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田舎娘ミレーヌが妖精になるまでの物語  作者: 葉裏
第二章 多くの顔持つ女の子
19/52

行商人ハンク

第二章の最初の三話分は時系列の関係から最初の投稿時の順序を変えています。

ご迷惑をおかけしますが、ご了解ください。

 ここは王都サザーンラニアの近く、街道沿いの野営地である。

 馬車が六台ほど並んで停留していて、様々な荷物が積み上げられている。

 ちょうど昼時でそれぞれの炊事当番が昼食を作って食べていた。

 この馬車隊は馬車持ちの行商人たちの寄せ集めで、共同で護衛を雇い王都に向けてやって来たのである。

 ハンク青年もその一人で若いながらも商才あって自分の馬車を持つことができる身分なのだ。

 ハンクはサンドイッチを食べながら、倒木のベンチに並んで座っていると私と話していた。

 私は自分で用意していた弁当を食べている。

ハンク「そうか、君も王都に商売に行くのか? はははは。

 途中で一緒になったけど、荷物もないしただの観光だと思っていたよ。

 でも信じられないな、君のような小さい女の子が商売だなんて。

 いったい何を売る積りなんだい?」

ミレーヌ「何を売るかは向こうへ行けば分かるんだけれど、主には野菜だね。

 自分が食べる分を作っている筈が余分に作って手余ししているものを売るってことだよね。

 あと手芸品もあるよ。手芸品って難しいんだ。

 良い物は売れるけど、次に来たときは同じものが真似されて売られてる。

 だから常に新しい物を提供していかないとね」


 ハンクは隣に座っている子供が、最初は子供らしい空想や夢を語っているのかと思っていたら話が具体的すぎるので驚いた様子だ。

 だがまだ彼は信じていない。もう少し突っ込んでみることにしたようだ。

ハンク「でも、君には馬車もない。

 それどころか荷車もなければ、巨大なバックパックもない。

 品物はどこから持ってくるんだい?

 売る品がなければ商売はなりたたないよ」

ミレーヌ「ところが、お兄ちゃん、成り立つんだよ。

 もうこれで十回以上も王都で商売してるから」

 私はレンズのない黒縁眼鏡をクイッと片手で上げた。

 この伊達眼鏡は少し年上に見えるようにかけている。

 だがハンクは最初は楽しく話していたのだが、だんだん腹が立って来たようだ。

 商売をなめているのかとでも言うように。

ハンク「それじゃあ、品物をここに出してごらんよ。

 カボチャとかトマトはどこにあるんだい?」

ミレーヌ「うふふ、それはね。王都に行けば手に入るの。

 だから私は持ち運ぶ必要はないんだよ」

ハンク「そうかっ、卸しから仕入れて小売りしてるんだね。

 でもそれだと利幅が少ないじゃないか。

王都の店に睨まれるかもね。

 でもさっきの話だと手芸品はどうするの?

 王都の人たちが買ってくれると言ったけど、その人たちが真似したくなる品なのに、仕入れは王都なんだ? 変だね」

ミレーヌ「仕方ない。一つだけ見せてあげる。人に話しちゃ駄目だよ」

 私は同じ形の手芸品を二枚出して見せた。

ミレーヌ「これは鍋掴みなの。だから二つで一組。

 グローブ式のより手軽に掴んで使えるから便利で実用的。

 だから、絶対売れるよ。特に手芸をやってる人は真似したいから買うと思う。

 でもこの次来るときは違う物を売らなきゃ相手にされない。

 こういうのはすぐ真似されるからね」

ハンク「こういうのはどこから仕入れて来るんだい? で、ほかの鍋掴みはどこに置いているの?

