降りかかる火の粉の消し方
追跡者たちをどうやって殺さずに追い払うかという話です。
私は街道コースの追跡をかわすために森の中で野宿しながら次の街リッチロードに向かった。
冒険者なら必ず目指すという街だ。
そこは裕福な商人によるクエストが多く、冒険者にとっては稼ぐに事欠かないのである。
私は行き先を誰にも告げずマネーゲートを出たが、国境とは反対に向かったとすれば、リッチロードに向かったと誰にでも分かる。
正直あの町を出れば、柵から逃れることができると思っていた。
私如きに大の男たちが仕事を放り出して追いかけて来るとは思わなかったからだ。
だが、出発してから二日目に幾つかの追跡者たちの気配を感じた。
私は何キロも離れた夜の闇の後方に彼らの会話を聞きとった。
夜になれば、そして人里離れた森の中なら、私が聞き取れる距離が延びるのだ。
「あの女、たった一人で野宿しているようだな。ここで一晩過ごした跡がある」
「少しペースを速めれば明日の夜には追いつくだろう」
「寝込みを襲って憂さ晴らしをしようぜ」
「順番はどうやって決める?」
「まあ、滅多にお目にかかれない上玉だ。実力順で決める」
「他のパーティはどうする?」
「俺たちが先にミレーヌを頂こう。その後の残りかすをくれてやるさ」
「この焚火の跡に俺たちが火を焚けば、ミレーヌの足取りが分からなくなるぜ」
これは確かEランクのパーティ、『吸血の鉄剣』の連中だ。
そして私は別の場所での違う会話を拾う。
「吸血の鉄剣の連中、きっと明日の夜ミレーヌを襲う積りだ」
「その前に襲って、あいつらを出し抜こうぜ。
そしてあいつらに渡す前に殺して埋めてしまおう」
「吸血の鉄剣はリッチロードに手紙と荷物を届けるクエストを引き受けてたから、初めからあいつを狙っていたんだ」
「無理もねえな。あんな良い女は滅多にお目にかかれねえ。お貴族様のお姫様級の美人だ」
「白百合の絆が解散してミレーヌだけが冒険者を続けていたから、こいつはチャンスだと思ったら、突然街を出て行きやがる。
あんときは焦ったぜ。目の前の御馳走が逃げて行くときたもんだ」
「だけどあいつを見張っていて良かったな。あやうく逃げられるとこだった」
「傑作なのは『群狼』の連中だ。
明日の朝リッチロードまでの商人の護衛を引き受けてやがった。
あいつらが追い付いた時には全部終わっているってのによぅ」
そして下品な笑い声が響く。
これは確か『黄金の狐』の連中だ。
つまり時間差はあるが、三つのパーティが私を追いかけている。
私は彼らに何かをしたろうか?
ただ自分のパーティの中で最善を尽くしクエストを達成して行っただけだ。
それが気に障ったのだろうか?
そして女の身で男の彼らよりも成績が良く、さらにランクが彼らより下の後輩の分際で出過ぎたからだろうか?
