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闇竜と騎士団  作者: 山﨑
106/293

106話

今回は血が流れます。苦手な方はお控えください。

零番隊ヴェルム直属部隊、通称"精鋭部隊"隊員のアレウスは現在、北の国の王都に来ていた。

ここまで共に来たのは、暁の面々である。


「リーダー。既に反乱はここからが本番って感じっすよ。」


軽薄そうな男が軽い口調で部隊長に言う。彼はこれでも暁の中隊長である。


「あぁ。だろうな。このまま作戦通りに動く。変更は無い。」


大太刀を背負うリーダーは、王都を囲む石壁を睨みつつそう返す。

その言葉を聞いた他の部隊員たちはそれぞれに動き始めた。


「では私はこれより別行動に入る。暁には世話になった。」


アレウスはリーダーに向かって軽く頭を下げる。それを目の端に捉えたリーダーは、アレウスに顔を向ける事なく頷いた。


「おそらく、あの二人も今回の任務で挽回を図るだろう。アレウスもそのつもりなのだろう?こちらはお前の補佐に回る。部隊員をこき使っても良い。何よりも優先されるのは団長の望み通りにする事。その過程でお前がいくら手柄を立てたか、ここから見させてもらう。武運を。」


精鋭三人に苦言を呈したリーダーだったが、彼とて三人を嫌っている訳ではない。寧ろ、永い時を団長と共に過ごした精鋭を尊敬してすらいる。

しかしだからこそ、任務に対し文句を言う行為が許せなかった。


とはいえ、一度の失敗で見捨てる事などしない。何故なら団長が許したのだから。

ならば、彼らの名誉挽回の為に手助けをするのはやぶさかではない。


アレウスはそんなリーダーの意図を正確に読み取ったようだ。

深く頭を下げ再び顔を上げた時には、眼帯の着いていない瞳に燃え盛る闘志が宿っていた。











「王を、貴族を殺せっ!腐敗しきった者どもを駆逐するのだ!」


民の行進は止まらない。

もう少し城に到達しようかという時、民の行進に立ち塞がる者たちがいた。


「これより先は国王陛下のおわす王城だ!この先に進む事はその命を捨てる事と心得よ!」


騎士団だった。

北の国には騎士団が複数あり、王都防衛の任に就くのは赤狼騎士団。

その先頭に立つのは大騎士の一人である。

騎士団長は城内にいるのだろうか。


「騎士がなんだっ!お前たちは国を護るのが仕事じゃないのか!それとも、民は国ではないと言うのか!王や貴族だけが国だと?そう言うのか!国王の犬め!」


しかし民は止まらない。まるでその意思を操られているかのように、その目は狂気に染まり、口々に王を殺せと言っている。


最早、言葉による説得は困難。

そう判断した大騎士の行動は早かった。


「総員、抜剣!一歩たりとも城の敷地を踏ませるな!但し、なるべく殺すな!」


そこからは城門前が阿鼻叫喚の地獄へと変わる。

武器らしい武器を持たぬ一般人と、それを食い止める騎士。

訓練の有無や体格の違いから、民の多くは血を流していた。

しかし、民の中には冒険者もいる。

手加減に集中していた騎士たちは、冒険者からの不意をついた攻撃に怪我人が続出。

それに憤慨した騎士が民を斬り捨てた事で状況は更に悪化した。


「騎士が民を殺すのか!それ見た事か!皆、騎士は王の犬だと行動で示したぞ!」


民の誰が発したか分からない言葉。喧騒の中何故この場のぜんいんに聞こえたのかは分からない。というより、そんな事を気にかける暇は無かった。


指揮を執っていた大騎士は、状況が不利になった事を悟る。

もう止められない。最早手加減云々と言っていられない状況になってきた。


更に状況を加速させたのは、赤狼騎士団の団員は殆どが貴族出身である点。

王と貴族に対する恨み言を延々と聞かされては、貴族たる矜持を持つ騎士たちが憤怒に塗れても仕方ない。


