六話。始まりの夢。
ー寝不足のマラソンは死ぬわ。ー
冬馬は、自分の体のコンディションを悟る。
疲弊した体。こんなことなら、体育もサボればよかった。
後悔先にたたず。
「ハイハイ。」
そんな冬馬に、呆れながら、和希は、ヨロヨロと歩いていく、怪しい足取りを見送った。
「じゃ、1時間だけよ。」
保健の先生は、渋々、冬馬の入室を許可してくれた。
ふかふかの毛布にくるまる。
先ほどまで、炎天下に干されていたのか、枕が太陽の匂い。
まるで、冬馬を歓迎しているかのように、一瞬で冬馬は、心地よい眠りに包まれた。
夢を見た。
また、あの夢。
昨日の夢の続きだ。
冬馬は、直感的にそう感じた。
ただ、昨日の妙な部屋とは全く別の場所。
空を見上げる。
周りを見渡す。
生い茂る木々の間から、うっすらと太陽光が差し込んでいる。
冬馬は、草木が生い茂る森の中に立っていた。
それも、たった一人で。
ガサガサ
と、何かが草を踏む音がする。
森は日が差すとはいえ、薄暗い。
遠くが、はっきりとは見えない。
ガサガサジャリジャリ
音は冬馬へ近付いてくる。
不気味だ。
冬馬は、夢だと言うのに、全身に緊張をはしらせる。
コツン
冬馬が足を動かすと、何かがくつ先に当たった。
「ん?」
(黒い.....ナイフ?いや、剣か?何でこんなところに.....。)
地面に、真っ黒の大振りの剣が落ちていた。
(さっすが。夢。ユーモアーって大事だよな?武器が簡単に手に入る。)
そんなことを思いつつも、冬馬は、まるで体が覚えているかのように、剣を拾い、正面で構える。
ガサガサ
音は、まだ止まない。
(獣か?熊、猪、虎.....、何でも出そうだな。)
何が、得たいの知れないものが、じわじわと近付いてくる恐怖。
冬馬の首筋に汗が流れる。
ガサリ
「っつ。」
音の正体が、冬馬のすぐ傍にやって来た。