それは差別感であり、醜い嫉妬であり、さらにむき出しの欲望に過ぎない。
自分たちより優れた存在は許せないので、足を引っ張って引きずり下ろす。
美しいものは汚して滅茶滅茶にして憂さ晴らしをしたい。
それをただ心で思っているだけなら、ありうるかもしれない。
けれどそれを共謀し実際に実行しようとする恥知らずなやり方が理解できない。
けれども私は彼らを迎え撃つ気にはならなかった。
そうすれば必ず全員を殺すことになりそうだからだ。
赤い疾風すら全滅させた私だ。
それよりずっと低いランクのパーティが三つ同時に襲って来ても返り討ちにできる。
けれどもそうなれば私の場合、証拠を残さないために一人残らず殺してしまうと思う。
それは私が本質的に非常に臆病な人間だからだ。
誰からも人を殺すような恐ろしい人間に見られたくない。
だから命を狙われたときは、きっと徹底的に証拠を残さず相手を抹殺し、何事もなかったように次の日から平穏な毎日を過ごせるようにしたいのである。
私は前世でのある事件を思い出した。
それはヤクザにひどい目に遭ったある青年の話だ。
彼はごく平凡な青年だった。
けれども余程悔しくて、友達に相談して仕返しをしたいと言った。
実際黙っていても彼はヤクザたちに目をつけられていて、また何をされるか分からない状態だったのだ。
ヤクザは三人くらいいたと思う。
青年の仲間はそれよりも多く、一斉に襲って殺し、ブルドーザーで土の中に埋めてしまったのだ。
やり返すならヤクザを殺して跡形もなく死体を埋めてしまわなければ後が怖いからだ。
暴力の素人は怖い。ヤクザは暴力のプロだから簡単には殺さない。
そういう意味で私は暴力の素人だと思う。
傭兵も冒険者も嫌いだ。人を殺すからだ。
だから私は永遠に暴力の素人でプロにはなれないし、なりたくない。
だから初めから避けることができる荒事は極力避けたい。
それでも私は目的地を変える積りはなかった。
ところがその後別のグループが私を追って来たのだ。
それはもっと油断のならない連中で、追跡の足も誰よりも速かった。
ベアトリスと一緒に来た二つのクランの大半は、彼女の説得に応じ帝国に引き上げて行った。
けれども一部の連中は赤い疾風と関わりを持ち、軍団エックスに復讐を誓っている。
そして聞き耳を立てていると、軍団エックスの一員として私を疑っているのだ。
特に角と魔石が彼らの手に渡された途端、街を出て姿を消した私に対して完全に黒だと決め込んだらしい。
私を捕らえて拷問をし、仲間の正体を吐かせようと追って来たのだ。
それを何キロも離れたところから聞き取った私は急遽予定を変えることにした。
私は今東に向かわずに南西の方向を目指していた。
つまり西のマネーゲートに少し逆戻りする方向だ。
マネーゲートからそのまま東に進めばリッチロードという都市に向かう。
けれども私がそこに向かうと知って、五つのうち三つのパーティがリッチロード方面のクエストを受けて追跡して来た。
白百合の絆というパーティに属した為、私は大いに目立ってしまった。
女ながらパーティの中で異彩を放ち、悉くクエスト達成に多大の貢献をしていると、あの町で伝わってしまった。
そして軍団エックスを追う二つのクランの中の有志?が、エックスが角と魔石をビーチェらに渡した直後に街を出た私を疑って追って来た。
その為少しコースが外れるがブガルディーという寂れた街に行くことにした。
そこの噂は大変宜しくない。
街でありながら治安が悪く、代官を務める者も男爵位を持つ貴族だが、まったく無能で部下を御して行くことすらできないという。
そういう不安定な所には行きたくないが、追手を躱す為やむを得ないと思った。
私は兵士が居眠りしている門をそのまま通って、街の中に入った。
一見ゴーストタウンと見間違えるような寂れた街並み。
それでも冒険者ギルドがあったので、中に入るとツーンと饐えたような匂いが鼻につく。
ホール横の酒場では薄汚い感じの男たちが陣取っていて、昼間から酒を食らっていた。
「げぷっ……女だ。女が来たぞ」
そして「チーチー、シーシー」
という歯に挟まった食いかすを吸い込む音。
