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田舎娘ミレーヌが妖精になるまでの物語  作者: 葉裏
第三章 樹海王国レストーシャン
30/52

樹海王国レストーシャンの国境にて

今度は魔獣とかが出てきます。主人公も逃走モードから闘争モードへ。

 サザーンラン王国はピグマリオンの最南ではない。

 さらにその南に樹海国家レストーシャンがある。

 私はそこがどんな国かは分からない。

 ただ地図に書いてあるから名前が分かるだけだ。

 道々この国のことを聞くがサザーンランとは隣接していても国交はないらしく、誰も詳しく知る者はいなかった。

 逆に言えばここに逃げ込めばビオレッタらの手が伸びないと思った。

 そして樹海国家というからには森が豊かに広がっているのだろう。

 とすれば原始林の村に似て、私には馴染みやすいと思った。

 サザーンランとレストーシャンの国境にはとりでがあり、その壁は東西に長く伸びている。

 この砦はサザーンラン側が建てたものだが、その南には中間地帯のような草原があり、その更に南に樹海が広がっていた。

 その樹海からはレストーシャンの国である。

 そこまでは地図に書いてあるので分かるが、このとりでがある為まともに国境を超えることができない。

 壁は石を組んだ高さ五メートルの壁である。

 そこで私はこの壁を超えることにした。

 壁の石は隙間なく組まれているので、直接登るのは無理っぽい。

 そこで登坂棒とはんぼうを作ることにした。

 なるべく真っ直ぐな握りやすい均一な太さの棒を探すのだ。

 二メートルくらいの枝木えだぎを三本見つけたので、それに添え木を一か所の繋ぎ目に三本ずつ当てて縛り三本の長い棒を繋いだ。

 すると六メートルくらいの登坂棒ができた。

 それを壁に斜めに立てかけ下の部分を少し土にめり込ませる。

 そして、両手両足を使って私はよじ登った。

 途中棒がしなるのでおっかなびっくりだ。

 そしてやっとてっぺんまで辿り着く。

 壁の上は一・五メートルくらいの幅で、そこから今度は同じ登坂棒を反対側に下ろしてやる。

 そして登坂棒を伝って今度は降りて行く。

 降り終わったら、登坂棒を分解して証拠隠滅をする。

 この間十分以内でできたので、砦の方でも気づかなかったと思う。

 まして今は私は緑色の服を着てるので目立たない。

 その後草原を四つん這いになって移動した。

 草丈は高いので見つからなかったと思う。



 そして漸く樹海に入ったとき、周囲から異常な気配がした。


 気が付いたら私は兵隊たちに囲まれていた。

 ん? これは少年兵か。よく見れば体が小さいっ。

 で、もっとよく見たら顔が人間ではないっ。

 緑色の顔に黄色い目。長く垂れた鼻と口から見える鋭い歯。耳たぶのない尖った耳。

 手の指には鋭い爪で、足は裸足。

 一応上下のぼろい服は着ているが色もデザインもまちまち。

 さらに手には錆びた剣や槍を構えている。

 これって、これって、もしかしてゴブリンという奴じゃないだろうか?

 人型魔物のゴブリンでは?

 ファンタジーの世界なら真っ先に現れる魔物だ。

 周りをすっかり囲まれている。 さては草原を渡って来た時から気づかれていて待ち伏せされていたのか?

