112話
「またも一太刀っ!最早この男を止める者はいないのか!?勝者、東市民街剣術道場のシド選手っ!」
中央の巨大コロシアムでは決勝トーナメントが行われていた。
シドはスケールに宣言した通り、ここまでの試合を予選も含めて全て一太刀で終わらせて来ている。
この闘技大会では国が元締めとなる賭けが行われており、シドに賭ける者は試合を経る毎に増えていく。
決勝トーナメントともなれば、対戦相手は一握りの猛者ばかり。
中央と東西南北の優勝者と準優勝者、そして決勝トーナメントから参加のシード権を持つ者が入り戦う。
シドは初戦を予選と同じく一太刀で突破し、現在ベスト4を決める戦いもまた一太刀で相手を下した。
観客は盛大な歓声をあげており、退場していくシドの背中に様々な感情で声をかけている。
賭けに勝った者、負けた者、シドのファンになった者、教え子として師の勝利を喜ぶ者。
そんな歓声を笑顔で受けながら、選手出入口より退場していったシド。
決勝トーナメントともなれば、選手一人につき一つの控え室が与えられる。
更に身の回りの世話をする使用人もつける事が出来るが、シドは当然それを断っている。
シドが控え室に戻ると、そこにはレミがいた。
「お疲れ。後は準決勝と決勝ね。明日に備えて休むのが普通なんでしょうけど、残念ながらそんな暇はないわ。行きましょ。」
レミはシドを労りながらも、その蠱惑的な笑みで厳しい事を言う。
シドとしては試合とも呼べない試合を重ねているだけなのですぐに出るのは問題ない。
決勝トーナメント準決勝と決勝が明日に予定されているため、シドの出番はもうない。
会場では他の試合が行われている事だろう。
次の対戦相手が決まる試合だが、シドはそれを見ようともせずレミの言葉に頷き部屋を出た。
シドとレミはコロシアムを出て人混みに紛れると、気配を薄くして移動を開始する。
少しずつ速度を上げ、自身を認識している者がいなくなった事を確認すると周囲の建物の屋根に飛び上がる。
混んでいるなら屋根を走ればいい。気配が薄い今なら誰にも気付かれない。
そんな発想で屋根に上がった二人だが、お祭り騒ぎとなっている大通りにいる人々は、目立つその二人に気付かない。
既に二人は視覚的にも見えぬよう、三番隊や五番隊の使う姿消しの魔法を使用している。
この魔法は幾つか種類があり、多用されるのは聖属性による光の屈折を利用した魔法だ。他にも、火属性による陽炎を利用した魔法や、水属性による霧を使った魔法などがある。
「既に現地に二人が入っているわ。目標は移動中。護衛は多数。貴方の好きな戦闘任務よ。」
「あぁ。闘技大会より強い奴がいると良いんだけどな。」
屋根の上を足音を立てずに走るレミとシド。二人が向かっているのは、騎士王が住む城の周囲にある貴族街。
コロシアムより少し南西を目指しているようだ。
貴族街に入ると、二人は屋根を降りて道を走る。
お祭り騒ぎだった大通りとは変わり、貴族街はほとんど人が出歩いていない。
それもそうだろう。貴族は皆闘技大会を見に行っているし、そんな時に使用人が貴族街をウロウロしたりもしない。
巡回の兵が歩いており、偶に何処かの貴族家の使用人が歩いている事もあるが、ほとんど人通りが無いのは二人にとってありがたい事だった。
そんな二人がたどり着いたのは、やけに立派な屋敷だった。
首都に屋敷を持つ貴族は中位から高位の貴族ばかり。だが、そんな貴族街の中でも更に立派な屋敷ということは、侯爵家か。
などと想像をしているシド。行けば分かるか、と思考を一瞬で中断すると、レミの合図に従い屋敷を囲む壁を飛び越える形で侵入した。
二人が屋敷の敷地に侵入し、向かったのは一軒の小屋。
