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田舎娘ミレーヌが妖精になるまでの物語  作者: 葉裏
第一章 見かけは十才の女の子
3/52

ミレーヌの子供時代

 今話では、子供時代の記憶を結愛の魂で反芻し統合しようとしているので、会話も地の文も訛りのない標準語という設定です。

 従ってこの話は記憶の焼き直しのもので実際の生の記憶ではないとお考え下さい。

 面倒くさくてすみません。

 私は小さいころの記憶がはっきりしない。

 気が付いたときは小さな村に住むお婆さんに育てられていた。

 そのお婆さんと私の関係はよく分からない。

 私はきっと拾われた子ではないかと思ってる。

 何故ならそのお婆さんの私に対する扱いが結構ひどいものだからだ。

 物心つく頃から武器を持たされて森に連れて行かれた。

 そして置き去りにされるのだ。

 必死に戻って行くと、舌打ちをして「運の良い奴だ」とか言うのだ。

 武器も最初は棍棒のようなものを持たされた。

 次に槍を持たされ、その次は斧を持たされた。

 正直言って獣が襲って来たとき、どうやって戦ったら良いか分からない。

 森の中に置き去りにされるのだから何度も獣に襲われた。

 大抵は逃げ回るのだが、少しでも傷つけるとうまい具合に相手の方が逃げてくれることが多かった。

 狐やアナグマなどの小型の獣ばかりだったので、なんとかしのげたけれど一歩間違えれば確実に食い殺されていたと思う。

 食事も最初は作るのを手伝わされ、気が付いた時には専門に作らされていた。

 村では織物も染物も自分たちでやる。

 だから当然針と糸を使って自分の着る服も縫うのだ。

 わたしには最初名前がなかった。婆さんは私のことを「お前」としか呼ばなかったし、村の者と口を利くことを許されなかった。

 わたしはどうして自分に名前がないのか婆さんに何度も聞いたが取り合って貰えなかった。

 