 まさかそれ一つだけ売るんじゃないだろう?」

ミレーヌ「お兄さん、結構攻めてくるね。でもね、これは商売上の秘密なんだよ。そうだね。とりあえず百組売って、場所を変えてさらに百組って感じでね」

 私は軽い調子で恐ろしいことを言ったらしい。

 少し彼の表情が厳しくなった。



ハンク「君はどこに住んでいるの?」

ミレーヌ「この近くの村。ロリン村だよ」

ハンク「ああ、ロリン村なら知っている。ご両親と一緒に住んでいるのかい」

ミレーヌ「違うよ。お婆ちゃんと住んでいるの」

ハンク「お父さんのお母さん、それとも」

ミレーヌ「ううん。祖母じゃないよ。血のつながりはないお婆ちゃん。でも一緒に住んでるの」

ハンク「……どうして?」

ミレーヌ「そのお婆ちゃんのお孫さんと約束したんだ。お婆ちゃんと一緒に住んで暮らすって」

ハンク「どうしてそんな約束したの? よく分からないな。

 だって、君はまだ子供で、これから自分の家族を作る人じゃないか。

 どうして家族でもない人と一緒に暮らすんだい?」

ミレーヌ「だってそのお孫さんって人死んじゃったんだよね。

 だからお婆ちゃんがたった一人ぼっちになるからだよ」

ハンク「ひどいお婆ちゃんだな。いくら自分の孫が死んだからって君を代わりにするなんて」

ミレーヌ「ううん、お婆ちゃんはお孫さんが死んだことは知らないよ。だから何も言わないで。

 私が勝手にしてることだから」

ハンク「分からないな、君が何を考えてそうしてるのか?

 でもどうしてそんなこと僕に話したんだい?」

ミレーヌ「どうしてだろうね? きっとその死んだお孫さんに似てたからかな」

ハンク「彼はどうして死んだの?」

ミレーヌ「盗賊に襲われて殺されたんだ」

ハンク「君は大丈夫だったの?」

ミレーヌ「うん、彼が守ってくれたから」

ハンク「そろそろ出発だね。もう王都は目の前だ。どうしても歩いて行くの?」

ミレーヌ「そうだね。向こうに着いたらもう会うことはないね、きっと」

ハンク「そうだ。僕の名前はハンク、君は?」

ミレーヌ「ミレーヌ。それと……これでも私十六才だよ。じゃあね」

ハンク「えっ?」

 驚くハンクを後にして私はどんどん歩いて行った。

 この野営地の手前で一人で歩いていたのが気になってほんのちょっとだけ馬車に乗せた、そんな縁だった。


 

