三話 帰還
ーーーーガバッ
「ーーーっつ。はっ、はぁ。」
目が覚めた。
冬馬は急いで飛び起きる。
辺りを見渡す。
よかった。見慣れた友人の部屋であった。
「はあ。」
安堵の声が口から漏れる。
ちょうどその時、階段を上る足音が聞こえた。
「冬馬。飲み物持ってき、た.....よ?」
扉の向こうから、
お盆にグラスとお菓子を乗せた和希が、ヒョコッと現れた。
自分のベッドに、汗を滴し、強張った表情でこちらを見てくる冬馬に、和希は驚いた。
「どうしたの?
さっきまで、殺人現場に居ましたって顔をしてるよ。
それから、今の一瞬で、大量の汗。
読みたい漫画買い忘れて、コンビニまでダッシュした?」
友人の顔色を窺いつつ、小馬鹿にする和希。
和希からしては、からかっているつもりだった。
しかし、そんな和希の態度で、中々に落ち着きを取り戻した。
「ん?何?
そんなにジロジロ見てきて。
僕にそんな趣味ないんだけどな~。」
「はぁ。
いつも通りのお前を見てっと、ちょい落ち着いたわ。
サンキューな。」
「うわ。
何か、気持ち悪いね。
脳味噌腐った?」
そんな和希を横目で見つつ、冬馬は、強張っていた肩の力を抜き、
汗だくの顔を服で拭い、もう一度周囲を確認する。
やはり、いつもの、和希の家だ。
(夢、だったのか。にじても、リアルすぎんだろ。)
冬馬は、ようやく、
落ち着いた気持ちで、オレンジジュースに手をつけた。
「ぷっはー。うま。オレンジジュース、サイコー。」
普段何気ない事でも、今の冬馬は、なぜか感激出来た。
「何?そのテンション。」
和希は、一杯のオレンジジュースで感慨に浸る冬馬を見て呆れている。
和希には、冬馬の意味深な行動の意味が分からない。
ただ、日頃から、正常とは思えない行動を重ねてきただけに、
和希の口から、それ以上突っ込まれる事はなかった。
そんな中、冬馬は、夢で知らぬ間に負わされていた傷を思い出し、袖を捲る。
手を動かし、正常な動作を行えているか確認する。
問題ない。
包帯、傷、一切見当たらない。
自分の知る体が戻ってきているのに安心する。
(やっぱ、夢?)
普通なら、夢としてさっさと片付けるこの出来事。
しかし、インパクトが大きかったのか、なぜか冬馬の頭から離れることが出来なかった。
先ほどから、これまで感じたことのない感情が、胸の辺りをざわつかせる。
恐怖なのか、不安なのか分からない。
しかし、嬉しい感情でないことは確かだ。
誰かに話せば、楽になるとか、そんなレベルでない.....気がする。
そんなことを思いつつ、
不思議そうに見守る友人のためにも、
冬馬は、重くなった唇をやっとこじ開けた。
「悪い。」