 ある日婆さんに狩りを教えてもらうことになった。

 それまでは色々な武器を一つだけしか持つことを許されなかったが、初めて弓矢を持たされたときはナイフも持つことを許された。

 そしていつも襲って来た獣と戦うことばかりだったが、このときは初めて逃げる獣を狩ることを教えられた。


 私はウサギを見ると矢を射た。

 最初は外れてばかりだった。だからその後必ず婆さんが射止めるのだ。

婆さんはとどめの刺し方、血抜きの仕方、皮の剥ぎ方を実地にやってみせた。

 すると二羽目からはわたしがやらされることになる。

 皮に肉が残ろうとどんなに下手でも最後までやらされたのだ。

 私の矢が獲物に刺さるようになったとき、婆さんは椅子に座るように言ってから私に話しかけた。

「お前に,あるテストをする。お前を今までよりも深い森に連れて行きそこで一週間過ごしてもらう。

 一週間が経って私が迎えに行くまでお前が生きていたら、お前に名前をあげよう」

 そして婆さんは私を今までの五倍ほども深い森の奥に私を連れて行った。

 そして『ふるさとバッグ』というものを私に手渡した。

「この中には何種類もの武器が入っている。そして一週間分の食料と水も入っている。とにかく生き残れるようにがんばってみろ」

 そのバッグは子供の私の手がやっと入るような小さな袋だったが、望めば中に何が入っているかその明細が頭に浮かんでくるし、希望の物を自由に出し入れできるものだった。

 結論から言うと私は傷だらけになりながらも一週間を生き残った。

 どういう訳か狼が最初襲ったときは、群れで行動する生き物なのに、一匹だけやって来た。

 しかも全身血だらけで体が弱っていた。

 それで逃げながらも槍で突いたりしてやっつけることができた。

 そして最後に怪我をしない狼が一匹だけやって来た時、いまだかってない死闘を十数分も繰り広げた。

 使った武器も弓矢、槍、斧、剣、ハンマー、棍棒、モーニングスター、ナイフと多種多様だった。

 というのは狼の攻撃が凄くてすぐに武器を手放してしまうからだ。

『ふるさとバッグ』から次々に武器が出てこなかったらとっくに食い殺されていたと思う。

 でもどうして狼が一匹ずつしか現れなかったのかわたしは不思議に思った。

 もしかすると婆さんがどこかに隠れていて狼がたくさん来るのを防いでくれていたのかとも思った。

 それだけ婆さんは強い人だったからだ。

「よし、なんとか合格だ。まあ、お情けの合格だがね」

 婆さんは現れて、ふらふらになった私を抱きかかけて家まで連れ帰ってくれた。

 そして全身の傷に薬を塗ってもらったが、それが染みてたまらなく痛かった。

 でも眉をしかめて歯を食いしばるしかなかった。

「今程度の実力で森を一人で歩けると勘違いするなよ。

 お前が殺されないように私が他の獣を全部追い払っていたのだから」

 家に帰ってから婆さんは種明かしをしてくれた。

 やっぱり婆さんが陰で助けてくれていたのだ。

「お前に名前をやろう。今日からお前の名前はミレーヌだ」

 私の名前はミレーヌ。わたしは初めて自分の名前を持つことができたんだ。

 それはそれはとっても大きな感動だった。

 そして私は婆さんに聞いた。

「それじゃあ、お婆さんの名前は?」

 でも婆さんは冷たく言い放った。

「その質問に答えて欲しかったら、食料用の獣を獲って来ることだな。二人で一週間分は食べられるだけの肉が欲しい」

「お婆さん、わたしはいつまで獣を狩り続けなきゃいけないのですか? 生き物を殺すのは好きではありません。村の他の女の子たちは狩りをして獣を殺したりしません」

「お前と他の子供とは違うんだよ」

「どこが違うんですか?」

「お前はいつ死んでも良いと思われているのさ。いやできることならすぐにでも死んでもらいたいと思われている」

「お婆さんがそう思っているのですか?」

「話はここまでだよ。さあ、早速出かけて来てもらおうか」

 私は森に出かけて狩りをすることにした。

 わたしがすぐにでも死んだ方が良いって? いったい誰がそんなことを思ってるんだ?

 わたしはこの世に望まれずに生まれて来たってことかっ。

 そんなことを考えて森の中に入って行くと、狩場が森の奥深くになってしまった。

 そして牡鹿に巡り合うことができた。これ一頭で一週間分の肉が食べられるだろう。

 わたしは第一射で前足の付け根に撃ちこんだ。

 二射で片目を狙ったが角にあたって弾かれた。

 そして牡鹿はかなり怒ってわたし目掛けて走って来る。

 第三射は間に合わないので斧を投げ込んだ。ザクッと鈍い音がして、クビの根元に突き刺さる。

 それでも牡鹿は倒れずに襲って来るので太い幹の木の陰に隠れる。でも向こうは四つ足すぐ回り込んでわたしを角で串刺しにしようと頭を狂ったように上下に振って襲い掛かる。私は槍を出して、突進して来る牡鹿の喉のあたりを突き刺そうとしたが、パーンと角で跳ね上げられてしまう。今度は剣を出して顎を上げた牡鹿の喉に突き刺す。それでもグイグイ押してくるので、わたしもグイグイ剣を突っ込む。ズブズブと剣が突き刺さって行き、血が噴き出して私の顔にバシャッとかかった。