私は胸が悪くなってすぐそこを出た。
そして辿り着いたのは商業ギルドだった。
中年のおどおどした様子の女性が私を迎えてくれた。
女性「よく来たね。悪いことは言わないからすぐこの街を出た方が良いよ。
ここはあんたのような綺麗なお嬢さんが来るところじゃない」
ミレーヌ「ですがどうしてもこの街に数日いなければいけない都合がありまして、どこか安全な所はありませんでしょうか?」
女性「そうかい、なにか訳があるようだね。それなら、悪い奴の毒牙のかかる前にどこかに身を隠した方が良い。
そうだ。代官様の所に紹介状を書いてあげるから、そこの下働きをして匿ってもらうと良い。
待ってなさい。今手紙を書くから。
商業ギルドのマーサから聞いて来たって言えば中に入れてくれるよ」
ミレーヌ「ありがとうございます、マーサさん。
では行ってみます」
そう言いつつ代官は無能だという噂を思い出して少し不安になりながらも、紹介状を手に私は代官所に向かった。
代官所は外側は立派な建物だが、見張りの兵士は無気力だった。
商業ギルドのマーサさんの紹介だと言うと、取り次ごうともせずに勝手に中に入って行けと言う。
そして相棒の兵士と一緒になにやら与太話を続けていた。
建物の中に入るとやや暫くして執事のような老人が出て来た。
体の弱そうなただの老人で、紹介状を手渡すと、そのまま自分についてくるように言って歩き出した。
執事「お嬢様、商業ギルドのマーサさんの紹介状を持って来た女性をお連れしました」
嬢様「中に入って頂いて」
中から二十代くらいの女性の声が聞こえた。
執事から手紙を受け取りつつ私をちらりと見たその女性は美しいながらも質素なみなりをしていた。
そう言えばお屋敷が立派だったにも拘わらず中にはこれと言って目をひくような調度品は全くなかった。
紹介状を頷きながら読んでいた彼女は読み終えて顔を上げると、弱弱しく笑って私に優しく話しかけた。
嬢様「ミレーヌさん……と仰るのね。
私はブガルディーの代官を務めているブリジット・フォン・レクサリア男爵です。
なにか事情がおありのようですが、宜しかったらお話頂けないでしょうか?」
そこで私は簡単に今の状況を説明した。
代官「そうだったのですか?
女性の身で冒険者をしているのですね。
あなたは美しいし、雰囲気からして品もあるし教養もありそうです。
このような荒れ果てた街に迷い込めば、どんな危険が待っているかわかりません。
恥ずかしながら私は代官として十分に役割を果たしていません。
けれども数日で良いのならここに匿ってさしあげても構いません。
特に何か仕事をする必要はありません。
お部屋とお食事を用意しますので、私の話し相手にでもなって頂ければそれで充分です」
代官のブリジットさんは自らお茶を入れてくれた後、自分の身の上話をしてくれた。
代官「私は嫁いで間もなく子もなさぬまま夫に死なれてしまったのです」
彼女は元々は樹海王国の子爵家の末娘で、適当な嫁ぎ先がなくその当時は豊かな商業国のレクサリア男爵との縁談に乗ったとのこと。
私が樹海王国のレストーシャンの学校で習った歴史によると、商業国アストラは周辺の国の王侯貴族のうち跡継ぎから外れた者で商才のある者が商売を始めて作った国だということだ。
それぞれの土地には旧領主の名前がついているが、すでにそれらの殆どは新興の商人貴族によって没落し、代官が治めているのだ。
代官は力のある商人貴族が務めるが、ここブガルディでは代官だった夫君が死んだ後、未亡人のブリジットさんが代官を務めているのだ。
商業国には国王がいない。
だから代官は任命制ではない。
あくまで実力で代官を務め、その地の経済的発展を担って行くのだ。
もし誰かがこの地の代官を名乗り出て、ブリジットさんを経済的に失脚させれば、政権は交代になる。
けれどもこのブガルディは衰退の一途をたどっている為誰も狙おうとしない。
夫のレクサリア男爵の配下だったダニエルという男は金を使い込み屋敷の財産を勝手に盗んで売り払ったので、追い払った。
けれどもこのブガルディからは出て行かず、ごろつきと一緒になって治安を乱している始末なのだ。
