後日 電話にて
× × × ×
十二月二十三日。
××××高校大虐殺事件に続く、第二の虐殺事件が発生した。
×××市のピアニスト、東期流(二十四歳)が何らかの理由により、自らも出演を予定していた×××市クリスマスコンサートのゲネプロに参加していた関係者全員を殺害、逃走した事件である。俗称は『聖夜のカーニバル』と呼ばれ、××××高校の事件に告ぐ混乱が起こることが予想できる。
唯一現場に居合わせ生存した出演者、時噤春風さん(十六歳)は容疑者と格闘したと見られ、左腕に軽症を負ったものの、命に別状はなかった。同人の衣服に付着した結婚から、容疑者は春風さんの所持していたナイフによって負傷したと見られており、警察では医療機関などを中心に捜査を進めている。
× × × ×
ヴーン ヴーン ヴーン ヴーン ヴーン
ヴー
ピッ
「もしもし?」
『………やあ、はじめまして。時噤春風君』
「……誰だ?」
『僕かい? 僕にはいろいろな呼び方がある。親しい人は僕のことを「ナナ」と呼ぶし、それほど親しくない人やちょっと特別の関係がある人は「ゼロ」と呼ぶ。だけど初対面な君にはこう名乗るのがよさそうだ』
「…………………」
『はは、あきれてるね。確かに、自分でもこの口上はどうかと思うよ』
「……いいからさっさと名乗れ。お前は誰なんだ」
『××××××』
「……………! お前、××××高校の………」
『ご名答。紆余曲折あって、今は桶中さんと仲良くやっていてね。君が惨劇に巻き込まれたって知って、話してみたくなったんだ』
「………どうやってこの番号を知った?」
『桶中さんから聞いた。ちょっと話してみたいって言ったら、二つ返事で教えてくれたよ』
「………っ、あんまり教えるなって言ったのに――――」
『それは彼女を信用していないってことかい? 言っておくけど、彼女、とんでもなく君の事を信頼してるよ』
「それは知ってる。……というか、待て。他にも俺のこと、聞いたのか?」
『うん、もちろん。「いろいろと頼りになる兄さん」ってね』
「それだけか?」
『あと屋敷戸さんとのこととか。なかなか進展しないんだってね、お二人さん。同居し始めて2年になるのに』
「………まったく、あいつは」
『何? 本気で彼女のこと、信じてないの?』
「いや。人の心配してる暇があったら、自分の心配してろといいたいだけだ。信頼してないわけじゃない」
『ひどいことを言うね。それでも彼女の兄かい?』
「兄じゃない」
『じゃあ、兄代わり?』
「血縁的には、叔父に当たる」
『へ? ってことは、桶中さんって君の姪なの?』
「ああ。歳の離れた兄の子だ。更に暴露するなら、母親の血筋は儚梨に――――原初の事件の犯人に通じてる」
『と、言う事はセリカは君の――――』
「義理の、姉だな。若干向こうのほうが年上なんだ」
『へえ………セリカの……という事はセリカにとっても姪?』
「みたいだな。小さい頃に、俺もあいつに一度だけ会ったことがあるけど――――妙に老成してたな」
『っ、らしいね、らしすぎるよ。それでこそセリカだ』
「笑うところか? そこ?」
『いいや、退屈な入院生活の間に幼少時代のセリカのこと創造してみてね、あまりにも想像しにくくかったから逆に安心感が――――』
「退屈な入院生活の暇つぶしに、三里を使うなよ」
『使ってないよ。それに、使ってたとしてもお互い様だ。いろいろと相談に乗ってるし、それなりに助け合ってるよ』
「…………その点だけは感謝しておく」
『お礼はいらないよ。お互い様だし』
「それはもう聞いた」
『けど………君も屋敷戸さんも、厄介な出来事に巻き込まれたね』
「ああ………あれか」
『面倒ごとは突然布って沸くから、警戒しておいたほうがいいと先輩から忠告しておく』
「面倒ごと? 例えば?」
『正当防衛の容認とか』
「それはもうクリアした。ちょっとてこずったけど、監視カメラの映像は嘘をつかない」
『警察関係者の監視の目とか』
「それもさしたる問題じゃない。完全な正当防衛、精神鑑定も受けたが大きな異常は見当たらなかった。マークは外れてるよ」
『マスゴミ連中の、夜襲とか』