 ようやく牡鹿は足をふらつかせて倒れたのでナイフで止めを刺しに駆け寄った。

 止めを刺した後、血抜き、皮剝ぎ、そして内臓の処分と肉の切り分けなどを行った。

 正直この作業は疲れる。ウサギと違って大きいので皮を剥ぐだけでも大仕事でへとへとになる。

 そして決定的なピンチが訪れた。血の匂いで狼が群れでやって来たのだ。

 わたしはまず牡鹿の肉も皮もそのままにして、木に登った。

 ぎりぎりのタイミングで狼の群れが到着して、獲物が横取りされた。

 群れは十匹だ。そのうちの一匹が体が一回り大きく。灰色の毛に白い斑点がついた体をしていた。

 そのボスが先に食べ始め、後の狼はボスが食べ終わってから食べる。それにも順番があるようで、お陰でその狼たちの序列が分かった気がした。

 腹いっぱい食べると木の周りを囲むようにして寝そべり、私が下りて来るのを待つことにしたようだ。

 わたしはじっと動かずにボスが眠るのを待ち続けた。

 地面には斧と槍と剣が転がっている。

 でもわたしは弓矢だけは『ふるさとバッグ』にしまっておいたのだ。

 そっと弓矢を出して構えるとわたしは思った。外してはいけない。命中しても急所でなければ死なない。

 なにかいい方法はないか。

 そこで私は弓矢をしまって、寸鉄を出した。さらに毒草の汁を入れた小瓶を出した。

 狼の肉はおいしくない。だから毒を使って殺しても大丈夫だ。

 寸鉄は先のとがった鉄の棒だ。手裏剣のように投げて突き刺して使う。

 でも弓矢に比べて突き刺さる深さもなく威力も小さい。

 わたしは外れたら困るので二本いっぺんに投げることにした。

 迷ってはいけない。ボスの体がピクンと動いた。

 これ以上待ってもチャンスを逃がしてしまう。

 わたしは投げた。ボスがこっちを見た。そして一本を避けた。もう一本は胴体に少し刺さったがすぐにポロッと落ちる。

 糞っ、浅かった。

 仕方ないのでナンバーツーとナンバースリーに向けて二本ずつ投擲する。

 うまい具合にナンバーツーは二本とも突き刺さり、ナンバースリーは一本だけ刺さった。

 その後ボスは吠えて仲間を起こし攻撃を始めた。

 狼たちは木に登ろうとするが爪で幹を引っかき十センチくらい登るがすぐ落ちてしまう。

 それでもこれは恐怖だった。

 そしてボスが遠くから勢いつけて突進して来た。

 ジャンプだけでも一メートル飛び上がりさらに一メートル駆け上がれば私に届く勢いだ。

 もう駄目だと思ったがわたしの弱い力でボスの鼻面を棍棒で叩いた。

「ギャンッ」

 ボスが下に落ちたが、それにもめげずまた遠くから勢いをつけて飛び上がろうとする。

 ところが木の下を通り過ぎてしまったので、攻撃を諦めたのかと一瞬思った。

 なにか嫌な予感がしたので背後を振り返ると、ボスの顔がわたしの真後ろにあった。

 棍棒を構える暇がない。

 ボスの顎でわたしは首を噛まれて即死するのだと目を瞑った。

 ところがボスの体はわたしに覆いかぶさるとグターと力が抜けて行った。

 毒がようやく効いてきたのだ。

 わたしはあやうくボスもろとも木から転落しそうになったが、力を振り絞ってボスを地面に落とした。

 そのころには他の二匹も地べたに倒れていて、最強の三匹が倒されたので他の七匹は逃げて行った。

 それから私はウサギを五羽捕まえると森の浅い所で血抜きだけして家に戻った。

 

「なんだい。ウサギが五羽かい。二羽足りないよ。イノシシか鹿はいなかったのかい」

「牡鹿を獲ったけど、狼に横取りされました」

「それで狼はどうした?」

「ボスと二番ボス三番ボスの三匹を毒の寸鉄で殺したら、他は逃げて行きました。鹿の肉は少し残っていましたが喰い方が汚くて捨てて来ました」

「よし、それじゃあ、合格にしておこう。儂の名前はレナールだ。だがこの名前を誰にも漏らしては駄目だ。」

「わたしとレナール婆さんはどういう関係ですか?」

「あと二日分の肉を獲って来たら教えてやるよ」

 わたしはまた出かけて行ってウサギを二羽獲って来た。

 どうせわたしは森に捨てられていたのをレナール婆さんが拾ったとかいうのだろうと思った。

 ところが答えは予想とは違った。

「儂はお前の母方の祖母だよ」

 じゃあ、どうして血のつながっている私を森に置き去りにして死んだ方が良いと思ったのだろう?

 いや、それを望んだのはもしかして私の親だろうか?

 もしかして母親?

「じゃあ、お母さんは誰?」

「毒を使わないでイノシシを倒したら教えてやるよ」

 翌日私は殺した獣を収納する『狩人バッグ』を持たされて森にでかけた。

 イノシシは鼻が良い。だから気づかれずに近づくのはまず難しい。

 体当たりされたらわたしは体中の骨が砕けてしまうだろう。

 足が速いから逃げることもできない。

 毛皮も厚いから矢が刺さらないかもしれない。

 以前に村人が罠でイノシシを獲ろうとしたけれど、罠には人の匂いが染みついているので避けて通って行ったという。

 わたしは何故こんなことをしなきゃいけないのだろうと思った。

 何故村の女の子たちみたいに薬草や山菜や木の実や果物を採ったり、畑の作物を育てたりだけしててはいけないのだろうと思った。

 私の場合、村の女の子たちがすることを全部して、さらに男でも狩人たちがするようなことをしている。

 それだけじゃない。なぜか人殺しの仕方まで覚えさせられている。

 物心つくころから色々な武器を使って獣と戦う訓練をさせられている。

 したくないことを無理やりさせられていることにわたしはずっと抵抗を感じていた。

 でもしなきゃいけない。しなきゃ死んでしまうようなことが続いたから、仕方なくしてきた。

 わたしは今度は自分の母親のことを知りたいためにイノシシを狩らなきゃいけない。

 でもイノシシは難し過ぎる。

 しかも毒薬を使ってはいけないという。

 毒薬を使ってはいけないのは肉が食用に使うからだ。

 それじゃあ、毒の効果が薄れて消えるような毒はないだろうか?

