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田舎娘ミレーヌが妖精になるまでの物語  作者: 葉裏
第三章 樹海王国レストーシャン
33/52

一件落着の経緯

最近はこの小説を書きながら、自分でも旅している気分に浸っています。

全くマイナーな世界ですが、楽しみながら書いてます。

 青い長い髪のその侍女は、まだ十代始めの幼い少女ながら顔立ちは大人びて眼鏡の奥の青い瞳は知的な好奇心に満ちていた。

 彼女の名前はマーナと言い、宰相の娘にして王立学校を飛び級で進み首席で卒業、父親も扱いに困ってキャサリン王女の家庭教師兼侍女にしたのだ。

マーナ「もし同一人物だとすると、それは女性である場合が多いと思います。

 何故なら少年のときは眼帯やマスクで顔を隠していたからです」

王女「でも、私に話しかけてきたときには間違いなく男の子の声で」

マーナ「どうして男の子の声だと思ったのですか?」

王女「それは男らしい声だったからですよ」

マーナ「少し演技力のある者でしたら、男らしい声を出すのは簡単です。

 キャシー様も普段から女らしい声を出すようにしているので女らしく聞こえるのです」

王女「では何故男の振りをする必要があるのですか? 

 可愛い少女だとお兄さまが言っていたから、女のままで良いじゃありませんか」

 マーナは眼鏡をちょっと直してから王女の目を覗き込むようにした。

マーナ「それは女のままだと旅をするときに物騒だからです。

 キャシーさまがたった一人で街だけじゃなく、森を歩いていると考えて下さい」

王女「いえあの方は絶対男の方ですっ。変なことを言わないでくださいっ」

マーナ「申し訳ありません、キャシーさま。

 私も断定した訳ではありません。

 あくまで可能性としてお話しただけです」

ミカーラ「そうだよ、マーナ。だいたい女だったら、キャシーさまがセクシーに感じる訳はないじゃないか」

王女「ミカーラッ。さっきの仕返しですか、それはっ」

ミカーラ「ち……違いますよ、キャシーさま。お気に触ることを言ったのならお許しください」

 そういう話を黙って聞いていたマークス王子は三人に声をかけた。

王子「着いたぞ、予約した部屋で一休みしたら早速打ち合わせをしよう」


 私はミレー少年としてギルドに向かった。

 薬草採取とか蛇や蜥蜴類の討伐、または都市周辺の村の魔獣害に関するクエストがないか確かめるためだ。

 すると普段見かけない冒険者たちが大勢集まっていた。

 よく見ると美形の男子一人と女子三人を取り囲むように、冒険者が歓談しているという感じだ。

 別に受付のロビンの前に並んでいる訳ではないらしいので、私は窓口に向かった。

ミレーヌ「なんだ、この騒ぎは?」

ロビン「ああ、ミレー君には関係ないよ。

 あの赤毛の美人がセクシーな少年冒険者を捜しているのさ。

 でもってあのイケメンの若者の方は可愛い女の子を捜しているらしい。

 全く他所でやってほしいよ」

ミレーヌ「じゃあ、ほかの二人は? 

 あの眼鏡の娘と髪の短い女は、付き添いか?」

ロビン「さあ? 何も言わずに突っ立ってるだけだから俺にもわからん。

 だがはっきり言えることは、たぶん男を寄せる撒き餌みたいなものだろう」

ミレーヌ「ふーん、それであれだけ男や女の冒険者が集まっているのか。

ところで金の儲かるクエストないか?」

ロビン「儲かると言えば、大きい声じゃいえないがランク無視すれば色々あるぞ。

 実は用意しておいたんだ」

ミレーヌ「それ、クエストとして受け付けてくれるのかよ」

ロビン「まあ、俺一人でやってるからな。そこのところはどうとでも。

 で、もう少ししたら可愛い女の子を雇おうと思ってる。

 そして少し改築して受付を三つくらい横並びにして、俺は奥のデスクで優雅にお茶を飲んだりしてるんだ」

ミレーヌ「はいはい」

ロビン「そうなったときには、お前は俺が直接担当するからな。

 こっそり便宜を図るには新人には任せられないからな」

ミレーヌ「俺相手に夢語るなよ。

じゃあ、行くぜ。

 どうもここタダでさえ狭いのに、今日は満員電車だぜこりゃ」

「マンイン……なんだって?」

ミレーヌ「良いんだ、気にしないでくれ」


 私はそこをそっと抜け出せる積りだった。

 だがそれがまずかった。

 ほかの男どもと同じように美形の女たちを少しでも盗み見るくらいの演技をすれば良かった。

 それを少しも見ようとせずにさっさと立ち去ろうとすることが、向こうの待っていた反応だったとは計算してなかった。

青侍女「ちょっと待ってください。そこの君」

 眼鏡の小柄な少女が私を指さし呼び止めた。

「おい、お前を呼んでるぜ」

 気づかない振りしてスルーしようと思ったら、余計なお世話をしてくれる奴がいて私の行く手を塞ぎ押し戻した。

青侍女「そうそう君だよ。どうしてそのまま行こうとするの?

