考察
つなぎ的な話なのでものすごく短いです
「何があったの、大丈夫!?」
ミスティアがヒュドラに駆け寄ってきてからの第一声がそれだった。ヒュドラはそんなミスティアを軽くなだめる。
「私は、この程度は怪我に入らないと以前から言っているでしょう」
「それはそうだけどさ……」
ヒュドラは人間の姿をしているが、実際は人間ではない。そのため異様な再生力を持ち、先ほどジィンから受けた傷も既に再生している。
「私は生涯をウラヌス家の剣にして盾として捧げた身。この程度で死んでいては名折れと言うものです」
「それはあたしが物心ついた時からずっと言ってるじゃん。それで4000年も仕えるなんてすごいよ」
「そうですかね」
ヒュドラはウラヌス家が帝国の貴族になる直前くらいから従者として仕えているという。そのため両親を早々に亡くしたミスティアにとってヒュドラは親代わりであり師でもある存在なのだ。
「ミスティアの方は何かありました?」
「教団員があたしに接触してきた」
「——ッ」
ヒュドラは息をのむ。まさかここまで接触してくるのが早いとは思わなかったからだ。
ただヒュドラも思うところがなかったわけじゃない。
「私も、自身をアシェッド・ブラヴァツキーの娘だと自称する子供と戦闘になりました。相手方もアシェッドを捜索している様子でしたが、ロウという男に連れられ去っていきました」
「じゃあアシエの娘はロゥの仲間ってことかな。となるとその娘も教団員だと考えるのが妥当……。と言うことはそこに転がっている双子?の死体はその子の手先?」
「いえ、そこの死体も彼女です」
「《《も》》ってどういうこと?アシエの娘は複数人いるの?」
意味が分からないという様子でミスティアは尋ねる。しかし実のところヒュドラも理解に苦しんでいた。
「アシェッドの娘――ジィンと名乗る子との戦闘で、私は少なくとも2回は彼女を殺害しました。しかしその度に全快の状態で復活していました」
「まさかヒュドラと同じ再生能力を持っているの?」
「それはあり得ません。生命活動が停止した時点で再生能力も発動しなくなるはずです。加えてあれは、回復したというより現れたと表現した方が近いと思います。」
「じゃあやっぱり何らかの操術による効果なのかな……」
考えれば考えるほど謎が深まる。操術と一言で済ませてもその総数は無限大。その分似たような操術も数多くあるが、それだけ戦術に変化が生じる。つまり理論上蘇生や再生と言った反則級の力を持つ者が存在していても何ら不思議ではない。
「とりあえず軍にも持っていかないと駄目なレベルの案件だし、共有しておいた方がいいね」
「ええ。軍も忙しい時期ですがその方が良いでしょう」
二人はジィンの二つの死体を一瞥するとそれを背にして歩き出す。
「その前にこの付近を通行止めにしないといけませんね」
「それは心配しなくていいよ。もうすぐ来ると思うから」
まるでこうなることを予測していたような手際にヒュドラは驚く。
「随分手際がいいんですね」
「あたしが教団と接触したということは、ヒュドラも同様である可能性が高いわけじゃん?なら戦闘に発展してる場合もあるから、ヒュドラを探す前に操術師部隊を動かして警戒に当たらせたの。多分もうすぐ来ると思うよ」
噂をすれば影が差すとはよく言ったもので、丁度路地裏を通って軍の一般兵が数人現れた。兵たちは町中のため目に見える武装こそしていなかったが手にはライターや扇と言った道具を握っている。
兵たちは血だらけのヒュドラとその近くの死体を交互に見る。
「あのヒュドラ様が怪我……?」
「領内で歴代最強の戦士だぞ、相手はどれほどの手練れだったんだ……」
戦慄した表情で兵たちは二人に駆け寄る。兵のうち一人はポケットから手のひら程度の大きさの四方形を取り出して耳元にあてて通信しているようだ。
「ヒュドラ様、ご無事ですか!」
「ええ。それよりもこの通り一帯の通行止めを頼めますか」
「問題ありません、サー!」
「あとそこの破壊されてしまった場所については後日業者に依頼しますので、そのことを持ち主と大家さんに伝えることも任せます」
敬礼を返す兵たち。直後彼らは両サイドの道へ分散していった。
「この様子じゃ操術師部隊である必要はなかったかもね。武装しても目立たないから選んだんだけど」
「警戒に越したことはありません。何より操術師は一般兵よりも戦闘力がありますしね」
「備えあれば憂いなし、でしょ?」
「はい。ではそろそろ行きましょうか」
二人は顔を見合わせるとミスティアはヒュドラを置いて飛びあがる。軍の駐在する防衛本部があるのは北西の外周だ。丁度ここから反対方向に位置するため、ミスティアは街を横断する形で防衛本部へ向かった。
次回からは一話が4000~5000文字程度になると思います