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一話、ウスツキ、雑魚を虐める

深夜………公園にて

「アハハハハハハハ!!」

 夜遅くに一人の眼鏡の少し痩せた少年が狂った様に笑っている。

いや、一人では無い、周りには柄は悪そうだか体格のいい少年達が数人倒れている。

「こんなもんすかぁ? 僕の事ゴミ扱いしてたのにぃ。こんだけなんですかぁ? ねぇ!」

ドスッ!

笑っていた少年が倒れた少年の腹を蹴飛ばした。倒れた少年は完全に気絶しているのかなんの反応しない。

「ねえ、聞いてるんですかぁ?! ねえ! ねえ!ねえ!!」

ドスッ! ドスッ! ドスッ!

 少年は声に合わせて蹴る蹴る蹴る。

「僕がゴミならそのゴミ以下のお前は何なんだぁ? ゴミ以下の存在なのかぁ? 返事をしろよ!」

 しかし、倒れた少年はなんの反対もしない。腹を蹴られ死んでしまったのかもしれない。

「クッ、アハハハハハ!!」

 死んでしまったかも知れない少年を見てまた眼鏡の少年は大声で笑い始めた。

 ………ジャリッ

「だ、誰だ!?」

 元虐められッ子だった眼鏡の少年は少しの音に過敏に反応した。

 ……ジャリッ……ジャリッ……ジャリッ

 砂を踏み歩く音が聞こえるが深夜の公園、ライトの無い所は全く見えない。

「誰だと聞いているんだ!」

 眼鏡の少年が叫んだ瞬間、少年の後ろに最初からいたように巨大な人影が現れた。

「それがお前の憑き物か。ビビりでカスなお前にお似合いだな」

 声がした暗闇から黒ずくめの人が出て来て言った。

 無骨なゴーグルをし全身を黒いコート、黒い皮手袋、黒いズボンで包み込み、肌が露出しているのは口元だけという徹底した黒ずくめだった。

 その異様な姿に眼鏡の少年は少し怯んだが、声から相手が女である事と自分が人を越えた存在になった事を思い出し余裕を取り戻し不敵に笑った。

「僕の鬼を見ても脅かないとは、君は随分肝が据わっているねぇ。もしかして君も憑かれ人ですか? 僕の鬼をカス扱いとは言ってくれますね。あなたはさぞや強い憑かれ人なんでしょうねぇ」

「…………」

 黒ずくめの女は何も言わずに肩に小さな少女を出した。まるでお人形のようなとても綺麗でかわいらしい少女だった。

「何だい、それは? それが君の憑き物かい? そんな小さくて弱そうなのが僕の鬼以上なのかい? フッ、クックック………僕を馬鹿にしているのか!!」

 眼鏡の少年は鬼をけしかけた。鬼の身長は約二・五メートル。外見は角が有るものの案外、人に似ていた。しかし、筋骨隆々とした腕の太さは黒ずくめの女の腕の四倍近くあった。

「ウガアアァァァァ!!」

 巨体だが素早く一瞬で黒ずくめの女の前に現れ腕を振り落とした。

ガッ

「遅いな」

 黒ずくめの女は殴り掛かってきた鬼の腕を軽々掴みながら蔑む様に呟いた。

「それに腕力も人とあまり変わらないじゃないか。不良のバカガキばかりとはいえよく三人相手によく勝てたな」

「ば、馬鹿な僕の鬼が。ええい! 何をしている! 早く振り払え!」

 眼鏡の少年の声を聞き思わずぼうけていた鬼が腕を振り回そうとした。しかし掴まれた腕はびくともしない。

「ど、どうなっている!ありえない。お前は怪力女なのか? ハッ! そうかお前自身が憑き物なのか! あの小さいのが本体だ!」

 黒ずくめは黙って懐から拳銃を取り出した。そしてそれを鬼の額に向けた。

「ハ、ハハ、無駄だぞ。そいつは鉄バットで殴られても平気だったんだからな。そんなもの」

 少年は引き攣りながらも自分は余裕である様に振る舞う。拳銃など見た事ないが撃ち出すのは所詮は鉄の弾だ。鉄バットでもびくともしない自分の鬼には通用しないと考えた。それは自分の身につけた力の弱小さを認め無いように。

「ほほう、鉄バットが平気なのか。やけに力が弱いと思ったら黄鬼の類か。黄鬼は力も無く無いけど体硬いからな。なら」

 いつの間にか現れた小さな少女が拳銃に触れた。すると拳銃が薄く光を発した。

ダアァァァンッ!!

およそ拳銃がたてる音では無くまるで対戦車ライフルのような轟音と共に拳銃から弾丸が発射された。

 そして、鬼の顔面に直撃し頭が弾かれ、そして背中から派手にドタッと倒れた。

 しかし、鬼は弾かれ吹き飛ばされたもののまだ致命的では無く、すぐに頭を振りながら立ち上がった。

「どうだい、僕の鬼は! そんな程度の攻撃は効かないんだよ!」 

 鬼は少年の言葉とはうらはらにかなりダメージを受けていたが、まだふらつきながらも立ち上がり戦意は衰えていない。

「ほう、凄いじゃないか。全然本気じゃないけど、今のくらったら、防弾チョッキ着てても人間なら衝撃だけで内臓ぐちゃぐちゃだったのにな」

 女は少し関心しながら呟いた。

「よし、特別に私が何者か教えてやろう。私は特殊災害対策事務局所属のウスツキだ。ちなみにウスツキはコードネームみたいな物だ。そしてお前はカスから少し頑丈なカスに昇格だ。おめでとう」