「あいにくだが住所は公表してないし、最近は仕事も多い。その時に多少見るけど、事後関係がいろいろと有利に働いてる。警察も情報規制しいてるから、それほど大きくは動けないだろうな」
『………うらやましい限りだ。僕なんてあの事件の後やかましかったのなんのって………』
「そりゃ、悲惨だな」
『ああ――――まさか連日連夜押しかけてくるとは思わなかった。病室に入りきらないからって部屋の前に列が出来てたし、中に入ってくる会社の数も、一つや二つじゃなかったし。それにジャーナリストを名乗る犯罪者の夜襲もあった』
「…………夜襲?」
『うん。窓から入ってくる人間なんて、初めて見たよ』
「…………病室、何階だったんだ?」
『三階。丁重にお帰り願ったよ。いや〜日とって案外丈夫な門なんだよね。あの事件以来完璧に忘れてたけどさ』
「異常者が………で、用件はなんなんだ? こんな下らない話のために、わざわざ三里から番号聞き出したわけじゃないだろ」
『ああ、ちゃんとした用件もある』
「何だ」
『東期流について、知っている限りの情報が欲しい』
「……どうしてだ?」
『第二の惨劇の主だから。間違いなく、何らかの形でセリカに関わってると思うし』
「……お前、いまだに執着してるのか?」
『まさか。死んじゃった後まで執着するつもりはないよ。ただ単に、彼女の人生に興味があるだけ。あくまで予想だけど、僕たち以上に彼女を知っている人間はいないと思うからね』
「……だからといって俺がお前に協力する義務はないわけだが」
『駄目だったら屋敷戸さんのほうにターゲットを帰るよ。たぶんちょっと詰問したら話してくれると思うよ。儚梨さんの友人のカルテット、その一員だって聞いたし』
「……………」
『僕としてはあの惨劇の現場で言葉を交わしたであろう君から話を聞きたかったんだけど、君がノーというならしょうがない。屋敷戸さんに標的を変えさせもらうよ』
「……………………どの程度の情報が欲しい?」
『うんうん、素直なのはいいことだといわせてもらおう』
「………切るぞ」
『ああ、ごめんごめん。ちょっと遊び心が出た』
「下らない遊び心だな」
『うん、自分でもわかってるよ。で、情報は基本的な部分は大体欲しいんだ。どうして彼がああなったのか、どうして惨劇なのか、ちょっと興味があるからね』
「関係性、とかか?」
『もしあるならね』
「流は、儚梨セリカの実兄だ。俺も始めて聞いたからどういう経緯を踏んだのかはわからない。けど、セリカの実兄だというのは事実らしい」
『え? セリカの、兄?』
「知らなかったのか?」
『うん。ちょっとした期間友人だったけど、家族の話を聞いた事はなかったから』
「なるほど…………」
『で、動機のほうは?』
「恐らく、『儚梨セリカの理解』だろうな。本人が言ってた」
『確かに、らしいね。君と殺し合いを演じることになった原因って言うのは?』
「儚梨セリカが屋上で殺し合いをお前と演じたから。同じことをして、理解したかった、ということだろうな」
『うぇ…………ぞっとしないね。彼女の動機を考えると』
「…………深くは突っ込まないで置こう」
『君の精神的な健康を考えると、そうしたほうがよさそうだ』
「そうさせてもらう。で、ほかに聞きたい事は?」
『う〜ん…………これ、聞いていいのかな………』
「とりあえず言ってみろ。それから判断する」
『君、どうして東期流を殺そうと思ったの?』
「………は?」
『だって君、残されてたはずだよね、逃走するって言う選択肢。なのに君、逃げる道をすてて殺し合いを選んだんだよね? これ、どうしてなの?』
「………脅されたからだ。俺がにげれば、楓を殺すと」
『それにしたってあまりにも不可解だよ。何しろ、彼は一瞬で空間を飛び越えられるわけじゃない。人間なんだ。加えて彼には四十五人を殺害した疲労もあったはず。つまり、君が一気に走って屋敷戸さんのところに到達し、二人そろって逃げれば殺し合いなんてしなくて済んだんだよ。
なのに、君は殺し合いを選んだ。
これ、どうしてなのかな?』
「……………………」
『まあ、大筋予想は付いてるけどね』
「……きこう」
『君は彼女を守ろうとしたんじゃないかな?』
