第八話 提案
「いつも通りカードでもやる? 時間もあと少ししかない」
「残念だけどカードができるぐらいまで回復してないの。妄想がたくさん膨らむのだけど」
「じゃあどうしてそんな話を?」
「大学に入って社交界っていうものと疎遠になっていたから、あなたと話をすることで雰囲気だけでも思い返したくなった」
「仮面舞踏会の話ね」
「だって今の私の興味を惹く話しなんて、それくらいしかないもの」
興味を惹かれるのはよくわかる。
しかし、たくさんの舞踏会を開かれては、セナは困ることになる。
残業が増え、超過勤務が続くと、このホテルでは強制的に休みを取らされるのだ。
セナに、休みを取得する予定はまだなかった。
「そんなにたくさんの舞踏会が開かれると困るのよ」
「あなたの仕事が増える?」
「そういうこと」
「だったら一つ提案があるんだけど」
病人のはずのミアの目が怪しく輝いた。
手にしたチケットを取り出すと、セナの手の中に渡してくる。
「私ねこうやってチケットを持ってるの」
なんだか嫌な予感がした。
悪寒が背中を這い上がってくる。
「……あと二日であなたをどうにか動けるようにすればいいのね? 女神様に祈ればそれは叶うかもしれない」
「ううん、違うの。そういうことじゃなくて」
「だって――あなた一人じゃドレスなんて着れないじゃない。その手助けと、髪のセットと爪の手入れをして欲しいってことじゃないの?」
残念、と親友は首を振った。
そうではなくて。
「違うの。そのチケットはあなたに差し上げます」
「どうして――っ?」
驚きの提案だった。
セナは絶句し、まだ元気の回復していな顔を輝かせている幼馴染の公爵令嬢を見つめた。
彼女はいったいいつ頃からこんな悪い冗談を口にするようになったんだろう?
四年間も会っていないと人はそういう風に変わるもんなんだろうか。
冗談に決まっている。
このチケットは安くても金貨百枚はする。
招待客にはチケットが送られるが同時にそれを購入しなければならないので、どれほどの名家であっても、それなりの資産がないと、仮面舞踏会に参加する権利を得ることはできない。
単なる客室の清掃係に、そんな金貨百枚もする高級なチケットを与える馬鹿が、どこにいるものか。
これは決して善意の申し出ではない。そんな気がした。
「どんな交換条件が待ってるの?」
「交換条件なんてそんな……。私はただ、誰も立ち寄ってくれないこの寂しい部屋で毎日のように私のことを心配してくれて時間を割いてくれるあなたに恩返しがしたかっただけなのに」
「それ本当に? 本気で言ってる? こんな一枚が金貨百枚もする高級なチケットを私に譲るっていうのはちょっとおかしくない?」
「へへへ……」
ばれたか。
そんな顔をミアはした。
やはり隠された思惑がある。
もしかしたら実家と関わる問題かもしれない。
ここは慎重に話を進める必要があった。
「代わりに見てきてほしいの」
「どういう意味?」
「その仮面を被って私のドレスを着て、私の靴を履いて、私になりきって。舞踏会を楽しんできてほしいの。私が個人として参加できるのはこれが最後だから」
「……結婚が近いってこと?」
うん、とミアはこくんと肯いた。
今の恋人とうまくやっていけてるなら結婚にそれほど不安を持つこともないと思うけど。
「今回の旅行は、本当にただの観光?」
時間を気にしながらそんな質問を振ってみる。
ミアの瞳は困ったように揺れた。