 女……ウスツキは拍手しながら少年を褒めた。

「クソッなめやがって。ハハッ! だが俺はお前の力はだいたい読めた。………お前の力は物を強化するのだろう? そのちっこいのは所謂、………座敷童の類だろう?」

 少年はウスツキに尋ねた。これまで、ウスツキは人の何倍も有る鬼の一撃を受け止め、小さな拳銃を大砲並の威力にした。そこから推測するとそれしか思い付かなかった。

「フフ……」

 ウスツキは薄く笑った。

「ち、違うのか!?」

 もし違うなら予想がつかない。

「ああ、いや、その通りだ。私の力は祝福強化。あらゆる物を祝福を与え強化する。…だがな、私の力がわかった所でどうするんだ? 単純な力押ししか出来ない憑かれ人が力で押し負かされてしまった今さらどうする? えぇ! 能力が読めたぁ? だからどうした。能力が読めようと読めまいとお前が負ける事には違いないだろう?」

 ウスツキは笑いながら断言した。

「クク、ハハハ、何を言ってるんだい? 君は強化した拳銃で僕の鬼を撃った。でも僕の鬼は平気だった。これはつまり強化した腕力でも僕の鬼は倒せないということじゃないかい? それとも君の拳は弾丸以上かい?」

 余裕を取り戻し少年は笑った。

 しかし、それを見てウスツキはため息をはいた。

「あのな、お前……馬鹿か? さっき全然本気じゃないって言っただろ。それに仮に本気だとしてもそれは私が他に何も持って無かったの話だろ。おまけにお前本人を狙えば一瞬じゃないか」

 そういいながらも腰から丸い物を取り出した。

「これは手榴弾。こいつ強化したら半径十メートル以上は軽く消し飛ぶ。ここで爆発させるか?」

 ウスツキはピンを抜いた。

「馬鹿! やめろ! そんなもん使ったら自分も」

「身体強化したら簡単に逃げられる。まあお前には使わないけどな。勿体ないから」

 そう言いピンを戻し手榴弾を腰に片付けた。

「やっぱこれだろ。弾切れにならないし」

 ウスツキは背中から一振りの刀を取り出した。

「私の能力は強化。使い様ではどんな敵にも対応出来る万能な力。例えば自分の体に使えば身体能力は倍増し、拳銃に使えば大砲並に、そして刀に使えば切れぬ物無しの名刀になる」

 ウスツキは抜き身の刀を構えた。

「お前みたいな硬い奴はこれが一番効くからな。それに鬼退治は昔から刀じゃないと」

 ウスツキは元々、右手に刀を持ち、左手は拳銃という中近戦型万能スタイルだった。

 本来、刀も拳銃も片手では扱えない。

 刀は案外重く片手で扱うと逆に振りまわされ、拳銃はそのものは軽いが反動でまともに照準を合わせる事ができない。

 しかし、己を強化することでウスツキはその二つをほぼ完璧に使いこなせる様になっている。

「刀だって? いつの時代だよ。そんな物で」

ドスッ

 銃弾も通じないはずの鬼の肩を一差した。

「ググゥ」

 鬼が痛みの為唸り声をあげた。

「馬鹿な、なぜだ? そんな時代遅れな武器に」

 少年は愕然とした。

「やっぱりお前、馬鹿だろ。馬鹿は死ね!」

 肩から刀を抜き構えた。

「う、うわぁ。お、おい。ちょっと、ちょっと待ってくれよ。お前も憑かれ人だろ。仲間だろ。何でこんな事するんだ」

 ウスツキは呆れた顔をした。そして、ニッコリ笑い。

「シネ。蛆虫が!」

 刀を振り上げた。

「ひいぃ、い、行けよ。ほら、速く」

 少年は鬼を前に出し囮に逃げようとした。元々の臆病な性格とウスツキという精神的圧迫から冷静な判断が出来なくなっていた。

「グ、グゥゥ」

 鬼は嫌々ながらも宿主に従った。

「フンッ。死ねクズが!」

 ウスツキが切り付けるとあれだけ硬かった鬼がたやすく切れ、その右の腕を切り落とした。

「ガアァァァァァ!!」

「アガギグググゥ!!」

 少年と鬼の悲鳴が綺麗に重なった。

 自分に憑かれている憑き物が傷つけば宿主にもそのダメージが伝わる。黄鬼という防御力が強い憑き物だった為、少年は憑き物が傷ついたらどうなるのか知らなかった。

 その結果、少年は痛みで完全に動けなくなった。

 その様子を見てウスツキはとても嬉しそうにした。

「痛いかぁ? そうか痛いのか。ならもっと痛くしてやろう」

 楽しそうに尋ねるとウスツキは刀で鬼の左の腕も切り落とした。

「グウウゥゥッ!!」

 今度は悲鳴は一人、鬼だけだった。そしてすっと鬼は消えた。少年はあまりの痛みに気絶してしまっていた。

「チッ、起きろよ。おい!」

 倒れ込んだ少年の背中を強化されたウスツキが蹴飛ばした。

 ボキッ!

 何かが折れた様なにぶい音がした。

「あ!! ………やっばー。……死んだかな? おーい」

 ウスツキは恐る恐る少年を足先で突いた。

「すんだかい?」

 暗闇から痩せた青年が現れた。

「あっ! 誠治。すまん、コイツ死んだかも」

 痩せた青年、誠治にウスツキは軽く頭を下げた。

「えっ! ちょっ、困るよ。この前も半殺しにしてたじゃないか。怒られるのも愚痴られるのも僕なんだよ! 彼等はこの国ではあくまで病人扱いなんだから」

 誠治は慌てて倒れた少年を見た。

「こりゃ酷い。背骨が完全に砕けてる。何とか生きてるが、このままではすぐに死ぬぞ」

 誠治は慌てて携帯を取り出しどこかにかけた。その光景を見ながらウスツキはこれからの課長の愚痴をどうかわすかを考えた。


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