既に城門前は、民と騎士の戦争状態になっていた。




そんな中、更に状況を悪化させる事態が起こる。


「報告!東門を担当していた部隊が壊滅!指揮を執っていた大騎士殿は殉職なさいました!部隊が突破されたため、東門から一気に民が雪崩れ込んで来ています!」


「なんだとっ!?」


職業軍人である騎士たちを突破する事態が起こるとは一切考えていなかった大騎士。

東門を護る部隊は、彼と同じく大騎士の地位にある騎士が指揮していたはずだった。


「東側は城まで遠いのが救いか…。その知らせは城にも行っているな!?」


「ハッ!別の伝令が走っております!」


「ならば良し。我らは引き続き此処を食い止める。そのように城に伝えてくれ。」


伝令は敬礼して去っていく。

大騎士の表情は苦悶に満ちていた。


「友よ…。お前の働きは無にせんぞ…!」


東門を護る部隊の隊長は、彼の同期であり友であった。確かに、友は素行の良い人間ではなかった。だが、友だったのだ。何度注意しても平民を手にかけたり横暴な事を繰り返す友だったが、貴族である同僚には気の良い奴だった。

しかし、今は友の死を嘆く暇などない。己の任務に邁進せねばならない。


大騎士は拳を強く握りしめた。











「アレウスさんが東門の部隊を壊滅させたみたいっすね。ウチの連中も上手く民に混ざりましたし、予定より少し早いっすけど順調に行ってます。」


中隊長がリーダーに報告する。

リーダーは頷いてから隣に立つドワーフ族の青年を見た。


「では次の段階に行きましょうか。待機している中隊は直ちに城内に侵入。アレウスさんが大々的に突っ込んでいる間に諸々片付けてきて下さい。」


副部隊長でもあるドワーフ族の青年が、中隊長に向かって言う。

軽薄そうな薄ら笑いが標準装備の彼も、作戦行動中のためか真面目な表情で頷き魔法を発動させた。


『各隊に連絡。東門を突破したため予定より早いが次の段階に移る。各隊は作戦通りに展開せよ。』


彼の得意魔法である、念話魔法。彼の魔力が宿った物を所持している者に一斉に念話を届ける事が出来る。

遠距離の念話をも可能とするその魔法は、彼の体力や精神力と引き換えに圧倒的な情報戦の有利を生み出す。


今回は遠くても数キロ先に念話をしただけのため、疲れてはいないようだ。

この魔法が、今まで遠隔地でも本部へ迅速に報告を行える強みとして活かされてきた。


そのため、暁の任地はいつも内戦中の国やグラナルドの仮想敵国であった。

しかし最近、通信魔道具なる物が開発され各隊に配置されたため、どの部隊でも同じように活動できるようになった。


中隊長の彼は、俺のアイデンティティが…、などと言っていたが、副部隊長から、楽できて良いじゃないですか。それに貴方の能力の真髄はそこじゃないでしょう?などと言って慰めたとか。


リーダーたちがいるのは、北の国王都の側にある森である。

簡易的にテントを張り、そこを作戦司令部としている。

テントは広く、そこらの戸建て住居ほどのサイズだ。

入り口も広く、中には机と椅子、周囲の地図が張り出されたコルクボードなどがある。


テントの端には、テイマーの部隊員が鳥型魔物による現在の王都の状況を空から見た映像を映しており、その横では小動物型の魔物が見た城内の様子を映し出している。


「リーダー。国王が動きました。騎士団長が出てきますよ。」


そんなテイマーの隊員がリーダーに報告する。

自然と彼らの視線が映し出された映像に向かう。そこには、謁見の間で首を垂れる赤狼騎士団の団長と、玉座に踏ん反り返る国王が映っていた。


映像はかなり上からの視点だ。

謁見の間に立つ柱の上に登って見ているのだろう。


「団長が出るか。崩れかけた騎士の士気が持ち直す前にアレウスが討てるかどうか。東門の方に向かえば良いが。だがそれも好都合。そのまま民には城を踏ませない方がいい。東門突破の情報が民に漏れないようにしたか?」


