青く詩的な小品、「毒リンゴと解毒剤が同じ数だけあれば毒リンゴしか食べなくても人は生きていける。」
登場人物
工場少年……視点人物。あくせく働く茶色のガスケット帽の少年。ハイティーン、160程度。帽子のつばは上方からの光を浴びると顔に影がかかるほど。暗部も含めた周囲の世の中にそれなりに順応してきており、大味で風に舞うシルエットの上着と合わさった悪戯な笑顔も似合うけれど、本当は純真な性格。
上流少年……プライドばかり高いが実質的には中の上程度の格の家に生まれ、その教育の世界だけを選ばされている少年。ハイティーン、160弱。品のある学校の制服を着た姿、その見目は髪も肌も瞳も小ぎれいに整えられ美しいが、知り合いの目の無い所では前を開けたカーディガンをゆるく揺らつかせる格好が好みで、態度も……。
家の方針に反発的で、偽善に満ちた世界に反吐が出るような価値観が内心にある危ない少年。
その日いつもの通りに休みの1つの変哲もない日常を下がりをぶらぶら歩いているともくもくと煙をふかすつまらぬ若ったれの「ぐる」が僕に絡んできた、それらは同い年だというのに妙に艶のはった質のいい服を着て然して代わりに瞳はだらしなさそうにむつりとして言葉の一つ一つから何やら良さげな教育を受けていそうな者たちであった、服の布地やまして産地や端のぼろ切れだとかに見向きもしない自身とは大違いでただ一つ親の的外れのようなしかし擽るような拘りで与えられたショルダーポーチだけが彼らと張り合いになるほど上質であった、だがそれに難癖をつけることこそ死ぬほどに暇な若たれたちの話しかける目的であった
こんなものを身につけていいと思ってんの?
ほら、またつまらないいびりが始まる。少しだけ年が上なのか栄養や血が良いのかはてはこういういやがらせをするのは背の高いやからと決まっているのか、何かと少しだけ上からなのを盾に数の前に僕は黙りこくっていた
ありえないのはそこからで一人の少年が思いっきり信じ難い速さで若たれの一人に倒れかかった 殴打音と若たれの背の相当の鈍痛と共に現れた彼は若たれ共と同じぐらい質のいい服に曲げしわを作ったまままくし立てる
すみませ~ん!何してました?楽しいことすか?混ぜてくれます?それとももしや御父兄にとても言えないことですか?あっごめんなさいね、まさかまさか、ぼくの脳細胞って汚れてるから、名誉を毀損してしまうような発想が出ちゃうんですよね〜!
少年を煙たがった若たれたちは霧のようにしずしずと去った その少年はただあれしきのものを自分が気に入らないだけで礼なんかも要らないと言った、身なりは連中と同じようなのに表情は下品に、いな常に品性を纏うように教えられてきているからこそ気品のありかを超えない範囲で悪い満足に浸っているその表情は蠱惑的だった この年の近い変ちくりんが何者なのか僕は興味が出てきたのだった、提案が僕の体を使う
二人で少し話をしてみようと近場の手頃なカフェに入り青い光の差す窓辺で話し込む これがいいって固い甲冑をほどいて、白のシャツにゆるりとカーディガンを見せた少年は、少年のお喋り舌はバラバラ撒き散らす毒舌使いなのだった
例えば「インテリには手足の代わりにとても大きな頭がある、そして手足を張って人を助ける代わりにその頭で人を助ける空想を作り出すことが彼らの特技だ」だとか、「周りのみんなは勝利を好んでいるのさ、僕ももちろんそんな彼らが好む枯れ果てて手段が目的で空虚な勝利が大好きだ」とか、そんな具合のきっと彼の学校のご友人の前でとても言えない様なめちゃくちゃをおし立てる波にして吐きまくる、僕なんかの前でしか言えないのだろうか そんなことならと僕も正直に言った、僕はインテリが羨ましい、何となく憧れてるんだよ、広い世界が見てみたいんだ、僕だってその、ほら、一応「男の子」だしさ……?うわぁ恥ずかし、言いたいことぶちまける彼の調子にのせられた。
しかし彼は見ると笑っている。おし殺してしかし腹を抱えて激しく笑っている、何それ……何それっ……!って言っている 何が笑いどころなのかさっぱりだ