 数が三十はいるだろう。まずこれは普通は逃げられない。

 でも捕まったらゴブリンはいくら男装していても私が女だとすぐ分かるからきっと悲惨な目にあうことだろう。

 私はふるさとバッグから干し肉を取り出しばらまいた。

 案の定、彼らの隊列は乱れた。

「グギャッ、ギャッギャッギャ」

「ギギャッ、ゲゲゲ、ゴゴッ」

 干し肉は逃げる途中に寄ったロリン村にも大量に置いて来たが、自分用の食料としてまだ持っていた。

 それをバラまいたのだ。そして乱れた包囲網の穴から私は飛び出した。

 それでも指揮者らしきゴブリンがいるらしく、半数は追って来る。

 それをさらに果物やパンを惜しげなく投げつけて、それを拾わせるようにする。

 やはりそのまま追いかければ他の者に拾われると思えば、そこはゴブリンの浅ましさ、争って拾い追跡の足が止まる。

 最終的に追いかけて来たのは明らかに上位種の一回り体が大きいゴブリンとその配下らしいのが三匹。

 私は両手に二本ずつ寸鉄を投げてそのうちの配下の三匹に命中させた。

 例の痺れ薬を塗ってあるので、倒れるのは時間の問題だろう。

 ボスゴブリンは寸鉄を剣で弾き飛ばしたから、相当できる。

 でも私は更に両手で二本ずつ投げて、そのうちの二本を命中させた。

 寸鉄は回収せず、彼らが倒れたかどうかも確かめず後も見ずに私は逃げた。

 私は動揺していた。

 何故なら国境を越えた途端、今まで見たことない魔物の群れが現れたのだ。

 しかも待ち伏せていたようにっ。


 森の奥に向かって行けば人間の住む領域に行けると思い進めど進めど森ばかり、そしてウサギが現れたと思えば逃げずに向かって来るっ。

 飛び掛かってジャンプして来たウサギを槍で串刺しに突き刺せば、額に十センチくらいの角が生えているのに気付いた。

 これは魔物のホーン・ラビットという奴じゃないか?

 私はふるさとバッグに入れてあった携帯用食料がすでになくなっていることに気づき、少し気味が悪いけれど、それを焼いて食べることにしたのだ。

 火打石で火を起こし、焚火をして血抜きをして皮を剥いだを焼いた。

 けれどもそろそろ食べようとすると、狂暴な気配が近づいて来るので私は槍を構えて肉を守るべくそれを背後に隠した。

 現れたのはなんとも奇怪な獣だった。

 狼の二倍くらいの大きさで、目が真っ赤で口が大きく首まで裂けていて鮫のような鋭い歯がびっしり並んでいる。

 そして体毛がところどころ剥げていて、そこには鱗が見える。

 名付ければ鱗狼スケールウルフだ。

 鮫狼シャークウルフでも良い。

 ところがそいつが私に近寄りながら急に立ち止まると口から長い舌を出した。

 そして地面に投げ捨ててあったウサギの頭や内臓を舌で巻き付けて口の中に運んでバリバリクシャクシャと食べたのだ。

 こいつの名前は長舌狼ロングタングウルフでも良いっ。

 その間、私は焼けたウサギの肉の塊を狩人バッグに入れて、槍を構えなおした。

 全部口の中の物を飲み込んだそいつは今度は私の方を見て長い舌を伸ばして来たっ。

シャンッ

 私は槍で絡め取るようにして根元近くからその無駄に長い舌を切り取った。

「ギギャァァァァッ」

 顔中口だらけにしてそいつはわたし目掛けてジャンプして来た。

 今度はその大きな口で丸かじりする積りだ。

 地面に落ちた長い舌は蛇のようにウネウネとのたうち回っていた。

 私は槍をその大きな口の中に突き入れて、奴の後頭部まで貫いた。

 き……気持ち悪いっ。

 しかも脳を貫いたのにすぐ死なない。

 しばらく気味の悪い声で鳴きながらじたばたしていたが、やがて動かなくなった。

 この森にはサザーンランの北の原始林のような健全な獣はいない。

 みんな魔獣だ。モンスターばかりだ。

 普通の獣にまだ会っていない。

 私はウサギ?の肉を調味料で味付けながら、恐る恐る齧った。

 うまいっ。普通にうまいっ。

 私は無我夢中で食べた。

 食べ終わった後、体が熱くなって来た。

 体の芯からまるで激辛食品でも食べた後のように、かーっと熱くなって来たのだ。

 そして汗がぷーっと噴き出て来た。

 私は全身の血が激流となって循環しているのを感じた。

 熱い熱い熱いっ。

 私は魔法の水筒から水を出し、頭から浴びた。

 すると体から湯気が立って周囲が小さな霧に包まれたようになる。

 なんだ、なんだ、いったいどうしたんだ。

 まるで魔獣ウサギの肉を食べたことが、私の体に眠っていた何かを目覚めさせたような不思議な感覚だった。

 強いて言えば、これは覚醒熱・・・なのか?

