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田舎娘ミレーヌが妖精になるまでの物語  作者: 葉裏
第二章 多くの顔持つ女の子
18/52

ブルガール

第二章の最初の三話分は時系列の関係から最初の投稿時の順序を変えています。

ご迷惑をおかけしますが、ご了解ください。

 王都に売りに来て、途中ではねもの野菜を仕入れて順調に売ったと思った。

 だが私は少し焦っていた。自信はあったのだが多く仕入れ過ぎた為野菜が余ったのだ。


 屑市場トラッシュマーケットでは確かに手ごたえがあったのだが、敷物の上に少しずつ並べて売るやり方は慣れていないため店頭商品の補充がうまく行かなかった。


 店頭商品補充とは、なんのことはない。


 敷物の上に並べた物が一つでも売れると、すぐ同じものをふるさとバッグから出して埋めることである。


 でも客には自分のすぐ前に置いてある頭陀袋ずだぶくろから出しているように見せるのだ。


 客は常に循環しているから、どんどん補充している量が頭陀袋ずだぶくろ一杯分よりかなり多くても気づくことはない。


 この袋は厚手の布を重ねて縫って作っているので、中が空っぽになっても膨らんでいるのだ。


 だから中に常に入っているように見えるのだ。


 でもこの頃は慣れていなかったから、商品が余ってしまったのだ。





 それで私は怖かったけれどもっと裏通りの方に行った。


 そっちの方なら需要があるのではないかと思ったのだ。


 少しでも売り上げをして、婆ちゃんに何か良い物でも買って行ってやりたい。


 そしていつの間にか娼館街に来ていた。


 見ると娼館にも等級があるらしく、見るからに良い服装の男たちが出入りしている高級娼館もあれば、そうでもないものもある。


 そしてランクで言えば三番目くらいの傭兵や冒険者風の男たちが出入りする『イーリア娼館』という所で足が止まった。


 ここなら少し形の悪い野菜でも安くすれば買ってくれるのではないか。


 勝手に私はそう考えて、入り口から入って行った。


女一「あなた、なに? 子供なのにここで働きたいの?」


 凄いけばけばしい色気のお姉さんが、私の全身を舐めるように見てから鼻先でふんと笑った。


 な……なんですか、そのふんというのは?


ミレーヌ「あの……責任者の方いらっしゃいますか?」


女一「あら、館主に用事があるのね。ちょっと待ってて」


 入れ替わりに来たのはバーで言えば美人ママ、旅館でいえば美人女将と言った感じのひとだった。


館主「あなたね、働きたいってのは?」


ミレーヌ「いえいえいえ、実は野菜を買って貰えないかと」


館主「ええっ、あんた物売りなの? ここをどこだと思ってるのっ。さっさと出てお行き。


お兄さんたちっ、この子を追い出して」


男「館主、こういう馬鹿な娘は少し教育してここで働かせては?」


館主「まあ、どっちでも良いわよ。任せるわ。まだ子供だけど、一応女の物は持っているでしょう」


男「じゃあ、そういうことで。おい、娘。奥に行こうか」


 げげげげげぇ、ちょっと待ってぇぇぇ。何する積りなのぉぉ?


老婆「お待ち。野菜を売りに来たんだろう?


 実はあたしが呼んだのさ。裏口に連れてっておくれ」


 そこへ一人のお婆さんが中に入ってくれて男たちを止めてくれた。


男「あっ、イーリア婆さん。そうすか? じゃあ、おい。助かったな娘っ子。こっちだ」


 私は突然現れたイーリア婆さんに助けられて裏口に廻された。


イーリア「あたしが実質的な館主さ。


 さっきのは雇われ館主で表向きの館主だよ。


 野菜売りってのはこんな所には来ないんだ。


 よくまあ、あんた売りに来てくれたねぇ。


 度胸もありすぎるとひどい目に遭うよ。危なかったねぇ」


ミレーヌ「はい、ありがとうございます。助かりました。野菜はこれだけです。他にも売り物の手芸品があるんですが」


老婆「どれ売り物を見せてみな。


これはなに? エプロンかい?ふむふむ水が染みにくい生地を使っているのかい?」


ミレーヌ「はい、実は布の表面に、ある植物の粘液を塗ってあるのです。これは私の村の特許製品で」


老婆「なに? トッキョって?」


ミレーヌ「つまり私の村しか作れないというか」


老婆「馬鹿だね。こういうものはすぐ真似されてしまうもんだよ。


 だから誰も真似してないうちに沢山売ってしまって、次の売れ筋のものを次々と考えて行くしかないんだよ」


 要するに専売特許という考えはこの世界にはないらしい。


 このイーリア婆さんは裏の館主さんだろう。


 なかなか頭が良いし頼りになりそうだ。


 そうだ、ついでにあれも見せよう。


ミレーヌ「あのう、こういうところは病気とか怪我とかしたとき薬なんか必要ですよね」


イーリア「なんだい? あんた薬も仕入れてきてるのかい? 村に薬師でもいるのかい}


ミレーヌ「います。というか私が駆け出しの薬師みたいなもので、基本的な薬は一通り作れます」


イーリア「ほう、どこで勉強したんだい?」


ミレーヌ「いえ、子供のころから原始林で暮らしていたので自然に覚えたというか」


イーリア「原始林で? じゃあ、薬草に詳しいだろう」


ミレーヌ「大した詳しくはないです。ほんの三百種類くらいでしょうか」


 するとイーリア婆さんが私の両肩を掴んで激しく揺すった。


イーリア「あんたっ、凄いよ。それなら避妊薬作れるよねっ?」


ミレーヌ「いえ、そういうのは必要がなかったので、覚えませんでした。」


イーリア「ちょっと待って。どこかにあったよ。ああ、ここだ。あったあった。あんた、この薬草の名前全部分かる?」


 イーリア婆さんが古ぼけた紙切れに書いた薬草の名前を指した。


全部よく知っている薬草で、私も乾燥したものをストックしていた。


ミレーヌ「分かります、全部。よくある薬草です」


イーリア「よくある薬草だって?


