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第二話 ミカドと愉快な仲間達 前編

某所、廃ビル

 暗闇の中、窓から月明かりに照らされてかろうじて室内の一部が見える。

 室内は傷だらけの古びた大きな机と綿のはみ出た椅子以外はコンクリート片やガラスの破片等ゴミ位しか無くがらんとしていた。

 その机に座り一人の赤髪の男がガラスの無い窓から空を見ていた。

「星か………そういえば星は人を導いてくれるそうだ。お前等はその事についてどう思う? 馬鹿げているか? その通りだと思うか?」

 赤髪の男が振り向かずに背後の月明かりの届かない暗闇に話し掛けた。

「はぁ? 突然なに? それは? 風水的な意味合いを持つやつ? それともどっか漫画か小説の受け売り?」

 暗闇から少し子供っぽく呆れた声が返ってきた。

「後者だ。俺は風水や占いを信じて無いし、よく知らん。で、どうなんだ?」

 赤髪の男が再び尋ねた。

「僕から? 僕にとって星はあくまで星だよ。空に浮かぶ小さな光で、まあ街灯の小さいやつみたいな感覚かな。有っても無くても困らない。あぁ、太陽と地球が無くなれば少し困るかな。あれも一応星だからね」

 声には余り興味は無さそうだ。

「そうか。………じゃあ、お前は?」

 赤髪の男は星を見ながら続けた。

「次は俺だな。星は人を導くのでは無い。星とは人が自ら目指す物だ。星、それは天に存在する。すなわち頂点の存在という事だ。男として、いや……男女差別は駄目だな。………そう! 人として生まれたからには頂点を目指すのは当たり前じゃないか」

 先程の声とは違うよく通る声が答えた。

 どうやら暗闇の中には複数の人がいるようだった。

「そうか。じゃあ、お前は?」

 赤髪の男は頷き次を促した。

「ちょっ、ちょっとちょっと、それなんか変だよ! 斎藤さんが言ってるのは所謂スター的な意味合いを持つ物で今はお天道様の星の事で話ているんじゃ無いの?」

 戸惑った声で最初に答えた声がそれを遮った。

「そんな事、誰が言った? 俺は星について思う事を言えと言っただけだ」

「うーん、まあそうか。分かったよ」

 少し不満が有ったものの、どうでもいい事なのでどうでもいいか、と無理矢理納得した様な声だった。

「じゃ、次」

「………私ですか?」

 少し高めの女性の声だった。

「お前でも望月でも好きな方でいい」

「私は………そうですね。………星、星……星ですか……星はいいですね。美しく心が洗われる様です。星は芸術です。自然の芸術です。でも人を導くのはちょっと無理ですかね。以上です」

 先程の声が悩みながらも答えた。

「星は美しい……か」

 赤髪の男は呟いた。

「安直だね。夏目さんは。個性が無いよ。ありきたりで全然面白くないなぁ」

 最初に答えた幼い声が文句を言った。

「そ、そんな。で、でもみんな思うでしょ。星はは綺麗だって」

 心外だと言わんばかりの声で女が尋ねた。

「思わん」

「別に」

「その通り」

 女性の反論に赤髪の男、子供っぽい声、二番の声…斎藤さん、という順番で答えられた。

「私を含め二対二ですね。望月さんに決めて貰いましょう」

 そう答えると暗闇で何かがゴソゴソ動く音がした。

ガッ

「イタッ」

何かに当たる音が聞こえ悲鳴が上がった。

「大丈夫? 夏目さん」

 子供っぽい声が心配気に尋ねた。

「あ、大丈夫です。アラタさん。躓いただけで、転んでませんから」

 どうやら女…夏目が暗闇の中のガレキに躓いた様だった。

「望月さん、望月さん。起きて下さいよ」

 何かを揺する音と共に夏目の声が聞こえた。

「………何だよ。……」

 機嫌が悪そうな声が聞こえた。

「望月さん望月さん、星は綺麗ですよね!? 芸術ですよね!?」

「はぁ? ………はぁ、う〜ん星が綺麗ね〜。まあ綺麗じゃない。光ってるし。質問それだけ?  眠いからもういい?」

 最初のはぁは訳が解らなく『何言ってんのコイツ?』いう声で次のはぁは疲れた溜息だった。

「あっ、もういいです。ありがとうございました」

 するとまた望月の声が聞こえなくなった。

「ほらっほらっ! やっぱり星は綺麗じゃないですか!」

 夏目が嬉しそうに言った。

「う〜ん。そうだね、でも多数意見が常に正しいとは限らないよ。昔は、地動説は大数を占める天動説に潰された。今じゃ地動説が主流、常識なのにね」

 アラタの言い訳に夏目が食いつき口論になった。

「そんな事ありませんよ。アラタさんのは詭弁です。地動説とかは、あくまでも肯否の二択です。しかし物の美しさは人によって違います千差万別なのです」

「物の美しさも二択でしょ。美しいか美しくないかのね」

「それは違います。美しいさにはいろいろ種類があります。例えば花の美しさと素晴らしい絵画、その二つはどちらもとても美しい物です。しかし、その美しさは別物です」

「何が違うんだい? 美しい花の絵と美しい花、そこからえられる感情は同じ物さ。それに…………………」

「………………」



50分経過

 まだ口論は続いていた。斎藤は暗闇に火を点し漫画を読み、ミカドは二人の口論を静かに聴き入っていた。

「つまり星は美しいんですよ!」

「美しいの定義は何? 人に感動を与える物? それとも別の何か? 夏目ちゃんの意見は曖昧だよ。曖昧」

「ですからそ

「そこまで!」

 そこで初めてミカドが口を挟んだ。

「何だよ、ミカド」

「何です、ミカドさん」

 アラタと夏目は不満げにミカドを見た。

「何時まで話すつもりだ? それに」

 ミカドは顎で下を指した。

「ああ、誰か来たね。………特災かな? 夜光かな? 四凶では無いと思うけど」

 アラタは夏目に尋ねた。

「黒いコートにゴーグルのお決まりの格好。まぁ多分特災ですね。今は一階を探索してます」

「よーし俺が行って片付けて来ようか?」

 斎藤は読み掛けの漫画を閉じて立ち上がった。

「…そうだな、斎藤、任せた。適当に追っ払って来てくれ」

「おう!」

「ああ、斎藤さんが行ったら侵入者、悲惨だね」

「斎藤さん、乱暴ですからね」

斎藤が出ていった後アラタと夏目は溜息をはいた。

……………………………


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