 マーサは十一人の子持ち母さん。子供に乳を含ませているときに隣のアネッサがやって来た。

アネッサ「ちょっと、マーサ。またあの変な子がやって来たよ。でかい頭陀袋ずだぶくろ引っ提げてさぁ」

マーサ「銅貨三枚くらいはあるかねぇ、良いのは全部青果問屋が持って行ってしまったから、何にも残ってないよ」

アネッサ「うちのは終わったよ。くずでもなんでも計量で買って行くから十枚になったよ」

マーサ「子供のやることは分からないよ。あの頭陀袋ずだぶくろ一杯売ったっておやつ代にしかならないだろうに。こら、お前たちそこを走り回るんじゃないっ」


 彼女たちが騒ぎまわる子供を叱りながら外に出ると空の頭陀袋を持った私は立っていた。

マーサ「また、あんたかい? ジャガイモとかトマト、あと茄子なすびくらいしかないよ」

ミレーヌ「カボチャはないですか?」

マーサ「えーと、ひねくれた奴しかなかったね」

 私はどんどん見ながら入れて行く。

マーサ「それをどうして弾くのさ。その芋良い形じゃないか」

ミレーヌ「日が当たって青くなってるのは、売れないんで。ソラニンがあるから」

マーサ「ソラ……なんだって?」

ミレーヌ「一種の毒ですよ。おばさんも食べない方が良いですよ」

マーサ「そうかい、そういえばうちの子でお腹を痛くしてたのはそのせいか」

ミレーヌ「おばさん、このカボチャも畑の肥料にしてください。

形は良いけど末成うらなりです。グランドマークの色が薄い」

マーサ「グラ……なんだって? 本当に変わったこと言う子だね。

いいよ、それはうちの子たちに食べさせるから」

ミレーヌ「やめておきなさい。ベチャベチャな上味がないです」

 そう言いながら私は背中に担いでた天秤ばかりを出すと頭陀袋ずだぶくろに入った野菜と反対側の皿を天秤で計って行く。

チャリン、チャリン

 皿の上に銅貨を一枚ずつ入れて行き銅貨側が傾くとそこでやめる。

 何キロ幾らじゃなくて、銅貨が重くなったらその枚数だけ払うというのだ。

 だからわかりやすいし、損した気分にならない。

 たまにバランスが取れて釣り合うことがあるが、そのときでも銅貨を加えて必ず銅貨の方が重くなるようにして額を決めるのだ。

アリッサ「ところでうちから買った野菜はどうしたの?」

ミレーヌ「相棒が運んで行きました」

アリッサ「相棒って?」


 アリッサにつられてマーサも周囲を見渡すが、当然隠れるところがない広々とした畑に人っ子一人姿は見えない。


ミレーヌ「素早くてかくれんぼが上手なんですよ」

アリッサ「ねえ、あんた今日はなにか珍しい物持って来てないの?」

ミレーヌ「しかたないですね。あまり言いふらさないで下さいよ。鍋掴みです。二つで一組なんですが、使い勝手が良いって評判の優れものですよ。

 おっと買うなら二十ギニーなんですが」

アリッサ「片方でうちで買った野菜代と同じだよ」

マーサ「それ、私も買うよ、前回持って来た子供用の涎掛よだれかけが評判が良くてね」

 二人の農家のかみさんたちは、なんだかんだ言いながら払う金の方が多かった。


 屑市場トラッシュマーケットは王都の裏通りの一角で開かれていて、そこを仕切っているのが王都商工会である。

 出店する者は五十ギニーを払って番号札を貰う。それを受け取ればその番号の場所の権利が得られるのだ。

 大抵の者は銀貨一枚払って続き番号札を貰い二間口分の場所を取る。

 だが私は全然売れずに早々と店じまいする間口一つの店から木札を又買いするのだ。

 その値段はリンゴ一個とかで買うからあくどい。

 狭い間口に広げた敷物の上に僅かな野菜と手芸品を並べて座っているので、子供のままごとみたいだが、意外と客が来るし、いつまでも並べられた品がなくならない。

 だから遠くで見ている人は、私の店は客が見て行くだけで全然売れないのだと思うことだろう。

 けれど私の手の動きを見れば理由が分かる。

 品物は売れているのだ。私は常に小声の早口で客と応対し品物を素早く売りつけている。

 お金を受け取って品物を渡した直後には、売った品と同じものが頭陀袋から出されて並べられる。

 その動きが実に鮮やかで手品の早業を見ているようにしなくてはならない。

 それにしても頭陀袋ずだぶくろはいつも膨らんでいて、いつまでも空っぽになることはない。

 実は頭陀袋ずだぶくろの中から出すと見せかけて、ふるさとバッグから出していて、いくらでも品物が出て来る仕組みなのだ。

 しかし一般客はそんなことは知るよしもない。

 だから売れ行きも考えれば、頭陀袋一つ分の品などあっという間に空になりそうなものだが、ならないっ。

 普通の出店は売り上げた小銭も見える所に置くが、私の場合はすべてどこかにしまい込んでいる。

 だから客が見れば、あまり売れない子供の売り子の店と言う感じになるのだ。

 