 ここで何してるか興味ないの?」

ミレーヌ「俺に関係なさそうだし、金稼がなきゃいけないから急いでるんだ」

青侍女「お金? 良いよ、お金払うからちょっとだけ質問に答えてくれる?」

ミレーヌ「面倒だな。あまり色々聞かれるのは苦手なんだ」

赤侍女「ちょっと、マーナ。セクシーじゃないでしょ、その子」

青侍女「黙ってて、ミカーラ。

 ねえ君、名前教えてくれる? 銀貨でお礼払うから」

 眼鏡の美少女は左手に数枚の銀貨を握って、右手に一枚持って差し出して来る。

 銀貨だよ、銀貨。雑役してる少年たちでも散々働かされて銀貨一枚にはならないって言ってた。

 それを拒むのは余計不自然だから、一応顔だけは嬉しそうに受け取った。

ミレーヌ「ミレーだよ」

青侍女「出身地は?」

 眼鏡娘はまたもう一枚差し出す。

 本当かよぉぉ。良いのかよぉぉ。

ミレーヌ「ここから西の方にある、アネクスって村だけど」

青侍女「アネクス?」

「お嬢さん、アネクスって村はもうないよ。

 魔獣に襲われて全滅したんだ」

 ちっ、ギャラリーは余計なことを教えなくても良いっ。

青侍女「そ……うなの? じゃあ、どうして君は生きてるのかな」

ミレーヌ「……」

青侍女「あ、ごめん。はい、銀貨。だから教えて」

ミレーヌ「ちょうど村を出ようとしてたときで早めに逃げることができたんだ」

青侍女「その後、この街に来て冒険者になったの? はい、銀貨」

ミレーヌ「そうだ」

「おい、お嬢ちゃん、こんな奴に銀貨渡さないで俺にくれよ」

赤侍女「引っ込んでな。タマ取るぞっ」

 赤毛の女が睨むと若い冒険者は黙ってしまい下を向いてしまった。

青侍女「これで最後。どこに泊まってるの?」

 五枚目の銀貨を渡しながら眼鏡娘はにっこり笑いながら聞いて来る。

 これなら大抵の男は逆らわずに全部正直に答えてしまうんだろうな。

 でもってまさかアンナの名義で泊まってる蜻蛉の宿を教える訳には行かないから、誤魔化すことに。

ミレーヌ「それは今日の稼ぎを見てから決める」

青侍女「じゃあ、『水仙の泉亭』に泊まって下さらない?

 宿泊費はこちらで負担するわ。

 それならいいでしょ?」

 周囲から冷やかすような歓声があがった。

 私が美少女に逆ナンされたと思ってるのだろう。

 ここにいる連中は相手が貴族絡みだってこと知ってて浮かれているのだろうか?

 これで俺が『水仙の泉亭』に泊まらなかったら、大変なことになる。

 あそこはこの街一番の高級宿だ。

 だから、私は喜んでるところを見せなきゃいけないのかもしれないがどうもそういう演技する気にもなれない。

ミレーヌ「なんでそんな高い宿に招待するんだ。魂胆があるだろう?」

青侍女「考えすぎ。私の知り合いに会ってもらうだけ。

 だから一泊だけで良いよ。

 君の名前で一部屋借りておくから忘れずに来てよね。

 来なかったら捜すよ」

 最後の一言は最高の笑顔で言ってるけど、それ脅しだよね?