 あった。

 レナール祖母さんが大きな獣を射るとき矢に塗ることがある痺れ薬があるのだ。

 血と混ざると痺れる効果が出て、やがて消えて行くという薬だ。

 でもわたしの場合矢の先にそれを塗っても力が弱い為、イノシシの体に突き刺さらないと思う。

 まして遠くに離れて射るので、矢の威力がかなり落ちてしまう。

 刺さらずに手前で落ちてしまうかもしれない。

 イノシシは危険だからあまり引き付けられないのだ。

 そこでわたしは槍を使うことにした。

 槍の柄の尻の所にナイフで溝を掘ってロープを結び、反対側の端を自分の体に巻いた。

 そしてイノシシが好みそうな芋や玉蜀黍とうもろこしを用意した。

 足跡を調べイノシシが出没する場所を特定し、そこに餌場を作る。

 その近くの大きな木に登って体を幹に縛り獲物が来るのを待った。

 いくら待っても現れないイノシシ。それは暗くなってからも同じだった。だんだん夜が冷えて来るので寒さで眠ることもできない。

 その時闇の中で光る眼が現れた。イノシシだ。大きいっ。

 私の身長くらいある体高。化け物だ。

「ンゴォォ」

 餌場に来ると芋や玉蜀黍とうもろこしを食べ始めた。

 喰いっぷりが速いので時間がない。

 わたしは木の上からイノシシの背中に向けて槍を投げ下した。

 ちょっと刺さって抜けて落ちる。

 イノシシも気にしてない。

 毛皮が固いっ。

 ロープで槍を手繰り寄せ、もう一度構えた。

 投擲する。背中に命中するけど滑って落ちる。

 固いっ。

 そろそろ餌がなくなる。

 わたしは急いで幹に縛り付けたロープを解いた。

 そして槍を持ったまま。イノシシの背中に飛び降りた。

 ズンッ

 わたしの体重も加わって槍のやじりの部分が刺さって隠れた。

「ぶもぉぉぉぉっ」

 でもわたしは失敗した。というのは痺れ薬はすぐには効かない。

 効くまでにわたしは殺されるだろう。

 だってイノシシの背中に落ちたわたしはすぐに振り落とされてあの牙でザクッと体に風穴を開けられると思うからだ。

 それで『ふるさとバッグ』に隠し持っていた南蛮の粉をイノシシの顔の辺りにぶちまけた。

「ぶひぃぃぃぃっ」

 わたしはすぐに振り落とされたがイノシシは鼻と目を南蛮でやられて苦しがっていたため、すぐに攻撃されなかった。

 だから私はその場を四つん這いになって離れて、イノシシの苦しむ様子を見ていた。

 やがて痺れ薬が効いてきてふらふらした後イノシシの巨体が崩れて来た。わたしはすぐさま倒れたイノシシの首を剣で突き刺した。

 血抜きをした後『狩人バッグ』にイノシシの死骸を収納した。

 後は他の獣が寄ってこないうちに大急ぎで現場から逃げ帰って来た。

 あまりにも大きな獲物だったので皮剥ぎや肉の切り分けなどはレナール祖母ちゃんと一緒にやった。

 肉はその晩は鍋にして食べることにしたが、そのほかは燻製にして保存することになった。

 これが結構手間暇かかる。干し肉の場合塩を振って吊るすだけで良いが、燻製は煙で燻すし、燃料の木も香りの良いものを使わなきゃいけない。

 作った保存食は『ふるさとバッグ』に入れて持ち歩くことができる。

 そしてレナール祖母さんは約束通り母親のことを教えてくれた。

「お前の母親の名前は麗しのウェステーニアと謳われた天下一の美女だ」

「じゃあ、父親は?」

「それは自分で調べると良い」

 でもそう言われても調べようがないのだ。

 村の人とは口を利いたことがないし、調べるにも情報源になるものが何もないのだ。

 そんなこんなでわたしは普通の狩りは続けたが難しい無理難題をやらされることもなく、それ以外は縫物や採集、畑仕事などをして過ごした。


 そのうちに村祭りが始まった。

 レナール祖母さんは今まで禁止していた村人との接触を許してくれた。

 祭りに顔を出すと、同じ年ごろの子供もたくさんいるのに驚いた。

「お前、あそこの婆さんのとこの子だろう?」

「名前なんていうんだ?」

 男の子も女の子も親しげに話しかけてくれる。

 そしてすぐに仲良く溶け込むことができた頃、村の広場で音楽が流れて来た。

 弦楽器をかき鳴らした楽師が歌い始めたのだ。

 それは『麗しのウェステーニア』という吟遊詩だった。

 楽師は語りと歌でその詩を謳った。



「さてさてお集りの皆の衆、

このピグマリオンで最大の国と言えばこのサザーンラン王国だ。

その王国の王都サザーンラニアには世にいう三大美人がいるという。

一人目は傾城の芸妓と言われたシャロン。

二人目は絶世の美少女と呼ばれた王都技芸団の看板女優エステニア。

三人目は王国の至宝、妖精と呼ばれた第三王女ビビアン・ド・サザーンラン。

この三人の前ではどんな美人も器量良しも小町娘も影が薄い。

けれどもこの三人でさえ足元に及ばないという美中の美があったのだ。

 それはアストン公爵領♪

 それはドルトン大地主♪

 一人娘のウェステーニア♪

 たまたま寄った行商人♪

 ふと見上げるとお屋敷の♪

 二階の窓が開け放たれて♪

 長い金髪風に揺れ♪

 色白の肌透き通り♪

 その眼差しは深い海の色♪

 花びらのような唇と♪

 こぼれる様な微笑は♪

 これは女神の降臨か♪

 はたまた天使か妖精か♪

 これぞ地主のドルトンが♪

 屋敷の奥に隠してた♪

 箱入り娘のウェステーニア♪

 その美しさ国一番♪

 ……」


 歌はどんどん続いて、その後ドルトン地主領の森の近くを馬車で通った貴族夫人が森を動物たちと戯れ駆ける妖精のような美少女を目撃したという。

 目撃した貴族夫人によれば三大美人の一人である第三王女ビビアン・ド・サザーンランと比べて評した言葉がある。

 すなわち『王女様は妖精のように美しい。けれどもその娘は美しい妖精そのものだった』と。

 そしてその少女こそがウェステーニアだったというのだ。


 その後さまざまなエピソードが歌われた後、ウェステーニアがどうなったかという下りになる。

 