それから少年は言った、ああでもそれならぼくにもあげられる、そんなものなんかでいいならぼくの全てをあげてもいいな、必死にきみの為にそれしきのものを探し回れる、例えば青く広大な海を行き交ってものを届ける船の話や、何十フィートもの巨大な機械をガシャンガシャンと稼働させて産業の土を作り出す工場や、果てまた神秘に満ちた僕らの上に漂う宇宙世界の話か、或いは逆に地面の下で万や億といった底知れぬ時の中を歩み全ての生物の歴史を紡ぐ大地の話か、そんなものでいいなら幾らだって教えてあげられるさ、と 御託はいいから今すぐ何か話せよ、キミのへらず口は気分悪いからね、とせがむ。彼も負けじと君の純朴さには驚いたものだなと言い返しつつ、鞄の中から、じゃあこれは、と厚めの冊子を一つ取り出した さらさらと風を詠む説明が始まる
ほら、この本に乗っているのは『錬化……』、いや『化術』と言うものでね…… 様々な色どりをした見たこともない画像で説明と踊りながら所せましとぎゅうぎゅう並べられた本の世界がめくられていく この物質はこんな色の反応を起こして、それでなんでかって言うとそれは「親和力」がね……っていうのはまあいいか、そこは地味だし…… 彼が話し終えると初めて見る世界があざやかに色づいて僕の中に満足感として残った
うん、良かった良かった いいもの見せてくれてありがと って言うと、彼はよかったよかった、じゃないでしょってすかさず言う、次は君の話す番だよ、くだらない大人たちが押し付ける制度に従う曇りと、その中で一人ひとりの人々が自分の中から見つける本当の光と、その両者が入り混じった本物の生の話が、ぼくはたくさん知りたいんだと。そんなものでいいの?と思いながら僕は話し始める。
うすっぺらな生家の、じじくさい工場の、少ししかメニューのない行きつけた食堂の、酸いも甘いも、汚れも清きも、彼はそれの何を聞いても嬉しそうにするのだった。何がそんなに良いのだろう?彼は自分の周りのインテリを見下げた言葉で大違いだって言って比べてこき下ろした。少しむっとする。インテリの世界は僕の憧れなんだ、そんな風に悪いところばかり見る君の悪舌が嫌いだと言ってやる。彼も君の平凡な俗物根性が嫌いだって返してくる。けれど二人ともこの店のバニラクリームのフロートしたグリーン・ティーのラテが好きなのは一緒だ、って言うと確かに、って返ってきて、気恥ずかしい空気が流れて少し環境音の任せるままにしてしまう。同じ注文をしたグリーン・ティーのラテを少しずつ飲みこみながら
澄んだ光に照らされた彼の方を ふっと、見計らって、「おらっ、のめのめーっ」って僕の分のグリーン・ティーのラテをむりやりに飲ませようとしてみる、なんとか抵抗して、やめろ、なにすんだよって子猫になって腕をはんぱに曲げて、驚いた顔で言う彼
おじさんたち、工場の彼らがよくこうやって「のめのめー」ってやってるんだよって言う そういうのは真似しないほうが良いぞって言う彼が、僕を教えてあげる動きに導く、いいだろっ、「親和力」だよ、って
僕たち引かれ合う、お互いの世界に引かれ合うさだめなんだって。彼はふっ、と少しおかしそうに笑った。
なっ……何がおかしいんだよっ、いや、なんにも。でも確かに君の世界は僕に必要で求めていたものだなって、彼のさらりと言った言葉は、一瞬だけまとい続ける毒を解いて、2つの心は真横に並んでいるのが眼鏡の色がしたり落ち脱けて新しい色で染まって見え始めていた
じゃあこれからもまた会うぞって、まんざらでもない彼に声をかける それと仲良くなるなら「いちゃいちゃ」もするぞって言うと、それも大人の真似かって、俗物すぎるっ、って彼が言うのには、結構、結構ッってリズムを跳ねて、いいんだよ、全部いいんだよって拍動に唄い舞って、そうやって彼の手を引く、風には少年のカーディガンを残しながら。
ホーフマンスタール詩集を読んでたら唐突に書きたくなったものをかきました
そんないきさつなので主題性はあってないようなものです。
こういうの好きなんですけど、色々とありまして、キャラ設定をちゃんと考えるとさっさといちゃつけよ!お前らっ!みたいな感覚になってしまうのであまり書けないです。