ミレーヌ「分かった。一生に一回の経験だな、あんな高級宿に泊まるなんて」

青侍女「君がその気になれば何泊でもできるかも。

 じゃあね、今夜会えるのを楽しみにしてるよ」

 私は背後に無数の視線を感じてギルドを出た。

 これはどうやら最悪の場合を考えなきゃいけないかもしれない。

 あの青毛の眼鏡っ子は油断ならない。

 それじゃあ、のんびりクエストを受けている暇はない。

 私は奴らがいなくなったギルドに戻りクエストのキャンセルをした。

 キャンセル料はもともと正式なクエストではないので、免除してもらう。

 これで時間が稼げる。

 私は彼女が話していた『水仙の泉亭』を探ることにした。

 まだ彼らは帰っていないが、きっと関係者がこの宿にいる筈だ。

 ゆっくり宿の周辺を散歩する振りをして私は様々な人々の会話を拾って行った。

 そして聞き覚えのある二人の声を拾ったのだ。

『お兄さま、マーナの作戦はうまく行くでしょうか?』

『彼女は頭が良いからな。その辺は抜かりないと思うよ、キャサリン』

『私こうやって待っているのが、じれったいですわ。

 私ならあの方を見ればなんとなく分かる気がしますもの』

『とは言えキャサリン、私たちはこの国の王子と王女だ。

 いくら平民の服を着てても顔や身のこなしや言葉遣いですぐ分かってしまう。

 だからここにじっとしていて、候補者が一堂に会するのを待つしかないのだよ』

『マーナはどうしてここにみんなを泊まらせるというのかしら』

『それは例の少年少女の正体について、双子説と同一人物説があるだろう? 後の方の場合、片方しか来ることができないからさ』

『ねえ、どうして私たちの恩人にそんな罠のような真似をするのですか?

 私はマーナのやり方が賛成できないわ、お兄さま』

『それは私も同じだが、彼女には別の思惑があるらしいのだよ。

 例の国境警備員殺害事件との関連も疑っているみたいなんだ』

『ひどいっ。そんな敵国のスパイの疑いまで恩人の方にかけるなんてっ』

『彼女は宰相の娘なんだ。よく考えてごらん。

 キャサリン、君が見た少年は三十人もいた反王族派の賊をたった一人で半数を殺し、半数を無力化したんだよ。

 ところが時期が非常に近いときに絶対不可能と言われた北の森を越えての国境侵犯があったんだ。

 あの魔獣の六足熊の頭をハンマーで叩き潰して殺した者がいたということだよ。

 一応二つの事件は全く真逆のできごとのようだけれど、その関連も疑ってみるというのがマーナの考えだ。

 私はそのことに異論はない。

 と同時に私は、私を救ってくれた薬師の少女のことは信じているがね』

『私もあの方を信じています。国境を侵すような犯罪者が私を助けることに意味がないからです』

 そうか、つまり王子様と王女様の恩人捜しをしているのと、その恩人の正体を突き止め国境侵犯の犯人との関連も探るのがマーナと言う少女の目的か。

 あの眼鏡っ子はもう私が一人で少年と少女を使い分けていることに気づいているのかもしれない。

 ところが二人の会話はまだ続いていた。

『私はマーナの同一人物説が納得できません。

 マーナはあのアンナとかいう薬師もここに呼ぶ積りでいるのですよね』

『うん、あれにはちょっと私も驚いた。マーナによると、もしかしてあのアンナと言う娘も同じ人物が変装している可能性があるって言うんだからね。

 言うなら三人同一説だよ』

 私は心臓が止まりそうになった。

 ということは今頃蜻蛉の宿に行って、私を捜してるというのか?

 そしてミレー少年とアンナを同時に呼んで王子たちと会わせる積りなのか。

 それができなかった場合三人同一説が完成するという訳だ。

『マーナは私が目撃した不思議な魔法のことを聞いて、それは空間魔法だと言いました。

 何もない空中から剣や槍や斧を次々に出すのはそれ以外に考えられないと。

 とすれば、服やカツラなど変装に必要なものを自由に出し入れできるはずだから、三人が同一人物である可能性が高いと。

 その証拠に三人が同時に現れたことはなく、そのうちの二人が同時に姿を見せたこともないのだと。

 そして、何故そこまでして正体を隠すかと言えば、国境を越えた犯人であるからなのだと。

 マーナは私の学問の先生なので、理路整然と言われれば言い返せないので悔しいです』

『キャサリン、もうこの話はやめよう。

 きっとマーナは何か重要なことを見落としているよ。

 たとえば国境警備員を殺してまでこの国に忍び込んだ敵側の人間が、何故私たち王室の者を命を張って守らなければならなかったのかということだ。

 マーナはこのことに対して、それはただの気まぐれとか行きがかり上そうなったかもしれないなどといい加減なことを言っている。

 天才と言われた彼女もこの点で理論が破綻しているし、間違っているのじゃないか』

『そうですね、その通りですわ、お兄さま。

 マーナは間違ってます』

 いえいえ間違ってません。

 あの眼鏡っ子は天才です。

 もう私は駄目です。とにかくこの街を出なければいけない。

 だが今何も手を打たず逃げ出せばやはりそうだったということで追及されることから免れないだろう。

 いったいどうすれば?