「さてさてアストン公爵領に傭兵として一時身をおいたレナールなる者がいた。

 その姿美しく公爵邸の侍女たちの憧れの的だったが、ある日公爵その人が、それが男装の麗人だと見破り、権力と策謀を持って同衾をしたのだ。

 そして生まれたのがピカールという婚外子。

 すでに公爵には息子がたくさんいた為、重んじられることなく本人も気ままに過ごしていたが、やがていつの日からか全身を鎧兜で隠すようになった。

 美しきレナールと当時美形だった公爵との間の子だからさぞ容貌も美しいと思えるが、何故かそれを隠すようになったのだ。

 ある日さる貴族が世に謳われたウェステーニアに会わせろとドルトン邸に押し掛けた。

 だが執事のモーリスはお嬢様は外出中と断る。

 だがその貴族は悪名高きメチルード伯爵という女漁りの好色漢。

 配下を使って屋敷中を捜索したがウェステーニアは見つからなかった。

 それもその筈、実は公爵の婚外子であるピカールという青年が兜を脱いでウェステーニアに求愛した。

 ウェステーニアは公爵より領地外に出ることは禁じられていたが、ピカールは彼女と手に手をとって逐電したのだった。

 鎧に包んだピカールの♪

 その美しい姿見て♪

 傾城美人ウェステーニアすら♪

 一目で心を奪われる♪

 二人の美男美女見れば♪

 誰でも気づく筈なのに♪

 何故か誰にも知られずに♪

 二人はいずこか消えたという♪

 ああ惜しいかな国一番♪

 その美を一目見たくても♪

 見ること叶わず永遠に♪

 麗しのウェステーニアの物語♪

 語るも歌うもここまでで♪

 どうもありがとう、皆々様♪」


 わたしは初めて知った。レナール祖母さんが傭兵だったこと。

 彼女とアストン公爵との間に生まれたのがピカールで、それがわたしのお父さん。

 そして地主ドルトンの一人娘にして吟遊詩にも謳われた絶世の美女ウェステーニアがわたしのお母さんなんだということ。

 わたしは息を弾ませて家に戻ってレナール祖母さんに聞いた。

「わたしのお父さんはピカールというのですね?」

 すると祖母さんは即答した。

「違うよ」

「でもお母さんはウェステーニアというのでしょ?」

「それも違うよ」

「えっ、じゃあわたしに嘘を教えたのですか?」

「嘘は一つも言ってないさ」

「だってわたしのお母さんはウェステーニアだって言ったじゃないですか?」

「儂が言ったのは、お前の母親は麗しのウェステーニャと謳われた女性だと言ったのだ。ただのウェステーニャと言った覚えはない」

「どう違うんですか?」

「すべての真実を教えても良いが、お前はそれを知ったら一人でここを旅立たなければいけない。

 その為の準備が必要だ」

 レナール祖母さんはそれきり黙ってしまった。

 わたしには訳が分からなかった。

 私の母親はウェステーニアであってウェステーニアではない。

 そしてわたしの父はピカールではない。でもピカールはたしかレナール祖母さんの息子の筈だ。

 そしてレナール祖母さんはわたしの祖母になる。

 だとしたらピカールは私の父の筈。

 でもレナール祖母さんは自分のことを母方の祖母だと以前わたしに言ったことがある。

 するとピカールは女性だということになる。

 でもそれじゃあウェステーニアは母親ではないのか?