 客の波が途切れたのを見計らって腕章をつけたおっさんがやって来る。

男「おい君、ここ暫く店を出しているようだが木札を見せてくれないか」

ミレーヌ「これです」

男「八十六番だな。確かこれはセリアさんに売った筈だがどうなってるんだ?」

ミレーヌ「そのセリアさんが途中で閉めるというんで譲ってもらったんです。お金も払いました」

男「そうだろうね、やっぱり。実は俺は商工会のマックスという者だが木札を売っている係だ。

 君は最近よく見かけるが一度も俺から木札を買ってないから不思議に思ってたんだ」

ミレーヌ「まずいことなんですか?」

マックス「当たり前だろう。木札のまた買いは狡いだろう。どうせただ同様で譲ってもらってるんだろう。

さあ、ここで五百払ってくれ」

ミレーヌ「おかしいですね。セリアさんが店を閉めないで続けていたとしたら、追加料金はとらないですよね。

 私がこの場所を引き継いだだけで新たにお金を取るんですか?

 私はセリアさんにお金を払ってます。またお金を取られるのは納得が行きません」

「「どうした、どうした」」

 私が少し大きめの声をだしたので野次馬が寄って来た。

ミレーヌ「私はここで店を出すのは十回目ですが、今までの九回は終わったらきちんと札を戻しています。

 そして何も言われてません。

 今回に限ってマックスさんは正当に木札を買い取った私からさらにお金を取ろうとするんですか?

 おかしいじゃありませんか?」

「そうだ、そうだ。この場所の金はもう受け取っているんだろう。

二重取りはよくないぞ」

「こんな子供から金を巻き上げようとはひでえ奴だ」

「店じまいした後を空けておくより、この子が入ってた方がずっと良いだろう。市全体のためにも賑わうってもんだ」

「おい、マックスとやら。お前博打に負けて金が欲しいんじゃないか?」

マックス「ち……違う。また買いは駄目だと思ったが、今までも言われてないなら仕方がない。見逃す。どいてくれ。俺は他に用事があるんだ」

「おいおい逃げるのか」「博打はやめろよ」


 私は広げていた品を素早く頭陀袋にしまい込んで敷物をクルクルッと巻いて立ち上がる。

「おいおい、どこへ行くんだ、お姉ちゃん」

「店は続けて良いって、あいつも言ってたじゃないか。俺も買ってやるから続けろよ」

ミレーヌ「いえ、場所をちょっと変えるだけです。あそこが空きそうなので」

 実は斜め向こうの店がだいたい売れる品は売ったらしく、店じまいし始めたのを見たのだ。

 その場所はここよりも人通りが多い。近くの店が集客力があるせいだ。

 その場所に行くと骨董を売っていた二間口の店だ。

ミレーヌ「すみません。一間口分の札売ってくれませんか?」

骨董屋「買うなら二つとも買ってくれ十ギニーで良いから」

「おい、こんな子供から十ギニーも巻き上げるのか?」

「お前骨董売って儲けただろ。ただで譲ってやれよ。間口一つだ。後の札は返して行けよ」

骨董屋「わかった、わかった。おい、姉ちゃん。応援団連れて来るなよ」

ミレーヌ「あっ、待って下さい。五ギニー払います」

骨董屋「いや、良いよ」

ミレーヌ「じゃあ、このリンゴ一個で」

骨董屋「分かった。貰っておくよ」


 一緒について来た応援団が今度は少しずつ買って行ってくれた。主に鍋掴みを奥さんの土産にと。

 やはりこっちの方が客足が良い。


客「あら、あんたまたやってるね。あんたの売るカボチャ、不細工だけど味が良くて外れがないって評判良いよ」

「あら、それじゃあ私も……あら、カボチャもうないの?」

ミレーヌ「ありますよ、ほら」

 私はすかさず頭陀袋から品物を補給する。

 だが客たちは、もうすぐ品が尽きてしまうと思うからどんどん買ってくれる。

 

 その様子をじっと見ていた者がいた。ハンクだ。

 ハンクの店はもう少し表通りに近い所で開く『馬車市(キャリッジマーケット』だ。

 だがどうしてもミレーヌの商売が気になって、店を一時的に閉めてこっそり見に来たのだった。

 そして来た途端、商工会のマックスとのやり取りを目撃し、その後の店の移転などついつい見続けていたという訳だ。

 不思議だ、とハリーは思った。

 小さな店だから誰も気づいていないが、あんな頭陀袋一杯分の品物だけなのに、どうして品切れにならないのか?

