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田舎娘ミレーヌが妖精になるまでの物語  作者: 葉裏
第一章 見かけは十才の女の子
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ミレーヌのキノコ採取作戦

なんの下調べもできず、少年たちにもなんの事前訓練や学習もせずにいきなり本番に向かったミレーヌです。ライバルは海千山千のおばさんたち軍団とか武器を装備している為奥地に進める冒険者たちだ。

さあ、どうやってこの難局を乗り切ることができるのでしょうか?

 そこはここ城塞都市ノストリアの市外でスブラ農園の裏手に広がる山々を見渡した場所だ。

 小番頭のソロンさんは大勢の採り手たちを前に注意事項や連絡を述べた。

ソロン「という訳でこの地帯は奥に行けば行くほど深い谷や森が広がっているので、迷い込むことのないように気を付けてくれ。

 合図として銅鑼どらを一回鳴らせば一の銅鑼どら、二回鳴らせば二の銅鑼どら、という風に三の銅鑼(銅鑼)まで鳴らす。三の銅鑼どらが鳴ったら必ず採取を中断してここに集まってくれ」

 見渡すと冒険者が十人くらい、年配の主婦のような女性たちが二十人ほど、青果部の丁稚風の者が三人くらいいた。

 そして私以下ケリー団の面々は十五人だ。

 冒険者たちの中にはノリスやミリーの姿も見られる。

 彼らは初心冒険者であるため、主に採取クエストを中心に活動しているのだ。

 その内容は薬草採取が主なのだが、今回食材としてのキノコ収穫で働きを示すという訳だ。

 彼らは武装している為に山の奥にもどんどん入って行ける。

 山の奥には人を襲う獣も魔物も出る可能性がある。

 そこが彼らの強みと言えよう。


 侮れないのが主婦たちの年配女性グループだ。

 彼女らは日常的に自分たちの食料としてキノコを採取している。

 また食材として採取したものを小売り販売もしている。

 だから採取する場所も自分の家の庭のように熟知しているというのだ。

 以上は全てソロン小番頭から事前に聞いた話だ。

 私は残念ながら事前に休みを取って現場を下調べする時間も、ケリー団のメンバーを訓練する時間もなかった。

 それでも子供二人に対して籠一つの割で借りることができた。

ソロン「採ったことがない子供らを使っても、それほど成果は期待できないが、それでも数人分の助っ人の役割はできるだろう。

 二の銅鑼どらが鳴ったら弁当を支給するからそれだけでも食べさせてやってくれ」

 つまり手当は採れ高次第なので、最悪謝礼は弁当だけということになるかもしれないということだ。

 

 開始の合図の一の銅鑼どらが鳴った。

 採り手たちは一斉にそれぞれの方向に速足で歩きだす。

 だが私はまず少年たちを集めて相談することにした。

「集めてもらうのはキノコだよ。

 まずどれがどのキノコだか分からないと思うから、歩きながらとにかくキノコとみれば一つ残らず集めること。毒キノコでもなんでも良いから片っ端から採ること。

 そして取り方は傘が石突きから外れないように、石突きの根の部分を綺麗に土から外すこと。

 そこに注意しておくことだよ。

 また歩きながら行くけれど、列から離れてケリー団の本隊を見失わないように。

 ときどき声をかけるからその積りで」

「「「はい、ミレーヌさん」」」

 

 私はケリーをそばに歩かせて、彼に聞きながら一人一人の少年たちの顔と名前を覚えながら歩いた。

ミレーヌ「ダニー、そっちの方に行かないで戻っておいで。本隊から離れすぎだよ」

ミレーヌ「マック、トニーの後ばかり歩かないで。違う場所も探すように」

 そんな声をかけながら川べりの広い場所にやって来て採って来たキノコを並べさせた。

 そのやり方は一つずつ取り上げてみんなに見せながら説明するのだ。

「これはリクラエ茸だよ。赤茶色の傘で表面に滑りがある。傘の裏側は細かい穴が開いて海綿状になっているね。これがもっともたくさん採れるキノコの一つで食用だよ。

 さあ、リクラエ茸を採った人は同じ場所に並べてごらん」

 それをすると他のキノコと区別して見分ける力が養われる。

 私が田舎で自然に覚えたことを短い時間で集中的に教える為の方法だ。

 そうしながらキノコの種類と名前を覚えさせ、間違えやすい種類や毒キノコまでもしっかり共通理解させる。

 みんなで一緒に覚えると不思議にみんな競って覚えるようになり短時間でキノコのミニ専門家がたくさん誕生する。

 大抵のキノコの分類をした後、毒キノコは川に捨てさせ、説明してなかったキノコを一つ取り上げて見せる。

ミナール「これはむらさきスモズ茸という、珍しい種類で食用です。でも滅多に群生していないので、単価は高いですがこれで沢山稼ごうとしても失敗しますよ」

 みんながクスクス笑う。別に笑うところではないが、子供の感性は分かりづらい。

 私は二十四才プラス十六才だから計四十才のおばさんでジェネレーションギャップがあるのかもしれない。

ミレーヌ「これからみんなを二グループに分けます。

 ケリーグループ七人とラルズグループ七人です。

 ケリーグループにはリクラエ茸の生えているリクラエ林に行って貰います。

 ラルズグループにはニリ茸の生えているニリ林に行って貰います。

 けれども大抵の場所はおばさんたち軍団が抑えていますから、私たちは谷に降りて場所を捜します。

 ここからも見えますが、二つの林がかなり広く分布しています。

 谷には誰も降りていません。

 それは滑落したら大けがをするし、行くまでが遠いので誰も選ばないからです。

 私は少しでも安全な降り道を選びますからみんなは付いて来るように」

「「「はい、ミレーヌさん」」」

 谷に降りるには崖みたいな場所もあるが、比較的緩やかなこみちもあるが、要はそれを見分けることなのだ。

 そればかりは辺地の原始林を歩き回った勘が頼りになる。

 町の子供であるケリー団の面々には初めての経験だが、それでも子供というのは順応性が早く、普通なら恐ろしがって尻ごみするような場所も冒険心を燃やして面白がって乗り気になる。

