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田舎娘ミレーヌが妖精になるまでの物語  作者: 葉裏
第二章 多くの顔持つ女の子
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縫子の仕事につくまで

諸般の事情でミレー少年の姿で冒険者を続けることができなくなり、

アリア婆さんとして縫子の仕事をすることに。

 

 数日後、私はあの見晴らしヶ丘にやって来た。

 あの後私は疲れてしまい宿屋でまる一日寝込んでしまったのだ。

 そしてお金を稼ぐための働きができぬまま、ここに来た。

 見晴らしヶ丘の美しい景観を観ながら、私は三人の死体を崖から落とした。

 彼らの防具も武器も一緒にそこに投げ捨てると。後も見ずにそこを立ち去った。

 彼らの死体は虫と鼠と蛇が食い荒らし、一日たてば防具や武器と一緒に白骨だけが残ることだろう。

 

 また同じように狙われてもまずいので、私は獣を狩る仕事は暫く休止することにした。

 そして商業ギルドの仕事で実入りの良い物はないか頼み込んでみた。

男性職員「アリアさんっていうのかい? 

 縫子の仕事は今すっかり埋まっていてね。

 衣類のほぐしならあるんだよ」

ミレーヌ「衣類のほぐしですか?」

男性職員「ああ、王室の衣類をそのまま中古品で転売することは禁止されているが、一度解して別のものを仕立てるのは禁止されていないのだ。

 若い女だとそれを惜しがったりすると困るから婆さんのあんたなら思い切って解すことに躊躇いがないと思うからやってみないかい。

 これは秘密を守ることも入っていて、かなり高給なんだ。

 行く所は王室ご用達のテイラーでね。

 ほぐした布は、関連店のテイラーに廻して新しい服に仕立て直すということだ。

 なにしろ王室で着た服なので素材が良いからね」

 つまり服のリサイクルということなんだと思った。

 ほぐすと言っても、力任せに破くのではなく、布を傷めないように糸を引き抜いて行くのだろうと考えていた。

女主任「とんでもないわ。そんなことやってたら、日が暮れてしまうわよ。

 王室と言っても召使の服だってあるし、貴族の服もある。

 量が半端じゃないから縫い合わせたところを引っ張って糸がプツプツに切れてもそのままつけたまま、渡すんだよ。

 向こうでそれを糸を取って洗ってアイロンがけをしてから使うという寸法ですよ。

 あっ、それからマスクを忘れないでね。

 解すとき繊維や埃が舞い上がるから、必ずしてね。

 縫い目が細かい頑丈な縫い方の所は、この細いカミソリで糸を切ってからやること。

 あと、この鉄の箸のような道具は細く縫い込んだところに差し込んで糸を切って行くためのものよ。

 それと裏地の生地は汚れたものは捨ててちょうだい。

 同じ裏地でも綺麗な物で色のついたものは使うからとっておいてね。

 ただの白い裏地は別にどうでも良いというので捨てても構わない。

 以上よ。分からなくなったらまた聞いても構わないけれど、こっちも時間に追われてやってるから、つまらないことは聞かないでね。

はい、これは今日の分」

 私の目の前に数十枚の服が置かれた。

 召使が着るようなものから王女様でも着るような立派なものもあった。

 そういうものは一度くらい着てすぐこっちに戻すらしく、殆ど汚れてないのだ。

女主任「ああ、それからくれぐれも変な気を起こさないでね。可愛い孫娘に着せてあげたいからって、こっそり持ち帰ったら自分の首だけでなく一族全員の首と私たちの首が飛ぶんだからね」

 なるほどだからこの仕事は高給なのかと思った。

 仕事の内容そのものが守秘義務もあるし、間違いをおこしたときのリスクも大きいということなのだ。

 この作業は屋外で行う。

 屋根はあるが壁がない東屋あずまやを広くしたような場所で、風に晒されながら行うのだ。

 慣れて来るとだんだん手順に無駄がなくなりスピードもアップして来る。

 そして、縫い手によって違う縫い方仕立て方の個性も分かるようになる。

 縫い子が何日もかけて丁寧に縫い上げたものを、ほぼ数分で解いてしまうのが申し訳ない感じもする。

 それにしても古くなるまで着た服は解すときの埃が凄い。

 マスクは必ず必要なわけだ。

 新しい服も糸くずや細かい繊維が飛ぶ。

 気が付けば足元に糸屑や綿埃が凄いことになってると言うのが普通だ。

 もちろん解す者の体にも糸屑が一杯付く。

 私は防水エプロンをしているので、ほろえば簡単に落ちるが他の人は指先でつまんで取ったりブラシで擦って取っている。

 だから私のしている防水エプロンを欲しがるので、私は予約をとって十人くらいに売ることができた。

 私は老婆の姿でこの仕事を続けた。

 そのお陰でミレー少年の姿で王都や冒険者ギルドをうろつくことがなくなったので、傭兵たちに目をつけられるとかそういう危険から避けることができた。

 

 この服解ほぐしの仕事で実に色々なことを学んだ。一流の仕立て師はどんな縫い方をするのか、見えない所でどんな工夫をしているのか、そういうことを学べたのだ。

 その後で私に声がかかった。

女主任「アリアさん、あなたもともと縫子が希望だったわね。

 今日一人倒れたので代わりに入ってもらえるかしら.

もっとも一日だけの助っ人らしいけれどね」

 ほぐしの仕事が一段落ついたらしく、漸く最初の希望だった縫子の仕事にほんの一日だけ触れるチャンスを得た。

 これで埃と糸屑の舞い上がる屋外の仕事から一日だけ解放されることになったのだ。

 けれども行かされたのは、仕立て部じゃなくて修理部の縫子だった。


 その場所に行ったとき、女性の主任が蒼い顔をして他のメンバーとなにやら話していた。

ミレーヌ「あのう……ここに来るように言われたんですが、アリアと申します」

 すると一斉に縫子たちは私を見たがまた視線を戻し、ため息をついた。

女主任「せめてあなたがこのドレスの修理をしてくれたらね。

 感謝感激大歓迎なんだけれどそうはうまくはいかないわね」

 私はそのドレスを見た。

 王女様クラスが着るような高価なドレスだ。

女主任「仕立て部から持ち込まれたドレスでね。明日納品する予定のものなのが、手違いでこの裾の所に焼け焦げの穴をあけてしまったらしいの。

 でもね、これを仕立てた人が昨日から休暇をとって旅先でどこにいるか分からないし、この素材の布は高級品で手に入らないものだって言うの。

 だから予備の布を使って修理したくても、できないって訳」

 私はそれを手に取って見た。あちこち調べてから主任さんに聞いた。

ミレーヌ「あのう、予備の布がこの穴より少し大きめにあれば、直せるんですか?」

女主任「もちろんよ。穴を埋めたのが分からないくらい元通りにできるわ。

 布の繊維の一本一本をより合わせるように繋いで、織機で織ったように修復する技術を私たちは持っているからね。

 私はにっこり笑ってその場にいた全員の縫子さんたちに言った。

ミレーヌ「それなら大丈夫ですわ。このドレス直せます」

 

最後まで読んで頂きありがとうございました。

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