二話。始まりの始まり
「あのさ、ここって、どこ?」
突然の冬馬の質問に、メイドは一瞬、キョトンとした。
しかし、すぐさま何かを思い出したのか、
「あぁーーー。」
と、納得した様子でこう言った。
「お客様は、このトラニラタ領地とピルマーク領地との国境付近に倒れていたところを、
周辺の警備にあたっていた、トラニラタ警備兵によって捕らえられ、
只今、トラニラタ城の救護室にて、傷の手当て並びに、監視を行っているところでございます。」
「トラニラタ.....。警備兵.....。」
彼女の口から、聞き慣れない言葉が、いくつも出てきた。
正直、この状況さえも飲み込めていない冬馬にとって、メイドとの会話が成立するはずもない。
メイドは、呆然とする冬馬に、少しばかりの同情の余地をくみ取り、
入ってきたときの警戒心を少し緩めた。
「少々、長い時間お眠りになっていらしたので、混乱されているのだと思います。
今日のところは、クリャ、クラリス様にお客様のお目覚めを報告するのみと致します。
今夜はごゆっくり、お休みくださいませ。
また、明日、お迎えにあがると思います。
それまでに、身支度を済ませ、心にゆとりのある状態でお目にかかれます事を願っております。
それまでは、ごゆっくりお過ごしください。」
途中、舌を噛んだのか、痛そうにしたが、
メイドはそう言い残し、深々とお辞儀をすると、入ってきたドアへと、足早に去っていった。
ここで、ふと、冬馬の残念な脳味噌から、ある記憶が蘇る。
「まてまて、待て。聞いたことがある。
誰がどう見てもクズで、酌量のないクズで、世界の、
いや、日本の未来にさえも役に立たないクズ男は、
異世界に飛ばされ、どうしようもない人生を送ることになるって話。」
今の現状によく似ている。
しかし、冬馬は、ブンブンと首を振り、その可能性を否定しようと考えた。
「いや、落ち着け、俺。
俺がいくら能無しで、世間から暇人と言われようが、未来の役に立たないわけねぇ。
高校も、まあ遅刻はあるけど、無欠席。(授業は居眠りでほとんど聞いてはいなかったが。)
暇さえあればゲームと睡眠で現実逃避を繰り返してきたが、
一応、ゲーム界では『神』とさえ呼ばれる存在。
俺の未来は.....。
えっと、普通にこれからもゲームして、ゲームして、たまに仕事。
ゲームして、ゲームしたら中年のおっさん。ゲームして、ゲームして、
ゲーム、ゲームで死ぬ間際のじいさん。
で、ゲームして永眠。
.....って、てか、俺の人生設計、マジ、くそじゃね?
え?もしかして、俺、クズの分類に入っちゃうかんじ?
マジ?.....で?」
これは、初めて、これほどのクズ男が、クズ男であると認識した貴重な瞬間だった。
しかし、クズ男と言うのは、皆、諦めの悪い者である。
「いや、まて、心を静めろ。冬馬。
ゲームではこんな神回、何度でも攻略してきたじゃねぇか。
ただのゲーム馬鹿も、過ぎれば天才ってもんよ。
世の中には、俺よりクズな人間は山ほどいる.....はず、だよな?」
なぜか、自信の勢いが失速する。
自分の自信の壁が雪崩のように崩れ始める。
しかし、まだ諦めぬ。
「つまり、俺は、異世界に飛ばされるほどのクズな男には匹敵しない。
以上。証明終了。
さー、もう、寝よ。目が覚めたら『これは夢でした。』なんてオチが待っているんだろうからさ.....。」
半ば強引に、冬馬は自分の潔白を自分の身に言い聞かせ、
慣れないベッドに再び体を預けた。
幸いにも、日頃の行いいより、疲れは、溜まりに溜まっている。
冬馬は、今の現状を誤魔化すためにも、また睡魔に意識を委ねたのであった。