周囲は立派な庭園であるため、庭師の小屋なのだろう。
レミは小屋の扉を三度、リズムを刻むようにノックした。
「おぉ、来たかぁ。待ってたぞぉ。」
扉が開き、顔を出したのはスケールだった。
レミとシドはサッと中に入ると扉を閉める。中は思ったよりも広く、中央に机と椅子、壁際には植木鉢やスコップなどが置かれた棚がたくさん設置してある。
「んで?目標は今屋敷にいるのか?」
シドは楽しそうな表情でスケールに問う。組んだ腕の右手は、指がピアノを弾くように自身の二の腕を叩いている。どうやらソワソワしているようだ。
「まぁ落ち着けよぉ。これから目標がもう一人増える予定だぁ。どうせなら纏めて片付けるぞぉ。」
スケールは誕生日の朝の子どものような表情をしたシドを宥めながら、独特な喋り方で計画を話していく。
レミとシドはそれに偶に質問を挟みながら計画を頭に叩き込む。
とは言っても、内実かなり単純な計画だった。
ここは騎士の国のとある侯爵の屋敷。この侯爵は今日、客をもてなすために屋敷にいる。
闘技大会には小侯爵である息子が行っており、自身は体調不良を理由にしているという。
客は、そんな侯爵を診察にくる薬術師という設定で来るらしい。
しかし、その正体は天竜国の伯爵。
そう、騎士の国が西の国の降伏要求を跳ね除け続けているため、貴族を利用しようという西の国の策略だった。
ドラグ騎士団としては、騎士の国が内乱などで混乱するのは本意ではない。
よって、零番隊精鋭としてこの小隊に任務が出された。
任務内容は二人の貴族の確保、もしくは殺害。
詳細な方法は全て小隊に任せるという投げ放しの任務。
だがこれを、押しつけだと思う団員はいない。寧ろ、信頼の証と捉えるのだ。
勿論、ヴェルムとて押し付けている訳ではない。
ヴェルムがブレーメンと呼ぶこの小隊の事を信頼しての事である。そして、どんな結果になろうと最後の責任は団長であるヴェルムが取るという覚悟がある。
心配があるとすれば、戦闘狂でもあるシドがやり過ぎないかだが、既にソワソワして客が来るのを待っているシドを見れば、その心配も納得である。
小屋の奥から茶を乗せた盆を持ったファゾーラが出てきた事でシドの落ち着きも取り戻せたように見えたが、楽しみにしているその顔は変わらなかった。
スケールたち零番隊精鋭が敷地内に侵入しているなどと知りもしない侯爵は、立派に蓄えられたカイゼル髭を摩りながらサロンで紅茶を飲んでいた。
彼も騎士の国の貴族だけあって引き締まった良い身体…かと思いきや、腹がポッコリと前に出た見事なまでの中年腹だった。
全体としては太っている印象を与えないが、太った者がそう多くないこの国全体から見れば太っていると言える体型だった。
豊かな国であるグラナルドにいれば小太りで済まされる程度の侯爵は、楽しみな事があるのかニヤニヤと口元を緩ませながら何やら考え事をしている。
そんな侯爵の下へ、執事が訪れる。
恭しく一礼してから口を開くと、侯爵に向けて報告を始めた。
「お客様が到着なさいました。手筈通り、薬術師に扮していらしたようです。旦那様は私室に移動してくださいませ。」
侯爵に仕えて長いのか、多少崩した言い方をする執事。それを気にも留めずに頷いている侯爵を見れば、その執事を信頼している事が伝わってくる。
ズボンのベルトに乗った腹に手を当てながら立ち上がった侯爵は、スキップでもしそうな程ご機嫌な表情でサロンを出て行った。
「遠路遥々ようこそいらっしゃった。このような私室で申し訳ない。」
侯爵が薬術師に扮した西の国の伯爵を出迎えたのは、侯爵の私室だった。
これは、体調不良で寝ている侯爵を診察する薬術師、という形を守るために必要な事だった。
