護国騎士団 1話
その日、グラナルド王国の首都、アルカンタは異様な盛り上がりを見せていた。
それもその筈、護国騎士団である"ドラグ騎士団"が隣国からの侵略に、完勝という形で凱旋したからである。
アルカンタのほぼ全ての市民が大通りにいるのではないか、というほどに、見渡す限り人、ヒト、ひと。
それぞれに花びらを撒き、歓声をあげて騎士団を祝福する。
おそらく、花屋という花屋が明日売る分が無くなったであろうほどの花吹雪に包まれながら、黒く大きな軍馬に跨る甲冑の偉丈夫を先頭に、騎士団は石畳の大通りを進む。
「毎度の事ながら、流石に凄いお出迎えだなぁ。花で周り見えねぇのが困るし、何より掃除大変だろうなぁ。これ、止めた方がいいんじゃねぇの。」
気怠そうに馬上でため息と共に、そんな言葉を吐きながら真っ赤、いや紅の髪を掻き上げる大柄の男。
「そうかな。僕は結構気に入ってるけど。沢山の種類の花びらが舞うこの光景は、騎士団とそうでない者の見る立場によって変わるから。どちらも知っている僕は、その違いが良いものに見えるんだ。何より、花びらの掃除は貧民層の労働になるので有り難がられているから。」
そう答える若い男は、先ほどの男へ向けて数多の女性を落としてきた笑顔を返す。
コバルトブルーの瞳に深蒼の長髪の若い男は、気怠そうな気配を隠しもしない隣の男の燃えるような紅い髪と並べ、国民からは"焔海の両壁"と渾名される。
「まぁ、な。でも、視界悪いのはいただけねぇよなぁ。それだけどうにかなんねぇかなぁ。まぁなんでも良いんだけど。早く帰って珈琲飲みてぇ。」
怠そうな顔と態度を更に怠そうにしながら、カップを掲げる仕草をする。
「ガイア、せめて市民の前では格好いいままでいて下さい。騎士団への夢を壊してしまいますよ。」
ガイアと呼ばれた紅い髪の男は、へぇへぇ、と言いながら背筋を伸ばす。馬の首を撫でながらだが、表情はまだどこか気怠そう。それに、何故かその馬も何処となく怠そうな表情に見えるのは、主人に似るという事であろうか。
「もう少しで騎士団本部です。そこからは市民の歓声だけで、視線や花びらはないから。我慢我慢。」
「分かってるよ。何度も通った道だ。それよりアズ、報告書出した後時間あるか?一杯やろうぜ。」
言いながらもカップを掲げる仕草をするが、先ほどは同じ仕草で珈琲を飲んでいなかったであろうか。ガイアにとって飲むという行動は全て同じ仕草で済ませるものであるらしい。
「構いませんよ。団長への報告は一緒ですし、報告書も殆ど書き上げております。どうせガイアは副隊長に押し付けるでしょ?それならお互い手が空く時間は、そう変わらないかと思うけど。」
少しも考える時間を置かず、即答でそこまで答えるアズ。ガイアも少し苦笑いしながらも、なんか良い酒あったかなぁ、等と呟いている。
「丁度先日、北方のワインが手に入ったから、それを空けましょうか。あぁ、でもまずはガイアの淹れた珈琲が飲みたいかな。それを対価に。どうです?」
笑顔で首を傾げながらガイアへと問う。長い深蒼の髪が風に靡く。
「あぁ?そりゃお前が来るなら珈琲くらい何時だって淹れてやるさ。それに、俺が今無性に珈琲飲みたいんだよ。それにも付き合ってくれるってんなら、ワインでもなんでも持ってこいや。摘みはこっちで用意しとくからよ。確か、こないだ貰った高ぇチーズがあった筈だ。」
ガイアも表情をコロコロと変えながらもアズに向かって笑顔を返す。
それを見た市民ー主に女性ーが、黄色い悲鳴をあげる。その後倒れる者が多いため、大丈夫か!や、女性が倒れた!という声もよく聞こえる。
アズとガイアの後ろでは、呆れた顔をした部下が自身の背中に手を遣り合図を出す。
更にその後ろで数名、騎士団がパレードから抜け出した。
これは何時もの事であり、ガイア率いるドラグ騎士団一番隊、アズ率いる二番隊共に慣れた行動である。
そう、部下は倒れた女性の介抱に向かうのである。
ガイアもアズも過去、自身で女性の介抱に向かったことがある。が、首の後ろに手を回され、抱き抱えられる形になった女性は目をこれでもかと見開いた後、絶叫して気絶する。
助けようとして逆にダメージを与えるのは本意でないと、部下に全て任せる事にした二人は、なるべく騒ぎの方へ視線を向けない。
というより、そもそも市民へあまり視線を向けない。
これも過去、二人の視線が向かったのは私だ、いや私だ、と流血事件にまでなったからである。
「相変わらず護国騎士団は凄い人気だねぇ!」
「なぁに言ってんだい!あんただって凱旋したのが四番隊だったらとっくに駆け出して行ってただろうに!」
「あはは、違いない!」
護国騎士団とは、読んで字の如く。国を護るために存在する騎士団である。
彼らは侵略戦争には出ない。他国から攻められた時、魔物の被害から民を護るため、そういった時に出撃する。
そんな護国騎士団は、建国史上常勝無敗。強すぎるが故に、他国への侵略戦争にも出撃の指示があったとか無かったとか。
国民の間では、実に様々な噂が飛び交っていた。
"建国当時、建国王と天竜が契約し授けた騎士団らしい"
"団長は騎士団創設から三百年経った今でも同じらしい"
"国王や貴族でもこの騎士団には命令出来ないらしい"
"団員同士は家族のように仲が良いらしい"
他にもあるが、自分たちを命懸けで護ってくれる護国騎士団に感謝する気持ちは本物だ。
日頃街を巡回する騎士に差し入れをする国民も少なくない。
街の若者は、そんな騎士団に憧れて入団試験を受けるのだ。
しかしそれも狭き門。ほとんどの者は失格し、また修行に励む。
だからこその憧れの強さもあるのだろう。
グラナルド王国にドラグ騎士団あり。
諸外国からそう言われるのも頷ける。
噂は噂だが、果たしてどこまで本当でどこまでが噂に過ぎないのか。
これから共に見ていこう。
お初にお目にかかります。山﨑と申します。
まずは、読んで下さった読者様に感謝を。
初投稿になるため、何もかも初めてで、なろう様のサイト、全く使い方が分かっておりません。
誤字や脱字、間違った文法が御座いましたら、お手数ですがメッセージをお寄せ頂ければと思います。
第一話はかなり短くなっておりますが、二話からはもう少し長いページになる予定です。
また、仕事の合間での執筆ですので、投稿が不定期になる事もあるかと思います。
皆様の、広い心と温かい目で見守って頂ければ幸いです。