 四人はついに蜻蛉の宿に来ていた。

 マーナは赤毛のミカーラに言った。

マーナ「この宿の裏口を見張ってて下さい。男も女も誰も逃がさないで」

ミカーラ「わかったわよ」

マーナ「コリーさんとハマーさんは私について来て下さい」

「「わかった」」

マーナ「すみません。アンナさんの泊まってる部屋はどちらですか?」

「アンナさんは森に薬草採りに行ってます。

 いつも夕食までには帰って来ますが。

 この時間ではまだまだです。

 なにしろ今日が始まったばかりですから」

マーナ「しまった。あのミレーと言う少年もクエストに出かけたから夜にならないと戻らないだろうし。

 じゃあ、違うところを回ってみましょう」

「「わかった」」



 私は『水仙の泉亭』の勝手口から忍び込み、キャサリン王女の部屋の前まで来た。

 彼女は兄と別れて自分の部屋に戻っている筈だ。

 この部屋は三人部屋で二人の侍女と共に泊まっている筈だが、今はその二人はいない。

 私はノックをする。

王女「お兄さま?」

ミレーヌ「ボクです。お話があります。中に入れて頂けませんか」

王女「その声はもしや、あの方ですか?」

ミレーヌ「はい、眼帯とマスクの男です。あなたとだけお話をしたいのですが、宜しいでしょうか」

王女「今開けますっ」

 私はこの時すでに眼帯マスクの姿をしていた。服装も念を入れてそのときの服を着ておいた。

王女「ああ、やっぱりっ」

ミレーヌ「しーーっ、声を低くして頂けませんか。

 実は聞いて頂きたいことがあるのです。

 あなたたちが私たちを捜しているのは知っています。

 でもお願いです。捜さないでほしいのです」

王女「何故ですか? 顔を見せて下さい。あっ、その前にそこに腰かけて話しましょう」

ミレーヌ「顔をお見せすることはできません。醜い傷があるのです。

 実は私はこの国に逃げて来た者です。

 サザーンランの王室や貴族との関わりで追われる身なのです。

 私は平民で三つ子の妹二人とここまで逃げて来ました。

 その時国境警備隊の人に追われ、六足熊をけしかけられました。

 それでやむなく妹たちを守る為、唐辛子の粉をぶつけ、怯んだ所を両目に痺れ薬の入った寸鉄を投げて突き刺したのです。

 そして逃げようとしたのですが、国境警備の人が追いかけて来て長舌狼を二頭私たちにけしかけたのです。

 絶対絶命のときに視力を失ってパニックになった六足熊が二頭の長舌狼と警備員を巻き込んで殺したのです。

 それで私は荒れ狂う六足熊をハンマーで撃ち殺しました。

 何故詳しく言ってるのかと言いますと、調べて貰えばその通りだと分かるからです。

 私は国境をやむなく侵しましたが、警備員の方は殺してません。

 あれは事故だったのです。

 でも街に入る為に彼のフードマントと身分証を使ったのは認めます。

 妹二人がマントの中でおんぶして通過しました。

 私は門番が妹たちと対応している間に目を盗んで入ったのです。

 それから街に入り生活するようになりましたが、三人で森に行ったとき、あの事件に出会ったのです。

 でも、私たちは国境を侵して蜜入国した者たちですから正体を明かすことができなく、名乗らずに姿を消しました。

 どうかその節のご無礼をお許しください。

 そしてお願いです。私たちをどうか捜さないで下さい。

 もしお命をお救いしたことに少しでも借りを感じているのなら、それで貸し借りなしにして頂ければ感謝致します」

 私はこの話を一気に淀みなく話した。

 一切の疑念を挟む余地なく話す必要があったからだ。

ミレーヌ「あっ、そこにお茶のポットがありますね。

 私が入れますのでどうぞそのままで。

 一度に沢山話したので喉が渇いてしまいました。

 王女様、どうか私のお願いを聞いて頂きたいのですが、無理でしょうか……。

 決して無理は言えません。ですから、王女様が私に会わなかったことにして頂いても構いません」

王女「なにか眠たくなって……」

ミレーヌ「王女様、お許しください。

 やはり無理なことは頼めません。

 ただ、私たちの真意を聞いて頂きたかっただけです。

だから、お茶に眠り薬を入れました。