 わからない。まったく分からない。

 でも祖母さんは嘘は言ってないと言った。

 わたしは冷静になって考えた。

 レナール祖母さんは母方の祖母。だとしたらピカールは祖母さんの娘になる。そして彼女こそわたしの母親なのだ。

 だが、ピカールは男性として知られている。なんらかの理由で女性であることを知られたくなくて男性だということにした。

 でも幼いうちは誤魔化すこともできたろうが思春期になると女性らしさが出て来てばれてしまう。

 だから鎧兜で全身を隠すようになったのだ。

 そして行商人がドルトン邸の二階の窓から見た美しい娘は鎧を脱いだピカールだったのだ。

 いつも鎧で身を包んでいるため色白で、箱入り娘のウェステーニアと勘違いされたのだ。

 本物のウェステーニャもそれなりの美しい娘だったろうが、所詮田舎の地主の娘。

 だが吟遊詩に謳われてしまえば、逆に恥ずかしくて人前に顔を出せなくなってしまった。

 もともと深窓の令嬢だったが、ますますひきこもるようになったのだ。

 ここまでの推理を祖母さんに言ったら、大きく頷いて肯定した。

「アストン公爵ではたとえ婚外子でも娘の場合は政略結婚の道具にすることが決まっているから、生まれたのは男の子だと知らせたのだ。

 男の子はたくさんいたので間に合っていて、半端者という意味でピカールという名前を公爵はくれた。そして全く無関心にされたのだ。

 ピカールはとても美しい容貌だったので、わざと目立たないように男の子として育て鍛えた。

 ちょうどお前を鍛えたようにね」

「本物のウェステーニアはどうなったのですか?」

「男の振りをしたピカールが一緒に連れて逃げたことになっているが、地主のドルトンに相談されてそういう風に話を持っていったのだ。

 実際はピカールが一人だけ途中で本来の女の姿に変わって逃げたのさ。それも美しさが目立つというので眼帯とマスクをして髪の毛を染め変えて逃げたのだ。

 本物のウェステーニアはドルトンの実在しない婚外子という触れ込みで名前を変えて事情を知っている家に嫁がせている。

 だからピカールが母親であることに違いはない」

「そうですか。わたしはウェステーニアとピカールが美男美女ならどうしてわたしのような顔が生まれたのか疑問に思ってました。

 だって私は年齢よりも子供臭い顔で、鼻は低く上を向いているし、目も大きいけれど美人というよりも幼児のような顔立ちで変だなと思ってました。

 ではピカールが母親なら、父はどんな人だったのですか?」

「それを言えばすべてが分かることになる。

 お前はこの森の主の片目の灰色熊を仕留めて来い。

 どんな方法を使っても良いから仕留めれば、すべてを教えてお前を旅立たせよう」

 わたしは旅立つための準備は既に整えていた。

 だが最後の課題をクリアしなければ真実は教えてもらえない。

 だから森の主を仕留めることにした。

 だがわたしは思う。絶対不可能だと。だって熊は木に登ることができるからイノシシや狼に使った手は使えない。

 それに前足の力は強力で、軽く一撫でしただけでわたしの頭は千切れ飛んでしまうだろうと思う。

 森の主は立ち上がると三メートルもある。

 今まで色々な狩人が挑戦したがある者は死に、ある者は命からがら逃げて来たという。

 それにしても森の主を倒せとはハードルが高すぎやしないか?