 私の体には血液の他の、何か気体のような液体のような正体不明のものが循環していた。


 私はそこで仮説を立てた。

 これは魔力の元なのではないか?

 このウサギが魔力の力で魔獣になったものとすれば、肉には魔力の元になるものがしみ込んでいたに違いない。

 その魔力の元になるものを魔気まきと仮に呼ぶとする。

 私は魔獣ウサギの魔気まきを体内に取り入れることによって、それが呼び水になり体内で休眠状態だった魔気が覚醒して活動したのだと考えた。

 どうして私の体には魔気が眠っていたのか?

 そもそもどうしてそれが存在していたのか?

 それはきっと私の体の中に魔妖精の血が入っているからだ。

 魔妖精はきっと魔獣と同じく魔気が体の中に循環しているに違いない。

 でも同時に人の血を引く私の体は、魔気が活性化するのを抑えていたのではないかということだ。

 そしてこの体の熱さについても仮説を立てた。

 魔気が体を巡る時に体の細胞との間に摩擦熱が起きて熱くなるのだと思う。

 それはきっと体の中を魔気が巡ることについて体自体が慣れてないから起きる摩擦なのだと思った。

 そのうち体の方が魔気に慣れてくれば、熱も次第におさまるに違いない。そう思った。

 つまり体全体の細胞が魔気の循環に適応するように作り変えられて行くということだ。

 そして私はあることに気が付いた。

 それは激しい飢餓感である。

 自分でも体の脂肪分が減っているのが分かるのだ。

 私はふるさとバッグから鏡を出して顔を見ると、目は大きくギロギロとしていて、目の周りや頬の脂肪がなくなって骸骨に近い形相になっているのに驚いた。

 腕や足も筋肉が浮き出ていて、丸みがなくなっている。

 お腹も貧弱な腹筋が浮き出ていた。貧弱なシックスパックだ。

 食べないとこのままじゃミイラになってしまう。

 体が発熱するのに脂肪分が際限なく燃え続けたのだろう。

 私は、獣を捜した。

 長舌狼ロングタングウルフのような気味の悪いものじゃなく、少なくても肉が食えそうな獣だ。

 そして、私が半日歩き回って出会った食べられそうな獣は、やはり魔獣だった。

 それは普通の鹿に見えた。

 左側から見たとき普通に見えたのだ。

 だがその鹿が右の横顔を見せたとき、私は失望した。

 右目がないのだ。

 潰れてないのじゃなくて、最初から右目がついてないのだ。

 その場所は普通の毛皮が見えるだけだ。小さな穴一つあいていないっ。

 私は弓矢でその鹿の首に矢を命中させた。

 やじりに痺れ薬を塗ってあったが、すぐには効かずに私に向かって突進して来た。

 魔獣の特徴として、必ず人を見ても逃げずに攻撃してくることだ。

 寸鉄を投げて四本とも命中させたが、それでも単眼鹿ワンアイデアーは止まらないっ。

 槍を突き刺したが、それでも奴は体を振って、私の手から槍を引き剥がした。

 私は剣で首を斬った。

 浅かったが、血が出た。

 血を出しながら角で私を突き刺そうとする鹿。

 私はハンマーで角を叩いた。

 角の枝が一部欠けたが、まだ攻撃をやめない鹿。

 戦斧バトルアックスで大上段から角と角の間の頭蓋骨に振り下ろして『ゴスッ』と鈍い音がして鹿の動きが止まった。

 私は一つ目鹿の首を斬り落として、遠くに投げた。

 あの首は気持ち悪いから見たくなかったのだ。

 普段は肉の脂身は食べないのだが、体が要求しているので、脂身中心に火で焦がしてガツガツ食べた。

 食べては水を飲み、塩を舐めた。

 汗をかなり出しているので、塩分が恋しいのだ。

 それでも鹿も魔獣だから魔気がたっぷりあるらしく、またしても体が発熱した。水をがぶがぶ飲みながら塩を舐めながら発汗に耐えた。

 余った肉は狩人バッグに入れて、飢餓感が高まると私は肉を出して火を起こし焼いて食べた。

 そして水を飲み、塩を舐めた。

 そうしながらもあることに気が付いた。

 その魔気が体を循環しているのを、最初は流れるままに任せていたが、自分でもその流れをコントロールできないかと思ったのだ。

 散々試みた結果、さすがに流れそのものを止めてしまうことはできなかったが、流れを自分の思う方向に少しだけ変えることができるようになった。

 寝るときは木に登って体を枝に縛り付けて寝るのだが、耐えられずに岩の上に体を押し付けて寝たりした。

 冷えた岩で体の熱を吸収させないと熱くて眠れないのだ。

 ようやく見つけた小さな湧き水に私は体を浸して、とにかく涼を求めることができた。

 鹿の肉を全部食べてしまうと、ちょうどその頃イノシシに出会った。

 だがそれも魔獣だった。額に大きな岩の塊のようなこぶがついているだけでなく、牙の先が二つに分かれていて、それで突き刺すと普通の樹木が簡単に伐採されてしまうのだ。

 まして人間がその牙にかかれば胴体真っ二つは確実だろう。

 私は鹿の肉も食い尽くしてから三日くらい経っていたので、猛烈な飢餓感に襲われていた。

 瘤イノシシは私を見ると真っ直ぐに走って来た。

 私は魔気を足に流してからジャンプした。

 すると信じられないほど高く跳び上がることができた。

 魔気を筋肉に送るとその部位の筋力が高まるのが最近分かったばかりだ。

 でもこんなに高く跳べるとは思わず一瞬驚いて着地を失敗した。

 よろけている所を再度瘤イノシシが飛び掛かって来て辛うじて避けた。

「グワッシャーンッ」

 瘤イノシシの強烈な頭突きで衝突した木の太い幹が砕けて飛び散った。

 当たってたら大変なことになっていたっ。

 それで私は一瞬動きが止まった瘤イノシシの右前足に戦斧で一撃を入れようと、両足の足裏から魔気を上昇させて足から背筋、背筋から肩腕と一瞬に流してそれを戦斧に込めて打ち据えた。

