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第五話 オオグチ初登場

 夜の街を一人の男がフラフラと歩いている。周りには誰もおらず遠くで犬の遠吠えが聞こえた。

「よお、まだ生きてのか」

「ミカド、か」

 背後に突然、現れた影に男は振り向かずに答えた。

「久しぶりだな。オオグチ、五年ぶり…だったか」

 男、オオグチはここで初めて後ろを見た。

「ミカド、腹が減った。なんか喰わせろ」

「昔の友人に会った第一声がそれか。まあいい。これでいいか?」

 ミカドは少し呆れながらもポケットから数個の飴を出した。

「足りん。肉をくれ。肉」

 差し出された飴を受け取りバリバリ食べながらさらに手を出した。

「ふむ」

ミカドは腕を組み周りを見渡し何かを見つけ首をクイッと動かした。

「キャイン!」

 壁の隙間で丸まって寝ていた野良の中型犬が何かよく分からない黒い靄に掴まれミカドの方に投げられた。

「よっと」

 ミカドは犬の首を掴み取り片手の人差し指と中指を器用に使い首をゴキリとを折った。犬はくたっとし時折痙攣していた。

「ほい」

 出来立てホヤホヤの犬の死体をミカドはオオグチに渡した。普通の人からすれば嫌がらせにしか見えない。

「ふむ」

 オオグチは満足気に受け取った犬の右前足をグリグリとねじりちぎり取り、生のまま噛り付いた。

「がぶっ、ブチュ、ぴちゃ、ガリ」

 オオグチは口を真っ赤にして犬の足を食べた。そして、一分も起たないうちに骨まで食べ終えた。

「………けぷっ………」

 オオグチは残りの犬の死肉を掴み自分の影にほおり投げた。

ガプッ

 犬の肉が地面に着く瞬間オオグチの影から巨大な口が現れそれを一飲みにした。その口は鱗に包まれた芋虫に鰐の口を付け足した様な姿をした化け物だった。

「ペッ、まだ足りんな」

 猫みたいに毛玉を吐き出した。

「それはもういい。今は我慢しろ。それより…だ。何故蘇った?」

 ミカドはオオグチに尋ねた。

「何がだ? ……ああ、伽藍からか? ふんっ、俺は伽藍には成らん。絶対にな」

 オオグチはニヤリと笑った。

「ふーん」

 ミカドは自分から聞いておきながらあまり興味は無さそうで話したくないならまあいいかという感じだった。

「で、お前はこれからどうするんだ?」

 ミカドが聞いた。

「………お前には関係無いだろ。答える必要があるか?」

 オオグチは素っ気ない。

「犬、あげただろ。それに俺はお前のダチだろ」

「………まあいいか、どうせたいしたことない、とりあえずはウスツキを食す」

 オオグチは笑いながら答えた。

「ウスツキを喰う? 何故? お前に限って復讐…では無いだろ」

 ミカドは興味深そうに聞いた。

「何故? だと、何故そんな事を聞く? 聞くまでもないだろ」

 オオグチはやれやれと溜息をはき、一言言った。

「美味しいそうだからだ」

「何故ウスツキを? いつも思っているが人肉はまずいぞ。味ならスーパーの牛の方が遥かに旨い。人の好む味に品種改良されているからな」

 ミカドの質問に対しオオグチは嬉しそうに答えた。

「味はどうでもいい、要は生きた肉だ。血も滴る生きた肉が欲しい。確かに死んだ肉でも腹を満たす事はできる。だがそれだけだ。そんな物に興味はこれっぽっちも無い。そして最も効率よく生きた肉を喰う為なら、人肉が良かっただけだ。街に沢山いるし弱くて大きい。勘違いするなよ俺は別に人を喰いたい人食趣味の変態などではない。もっと純粋に生きた肉を喰いたいんだ。生きた肉なら人だろうが犬だろうが猫だろうが鳥だろうがトカゲだろうが魚だろうが蛙だろうが蟻だろうが毛虫だろうがゴキブリだろうがミジンコだろうがなんでもいいんだ」