ある意味、私室に迎える事は信頼を表す事でもあるため、このような密談には向いているのかもしれない。だが、表立って伯爵として歓迎する事が出来ない事を謝罪している事は伯爵も分かっている。
ローブに身を包んだ伯爵は片手を挙げて首を横に振る事でその言葉を止めた。
「いえいえ、正式な訪問では御座いませんからなぁ。仕方ない事です。それより、早速本題に入らせて頂いてもよろしいかな?今回我らが求めるのは、騎士の国の守護者たる王剣騎士団が我が国の国教である天竜教の頂点である教皇猊下に忠誠を誓う事。そのために必要ならば騎士王は生かしても殺しても良い。これは伝えましたな?」
伯爵が手振りをしながら説明する。侯爵は真剣な表情でそれに頷くだけ。
ここまでは事前に話が通っているようだ。
「今日はその方法と報酬を聞きに来た訳ですが…、どうですか?上手くいきそうですかな?」
伯爵が試すような聞き方をするが、侯爵は微笑みながらカイゼル髭を触っている。
そんな侯爵に、伯爵はどこか不気味な物を感じた気がした。
しかし、それを表に出すような愚か者ではこの任務は与えてもらえなかっただろう。
伯爵という中位の貴族でありながら、このような危険な任務に就いているのにはそれなりの理由がある訳だ。
伯爵は侯爵が口を開くのを待った。
侯爵は数秒後、徐に髭を触る手を降ろし口を開いた。
「確か、最終的に騎士団が手に入るのなら手段は問わない上、援助も約束してくださるという話でしたな。」
「えぇ、お約束しますとも。」
侯爵から出た言葉は、返事ではなく確認だった。
期待していた答えではなかったものの、その後に続く事こそ答えだと感じた伯爵は、逸る気持ちを抑えながら肯定してみせた。
「では、こうしようと思う。まず、騎士王を排除。そして次期騎士王に私が就く。その私が教皇とやらに忠誠を誓えば、騎士王に忠誠を誓う騎士団は実質教皇の物。どうであろう。」
伯爵は困惑した。
それも当然。何故なら、一言目からして妄言の類ではないかと疑ってしまう内容だったからだ。
一言で片付けられていたが、騎士王の排除。これがそんな簡単にいくならばわざわざこんな回りくどい方法を取っていない。
そして次。次期騎士王に侯爵が就く。これも、伯爵から見てどうも戦闘向きの身体つきではない侯爵が言うのは、宴会の場なら兎に角、今は笑えない。
騎士王とは、武に長け、智に長ける者だ。どちらかではいけない。
武に長けているようには見えず、こんな事しか考えられない智しか無い。万が一、騎士王になれたとしても、とてもではないが王剣騎士団が忠誠を誓うとは思えない。
伯爵はすぐに頭を使って考えた。
「な、なるほど。中々冗談としては面白いですな。数多の突っ込み所を残してくださっているのは、侯爵様からのお気遣いですかな?」
伯爵はこれを前振りだと断定した。それほどに穴しかない計画だった。
ならば、これをサラッと流し本当の計画を聞き出せるかどうか試されているに違いない。
そう考えて発言した伯爵だったが、侯爵の反応は芳しくない。
先ほどまで微笑んでいたその表情も、全ての表情が抜け落ちたかのような虚無感を醸し出していた。
自身が冗談だと断定した侯爵の言葉が真実であった場合を考え、侯爵を選んだ事を後悔し始めた伯爵。
だが、もう遅い。
侯爵は先程までの機嫌良い表情も、虚無感を漂わせる表情も消して伯爵を見た。
その表情が示すのは憤怒。そしてその表情こそ、先程の戯言にしか聞こえぬ言葉が真実である証明であった。
「この私がこの場で冗談を言うとでも?伯爵は私が騎士王には至れぬと、そう言いたい訳か?武も智も、この侯爵たる私に足りぬと?伯爵こそ面白い冗談を言う。ここ騎士の国で数ある貴族の内、我が侯爵家を選んだのは伯爵ではなかったのか?」