 先ほどからカボチャがかれこれ十個以上も売れている。あの頭陀袋なら十個のカボチャは入りきらないかもしれない。

 商売上の相棒がいる筈だ。

 鍋掴みもそうだ。女の人たちが二組とか買って行く。それも結構仲間と連れ立って買って行くからもう何十組も売れている筈だ。

 それだって野菜と一緒に頭陀袋に収まる量じゃない筈だ。

 誰もハックのようにじっと見てないから気づかないだけで、これは明らかに不思議でおかしい。

 そしてじっと見ていればミレーヌの方も近づき、目と目が合った。

 見つかったのでハックは仕方なく近づいて行く。

ミレーヌ「ハックさん、またお会いしましたね。商売はどうしたんですか?」

ハック「いやそれよりも、さっきから品物の補充をどうやっているのか知りたくてね」

ミレーヌ「だと思いました。ずっと見られている気がしてましたから、だから私の相棒も隠れてしまったんです」

ハック「相棒? そうかやっぱり。で、俺が見てるからやめたのか?」

ミレーヌ「そうです。おかげでもう品物も尽きてきました。ちょっとお花摘みに行って来ます。

 皆さんほんの一二分で戻りますから待ってて下さいね」

 ミレーヌはペチャンコの頭陀袋をハンクに見せてから店から飛び出した。

 トイレタイムってことだろうが、きっと補充する筈だ。

 ハンクはミレーヌの動きを目で追った。

 なんのことはない。トイレでもなんでもない。ただその辺をグルッと一周しただけで戻って来た。

 だが彼女の抱えている頭陀袋は中にびっしり物が詰まっていてパンパンに膨らんでいる。

 ミレーヌはそれを重そうに下ろすと、また座りなおす。

ミレーヌ「さあ、お店を再開します」


 信じられない。いつ相棒と接触したんだ? 全く手品を見ている気分だ。

 そしてミレーヌが商売敵としても侮れない相手であると再認識したのだ。

 