 オオグチは興奮して早口にまくし立てた。

「そうか。流石にゴキブリは無いだろうがまあいい。じゃあ、お前は特災と戦うのか」

 ミカドの質問にオオグチは素早く落ち着きを取り戻した。

「そうだな、特災か。今、局員は何人位いる?」

 オオグチは五年間、伽藍(仮)だった為ジェネレーションギャップが激しい。

「だいたい千から五百の間位だな」

「おおざっぱだな。だが今はそんなにいるのか。前は百人もいなかったのにな」

 オオグチはあまりの多さに関心している。

「憑かれ人の数も年々、増えている。今、日本に約一万人は憑かれ人がいるって言われてる」

「一万! 一万人もいるのかよ」

「一万と言っても伽藍も合わせてだ。それに日本人は一億人以上いる、そこから言うと、1パーにも満たん。たいした数ではない」

「ま、そうか。そうゆう考え方も有るか。で、もう用事は無いか?」

 オオグチは腹が減った為話を切り上げた。

「オオグチ、特災を」

「わぁーてる、潰すな、だろ。ウスツキ喰ったら暫くは大人しくするよ。人も喰わない。また山に篭って獣でも喰ってるよ」

「……ならいい」

「あ、そうだ。夜光はどうした?」

 オオグチはふともう一人の昔の友人について聞いた。

「知らないのか、夜光なら四凶にぶっ殺された。四人でなぶり殺されたらしい」

「はぁっ!? 夜光が死んだのか? マジでか?」

「本当だ。六年前にな。馬鹿な事仕出かしたからな、俺が四凶を唆した」

「お前が唆したぁ!? てめ、俺等三羽烏は不戦だろ。お前、俺、夜光の三人で決めた事だ!」

 オオグチは驚きっぱなしだった。

「俺は直接関わってはいない。それに四凶ごとき負けるのが悪い。お前はその時、行方不明だったからな相談しようが無かった。何だ? 何か文句でもが有るのか?」

「………よく考えたら別に無いな。あいつが死のうが別に俺には何の問題無いか。だがウスツキを喰ったら即、山篭もりのつもりだったがやめだ」

 驚きに固まっていた顔が緩み、オオグチは三日月みたいな口をしてとても嬉しそうに笑った。

「何をする?」

「四凶を喰う。四人共全員なぁ!」

 大声で宣言した。

「そうか、まあそうするよな。なら忠告だ」

「なんだぁ?」

「お前は強い。憑かれ人最強の一人と言ってもいい。だがそれはあくまでも一対一で戦った場合なら、の話だ」

「俺等のレベルじゃ関係無いだろ」

 憑かれ人の強い者は団体戦が殆ど出来ない。癖が強すぎてすぐに同士討ちしてしまうのだ。

「侮るなよ四凶は夜光を倒した。一人一人の力量ならお前や俺に遠く及ばない。だがあいつ等四人のコンビネーションは驚異だ。一人ずつ片付けろよ」

「嫌だね。つまらない事言うなよ。夜光と俺を同格と見るか?」

 夜光、オオグチ、ミカドはかつて三羽烏と呼ばれあまりにも強すぎる憑かれ人として一応同格とされていたが夜光は遠距離型、オオグチは近距離型、ミカドは万能型だった。いわば魔法使い、戦士、勇者の関係だった。魔法使いと戦士が一対一で戦えばまず間違い無く戦士が勝つ。つまり夜光は前衛がいて始めて真価を発揮する。

「接近戦で夜光一人が負けたからといって俺が負けると思うか?」

 ミカドは呆れた様に肩をすくめた。

「違う違う、四凶は四人いる為手数が多く敵の弱点をつくのに長けていると言いたい。お前にもあるだろ、弱点」

 だがオオグチは余裕の顔を崩さない。

「無いな。俺には弱点なんぞ。話はこれまでだ、そろそろ失せろ。じゃないとお前でも喰うぞ」

 オオグチはミカドに軽く威嚇した。

「そうか、じゃあな」

「おう」

 ミカドは己の影に吸い込まれる様にして消えた。

「ま、ウスツキにしても四凶にしてもまずは腹ごしらえだ。喰うぞ〜」

 オオグチの影からノヅチがウゾウゾとはい出てきた。オオグチが歩くたびにさらに次から次へとウゾウゾウゾと出て来る。

「腹が減ったぁ! それでは皆さん両手を合わせて!」

 百を超え、千を超えんばかりの数のノヅチがオオグチを先頭に夜の町を闊歩する。

「いただきます!!」




生ゴミを漁る野犬が、ソファーで丸くなっている飼い猫が、夜に同僚と酒を飲んでいる中年が、部活の大会に向けてランニングをしている青年が、家で布団に入り眠っている少女が、夜遅くまで起きてゲームをしている少年が、ノヅチは老若男女一切合切みな関係なく襲い掛かり、皆食い殺していく。

 そして僅か一夜のうちに一つの町の人間三万人弱全て、いや人間だけではない生き物全てがいなくなった。たった一人オオグチを残して。

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