実力のある騎士は他の地の代官から引き抜かれ、無能で無気力な兵士が僅かに残っているだけである。
その彼らに給金を支払うと、お金は殆ど残らずやっと代官として食いつないで行くだけの金しか残らないという。
税金は高くすると領民は逃げて行くので、それもできない。
ミレーヌ「だから冒険者ギルドに顔を出した時、空気が荒んでいたのですね」
代官「冒険者ギルドはダニエルとランドールという二人の悪人が手を組んで組んで牛耳っています。
ギルド長も職員も他の冒険者も彼らには逆らえません。
乱暴者の子分を十人以上飼っていて、逆らう者を暴力で従わせるのです。
私には手を出しませんが、ここにいた侍女が何人か乱暴されて出て行きました」
このブガルディは既に崩壊していると私は思った。
けれども癌の元になっている二人とその配下を一掃すればなんとかなるかもしれない。
すると屋敷の外でなにやら怪しい人物の気配がした。
ブリジットさんの話を聞きながらそれとなく耳を澄ませると、話題のダニエルとランドールが子分を連れて押し寄せてくるところだった。
彼らは余所者の私がやって来て若い美人だということで、なんとか代官屋敷から連れ出して自分たちの玩具にしようとやって来たのだ。
代官の権威を少しも認めてない傍若無人の行いだ。
ダニ「あの女は代官の所に匿ってもらっているみたいだな。
なんとか罪を着せて罪人としてしょっ引いて行くぞ」
ラン「チッチ、シーシー。何の罪ですかね。来たばかりでなにも
してねえと思うんですが」
ダニ「それはこれから作るんだよ。
おい、ルディ。お前俺の財布をあの女の服に忍ばせるんだ。
スリのお前ならお手のものだろう」
ルディ「へい、合点でさあ」
ラン「なるほどそれで、ダニエルあんたの財布を盗んだんだといちゃもんをつけるって算段かい?」
ダニ「大正解だ。さあ、行くぞ」
代官の部屋はいきなり開かれた。
代官「なんですか、あなたたちはいきなり断りもなく部屋に入って来て」
ダニ「へっへっへ、代官様。
お久しぶりでございます。
実は泥棒を捕まえに来たんでさ」
代官「泥棒はお前ではないかっ。
税金を使い込み、我が家の家財を盗んで行ったことを忘れたのかっ」
ダニ「おやおや、代官様。いくら代官様とて、滅多なことは仰らない方が良いですぜ。
なにか証拠があるんですかい?
証人はどこにいるんです?
それよりその隣にいる女冒険者ですが、ここに来る前にギルドに寄って行ったんですが、そのときに酒場のテーブルに置いておいた金貨入りの吾輩の財布を盗んで行ったんですわ」
私は呆れて言った。
ミレーヌ「私はギルドには入ったがすぐ入り口で引き返した。
酒場の方には近づきもしなかったぞ」
そのとき一人の男が私に近づいて来たぶつかった。
男「嘘言うんじゃねえっ。
俺は見てたぞ。そのお前の右ポケットに何が入ってるんだ?」
男はルディというスリだった。すでに私の右ポケットは膨らんでおりずっしり重かった。
ミレーヌ「お前は見ていたと言うんだな。
じゃあ、このポケットにその財布が入ってなかったらどうする積りだ」
ルディ「ふん、この俺の命をくれてやるよ。ほらその膨らんでいるポケットに入ってるものを出して見せな。
泥棒め」
ミレーヌ「命はいらない。その代わり侮辱したから殴らせてもらうぞ」
私はジャケットの右ポケットに手を突っ込んで中のものを出して見せた。
それは小さな手鏡だった。
その後でポケットを裏返して見せた。
ルディ「……」
私は奴の頬を軽く引っ叩いた。
ぺしっ
ダニエル「ルディ、お前は……
ええい、どうでも良いっ。
体の別の場所に隠してるかもしれねえ。
連れて行って裸にひん剥いてしまえっ」
私は捕まえようとする男たちの手を片っ端からペシッペシッと叩いて退けた。
ミレーヌ「汚い手で触るなっ。
私に罪を着せる積りだろうがそうはいかない。
ダニエルとランドール、お前たちには報いを受けて貰うぞ。
代官様、彼らの罪はどの程度のものですか?」
代官「そうですね。今までして来たことを考えればここにいる全員が例外なく死罪を免れないでしょう」
ダニエル「ふん、代官様。下手に出ていれば調子に乗り過ぎましたなぁ。