 二度目にハンクが顔を出したのは馬車市が終わってからだった。

 売れる物は売れたが、売れ残った物はどうしてもある。

 それ以上粘っても時間がもったいないので店を閉め、もう一度ミレーヌの様子を見に来たのだ。

 ちょうどミレーヌは品物を完売し空っぽの頭陀袋に敷物をたたんで入れて立ち上がったところだ。

ミレーヌ「ハンクさん、また来たんですか?」

ハンク「売上は? 持って歩くとスリにやられるぞ」

ミレーヌ「相棒が持って行きました」

ハンク「相変わらず幽霊のような人なんだな、その相棒ってのは」

ミレーヌ「はい、ある意味そうかも」

そして驚いたことに、なにやら向こうの方で大きな音がしたので一瞬顔をそらしてからもう一度ミレーヌを見たときハンクは驚いた。

ハンク「おい、ミレーヌ。頭陀袋はどうしたんだ?」

ミレーヌ「相棒が持って行きました」

ハンク「たった今? えっ、たった今ってことかい?」

ミレーヌ「はい、相棒ですから」

 さて身を翻してどこかへ行こうとするミレーヌの行く手を急にハンクが塞ぐ。

ミレーヌ「ハンクさん?」

ハンク「悪いがちょいと付き合ってくれないか? 商売のことで色々話があってね」

ミレーヌ「良いでしょう。何か見返りがあれば良いのですが」

 ミレーヌはハンクと一緒に馬車市の所に来ていた。もう大体の店は閉まって帰る支度をしている。

 ハンクは結構儲けたとは思うが、売れ残り……特に食品関係が気になっていた。

 例えば野菜一つとっても、ミレーヌが売っていたハネものよりもずっと品質の良いものが売れ残っているのだ。

 今日売ってしまわなければ鮮度が落ちる。

 そして鮮度が落ちたものを売れば信用がなくなる。

 それに明日になれば馬車隊を組んでまた仕入れに移動しなきゃいけない。

ハンク「という訳なんだ。相棒とも相談して、なんとかならないかい」

ミレーヌ「じゃあ仕入れ額の八がけで野菜だけ引き取るというのは?」

ハンク「魅力的だが、もう一声頼む。果物はどうして駄目なんだ」

ミレーヌ「果物は野菜に比べて贅沢品なんだよ。

 私の客層じゃ、どうしても食べなきゃいけないものでもないんだ。

 でもどうしてもっていうなら、仕入れの半額だよ」

ハンク「うわぁぁ、足元を見られたなぁ」

ミレーヌ「考えても見てよ。いくらで売れると思ってんの?

ハンクさんの値札じゃ絶対売れないから」

ハンク「良いよ、良いよ。それでも後は?」

ミレーヌ「後はって、兄さん。何言ってんの? それでこの頭陀袋二つ分だよっ」

ハンク「相棒がいるんだろ?」

ミレーヌ「……」

ハンク「俺は見てたんだ。あの時刻であれだけ売れたってことは、頭陀袋十杯分は売ったろう。

 多分相棒は小さな荷車を持っている。

 図星だろう。

 そして、それを隠してるのは、品物があまりないように見せる、商売上のテクニックじゃないか?」

ミレーヌ「さっきの話はなしで」

ハンク「えっ、何か気に障ったのか? それじゃあ、謝るよ」

ミレーヌ「ここにある売れ残り全部銀貨一枚で」

ハンク「ちょっちょっと待った。全部で銀貨一枚? えーとえーと、待ってくれ。計算すると」

ミレーヌ「十秒以内で決めないとこの話は本当になしにするよ。一、二、三、四」

ハンク「分かった。銀貨一枚くれっ」

ミレーヌ「まずお兄さん相棒を呼ぶから、あそこにある串焼きを一本買って来てくれないかな」

ハンク「串焼きの代金も俺持ちかい?」

ミレーヌ「当たり前だよ。お兄さんが食べるものだから、食べたくなかったらただ見て戻って来れば良い」


 ハンクは急いで馬車から離れて串焼き屋に行き一本買ってそれを食べながら戻った。

 途中何度も馬車の方を振り返ったが何も見えない。

 中に入っているのだろうけれど、相棒らしき人間の出入りまでは確認できなかった。

 そして串焼きの最後の肉を飲み込んで馬車の中を覗くとすっからかんになっていたっ。

ハンク「嘘だろっ。この短い時間にどうやって運び出したんだ?」

 そしてミレーヌの姿も見えないので、焦って飛び出した。

 まだ銀貨を貰ってなかったのだ。

ミレーヌ「お兄さん、どうしたの? はい、約束の銀貨だよ」

ハンク「品物は?」

ハンク「相棒が全部持って行ったよ」

ミレーヌはハンクの手に銀貨を握らせるとぱっと身を翻して今度こそ人ごみの中に消えて行った。

 えっ、銀貨? これは銀貨だ。

 あの子が売ったものはすべて銅貨で支払われている。

 商売を始める前から銀貨を持っていたのか、それとも相棒が両替したのか?

 ハンクにはますます分からなくなっていた。



 私は後から仕入れた品物をイーリア娼館とシャーク奴隷館に持って行くことにする。

 だが今度は品が良いけれど高く売る訳にはいかないから、出血サービスになるだろう。


 だが私が娼館と奴隷館で仕事を終え宿に戻ろうとすると、前を立ちふさがる者がいた。

 身なりの立派な金髪碧眼の貴公子だ。

 貴公子「とうとうお前に辿り着いたぞ、ブルガールとやら」

 

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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