 腕の力だけでなく全身の力を戦斧に乗せたので、イノシシの右前足は砕けた。

「ブモォォォッ」

 イノシシは真っ直ぐ進めずにグルグル回ってから倒れた。

 それを今と同じ要領で全身の筋肉に魔気を注ぎ戦斧をイノシシの首に振り下ろした。

「ズコーン」

 信じられないことに……信じられないことにっ……あの太いイノシシの首がスッパリ切り落とされていた。

 但しその晩は体中の筋肉が熱く燃えるようで寝付けなかった。

 夜中は何度も水を飲み塩を舐めて過ごした。

 何故ならあのとき使った筋肉が今でも使っているように熱を出し続けているのだから、夜中にずっと走り続けているのと同じような体感なのだ。

 汗が出続けていて水を飲まないと脱水状態になるのに、どうして安眠できようかということだ。

 夜明けになると飢餓感に襲われ十分に寝ていないのにまたイノシシの解体をして肉を焼いて食べる。

 脂肉が最初になくなるのはいつもと同じだが、体は相変わらず太るということはない。

 私が魔物と違う点は肉を焼いて食べるところだけかと思うほど、私は魔物を狩って食べることが普通になった。



 そうやって過ごしていたのだが、やがて私の存在に気付いた奴が私のところにやって来ることになった。

 その男は深いフード付きのマントを着ていた。

「お前か、魔獣を狩って殺してるのは」

 その男は何かを私の足元に投げてよこした。

 見るとそれは私がゴブリンたちに使った寸鉄だった。

「私が飼いならしたゴブリン集団がばらばらになって散って行った。

 変だと思って調べてみると、リーダー格のゴブリンが寸鉄に刺されて倒れている。

 どうも痺れ薬が塗ってあったらしい。

 ゴブリンの軍団は立て直したが、森の魔獣がどうやら何者かに狩られて喰われているらしいことが分かった。

 そしてところどころに残っている焚火の跡からやっとお前に辿り着くことができた。

 これ以上魔獣を狩ることはやめさせてやる。

 ここの魔獣は大部分は私が管理しているのだ。

 そして国境を侵す者を排除または処分する働きがあるのだ。

 お前はレストーシャン王国を敵に廻したのだぞ」

 どうやらこの男は魔獣使いとかいう奴らしい。

 そしていわゆる魔獣を使った国境警備隊の隊長みたいな存在らしい。

 警備隊員は私が今まで狩った魔獣も入るのだろう。

 この男はかなり怒ってる。

 とすればもう近くに狂暴にして強力な魔獣を待機させているに違いない。


「グオォォォォォッ」

 私の読み通り、体長三メートルもある熊が現れた。

 厄介なことにその熊は自前の鎧を着ていた。

 名付ければ鎧熊アーマードベアといったところだろう。

 男はすぐに離れて後退し、安全な場所に退避した。

男「殺せ、仲間の仇をとるんだ」

 私はその熊と戦いたくなかった。

 その熊は立ち上がると三メートルの高さになるが、前足と後ろ足の他に真ん中にもう一対の足があったのだ。

 そういう体型の魔獣は予想もできない攻撃ができると思う。