 むしろ調子に乗らないようにブレーキ役になって引率するのに苦労するくらいだ。

 私は前世では運動神経が鈍く体だけ大きくて、それが劣等感になっていたが、下の学年の子供たちには結構慕われていたものだ。

 それで自然に子供たちを観察してその個性を見分けることができるようになっていた。

 自分では何もできないが、子供たちにはこうしたら良いじゃないかと助言を与えるのがうまかったと思う。

 ОLになってからもアルバイトさんたちの面倒を見るのがうまいと評価されたことがある。

 多くの同僚たちはアルバイトの動作が鈍いのにイライラして『こんなこともできないの? 貸してっ。やって見せるから』といった場面があったが、わたしにすればアルバイトの方が私より有能だから誉めてやらせる形になる。

 それが自然に『アルバイトの指導は左沢あてらさわさんが適任だ』という評価になり、私の専門になって行った。

 その前世の経験が今生きているのか、不思議と少年たちの個性が手に取るように分かり、どんな助言が必要かすぐ頭に浮かんで来て言葉にすることができるようだ。

「ラルズは不思議とニリ茸を見つけるのが上手だね。だから綺麗に採るのが得意なトニーやマックの子たちに採らせると効率的だよ。

一人一人がどれだけ採れたかじゃなくてグループとしてどれだけ採れるかをケリーグループと競争する積りでね」

 ラルズはニリ茸を山ほど採るが、崩れやすいニリ茸の傘が取れたり石突きが折れたりでいささか不器用なのだ。

 それでも目が良いのですぐに見つける。だからその長所を生かすように、またケリー団長への対抗心が強いから競争心に火をつけてみた。

 二つのグループをそれぞれの場所に連れて行った後、私は彼らが必要以上に広い範囲に分散しないように持ち場を定めて採取にあたらせた。

 その一方で、私は周囲の警戒をして二つのグループを危険から守るようにした。

 狩りと違って血の匂いが獣をひきつけることはないが、人の匂いを嗅ぎつけて餌にしようとする獣もいる。

 私は久しぶりに狩人バッグを出した。

 そして彼らが必要以上に広がらないように『山火事作戦』をとった。

 それは山火事が延焼しないように、広がる先を先に燃やしてしまうという作戦だ。

 レナール祖母さんが教えてくれた話だが、丸い山があって山頂に向かって歩いているとき麓から火が出てどんどん上に燃え広がって来るという話だ。

 どうしたら助かると思う?とレナール祖母さんが私に聞いた。

『山の裏側のまだ燃えてない所を見つけて山から下りる』と私は答えたと思う。

 なるほど現実なら、そういう手が確実だね。でもこの場合山の麓はぐるりと回っても全部燃えてその炎は山頂目指して延焼しているとすればどうする?

 レナール祖母さんは答えられない私に向かって大笑いした。

 実際にこれは理論的にだけ成り立つ話だけれど、自分より山頂側に火をつけるんだよ。

 そうすると下から炎が届くころには上の方が燃え尽きてしまっているから、灰になった山頂方向に逃げれば良いということになる。

 そう言って笑ってから、このことは何かに応用できるよね、きっと。考えて見てごらん、と言った。

 その時は答えが出なかったが、今まさにこの答が出たのだ。

 キノコを求めてどんどん広い範囲に広がって行こうとする少年たちが山火事の炎に譬える。

 ところが広がろうとする先のキノコが一つもなければ、それ以上広がろうとしない。

 私はそれをやったのだ。

 彼らを取り囲むようにぐるりと回りながらキノコを採りまくり全て狩人バッグに入れて行った。

 私ぐらいになるとキノコが見えなくても匂いで探知できるようになる。

 不思議と私は他の人よりもそういう嗅覚が鋭かった。

 だからキノコを採取するスピードは常人離れしていると思う。

 そうやってリクラエ林とニリ林の両方をまるで目に見えない柵で囲んだようにしたのだ。

 更にその見えない柵に獣が嫌う香草をばらまき、人の匂いを消し獣避けの匂いを強くした。

 私はその間、見えない柵の幅を広げながらキノコの採取をし続けた。

 正直言うとこの場所は誰も近づかない場所だ。

 キノコ採りのプロのおばさんたちも危険な谷までは降りて来ない。

 だから信じられないくらいの量のキノコがいっぱい生えていたのだ。

 私の田舎でもこんなに採った記憶はない。

 ところが、そろそろ三の銅鑼どらが鳴る頃だと思って引き上げの合図をしようとした時、妙な気配がリクラエ林のずっと奥の方から感じて来た。

 

最後まで読んで下さってありがとうございます。考えて見れば誰も降りて行かなかった谷の下でキノコを採りまくって、何も起きないというのが不思議ですが。あのう正直に言います。今後の励みになりますので励ましのポイントを頂ければ嬉しいです。

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