークは、零番隊精鋭の事を思い出す。

二人が会った事のない隊員もいるが、それでもやはりヴェルムに似ているとは思えない。寧ろ、準騎士から五隊、五隊から零番隊と、階級が上がるにつれ濃いメンツばかりだなと思う二人。

気付いてはいけない事に気付いた気がして、二人はそっと思い出す事を止めた。


隊長格三人が集まって真剣な表情をしていたからだろうか、一番隊の親父こと副隊長が歩み寄って来て酒と摘みをヴェルムの前の丸太に置いていく。

様子を探りに来たのは分かっているが、三人とも彼が近付いた途端その理由に気がつき、苦笑を浮かべる。

副隊長は結局、疑問符を頭に浮かべながら去る事になった。


「まぁ、こんな物は統計でも何でもないからね。それに、似てるって事はそれだけ君たちが彼らに尊敬されているって事でしょう。なら良いんじゃないかい?」


ヴェルムの強引な纏めに、二人は目を合わせてから苦笑する。


「そっすね。今度から、俺に似てるとこ見つけたら言ってやりますよ。お前ら俺のこと大好きだなぁ、って。」


ガイアが巫山戯て言うのに、ヴェルムはいつもの穏やかな笑みを向ける。そしてスタークを見れば、スタークもまた笑いながら言った。


「なら私も言ってやろう。お前達、私の事大好きだな、と。」


大真面目な顔でスタークがボケるのに、ヴェルムとガイアは声を上げて笑う。

三人の所から離れて行った副隊長や、周囲で飲んでいた隊員にもそれは聞こえており。直ぐに周囲が笑いの渦で包まれる。

聞こえてなかった者たちも、何かよく分からないけど笑っとけ、と笑い出し。野営地は突如爆笑の渦で包まれた。


明日も討伐がある。きっとこの笑いが活力に変わるだろう。

笑いの中心にいながら、ヴェルムは家族の無事を願った。

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