侯爵の言葉に込められた怒りで、剣を向けられた訳でもないのに背筋の冷や汗が止まらない伯爵。
その広い額に流れ落ちる汗を止める事すら叶わず、ただ侯爵を黙って見つめる事しか出来ずにいた。
だが、そんな緊張感漂う侯爵の私室に、聞こえるはずのない第三者の場違いに明るい声が突如聞こえた。
「ありゃ?俺が一番乗りか?そりゃあラッキーだった。てことで目標のお二人さんよ、消えてもらうぜ。あ、一応確認だけどよ。騎士の国の元副騎士団長の侯爵さんと、天竜国の伯爵になりたてホヤホヤさんの二人でお間違えない?」
爽やかな笑みと共に明るくそう言った男の名はシド。
零番隊精鋭の一人である。
小隊全員で屋敷に突入後、ファゾーラとスケールは警備兵と使用人を優先して排除に向かい、レミとシドは目標の確保のために違うルートで進んだ。
どうやら先に着いたのはシドだったようで、彼はニンマリと口角を上げた。
見知らぬ第三者の登場に驚いていた二人だったが、先に状況を把握して動いたのは侯爵だった。
「何者だっ!衛兵!不審者だ、捕えろ!」
侯爵は叫んで外に知らせる。だが、返ってきたのは不自然なまでの静寂だった。
「あー、ムダだぞ?声を出すってのは思ってる以上に体力を使うんだよ。だから、ムダな体力使わねーで俺と遊ぼうぜ?ほら、そこに飾ってある剣は侯爵の現役時代の得物だろ?早く取れよ。」
侯爵は壁に飾られていた剣を取りに行く。シドは攻撃しないと態度で示すために扉の前に立っている。
これは逃走防止の意味もある。
「おい、侵入者。貴様は私と伯爵の素性を言い当てたな。という事は、私たちの事をよく知っているはずだ。私の剣の実力も。それでいて挑むというのか?今まで数多の暗殺者を返り討ちにしてきたのだぞ?」
侯爵はそう言いながら剣を鞘から抜き放った。刀身が光を反射し輝く。
その剣は業物である事が一目で分かる。そしてシドは、その剣が魔力を纏っている事も見抜いていた。
騎士の国は魔法を忌諱する。そんな国で騎士団の副団長まで務めた男が持つ剣だ。業物なのは当たり前だとして、魔力を纏っているのはおかしい。
シドは目を細めてニヤリと笑う。
「なるほど。魔剣か。イイもん持ってるじゃん?」
不敵な笑みを浮かべたままそう言うシドに、侯爵は警戒を強めた。未だかつてこの剣を魔剣と見破られた事が無かったからだ。
魔剣とは、振るう事で持ち主の身体能力を上げたり、火や水を発生させる事が出来る。
魔力の通りが良い鉱石を使用し、魔法を封じ込めた物は魔法剣。
だが、魔力その物が宿っている剣は魔剣と言う。魔力剣では無い。
発動する効果が似ているため、初見でどちらか判る者は少ない。
シドには直ぐにバレてしまったようだが、これまで堂々と使用していても何も言われないくらいにはバレない物のようだ。
侯爵とシドは互いに間合いを牽制し合い、いつ戦闘が始まってもおかしくない状況になっている。
それを伯爵は見守っていた。もしもシドを撃退する事が出来れば、侯爵が騎士王になるという話も信憑性が出てくるためだ。
そんな緊張感があるこの部屋に、またも別の者が乱入して来たのは、シドがそれに気付き目線を動かした事を侯爵が好機と捉えて剣を振りかぶり踏み込んだ時だった。
「あらぁ?早いじゃない。なるほど、私はこっちね?」
レミだ。入るなり状況を把握し、己は伯爵を、と役割を決めた。
シドは侯爵の剣を自身が腰に提げていた剣を抜いて受け止めており、楽しそうな笑みを更に深めて笑っていた。
「また侵入者か!まさかお前たち、闇ギルドの者か!」
シドたちの正体に当たりをつけたのか、闇ギルドという言葉を出す侯爵。
残念ながらハズレだ。
