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七色棺  作者: 水無月


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11話目




「――――――やって、くれたね…」


 フェリシアはその言葉に微かな憎悪を匂わせながら呟いた。黒き森がいつになくざわめいている。酷く苛立たし気に聞こえるそれに、フェリシアも同調しそうになった。しかし、虹の瞳を持つ魔女として、憎悪に身を任せるわけにはいかない。


「どうしてくれようかな…」


 協会魔女が、どうしてこうまでして虹の瞳を持つ魔女を嫌悪し、毛嫌いしているのか、フェリシアは理由を知らない。どうして、珍しい瞳を持つだけの自分たちが殺され、死後も好奇の目に晒されなくてはいけないのか、知らない。知りたくもない。

 だが、それとこれは別だ。


 虹の瞳を持つ魔女を持つ魔女は、同胞が殺されたとしても、報復はしない。復讐は何も生まないと知っているからだ。だからこそ、フェリシアもたくさんの同胞が殺され、そして好奇の目に晒されてもその目を奪いこそすれ、復讐などしなかった。

 それは、今も同じ気持ちだ。

 だが、愛弟子を奪われたとなっては、異なる。


「あの子は……ベリルは、魔女ではない。ただ、私が勝手に拾った人の子だ」


 ざわざわと、黒き森が何かを訴えるようにざわめく。それが何なのか、フェリシアは分からない振りをした。

 酷く、苛立つ。

 どうして、どうして、私たちが―――()が―――。

 黒い感情に飲まれそうになった瞬間、澄んだ音がした。


「っ…!」


 それが、自身が奪い守ってきた同胞の瞳が奏でた音だと気付くのに、秒も要らなかった。その音を聞いたフェリシアは、自身を落ち着かせるためにも深い息をする。


「……はぁーーー…。とりあえず、どこの、誰が、私の愛弟子を攫ったかを確認しないとね…」


 フェリシアはそう言い、そしてベリルには教えていなかった魔法を発動させた。それは、ベリルを監視し、護るためのもの。


「ベリル―――必ず、助けるからね」


 それが、幼いベリルを拾ったフェリシアの義務。

 そして、大切にしている愛弟子への当たり前の行動であった。






*****






「……俺は、何も知りません」


 攫われたベリルは、驚くほど普通(・・)の人間の対応を受けていた。暴力を振るわれることもなければ、拷問されることもない。フェリシアのことを聞かれるかと思いきや、牢屋に閉じ込められるだけだった。食事も、ちゃんと出ている。それが逆に、怖かった。


「そんなことはどうでもいい。お前が、あの虹の魔女と関りがあることは分かっている。貴様の存在はそれだけで意味を持つ」

「だからっ!! 俺は何も知らないと言っているだろう…!」


 そう言い放つも、彼らは信じないだろうとベリルは何となくわかっていた。だが、フェリシアとの約束がある以上、ベリルにはそれ以外言えることはない。


「そう言うように言われているのか? 何故、そこまで彼奴等の言うことを守ろうとする? 悪なのに?」

「っ…」


 どうしてフェリシアが悪なのか、問いただしたかった。フェリシアが何をしたというのだろうか。人に害をなしたこともないというのに。どうしてそこまで敵愾心を持っているのだろうか。

 そう問い返したくとも、フェリシア含む虹の瞳を持つ魔女と関係を持っていることを言えないベリルは、口を噤むしかなかった。


「貴様は、何も知らないのだろう…。協会魔女がどれほど何も持たない人の為に尽力しているのかを…。それなのに、世界は協会魔女ではなく虹の魔女なぞを高位に見る」


 ベリルは男から少しでも情報を得ようと、沈黙を貫き通そうとした。


「我が主は、虹の魔女の瞳をご所望だ」

「!」


 それは、言われるまでもなくなんとなくわかっていた。だが、それをはいそうですかと言うことが、ベリルにはできなかった。


「に、虹の魔女が、あなたたちに何をしたと言うのですか…!? 危害も加えていない…なのに、どうしてそんな非道なことをしようとするのです!?」


 ベリルの叫びに、目の前の男は低く笑った。


「言っただろう? 虹の魔女は悪だ。協会魔女を今なお低く見せる、世界の悪だ。虹の魔女なぞがいる所為で、我が主の努力は世界に認められない…その苦悩が、無念が貴様にわかるとは思えないがな」

「あなたにこそ、彼女たちがどれほど心を痛めているのかを知らないくせに…!!」


 その瞬間、ベリルはやってしまったとはっとした。男はベリルの言葉を聞き、低く笑う。


「やはり、貴様と虹の魔女には接点があるのだな」

「……」

「黙っていても無駄だ。我らとて、なんの手掛かりもなく貴様をここに連れてきたりなどしない。あの森に虹の魔女がいることは既に分かっていた。だが、彼奴をどうやっておびき寄せようと思案すれば、貴様がいた。天は我が主に微笑んだのだ」

「……どうして」


 既にバレてしまっている以上、ベリルは情報を収集することにした。どうして、虹の魔女があの黒き森にいることを知ったのかを聞こうとする。


「ふん…彼奴は貴様に本当に大切なことは話していないようだな…。なるほど、愛玩用の弟子、ということか」

「何を…」

「どうせ、貴様とあの虹の魔女が会うことはもうない。知識の足りぬ貴様に、この俺自ら教えてやろう…。あの森に、魔獣を放ったのだ」

「ま、じゅう?」

「我が主自らが作り出された魔術を使用して、暴走化した魔獣をあの森に放ったのだ。それを生きたまま抑えることが出来るのは、虹の魔女のみ。そしてあの森に放った魔獣は、鎮静化された。ここまで言えば、知識のない貴様にでもわかることだろう?」