 その間、私たちは逃げます。

 でもどうか追わないで下さい。

 そして亡くなった警備員の方のご家族には大変申し訳なく思っております」

王女「お…名まえ…を……」

ミレーヌ「本名は勘弁して下さい。マスクボーイとでも」

王女「……」



 マークス王子が部屋に戻って読書をしていると、部屋をノックする音が。

王子「キャサリンかい? お入り」

 だが入って来たのはミレーヌの姿の私だったので王子はびっくりして凍り付いた。

ミレーヌ「ごめんなさい。王子様、あの時の薬師の娘です。

 私たちのことを捜していることは知っています。

 でも今日はお願いがあって参りました。

 私の話を何も言わず最後まで聞いて下さい。

 それが私のお願いです。

 頷いてくださって、 ありがとうございます。

 私には兄と妹が一人ずついます。そして三人とも同い年です。

 生まれた所はサザーンラン王国の田舎で三つ子として生まれました。

 でも十才になって田舎を出て王都に出るようになり、三人で力を合わせて冒険者の兄と薬師の私と妹で暮らして来たのです。

 けれども貴族が絡む事件に巻き込まれて、私たちがある事件の目撃者になったために、あの国から逃げなければならなくなったのです。

 私たちは国境の五メートルもある石壁を長い棒を使って登り壁を越えました。

 でも最初の森に入った時、見つかってしまい六本足の熊に襲われました。

 その時兄は唐辛子の粉をぶつけて怯んだ隙に両目に痺れ薬を塗った寸鉄を突き刺したのです。

 でも薬は全然効かなくて、魔獣の熊は暴れまわり、兄は私たち二人の妹をかばって逃げました。

 そのとき、軽い一振りで熊の爪が顔を掠り、顔の肉が削られてしまったのです。

 それでも逃げていると、狼の魔物が二匹行く手を塞いでその後ろにフードを被ったマントの男がけしかけていたのです。

 私たちが国境を侵したので捕まえようとしたのでしょうが、兄は私たちを必死に庇って逃がしてくれました。

 その時、目も見えずパニックになった魔獣が私たちだと思って二匹の狼魔獣と警備員の人を襲って殺してしまったのです。

 兄はなおも追って来る熊の魔獣にハンマーで頭を叩き潰して殺しました。

 でも兄は言いました。

 国境を侵したのだから、警備員を殺したのも自分たちだと疑われると。

 それでとりあえず私がその警備員の着ていたフード付きマントを妹を負ぶった形で羽織って街の門を通過しました。

 身分証は警備員さんのを使わせて頂きました。

 そして兄はとてもすばしこいので門番が私たちの応対をしている隙に、兵たちの目を盗んで通過したのです。

 兄は常に人目に触れないようにしてました。

 私たちが宿を取った時も、後でこっそり部屋に忍び込んで来るなどして誤魔化していました。

 それでも私の妹が商売上手なので、薬を売って歩いたりして生活できたのです。

 私は兄のそばについて顔の治療をしていることが多かったので、外にはできるだけで歩かないようにしていたのです。

 そしてしばらくぶりに三人で森に出かけたときにあの事件に出くわしたのです。

 兄は関わってはいけないと言ったのですが、見捨てることができず王子様を治療致しました。

 すると兄はもうここから逃げようと言ったのですが、馬車に妹の王女様が残されていると聞いたので、兄にその場所に様子を見て来てくれるように頼みました。

 その後、兄が派手にやってしまったと言って、隠れていた私たち二人に逃げるように言ったのです。

 でも妹がまだ怪我をして薬がいるだろうからと偶然居合わせた振りをして薬を売りに行って金貨を貰って来たのです。

 その後は妹の名前で宿を取って、私たちはこっそりそこに隠れていました。

 この話が全てです。


 私たちは王子様たちの命の恩人ということになりますが、金銭による見返りも何もいりません。

 むしろ 亡くなった警備員の方には本当に気の毒なことになりました。

 せめてご家族の方が路頭に迷うことがないようにご配慮いただければと思っております。


 ちょっと喉が渇いたのでお茶を飲んでも良いでしょうか?

 あっ、王子様へたくそですが、私が入れても良いでしょうか?