 でもこれで最後だとわたしは思った。わたしは何者で何故死ぬことを願われているのか、それを知るために命を懸けるのだ。

 わたしは野生の山羊を捕獲した。

 それをロープで繋ぎ、周囲に落とし穴を掘ることにした。

 と言っても子供のわたしには深い穴は掘れない。

 せいぜい深さ三十センチくらいの穴だ。そこに石を埋めてその上に寸鉄を刃先を上に向けて立てる。

 そして苦労して固定してから刃先に毒を塗り、枯れ草を被せておく。

 そういう穴を山羊の周囲に幾つか掘った。

 それだけでも百本くらいの寸鉄を使ったのだ。

 わたしは近くの木に登り、息を潜めて待つことにした。

 だが片目の灰色ぐまの縄張りは森の奥だから、狼たちもいる。

 案の定最初にやって来たのはあの狼たちだった。

 ナンバーフォーだったのがボスになって他の六匹を従えている。

 わたしのことを覚えていて、近づくのに警戒してくれているので助かった。

 寸鉄では届かないのでわたしは弓矢を構えた。もちろん鏃には毒を塗っている。

 新しいボス狼はわたしを警戒しているので、矢は軽々と避けられた。

 けれども仲間たちのいる前で易々と引き下がるわけにはいかないらしい。

 次第に囮の山羊に近づいて来る。

 やめろ、それはお前たちに用意したものじゃない。

 わたしは一匹の下っ端の狼が山羊の方ばかり見てわたしを警戒してないのに目をつけた。

 それを狙って矢を射るとそれがうまい具合に命中した。

「きゃん」

「うせろぉぉぉぉぉっ」

 そのタイミングでわたしは腹の底から声を出して威嚇した。

 以前の記憶と恐怖が蘇ったのか新ボスを先頭に狼どもは逃げて行った。

 矢を射られた下っ端も逃げようとしたが途中で毒が回って倒れたようだった。

 それから色々な小物の獣がやって来たがすべてわたしは追い返すか殺すかして罠には近づけさせなかった。

 燻製肉や干し果物、焼き米を齧り水を飲みながら待った。

 小水も木の上からして待った。

 何日待ったか分からない。

 眠れば死ぬと思っているから眠ることもできない。

 体は幹に縛り付けているが、熊に見つかればすぐ殺されるから眠れない。

 やがてそいつは現れた。

 気の付いた時には山羊が殺されていた。

 口から血を出した片目の灰色熊は巨大だった。

 わたしは十メートルくらいの高さに登っていたけれど、立ち上がったそいつが前足を伸ばせば、四メートルにも迫る高さになる。

 そいつはわたしのことにとっくに気がついていて、山羊を土に埋めるとゆっくり近づいて来た。

 落とし穴がどうなったかは分からない。

 ところどころ穴に被せた枯れ草が潰れているので踏んだ跡はあるが寸鉄が刺さったかどうかも分からない。

 それよりもこんな巨大な化け物なら僅かな量の毒も廻りきらないだろう。

 実際毒が効いている様子もない。

 そいつは凄い勢いで私が登っている木の幹にぶつかって来た。

 ドォォォン! グラグラグラッ。

 かなり太い木なのに衝突で幹が揺れて上から木の葉が大量に落ちて来た。

 死ぬと思った。

 そしてガリガリガリッと木の幹を引っかくと凄い勢いで登って来る。

 その速さは秒単位だ。

 わたしは無我夢中で毒を塗った槍で突いた。

 あらかじめ武器にはすべて毒を塗ってある。

 だが槍の先が相手に刺さったかどうか分からない。

 一瞬で槍は前足で払われ真ん中から折れて遥か遠くに飛ばされてしまった。

 次の一瞬で間違いなくわたしは殺される。

 ミンチだ。ミンチにされる。

 わたしは南蛮液を熊の顔に浴びせた。

「ぐおぉぉぉぉぉがぐぅぅっ」

 きっと鼻や目に入ったのだろう。

 灰色熊は木の下に落ちて地面を転げまわっている。

 けれどもあろうことか奴はまた凄い勢いで木に登って来ようとする。

 普通これで逃げてしまうだろうっ。

 嫌だ嫌だ嫌だ。死ぬ。確実に死ぬ。

 わたしは『ふるさとバッグ』からあらゆる物を取り出して投げつけたと思う。

 正直はっきり覚えていない。

 ただ薄れゆく意識の中で肉を貪り喰う音が聞こえていた。

 たぶん私の体は食べられているんだと……。


 気が付いた時はレナール祖母さんがわたしの顔を覗き込んでいた。

 いつの間にか私は家のベッドに横たわっていたのだ。

「全く驚くほどの回復力だよ。体は動くかい?」

 わたしは上半身を起こした。なにやら全身が痛い。

「十メートルの高さから落ちたんだ。今度こそ死んだと思ったよ。

 だが約束通り森の主の片目の灰色熊を殺したから、せめて約束の真実という奴を聞かせてから死なせてやろうと思ってね。

 一応無駄とは思ったが介抱したのさ。

 全く毒を塗った寸鉄を百本も埋めやがって、後始末する儂の身にもなってみろ」

「あの……やっぱり寸鉄の毒が効いたのですか」

「とんでもない。あいつの足の裏は特別厚いんだ。皮を貫いて毒が回ることはない」

「じゃあ、わたしが投げつけた武器のどれかが突き刺さって」

「それも違う。武器は一つも当たってなかった。全部前足で跳ね飛ばされたか避けられたんだ」

「じゃあ、何故死んだんですか?」

「お前は覚えていないのか? 『ふるさとバッグ』の中には干し肉が入っていたんだ。だがお前は燻製肉の方がうまいと言って、干し肉には手をつけなかった。

 その大量の干し肉をお前があいつに投げつけたんだよ。

 塩辛いから惜しいとは思わなかったんだろう。

 だが片目の奴はそれを片っ端から貪り喰った」


 そうかあれは私の体を食べる音じゃなかったんだ。


「そしてお前は夢中で逃げようと体を括り付けていたロープを切ったらしくそのまま転落していたんだ。背中から落ちたときはもう駄目だと思ったね。すぐにでも奴がお前を食い殺しに来るかと思ったら、木にしがみついたまま動かないんだ。

 どうしたかと思ってみていると、そのうち木から落ちてそのまま死んでいた」

「どうしてですか?何が原因で死んだんですか?」

「後で解体して調べたが体に毒は一滴も入ってなかった。

 だから奴の肉は村人にもふるまってやって大宴会をしたのさ。

 死んだ原因かい? 干し肉を食い過ぎたせいだよ。

 干し肉は体内の水分を吸って膨らみ胃袋が破けたのさ。

 まあ、これで分かったが、お前は狩人には向いていないってことだ。

 まして度胸が必要な冒険者や傭兵にも全く向いていない。

 お前を家に運ぶ前に下半身を特に洗ってやった。意味は分かるな?