例えばこの女が刺客で代官様を殺害したことにすることもできるんだ。
つまり二人ともここにいる男たちに散々弄ばれた後、死んでもらうこともできるのさ。
その後、私がここの代官職を譲り受けるってのはどうかな?」
代官「ダニエル、とうとう本性を現したな。許さないぞ」
ダニエル「それがどうした。へへへへ。これから良い思いをさせてやるぞ。
代官様、あんたも女だろう」
みんなそこにいた子分たちもげらげらと笑った。
だがその後でルディを含め次々と男たちが崩れるように床に倒れて行った。
私はポケットに手を突っ込んでダニエルの財布を亜空間に収納した後、手鏡と一緒に針つきの指輪を出して指に嵌めたのだ。
この指輪の針には痺れ薬を沁み込ませた海綿と針がついていて、シャチ〇タネームのように常に痺れ薬を補給しながら相手に薬つきの針を突き刺すことができるのだ。
私は驚いているダニエルとランドールの顔を針付きの指輪を嵌めた手で引っ叩いた。
パシッ、ペシッ。
ミレーヌ「代官様、彼らを制圧しました。早速彼らの刑を執行して下さい」
代官「は……はい。でもこの二人はまだ立っていますけど、大丈夫ですか?」
そう言った途端最後の二人、ダニエルとランドールが膝を折ってからうつぶせに床に倒れた。
代官のブリジットは早速兵士を呼んで彼らを縛り上げさせて、ギルド前の広場に荷馬車で運んだ。
集まって来た人々の前でブリジットは朗々とした声で宣言した。
代官「皆の衆、よく聞くが良い。
ここにいるダニエルとランドール、およびその一味は盗み、暴力、恐喝、暴行とありとあらゆる罪を重ねて来た。
この街を恐怖に陥れ、代官の私にさえ逆らって暴虐の限りを尽くして来た。
けれども今、この隣にいる女性冒険者ミレーヌさんの協力によって捕らえて拘束することができた。
ここに私は宣言する。彼ら全員をここで公開処刑して罪を償ってもらうことを」
異世界は結構血生臭い。
人々は歓声をあげて喜んだ。
兵士たちは次々に男たちの首を斬り落とす。
そのたびに歓声と拍手が沸き起こる。
彼らはまだ痺れ薬が効いているので舌も動かず一言も喋ることもできぬまま死んで行ったのだ。
これで代官ブリジットの面目も立ったことだろう。
その後尖った棒の先に彼らの首を突き刺し広場に並べた。
早速鳥が飛んで来てさらし首の目玉を突いて食べたりした。
首以外の体は積み重ねられ火で燃やされる。
その際わたしも燃え残った骨を掃除するのを手伝った。
彼らの武器・防具・金目のものはここに運び出す前に私の方で没収しておいた。
彼らは盗賊と同じなので、その財産は討伐した私に所有権があるとのことだった。
今回は代官の手で彼らを処刑できたので、幸いだった。
ダニエルたちが死ぬと、色々な人たちが彼らの罪を告発して来た。
彼らが怖くて今まで言えなかったことが明るみになったのだ。
その中にレクサリア男爵は原因不明の病死ではなく、ダニエルたちによる毒殺だったという証言も出て来た。
私は数日そこで過ごし、その後ブガルディを出てリッチロードに向かうことにした。
代官「ミレーヌさん、ありがとう。お陰で街の掃除をすることができた。
これからはなんとか街を立て直し、以前のような豊かで賑やかな街にして見せようと思う」
ミレーヌ「頑張ってください、ではこれで」
街を出ようとすると、私を待ち受けていた連中がいた。
吸血の剣、群狼、黄金の狐の三パーティだ。
「ミレーヌ、貴様。こんなとこで油売っていたのか?」
「ここで会ったのがお前の運の尽きだ」
「マネーゲートで好き放題にしてくれたお礼をしてやるぜ」
ミレーヌ「言ってることがよく分からないな。私があなたたちに何かしたのか?」
「ああ、したともっ。女のくせに俺たちを出し抜きやがってっ。
お前女を使って男に手伝って貰っていたろう。
そうにちげえねえ。
そうでなきゃ、そうやすやすとクエストをこなせる筈がねえ」
「卑怯な奴め。生意気な小娘には体に教えてうやるのが一番の薬だ」
私は身勝手な男たちの言い分に肩をすくめてから答えた。
ミレーヌ「どうせここまで来たのなら、街の中に入って広場に並べてある生首を見て行くと良いぞ。