 六足熊は魔獣使いに操られているから、その知恵を授けられて私の裏をかくことだってできるだろう。

 そうしなくても強力な熊だ。

 普通に勝ち目はないと考える。

 だから私は魔獣使いを先に倒すことを考えた。

 いつの間にか私は魔獣使いという人間を倒すことに躊躇いを感じなくなっていた。

 全身の筋肉に私は魔気を流すと一気に魔獣使いの方に突進した。

 手には寸鉄を握り、射程距離内に入るべく。

「グオォォォッ」

 だが六足熊は六本足を全部使って私の前に現れた。

 速いっ。それもその筈。魔獣もまた全身に魔気を流しているに違いないから。

 私は考えた。魔獣イノシシの首を斬ったとき、きっとあのとき魔獣は首に魔気を流してなかったに違いないと。

 もし魔気が流れていたら戦斧の刃を跳ね返していたかもしれないのだ。

 私は弾みで寸鉄を投げたが、寸鉄は刺さらなかった。

 魔獣熊の体は魔気に満たされていて寸鉄如きはすぐにでも撥ね返すということだ。

 ただでさえ強力な魔獣熊が魔気に全身を守られ鎧のごとく防御しているなら、たとえ槍で突き刺しても決して突き通すことはできないだろう。

 そこで私はあるものを手にして、熊の顔に投げつけた。

「グギャァァァァ」

 今だ。私は魔獣熊の閉じられた目に向かって全身のバネを使って寸鉄を投げた。

 寸鉄は魔獣の両目に深く刺さった。

 何故なら私の投げた物は唐辛子の粉でそれを鼻から吸った熊はその激辛の刺激臭で一瞬体を守っていた魔気を霧散させてしまったのだ。

 だから寸鉄を魔獣の両目に深く突き刺すことができたのだ。

 私は再び魔獣使いの方へ走って行った。

 魔獣は耳だけで反応し私の方に突進して来る。

 だが私は文字通り魔獣使いの方に走って行ったのだ。

 魔術使いは慌ててあの長舌狼を二頭自分の前に呼んだ。

 だが私はそこに辿り着く前に跳び上がったのだ。

 高く高く跳び上がって、二頭の狼や魔獣使いの頭上を飛び越えて行ったんだ。

 そこへ六足熊が物凄い勢いで突っ込んで行き、前足と中足の四本を振り回した。

 結果、長舌狼二匹と猛獣使いはズタズタに斬り裂かれ襤褸屑ぼろくずのように吹き飛んで行った。

 そして魔獣使いの支配が切れて一瞬、魔獣の集中力が切れたとき、私はジャンプして魔獣熊の頭上にハンマーを打ち下ろした。

「バキッ」

 魔獣の頭蓋骨が割れて、ドドーンとその巨体が倒れた。

 

 それからというもの私はこの森で魔獣を恐れることがなくなった。


 そして永遠に続くと思われた樹海は実は偽装の樹海で、国境を守る為の砦代わりの森だったことが分かったのだ。

 というのは、樹海だと思っていたその森は数日で抜け出すことができ、目の前の草原の向こうに城塞都市の石壁が見えて来たからである。

 私は魔獣使いから奪った深いフードつきのマントを被って、魔獣使いの身分証を出して門を通過した。

 そこは実に賑やかな都市だった。  

ここまで読んで下さってありがとうございました。

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