「……守るなら、お前のやり方で十分だろう。理由になってない」
『い〜や、これは立派な理由だよ。何しろ、君が全力疾走したところで屋敷戸さんのところに先に到達できる保証はないし、それに屋敷戸さんが中に入ってきて君のことを探している可能性もゼロじゃなかった。つまり、不確定要素があったってことだよ』
「………………」
『不確定要素があった以上、「屋敷戸楓が東期流に殺害される」可能性はゼロじゃない。君は恐らく、その可能性を排除したかったはずだ』
「………………」
『そのためには、どうすればいいか』
「………………」
『簡単だ。君が東期流その人と相対すればいい。そして、彼が言うように君の手で彼を殺してしまえばいい。死人には何も出来ないわけだから、当然彼は屋敷戸さんを殺すことが出来なくなる』
「………………」
『正解、かな?』
「……………その、とおりだ」
『そっか。いや、あっててよかったよ。これで僕も、確信が持てる』
「何の?」
『君も、僕の同志だって事さ』
「………同志?」
『ああ。ちょっと格好つけて言うなら、「狂気に巻かれし者」ってところかな? 歯に衣着せずに言えば、異常者だ』
「どうして、そうなる?」
『だってこれ、自分の命よりも他人の命を優先させたってことだよ? そしてその一人の命を守るために「自らが殺される可能性」と「自らが人殺しになる可能性」の両方を背負った。これ、まともな神経じゃ出来ないよ』
「だから俺がまともじゃないと、そういいたいのか?」
『うん。そういうこと』
「極論だな」
『そうかもね。それに君があの瞬間だけ、冷静な判断が出来ていなかった可能性もゼロじゃないわけだ。だけど、三年前にしたところで不可解な事はある』
「………三年前、か」
『ああ、三年前だ。何かあった時にしか連絡しない桶中さんのところにどうして君は連絡したのか、三年前にあった事件に何か関連した名前はないか、そして今回の予想からずれた回答は出ていないか、全てを問えば、おのずと答えはでる』
「………………」
『他人の幸せ一つのために、トラウマの原因一つを排除するために、一人の人間を殺害するなんて、僕は正気の沙汰とは思えないんだ』
「…………お前も、気づいたか」
『うん、ちょっと苦労したけどね』
「頭は、いいんだな」
『よく言われる。でも、これで君が僕の同志だということに確信が持てた』
「確信が持てたら、何なんだ?」
『少しばかり、誘いたい場所がある』
「どこに」
『××××高校。僕が惨劇に出くわしたその場所に、きてほしい』
「いつ」
『大晦日の昼に。その間に、僕は彼女の妹と桶中さん、可能なら志賀野さんも連れてそこへ行く。出来れば君も、きてほしい』
「……どうして、俺がそこへ行かなきゃならない」
『君だけじゃなく、屋敷戸さんにもね』
「……なぜだ」
『惨劇に出くわして数日後に、絵描きに言われたことを検証してみたくてね。もしそこで結果が是と出たなら………そのときはそのときで、また話すよ』
「………………わかった」
『あれ? 意外と早く所諾してくれたね。もっとごねると思ったのに』
「俺も、××××高校には行きたかったんだ。なぜだかは知らないけど、な」
『………決まりだね。じゃあ、大晦日の昼、××××高校であおう』
「ああ。その間、お互い人殺しには出くわさないようにしないとな」
『自分自身が、そうならないようにもね』
「同感だ」
『じゃあ、これでしばしのさよならだね。
またあおう、時噤春風』
「ああ、しばしの別れだ、
会いたくはないが、会うことになるだろう。零××七×」
プツッ
ツー ツー ツー ツー
ピッ
murders 十二月の予定表
7日 ××××高校の惨劇
零××七×、入院。儚梨セリカ、死亡
9日 ×××中学の悲劇
儚梨緋鞠、入院
10日 零××七×、意識を取り戻す
13日 ×××市第一通り魔事件
桶中三里、志賀野八宵、入院
17日 桶中三里、零××七×とであう。
18日 零××七×、桶中三里、儚梨緋鞠に会う。
不法侵入。入院期間延長。
23日 聖夜のカーニバル事件。
時噤春風、負傷。
零××七×、屋敷戸楓とひそかに会う。
31日 ××××高校で会合予定。
惨劇にならなきゃいいなあ……