五話。マラソン
「あふぁ。っだりー。」
校庭にいる体操服の集団の中で、一人、ぼやく男がいる。
「今日の体育、マラソンとか、聞いてねぇよ。あの岡センめ。」
3限目が始まる頃、冬馬はノコノコと学校に登校してきた。
今は、体育の授業である。
スポーツの秋とかなんとかで、校庭に連れ出され、準備体操をしている最中である。
昨日は、あのゲームで結局、和希に1勝もすることなく、気が付けば、そのまま寝落ちしていた。
冬馬が目覚めたのは午前10時過ぎ。もう、お昼が近かった。
和希の部屋には、冬馬以外、
誰も居なかった。
あるのは、机の上のメモだけ。
『今は8時。お先に~。寝坊助さん(笑)』
和希め!
あの野郎。自分だけ先に起きて、何食わぬ顔で学校行くとは!
冬馬は、友人の相変わらずの態度に腹を立てつつ、自分も急いで学校に向かうのであった。
(まあ、和希はしっかり7時半に、冬馬を揺すり起こしたのだが、
一つも気づかず、爆睡していたのはここだけの話である。)
よーい、始め!
ピーーーーーーー!
5キロのマラソンが笛の合図でスタートした。
冬馬は、寝不足の体に鞭打って、一応、真面目にコースを走っていく。
「いやー。冬馬さん。徹夜明けのマラソンは、キツいんじゃないですか?」
不意に横から声がした。
振り向くと、一定のリズムで息も乱さず、並走してくる和希の姿があった。
「うるせー。
お前もたいして変わんないだろ?
むしろ、早起きした分、俺より寝不足なんじゃね?」
睡眠不足をまるで感いさせない、余裕の走りに嫌味のつもりで言った。
「僕、その辺は要領良いから。
普段から成績優秀だと、1、2限を保健室でサボる事は簡単だしね。
マラソンだけは、放課後、一人で走るのは嫌だからさ、仕方なく。
ま、君より、遥かに運動神経が良いので、ご安心を。
人の事より、自分の心配しなよ。」
冬馬に、浴びせるだけ言葉を浴びせると、
「じゃ、お先ー。」
と、スピードを上げ、颯爽と追い抜いて行った。
「和希のやつ。腹立つな。」
そうぼやきつつも、冬馬も、遠くなった和希の背中を追いかけるべく、ギアを上げた。
「お疲れー。」
冬馬が、無事完走し、ゴール近くで燃え尽きていると、
先に着いていた和希が近いて来た。
マラソンのタイムを記録しろ、と
バインダーを渡してくる。
記録表を見ると、和希は、2着でゴールしていた。
徹夜明けのくせに、運動部より速いとか反則だろ。
「思ったより、速かったじゃん?」
和希は、冬馬の恨めしい視線を気にすることなく、
『ほい。』と、水の入ったペットボトルを渡してくれた。
「サンクス。」
水がこれでもかというほど、全身に染み渡って行く。
「ぷっはー。うま。」
一気に、半分ほど飲み干すと、冬馬は和希を見て言った。
「悪い。次の授業、保健室でサボるわ。」