 その話を聞いたとき、ベリルには思い当たることが一つだけあった。そう、黒き森に依頼されたと、一人で森の奥に入っていったフェリシアの姿だ。


「……どうして、どうしてそんな酷いことをするんですか…魔女たちが…一体何をしたと…」


 瞳と生命が直結していると、フェリシアから聞いている。つまり、瞳を奪われれば、フェリシアは死んでしまう。彼らは、人を殺している自覚があるのだろうか。


「俺に、我が主の意向はわからん。だが、我が主がご所望であれば、それを手に入れるのが俺たちのやるべきことだ。赤き瞳を持つ虹の瞳を持つ魔女の弟子よ。貴様は彼奴等に洗脳されたのだろう…哀れなことだ」

「そんなことない!!」

「ふん、皆、そう言うのだ。安心しろ、貴様の処遇については俺がちゃんと主に話しておいてやろう」

「ま、待て!! 俺をここから出してください!!」


 男はそれだけ言うと、すたすたと出口に向かって歩き出す。

 ベリルは自分がどうすべきか黙考した。きっと、あの優しいフェリシアのことだ。自分を助けに来てしまうだろう。だが、それがあの男の狙いだ。虹の魔女を捕獲する術を、あの男とその主とやらは持っているのだ。


「フェリシアっ……!!」


 どうか、助けに来ないでほしい。自分は、ここに居ても何も問題はないのだから。一生会えないかもしれない。だが、自分の所為でフェリシアが命を落とすようなことがことがあってしまうのだけが、どうしても嫌だった。

 ベリルは助けに来ないで欲しいという旨を、自分の服を千切って血で書いた。そしてフェリシアほど上手ではないが、歌を歌う。千切れた服はふわりと浮かび上がると、鳥の形になる。空気が流れている以上、外に続く道があるはずだ。

 






*****






「イシュエル様、どうやら捕獲したようです」

「そうか」


 腹心の一人、エルフラウの言葉に、イシュエルは笑みを零す。黒き森は人が立ち入らぬ森。だからこそ特に強い魔獣を放ったのだが、それをいとも簡単に鎮静化させた虹の魔女のことを考え、イシュエルはうまくいったと心の中でほくそ笑む。


「その弟子をどう使ってもいい…。絶対にアレを生きたまま捕らえろ」

「かしこまりました」


 エルフラウは一礼すると、イシュエルの前を辞する。誰もいなくなったことを確認して、イシュエルはトリスタンを呼んだ。


「トリスタン」

「はっ、御前に」


 するとすぐさま黒づくめの男がイシュエルの前に跪く。その打てば響く対応に、満足するように小さく鼻を鳴らした。


「此度の件、よくやった」

「勿体なきお言葉にございます」

「それで、どうだった?」


 言葉は少なくとも、トリスタンなればわかるだろうとイシュエルは頬杖をつきながら問う。そしてそれに応えるように、トリスタンは静かな声で報告し始めた。


「やはり、男と彼奴に関係はありました」

「そうか」

「そしてイシュエル様もご存知かとは思いますが、あの魔獣を鎮静化させたとなれば、百年…いえ、あるいは二百年は生きたものかと思われます」

「そうだな…。アレは助けに来るか?」

「はっ! 先ほど男が彼奴に対して魔法を行使したのを確認いたしました。救助不要との内容でしたが、彼奴ならば必ずや助けに来るでしょう」

「まぁ、そうだろうな」


 殺され、観賞用とされていた瞳が盗まれている事実はイシュエルとて知っている。嫌いだからこそ、憎んでいるからこそ、イシュエルは虹の瞳を持つ魔女のこと調べてきたのだ。アレらは、情に厚い。復讐こそしないが、仲間の遺品を盗むというリスクを簡単にやってのける。それはつまり、アレらの弱点なる生き物を攫えば、簡単に誘き寄せられることを示していた。


「それで? 準備は出来ているのだな?」

「はっ! 男は虹の魔女を誘き寄せる餌として使用いたします。その後、お手数ですがイシュエル様の魔術によって、記憶操作を行えればよろしいかと具申いたします」

「ふむ…そうだな」


 トリスタンは、酷く出来た自分の手足だ。自分が言うまでもなく、勝手にこちらの望むことを言ってくれる。拾ってから、ここまで育ててきた甲斐があったとイシュエルは思った。


「先ほどエルフラウにも言ったが必ず生かして捕らえろ。そうでなければ、意味がない。わかったならいけ」

「は!! 全てはイシュエル様の御心のままに!」


 トリスタンは頭を下げたまま更に深く一礼すると、その場から音もなく消える。そして誰もいなくなった部屋で、イシュエルは暗い笑みを零した。


「……二百年以上生きているものだといい…すれば私の…私の協会が世界に有用であることを示すことが出来る…!!」



 ずっと、ずぅっと、それだけを願っていた。虹の瞳を持つ魔女なぞよりも、ずっと我ら協会魔女のほうが世界に役立つことを示すことを。

 その為だけに、イシュエルは走り続けてきたのだ。







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