しかし、これまでも襲撃を受けて来た侯爵が其れ等と同じだと考えるのは当然の事。
騎士の国では、暗殺や情報の売買など、金と引き換えに何でもやる闇ギルドが首都で幅を効かせている。
シドたちの事をその一員だと思っても不思議は無い。
侯爵の攻撃は更に激しさを増し、シドの持つ剣に叩きつけるかのように魔剣を振るう。
楽しそうに剣を受けていたシドだったが、一度大きく侯爵の剣を振り払うと、一歩分距離を空けてから口を開いた。
「そろそろ良いか?俺も攻撃したくて我慢できねぇ。」
侯爵に目を向けて言っているが、侯爵相手に話しかけているようには聞こえない。
それは侯爵も感じ取っていたが、息を止めて連撃をしていた分、呼吸を整える事に集中している。
シドの問いに答えたのは、侯爵でも伯爵でもレミでもなかった。
「おおぅ、いいぞぉ。既に情報は集め終わったからなぁ。後は好きにしろぉ。」
特徴的な語尾。スケールだ。
その声は部屋に届くが、姿は見えない。侯爵が新たな敵に警戒を強めるが、その意識はすぐにシドだけに向けられるようになる。
シドが凄い速さで剣を振るってきたからだ。
先程の侯爵が放った連撃と、全く同じ挙動を辿った連撃が侯爵を襲う。
自身と戦っているのかと錯覚するような攻撃に、侯爵はただ驚く。
それからは激しい打ち合いとなった。
レミはとっくに伯爵を捕らえており、魔力を封じる手枷まで着け終わっている。
たっぷり三分ほどの剣撃の応酬があった後、先に剣を手放したのは侯爵だった。
「な、何なのだ、貴様はぁ!私の技を尽く真似してきおって!模倣しか出来ん真似事に、私が負けるだと!?」
手が痺れて握りが甘くなったところに剛撃を叩き込まれて魔剣を手放した侯爵が、悔しそうに叫んでいる。
シドはそれを変わらず笑ったまま見ていた。
「おいおい、誰だって最初は模倣から入るだろうが。師の、兄弟子の、型や構えを模倣する所からな。そして、己の剣と最悪の相性の剣は己の剣。つまり、相手の剣を模倣し相手にとって最悪の剣を振えば勝てる。そうだろ?俺の剣と呼べるのはほとんど存在しねぇんだ。俺が模倣出来る程度の剣じゃ俺には勝てねぇ。そうじゃねぇ相手にこそ、少ない俺の剣を全力で振るえるってもんだ。残念ながら、お前じゃなかったみたいだがな。」
話しながらも剣を侯爵の喉元に突きつけるシド。
決着は着いた。
目を見開く伯爵と、暇そうに欠伸をしているレミ。
覚悟を決めた表情の侯爵と、笑ったまま剣を振りかぶるシド。
その剣が振り下ろされると同時、レミの剣も伯爵の首を落とす。
二つの首が転がった部屋は静けさを取り戻した。
「んじゃ、撤収するぜ。」
「えぇ。後片付けはファゾーラがやるって言ってたし、さっさと帰りましょ。」
そして部屋に誰もいなくなる。
騎士王の殺害を企てた侯爵と、騎士の国の乗っ取りを企てた西の国の伯爵は物言わぬ骸となった。
「じゃ、明日があるから俺は寝るぜ。」
「あぁ。いいぞぉ。お疲れさんだぁ。」
東市民街の剣術道場。そこに住む四人は夕食を終えてゆっくりしていた。
シドは明日の決勝トーナメントに向けて休み、三人は任務の後処理を行うためそれぞれに行動を始める。
「ふふ、ようやく本部に帰れるわ。団長、更に綺麗になった私になんて言うかしら…!」
早く任務を終えて本部に帰りたいレミが目を閉じて何やら妄想しながら言う。
その後ろでは、ファゾーラがボソリと呟いていた。
「レミ…特別…変化…無し。団長…反応…無し…確定。」
「おいぃ、ファゾーラはちょっと黙ってろぉ?」
ファゾーラの巨体を全身を使って止めるスケール。幸い、妄想中のレミの耳には入らなかったようだ。
スケールの努力はムダにはならなかった。
ホッと息を吐くスケール。
小隊長は気苦労が多い。