 ありがとうございます。頂きます。王子様もどうぞ。

 えっ、おいしいですか?

 ありがとうございます。

 薬草を煎じるのは得意ですが、どうもお茶は……すみません。

 眠くなって来ましたか?

 ごめんなさい。お茶に眠くなる薬を入れたのです。

 王子様が眠っている間に私たちは逃げます。

 できれば追いかけて貰いたくないのですが、そういう訳には行かないでしょうから、こんなことをしました。

 王女様には兄が同じように説明しています。

 やはり国境侵犯の犯人を逃がしたという責任を負わせたくないので、王子様と同じように一服盛ったと思います。

 部下の人たちは夕食までには戻ると思いますが、どうか私たちのことを思いださずに明日の朝まで話さないで頂けたらと都合の良いことを考えています。

 王子様……もう、眠りましたか? 

 おやすみなさい。そしてさようなら」



 マーナは水仙の泉亭の大部屋で項垂れていた。

 そこにはテーブルに夕食の御馳走が並び、王子や王女が上座に腰かけ、他にも街中から集めた少年少女たちが席についている。

マーナ「マークス様、ここに集まっている娘たちには見覚えがないのですね?」

王子「ああ、間違いない。ずいぶん感じが似た子もいるがあの少女ではない」

マーナ「そしてキャシーお嬢様、ここにいる少年たちには見覚えがないのですか?」

王女「ええ、顔を隠していたとはいえ、それなりに特徴はとらえていた積りです。

 確かに随分背格好が近い人もいますが、微妙な特徴が違うのです」

マーナ「分かりました。 

 実はご報告することがあります。

 二人ほど有力な候補者がいました。

 一人は冒険者ギルドで候補を募集していた時、他の男女の冒険者たちが非常に関心を持って集まっていたにも拘らず、無関心に出て行こうとした少年です。

 名前をミレーと言って初級冒険者なのにギルド職員が非常に期待して頼っている感じの人間です。

 彼を無理に引き留め、この水仙の宿に招待しましたが、彼はあの後クエストに出かけた筈でしたがキャンセルして何処かへ消えました。

 もう一人はお二人もご存じの、あの現場にも表れた赤毛の薬師の少女アンナです。

 彼女は夕食までには森の薬草採取から帰って来ると宿の者は言っておりましたが、後で門番に聞いたところ森には出かけてなかったそうです。

 私はこのミレー少年とアンナが同一人物だと推理しましたが、その証明ができなくなりました。

 けれどもこの二人が現れなかったということは、私の推理が半ば当たっていることの証明になるのではと思います。

 ですから、アンナとミレー少年の手配書を密かに配って情報を集めれば簡単に捕まると思います」

王子「そこまでする必要はない。

 もしその二人が同一人物だとしても、私たちの恩人であることには変わらない。

 だとすれば恩人が捜されることを望んでいないならその意志は尊重されるべきだ」

マーナ「けれどもマークス様、あの二人には別の嫌疑が」

王女「マーナ、その嫌疑のことだけれど、お兄さまと話し合ったのだけれど、もっと慎重に調べる必要があるわ。

 たとえばかの者の死因は何だったのか、具体的には何も分かっていないの。

 だからもう一度ここに留まって調査してみたいの」

マーナ「キャシーさま……」

王子「恩人については捜す必要はない。もう一つの件についてはきちんと調べなおしてからでも遅くはない。

 そう思う。なあ、マーナ。お前のその知恵を例の事件の真相解明に役立ててくれないか?」

マーナ「マークス様……分かりました」

 そして恩人捜索のミッションがいつの間にか国境警備員殺しの真相解明のミッションにきりかえられたのだ。

 

 私は実はミレー少年の為に用意された部屋でじっとこの様子を聞いていたのだ。

 大部屋とは十メートル以上離れていたが、それでも私はその話声を拾い続けた。

 結果、私は宿変えをしてこの街に留まることにした。

 もちろん同じ街にいるので、例の四人とはかち合わないように心がけている。

 数日後、マーナが宮廷医師と調査官アーシャーの前で、警備員の死が魔獣の六足熊によるものと証明した。

 そして何故かこの件は事故として処理され、国境侵犯事件としては扱われなくなった。

 それらがすべて終わり、彼らがこの街を去ったとき、ようやく私も一息つくことができた訳である。

ここまで読んで頂いてありがとうございます。

明日からは別件の用事で数日アップできません。

その後またよろしくお願いします。

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