私の体目当てによからぬことを考えた連中が首を斬られて並べてある。
同じ身になりたいなら、かかって来ると良い。
但し、ここの代官と知り合いだから、お前たちは盗賊扱いになる。
私を襲って大事な何かを盗もうとしているのは盗賊だ。
そして盗賊は死罪だ。
さあ、よく考えてかかってくると良い」
「何を強がりを言ってる? 俺たちがこれだけの人数で囲んでいるのに、代官に突き出せると思ってるのか」
そこへ別の人間がやって来た。
「やい、ミレーヌ。お前が軍団エックスの一味で、赤い疾風を殺したということは分かっているんだ。ここで死んでもらうぞ」
例のビーチェが説得できなかった連中だ。
だがその言葉を聞いて、三つのパーティは慌てて後ずさりした。
「軍団エックス? あの赤い疾風を全滅させた?」
「おい、やばいぞ。逃げろ。はったりじゃなかった。
本当に俺たち殺されるぞ」
あっという間に三つのパーティは逃げて行った。
そして残った復讐組の彼らが私に襲い掛かったときには既に辺り一面を白い霧が覆ったのだ。
私が出す霧には知覚作用がある。
霧が晴れたとき私の姿はなかった。
「どこに消えた? そんなに遠くに行ける筈がないのに、どこにも見当たらない」
「捜せっ。必ずどこかにいる」
彼らが付近の捜索を諦めてリッチロードを目指して去った後、近くの巨木の幹が人型に膨らみ、私が出て来た。
樹木の精霊パゴから授かった擬態のスキルを使ったのだ。
それから間もなくして、リッチロードの往来の真ん中で二人の女性が対決しているのを街の人々が目撃している。
一人は赤毛の少女であり、彼女はもう一人の少女に向かって大声で言った。
赤毛「やい、お前。私の仲間の赤い疾風をよくもやってくれたなっ」
少女「そういうお前は確か」
赤毛「そうだ。赤い疾風の最後の生き残り、獄炎のライラだっ。
勝負しろっ」
少女「ここでやり合えば人々に迷惑がかかる。街の外に出よう」
赤毛「のぞむところだ」
二人の女性は街の門から外に出て、ずっと歩いて行った。
そして街の外でなにやら大きな炎を目撃したという人が大勢いた。
一人の男が慌てて街の外から門に駆け込んだ。
男「大変だ。二人の魔法使いの女が炎の魔法を撃ち合って、両方とも燃えてしまった」
「どこだ、案内してくれ」
兵士も街の人々もその現場に行ってみた。
すると確かに人骨らしき燃えカスが二体地面に横たわっていた。
この噂が街中に広がり、後から聞いた軍団エックスへの復讐を目論んでいた男たちは、それが行方不明だった獄炎のライラとミレーヌだと結論付けた。
しかしそれではもう軍団エックスを追う手がかりがなくなってしまったので、彼らは古巣の帝国にひきあげることにしたのだ。
この様子をすべて聞き取っていたミレーヌは、傍らにいた三人に言った。
そこには二人の少女と一人の男がいた。
そのうちの一人が頭にかぶっていた赤毛のウィッグを外してミレーヌに手渡した。
ミレーヌ「ご苦労さん、あなたたちが元旅芸人で座長に売られて奴隷にされていたのをたまたま見つけてラッキーだった。
それとダニエルという悪党の燃やした骨をキープしておいて役に立ったよ。
大きな焚火をして風魔法で炎を空高く燃え上がらせたのは大成功だったね。
とにかく本当に上手に演技してくれた。
目撃者役のあなたも上手だった。
ご苦労さん。
約束通りあなたたちの奴隷契約を解除して自由にしてあげるよ。
いやいや、一緒に来たがっても駄目だよ。
それから裏切り者の座長は私が掴まえておいて懲らしめてやるから安心すると良い。
一座の財産をすべて持ち逃げしたうえに座員に一服盛って奴隷商人に売り渡すなんて許せないからね。
必ず見つけてやるよ。
それじゃあ、奴隷商会に行って奴隷契約を解除してもらいに行こう」
こうやって私は誰も殺さずに追跡を躱したのだった。
さて私はそれからこの街で腰を落ち着けて商売を始めることにした。
何故なら私には時間凍結できる無限収納亜空間があるからだ。
そしてそこである人間が見つかるのを待つことにしたのだ。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。




