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田舎娘ミレーヌが妖精になるまでの物語  作者: 葉裏
第一章 見かけは十才の女の子
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ゴブリンの認識を改める事件

奥地から現れたのはゴブリンです。しかもそのゴブリンは結愛が前世でファンタジー小説で読んで認識していたものとはかなり違うようです。

 

 そのとき私はゴブリンというものを初めて見た。

 辺境の原始林でもそれは見たことがない。

 だいたい魔物というものは魔素の濃いエビルスポットに現れるもので、滅多に普通の人間が遭遇するものではないのだ。

 前世でファンタジー小説などで読んだゴブリンというものは小学生くらいの体格と体力で全身緑色の無毛の小鬼だが、そいつは違った。

 体格は一見小学生くらいに見えるが、それは前傾姿勢で膝を曲げて歩くせいで体を伸ばせば大人の男性くらいあると思う。

 そしてゴリラかチンパンジーのように腕が長い。そして手が特に大きく爪が大きい。

 体色は緑色というより、かすかに緑がかった灰褐色で小学校の図工で使った油粘土の色を思い出す。

 そして無毛ではなくフランシスコザビエルか河童のように頭頂が禿げていてその周囲に体色に似た長い毛が僅かに生えている。

 鼻は天狗猿のように長く垂れさがっていて目は黄色く濁っている。

 そのゴブリンの背後から三匹の狼が慎重に近づいている。

 ファンタジー小説ではゴブリンは最弱の雑魚魔物で小学生並みの体力だから、狼一匹でも対抗できない筈だが、狼を恐れている様子は微塵もない。

 ゴブリンは私を見た。そして目が合うとニタァァァと笑ったのだ。

 半ば開いた口から鋭いとがった歯の列が見え、口の端から粘着質の涎をタラァァと糸を引くように垂らす。

 私は全身鳥肌が立った。あのことだけはファンタジー小説通りなのだ。

 そのことは本能的に分かった。

 人間の女は苗床……犯して種を植え付ける。

 それも際限なく犯し続け多胎妊娠をさせるというのだ。

 生理的に絶対受け付けない場面が目の前で起ころうとしている。

 ゴブリンは私に気を取られ、真っ直ぐ走って来る。

 目的は一つ、私を私をっ。私を犯す為っ。

 いやだ。歴史は繰り返させない。

 でも体が動かない。体が竦んで動かないのだっ。動けっ、動け、私の体っ。

 十メートルまで迫ったとき、狼の一匹が背中に体当たりするように飛び掛かった。

 だが一瞬どのようにしたのか、背中の狼は頭を掴まれて前方につるし上げられた。

「ギャウッ」

 無表情にゴブリンは片手で掴んだ狼の頭を握りつぶした。

 鋭い爪と大きな手が狼の頭部の肉を掻き毟りミンチにしてしまった。

 そして無造作に地面に叩きつける。

 狼の首の骨はあらぬ方向に曲がり、頭部は部分的に骨が露出した赤い肉の塊になっていた。

 つ……強すぎる。

 私は『ふるさとバッグ』から弓を出した。

 ゴブリンはそれを見てニタァァと笑う。駄目だ。きっと避けられるっ。

 そのとき両側から狼が飛び掛かった。ゴブリンの顔の近くに二匹の体が重なって、ゴブリンの腹の辺りが無防備に曝されている。

 私はそこに目掛けて毒入りの矢を撃ち込んだ。

 命中した。衝撃をうけたようにゴブリンの体が一瞬振動する。

 次の瞬間、首を掴まれた二匹の狼が地面に叩きつけられ、ゴブリンは私の方に視線を移した。

 そのときは私が投げた二本の寸鉄が顔に向かって目前に迫っていた。

 頬と右目に寸鉄が刺さる。

 それを手で払いゴブリンは口を開けて涎を流しながら突進して来るっ。

 毒は効かないのかっ。

 私は毒を塗った槍を構えた。

 構えたまま待った。

 そしてゴブリンは私の持つ槍に自ら突っ込んで来たっ。

 片目で遠近感がわからなかったのだろう。

 背中まで貫いたのに、なおも涎を流しながら私に迫ろうとする。

 その目は完全に欲望に狂っている。

 槍が刺さったまま長い腕を伸ばし私を捕まえようとする。

 捕まったらそこでお終いだ。

 槍に貫かれようと、こいつはあの魔妖精と同じように目的を果たすまでは決して死なないだろう。

 私は槍を片手に持ち替えて大鎌を取り出した。

 片手でゴブリンの首を薙ぎ払おうとしたが三分の一くらいで刃が止まった。

 緑色の血がドクドク流れているが目がまだ生きている。

 大鎌を放して、ハンマーを出し頭頂を叩いた。

「ボコッ」

 少しへこんだ気がしたが、それでもそいつは止まらない。

 駄目だっ。捕まるっ。捕まったら……。

 そのとき、ゴブリンの口から白い泡がブクブクと出て来た。

 毒が効いてきたのだ。

 目も白目を出しているようだが腕はまだ私を捕まえようと探っている。私は両手を放して横に飛んだ。

 その気配を察知してゴブリンが私の方を向くのと、私が両手でモーニングスターの棘皮鉄球を頭にぶち込んだのがほぼ同時だった。

 嫌な音がして、ゴブリンの頭は砕けた。

 ゴブリンが倒れたとき、私の全身がぞーっと寒気がして鳥肌で体が半分に縮んだような気になった。

 それほど怖かった、というより悍ましいというのか。

 もう二度とこんな思いはしたくない。

 私は馬鹿だ。谷に降りるなんてっ。少年たちを危険な目に合わせる所だった。

 私は水が大量に出る水筒を出して顔や体を衣服ごと洗ってから、着替えた。そして慌ててみんなの所に行くと、私の服が変わっているのを見てみんなが驚いていた。

 しまった。なんと誤魔化そうか。

最後まで読んで頂きありがとうございます。出先で服装が変わってしまうということは異常なことだと思います。何かが起きなければ服を着替えません。しかもそれらしい荷物を用意していない様子だったのにどこから新しい服を出したのでしょう? それと狩人バッグに入れたキノコはいつ出すのでしょうか?

ぜひ次回もご覧くださるようにお願い致します。

ついでにポイント頂ければ嬉しいですっ。

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