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闇竜と騎士団  作者: 山﨑
117/293

117話

「ではこちら、後ほど届けさせていただきます。いつもの様に南門からでよろしかったでしょうか?」


「えぇ。いつもありがとう。届け物があると伝えておくわ。毎度、苦労をかけるわね。」


「いえいえ!サイサリス様にはご贔屓にして頂いておりますし、何より祖父の命の恩人ですから!」


「いつの話をしているの…?あれは貴女が産まれる前でしょう?」


「私はその当時の話を何度も何度も祖父に聞かされて育ちましたからね!あの時祖父を救って頂いたからこそ、私がこのように育ったのですよ。勿論、私の子どもにも聞かせてあげるつもりですので!」


「ふふ。ありがとう。でも、それなら貴女はまずお相手からね?」


「サ、サイサリス様ぁ…!!それは言わない約束ですよ!」


「あら、そうだったかしら?ごめんなさいね。貴女程の魅力的な女性なら、幾らでも声がかかるわ。自信を持って。」


「サイサリス様に言われても説得力がないですよ…。」


「そんな事ないわ。貴女にしかない魅力があるのだから。ちゃんと周りを見て?貴女の事、熱い眼差しで見ている殿方がおられるわ。」


「何を言ってるんですかぁ!サイサリス様を見に集まってるだけですよ。」


「あらあら。これは時間がかかりそうね…。」


「…え?何かおっしゃいましたか?」


「いいえ。何でもないわ。…じゃあ、本部までよろしくお願いするわね。私はまだ行くところがあるから。」


「あ、はい!お任せください!またのお越しをお待ちしております!」


収穫祭の最中でも、いつも通りに営業している店は沢山ある。そんな店の一つ、ハーブなどの香草や薬草を主に取り扱う店先で、誰もが振り向く金髪の美女と小柄で華奢なそばかすの目立つ少女の会話を、多数の男が遠巻きに見ていた。


店員の少女が頭を下げて見送るのを、振り返らず歩き去る美女。

今はオフなのか、普段着用しているドラグ騎士団四番隊の隊服ではなく、滑らかな肌触りの薄クリーム色した緩いブラウスに、紺色のフレアスカートといった私服である。


まだ昼間の日差しは強いためか、鍔広の帽子を被るその姿は、まるで貴族の令嬢のような優雅さを醸し出している。


彼女はグラナルドの護国騎士団である、ドラグ騎士団四番隊隊長、サイサリスだ。

その容姿は国民にも知られており、休暇を利用して街の救護院などにも手伝いで現れるため、彼女に治療してもらった事のある者は多い。


先ほどの店員の様に、家族が助けてもらった、などという話はどこに行っても聞くことが出来るため、彼女が街を歩くとすぐに人に囲まれてしまう事もあった。


だが、それは彼女の迷惑になるだろう、と街の人々は話し合い、彼女の美しさに吸い寄せられるように集まる男たちを引き留める組織が出来上がった。


その組織によりサイも街を歩きやすくなり、一時期街を出歩かなくなった彼女も、今ではこうして気軽に出歩ける様になった。











巡回に人手が足りず五隊まで出動している収穫祭でも、一日は必ず期間内に休暇が与えられる。

今日はサイが休みの日で、他にも多くの団員が休暇で自由に過ごしているようだ。


サイの趣味はアロマテラピーや美容関連の物が多く、こうして街に出る事で趣味に必要な道具や消耗品を買い足す。


全ての買い物が終わったのか、休憩でもしようかと喫茶店を探すサイだったが、今は収穫祭。どこも満席で更に順番待ちの列が出来ていた。


そんな場所ではゆっくり休む事など出来ない。諦めて本部に帰ろうかと考え始めた矢先、知り合いの気配に気付いたと同時に声をかけられた。


「さっちゃーん!」


十代の幼い女の子の声。サイが気付いた知り合いの声であり、大好きな家族で同僚の声だ。


「リク!貴女も休暇?」


後ろから声をかけられたため、振り返る形となったサイ。声をかけられた時はまだ距離があったが、振り返るとこちらに走ってくるリクの姿が見えた。

手を振りながら走ってくるリクを出迎え、穏やかな笑顔を見せながらリクに問うサイ。


リクは走って来た勢いをそのままに、サイの胸に飛び込んだ。

それをクルッと回る事で勢いを殺して受け止めたサイ。その豊かな胸に顔を埋めたリクは楽しそうに笑いながら顔を上げ、ニカっと笑った。


「さっちゃんナイスキャッチ!さっちゃんが今日お休み取ったって聞いて、私は午後から休み取ったの!一日休みが貰えるなら、半分ずつはダメ?って団長に聞いたら、良いって言ってくれたの!」


こういう事によく頭が回るリク。通常、上司から一日休みが貰えると言われれば、どの日に休むかを考えるものだが。

柔軟な発想で二日間半日ずつの休みを手に入れていたリク。

しかも、その休みをサイに合わせたというのだから、この金髪の美女の頬が緩むのも仕方ないだろう。


緩くウェーブした長い金髪に、絶世の美女と謳われる容姿。トレードマークでもあるフレームレスメガネに、八頭身でくびれのある完璧なプロポーション。

大人の色気と、気品。


そんなサイとは反対に、薄緑の癖っ毛をサイドで一括りにして肩に流し、一五歳ほどの見た目によく似合うフリル付きの白のワンピースに、深緑のカーディガンを肩に掛け胸元で袖を結び固定しているリク。