 お前は体が治ったら旅に出ると良い。だが、荒事とは無縁の生き方を見つけるんだ。

 すっかり治ったら、本当のことも教えてやろう。一応それが約束だからな」


 わたしは体中が打ち身で紫色にはれ上がっていたという。

 死の恐怖のせいで失禁とかして汚物塗れになっていたらしい。

 前足の攻撃はまともには受けていないが、掠ったような傷が腕にもあったという。

 そして背骨や腰骨や手足の骨などにヒビが入っていて、全身固定して何日も冷やし続けたらしい。

 死ぬ前に意識を取り戻したら約束通り真実を聞かせようと思ってのことで、助かるとは思ってなかったそうだ。

 レナール祖母さんによれば、傭兵仲間でこれだけの傷を負えば助かった者はいないとのこと。

 わたしが落ちた場所がたまたま罠を作るために集めた枯れ草の余ったものを固めておいたところだったこと。

 その下が比較的柔らかい腐葉土だったことなどが幸いしてたのだ。

 落ちるとき途中で枝にぶつかりながら落ちたらしいがそれだけでも確実に死んでいる筈が死んでいなかったのだから運が良かったのだろう。

「まあ、それだけじゃない。お前は普通の体とは違うみたいだ」

 完全に回復していよいよ旅立つ日になってレナール祖母さんは言った。

「ピカールは男の姿で行動した。

 しかも眼帯やマスクをつけて体形までも変えて正体が分からないようにしていたんだ。

 なにしろその正体は絶世の美女だからな。

 だがあるときあいつは儂のところに転がり込んで来たんだ。

 あいつは言った。魔物の子を孕んでしまったと」

 わたしはその話を聞いて全身が凍り付いた。

 魔物? わたしの父親は魔物なのか?


「森で幼い少年に出会ったという。四五才くらいのクリッとした丸い目の可愛い男の子だ。

 親に捨てられてお腹を空かせて泣いていたのだ。

 ピカールはその子の名前を聞くとルーパーだと言った。

 それ以外はあまり聞き出せなかった。

 町まで連れて行って施設にでも預けるしかないと思い保護したのだ。

 その子に食事を与え夜になったら急に震えだしたという。

 体に触ると氷のように冷たい。

 しかたがなくしっかり抱いて温めてやることにした。

 そのまま寝てしまったらしいが、突然変な夢に魘されてピカールは目をさました。

 するとそのルーパーが自分を犯しているのを見たんだ。

 見た目は幼児でも体の一部は十分大人でピカールに受精させる能力があったのだ。

「おのれ、あやかしめっ」

 ピカールは剣でルーパーの首を斬り落とした。

 だがルーパーの体はなおもピカールを犯すために動き続けて目的を果たしてしまったというのだ。

 あまり知られることはないが、魔族と妖精の中間的な存在で魔妖精と呼ばれる希少な種族らしい。

 ピカールは堕胎を望んだが、魔妖精は一度種を植え付けると堕胎させないために苗床の命を質に取るという。

 つまり無理に堕胎しようとすると母体も道連れにするらしいのだ。

 それで出産することにしたが、産んでみるとやはり普通の赤ん坊に見えるのでピカールも殺すことができずに乳を与えて可愛がっていた。

 だが最後まで名前は与えずに一才になったとき、儂に言ったんだ。

 自分では殺すことができないから、ここに置いて行くので森に捨てて来てくれとね。

 森に捨てれば獣に喰われるから死ぬのは確実だ。

 ピカールが立ち去った後、儂は悩んだ。

 森に捨てるにしてもこいつにだって生きるチャンスくらいは与えてやらないと、とね。

 だから身を守る武器を与えてある程度訓練し四才になったときから死の試練を与えることにしたんだ。

 そしてお前は無事に生き残った。

 だけどお前はここを立ち去るんだ。

 二度と戻って来ては行けないし、自分が化け物だということを人に悟られてはいけない。

 まして人と交わり子を為そうなどとは夢にも思うでない。

 あやかしの種はお前一代で絶やすのだ。

 さあ、行け」

 わたしは振り返らなかった。

 今まで育ててくれたお礼も言えずただ目や鼻から水を垂らしながら村を後にした。

 一度も……そう一度も振り返らずにわたしは歩き続けた。

 

 私のミレーヌとしての記憶の反芻はここで終わっていた。

 ベッドから起き上がった私は思わず声を出した。

「私は日本人だったの? この異世界に転生していたの?」

 ところが私の声は田舎の訛りがなくなっていた。

 思い出して元の声を出そうとしても訛りがうまく出せない。

 明日からどうしよう?

 急に訛りがない話し方をしたら怪しいことこの上ない。

 私は鏡に自分の姿を映してみた。

 茶色の髪と深い藍色の瞳。色が白いが顔が幼い。

 まるで小学生のような顔立ち。

 体は……高校生くらいだと思う。

 ロリJKって感じだ。

 確かに西洋人のような顔立ちで大人顔ではなく童顔だ。

 そして体格もこの世界でも大きい方ではない。結構小柄な方だと思う。

 そして一応運動神経も人並み以上にあるようだ。

 つまり前世の死ぬときの願いが完全に叶っている。

 私は記憶が蘇って呆然としていた。

 これからいったいどうすれば良いのだろう?

 私は再びベッドに潜り込んだ。

 明日になれば夢から覚めることを願って。

 今話を終えてようやくこの物語が始動して行くという感じです。

 今までの三話がすべてプロローグだと思ってください。

 本当に最後まで読んで頂きありがとうございました。

 もちろんこれからもご愛読いただけれ感謝いたします。

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