「勿論ですよ。東門に誘導されていた民は既に北門と南門に誘導済み。扇動していた者も捕縛済みです。」


リーダーと副部隊長の会話を、中隊長は黙って聞いていた。


戦闘能力が突出していると思われがちな暁だが、こういった策も含めて汎用的な全ての能力が高い部隊だった。


彼らが冒険者だった頃から、討伐対象の魔物を誘導、己の有利な位置に誘き出し無傷で討伐する。こういう流れは常に意識していた。

ドラグ騎士団に入った事で、それがより専門的になり策の幅が広がった。


今も昔も、暁の頭脳はドワーフ族の彼、副部隊長だ。


彼は作戦が予定通りに進んでいる事に口角を上げる。

しかしそれも一瞬の事。次の事態に備えるべくその優秀な頭脳をフル回転させ始めた。











「ほぉ?それだけの人数で突破してきたのか?それとも、残りは皆死んだか?」


東門を突破し、真っ直ぐに王城を目指したアレウスと暁の小隊。

城内に入ってすぐに声をかけてきたのは、豪奢な鎧に身を包んだ壮年の男だった。


彼の後ろには多数の騎士がいる。そんな騎士たちのマントには揃いの刺繍があった。


黒のマントに赤の刺繍で狼と北の国の国花であるエーデルワイス。

その下には剣と盾。

赤狼騎士団の紋章だ。


「赤狼騎士団団長か。止められるのか?大騎士を討ち取った私を。」


アレウスが赤い絨毯が中央に敷かれた階段の上にいる騎士団長に答える。

騎士団長はニヤリと口角を上げ、その後鼻で笑った。


「お前が東門の大騎士を斬ったのか。彼奴は大騎士と言えど実力はその辺の騎士と変わらなくてなぁ。それで士気を上げられても困るのだよ。第一、あの程度の者にそこまで人数を減らされたのだぞ?それよりも圧倒的に強いこの私に対してその人数で挑もうなど、愚の骨頂だと気付かんのかね?」


階段上で後ろに部下を引き連れ、まるで国王の演説のように両手を広げ悦に浸る団長。

部下の騎士たちは油断なく見ている者もいるが、その大半は団長と同じく侮蔑に満ちた瞳でアレウスたちを見ていた。


「御託は良い。その道を開けろ。開けぬのならば、斬るっ!」


アレウスの言葉で、一斉に駆け出す小隊員たち。当初の作戦通り、アレウスとこの小隊は国の目を集める囮。そしてその他にも、今回の内乱に合わせて北の国の膿を除く任務があった。


団長を膿だと認識したアレウスは、駆け出して直ぐに跳躍。

東の国特有の反り返った剣、つまり刀を横薙ぎに振るう。

それだけで騎士団長の首と胴体が分かれた。


一瞬の間の後、噴き上がる鮮血。

返り血を浴びる位置にいたはずのアレウスは既にそこにおらず、先ほどまでアレウスたちを侮蔑の眼で見ていた騎士だけを選び首を落としていく。


その間に小隊員たちは、油断なくアレウスたちを見ていた騎士たちを昏倒させるに留めていた。

彼らの任務のためである。


高級な赤い絨毯は、騎士たちの血で赤黒く染まっている。

ほんの数十秒で生み出された惨劇とは思えぬ程凄惨な状況である。


そんな中、返り血一つ浴びていないアレウスが納刀しながら言葉を発した。


「よし、次にいく。ここで騎士団長が出てきたのは行幸だった。別の門に向かわれていたら面倒だったしな。何より、騎士の士気が上がる前に討てたのは大きい。」


アレウスの言葉に、小隊員たちは揃って頷く。

同じ零番隊とはいえ、アレウスはその中でも精鋭。小隊員たちにとっては己が部隊長よりも強い存在に憧れも尊敬もある。

今回はどうも失態を晒したらしいが、それでも精鋭の実力に不安がある訳では無い。


流石の実力だ、と互いに頷き合った。

お読みいただきありがとう御座います。山﨑です。


先日、総アクセス数が5000を突破しておりました!更に更に、ブックマークを付けてくださる神のような方が10名に増えておりました。

誠に有難う御座います!


あぁ、やはり日本には八百万の神がいらっしゃる!

作者はそのような喜びに胸が打ち震える思いで御座います。


まだまだドラグ騎士団と世界のお話は続きますが、どうぞこれからも宜しくお願い致します。


…という話の後に大変恐縮では御座いますが、これより二週間ほど仕事で家に帰れません。

携帯での執筆ですので、少しでも執筆出来ればと思ってはおりますが、朝から夜遅くまで動いているため、更新がいつも以上に不定期になってしまう事をお詫びと共にご報告させて頂きます。


楽しみに待ってくださっている方がもしいらっしゃいましたら、ご迷惑をおかけする事大変申し訳なく存じます。

皆様の、ヴェルムのような広い心とガイアのような朗らかな笑みで温かく見守って頂けると幸いです。


本作品が、読者の皆様の日常の一つの華となりますよう。

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