サイが休暇で街に出ると知り装いを合わせて来たのだろう。


「ふふ。ありがとう、リク。そのワンピース、似合ってて可愛いわ。」


抱きしめた状態のリクを離し、その全体像を見て微笑むサイ。

リクはサイからの褒め言葉に、頬を朱に染めながら、えへへ、と照れている。


「さっちゃんもとってもよく似合ってる!二人で歩けば、世の男はイチコロだね!」


元気にそう言うリクに、サイは内心首を傾げる。この子、そんな言葉どこで覚えてくるのかしら…?と。


「あ、さっちゃんはお買い物済んだの?」


サイが内心で首を傾げていることなど知らないリクは、サイの予定がどこまで終わったのかを確認してくる。

言葉と共に首も傾くその仕草は、小動物めいており可愛らしい。

現に、道を通り行く男性たちのハートを撃ち抜いているようで、あちこちに蹲った男性を見かける。


「えぇ。終わったわ。休憩でもして帰ろうかと思ったのだけど、収穫祭だから人が多くて。待っている人がいるのにゆっくりお茶なんて出来ないから、途方に暮れてたのよ。」


サイが自身の頬に手を当てながら憂う。その姿は生めしく艶やかですらあった。

その姿を見た周囲の男性は何故か前屈みに蹲る。

良くも悪くも目立つ二人だった。


「そーだよね。今はどこも忙しいもんね。でも、アルカンタの事なら何でも知ってる私におまかせあれ!さっちゃんとゆっくりお茶できるお店にご案内しまーす!」


リクは笑顔でそう言い切り、その薄い胸をドンと叩く。その見た目は子どもが親に何か自慢をするか如く。

思わず笑ったサイと、それを受けて笑うリク。二人は手を繋いで歩き出した。











「おや、リク様じゃないかい。いらっしゃい。そろそろ来る時期だと思って、ちゃんと席を空けてるからね。」


「おばちゃん久しぶり!毎年ありがとう!」


「いえいえ。あぁ、今年はサイサリス様を連れて来てくれたのかい?丁度良かった。先日は息子が世話になったようで。本当にありがとうございました。」


リクがサイを連れて来たのは、職人街の裏路地にひっそりと看板を掲げる隠れ家のような喫茶店。


出迎えたのはイェンドル織の伝統衣装を来た初老の女性だった。

彼女はリクが来るのを予測していたのか、混み合う店内の奥にある個室を指しながらリクへ挨拶すると共に、サイに深く頭を下げた。


どうやら、救護院での活動の折、この女性の息子の治療をしていたようだ。

この様な事はよくあるため、サイもいえいえ、と手を振りながら感謝を受け取る。


リクはそんなサイを眩しい程にキラキラした眼で見つめていた。


「こちらの個室でゆっくりされてくださいな。注文は、そこの板に書いて頂ければ厨房に伝わるようになっておりますから。」


個室に案内された二人は、メニュー表と共に置かれた板を見る。どうやら魔道具らしい。

この板に書き込まれた注文が、対になっている魔道具にも表示される仕組みのようだ。


言い方は悪いが、この様な場末の隠れ家的喫茶店にあるような魔道具ではない。

何故なら、この魔道具は今年に入ってドラグ騎士団が極秘にグラナルドの宮廷魔道具師に渡し、国からの発表という形でお披露目をしたばかりの魔道具だからだ。


そんな二人の考えが分かったのか、店員の女性は静かに笑った。


「そちらは、貴女方の上司の方が下さったんですよ。何故かすぐにお顔を忘れてしまうのですが、何度も来られていますよ。リク様と一緒に来られてからも。この部屋にお通しすると、リクもここで食べるのか、と聞かれましてねぇ。お答えしたところこちらを、と。お断りしたんですが…、使用して使用した感想を聞かせて欲しい、と言われまして。そう言われてはお受けせざるを得ず。今は大変重宝させて頂いております。」


どうやら犯人は彼女たち家族の大黒柱、ドラグ騎士団団長ヴェルムのようである。国からの発表が済んだ魔道具は既に試験も終えている上、国が認めた資格を持つ魔道具師ならば設計図を買えば作ることができる。そう、今更使用感など必要ないのだ。


となれば、ヴェルムがこの店に魔道具を渡した理由は一つ。

リクのためだろう。

この店はイェンドル出身の店主夫妻が経営している。

イェンドルの元王女であるリクに故国を思い出せる場を、とヴェルムが連れて来た店だ。

だからこそ、よりゆっくり過ごせるようこの魔道具を贈ったのかもしれない。


二人は顔を見合わせて笑う。

どうやら、ヴェルムの気遣いに気付いたようだ。


久しぶりの二人きりでの女子会。

首都は収穫祭で賑わっているが、二人は二人で盛り上がるつもりのようだ。

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