そうなのかい。薬屋はそうは言わないよ。私らの弱みに付け込んでぼるに良いだけぼるんだ。


 原料の薬草が非常に入手しづらい高価なものだから、薬も高いんだってね」


ミレーヌ「製法がむずかしいのかもしれませんね」


イーリア「これは娼館に伝わる秘法で、製法もちゃんと書いてあるよ。見ておくれ」


 見るとごく普通の作り方だ。傷薬や痛み止めと同じくらいの手間で作れる。


ミレーヌ「これなら他の薬と同じく安く作れますよ。なんなら明日まで作って来ますか?」


イーリア「本当かい? 頼むよ。


 ちょっと待った。あんた、このことは絶対秘密にしておくれ。


 この辺りの薬屋は裏の社会とも通じているから、知られたらあんたは消されるか、それとも囲われて飼い殺しにされるよ。だから私にだけ売っておくれ。良いね」


ミレーヌ「はい、分かりました」


イーリア「それと……あんた、その顔はまずいよ。幼くて可愛すぎる。


その顔でこの辺りをうろつけば、あっという間に攫われてしまうよ」


ミレーヌ「そ……そうですね。そういえばさっきも危なかったところを助けてもらって」


イーリア「わたしに任せな。良いことを教えてやる」


 そして教えて貰ったのが顔に痣をつけることと、顔半分をマスクで覆い隠すことだった。


イーリア「右頬に灰色の痣あざを顔料を使ってつけるんだけれど、毎回同じ形の痣あざにする為に、型紙を使うんだよ」


 型紙を頬に当てて灰色の顔料を綿に染みらせてポンポンと叩くと本物のような痣あざができた。


イーリア「今度は顔の下半分を隠すんだ。


 鼻の頭を隠せば鼻が長く見える。


 そしてこのマスクを縦長に作れば顔全体が長く見えるから大人っぽくなる。


 そしてこれが仕上げのカツラだよ。


チリチリヘアーだから、絶対あんただとはばれない。分かるかい」


ミナール「分かります。すごいですね。別人みたいです」


イーリア「これならここをうろついても、男たちにちょっかいをかけられることはないよ」


 こうして私はチリチリヘアーの黒いマスクで顔半分を覆った右頬に痣のある女になった。


 そうして次の日に避妊薬をたくさん作ってイーリア娼館に届けた私は常連の出入りの商人?になった。





 私は確かに男たちに捕まることはなかった。顔に醜い痣があれば気持ち悪がって近づかないのだ。


 だが子供は違う。気持ち悪い者を排除しようとする。


 気が付いた時には十代前半の男の子たちに遠巻きに囲まれていた。


 身なりなど見れば、スラムの子供たちだと分かった。


「おい、化け物女。この辺をうろつくんじゃねえよ」


「牛女【ブルガール)どこかへ行ってしまえ」


「やっつけろっ」


「「「おおおおおぉぉぉぉ」」」


 最初に話しかけられてから一斉に襲い掛かられるまでの時間が短いっ。


 私は高速度で考えた。





 ここでやられたら、これからもずっとやられっぱなしになる。


 この年齢の男の子は力で圧倒すれば従うと言う面がある。


 だがこれだけ一斉にかかって来たら、絶対に敵わない。


 敵う方法はないか?


 ある。


 武器を出して斬り捨てる。


 それは駄目だ。


 じゃあ武器を使わずにやっつける。


 それは絶対無理だ。


 じゃあ、武器を使っているとは気づかれずに武器を使って倒す。


 何を使う?


 手ごろな石を両手に持って殴る。


 しかも石を使っているところを悟られずにやる。


 石を使えば素手でなぐるよりも効果がある。


 多分一発殴っただけで十秒以上または一分以上戦闘力を奪うことができる。





 以上のことをゼロコンマ数秒で考えた私は一瞬で石を手の中に出して、最初の少年の頭をぶん殴った。


ゴキン。


 痛そうな音がして、殴られた子は倒れた。


 私は殴った手をわざと見えるようにして開いて見せた。


 もちろん一瞬のうちに石はふるさとバッグの中に戻したのだ。


 これで私が素手で殴ったとみんな信じたと思う。


 な訳ないでしょっ。あんたら全員素手で殴ってたら、私の手の骨が砕けてしまうわ。


ゴンッ、ガツン、ブシッ。


その次の三人も頭部中心に殴って行った。


本当は掌底しょうていで顎をついて脳震盪を起こす方法もお祖母さんに習ったけど、失敗する率が高いと言うか自信がなかったので、確実な方法を選んだ。


 石を使えば一撃必殺ではないが一撃で相手の動きを封じる効果がある。


 次々と仲間が倒れたりしゃがみ込んだりするのを見て、残りの者は逃げ腰になるが徹底的にやることにする。


 こういう連中は自分より強いということを思い知らせなきゃ駄目なのだ。


「ひゃぁ、怖いよぉ「ゴンッ」」


「にげろぉぉ「ガツン」」


「たすけ「ガキン」」


 あちこちでウーンウーンと唸っている男の子たち。中には私より背が高い子も二三人いたが、そいつら全員を私は並ばせた。


「顔が気に入らないからと言って袋叩きにしようってのが気に入らない。その考えを改めなっ」


「「「はい,姐御っ」」」


「どれっ、殴られたところを一人一人見せてみな。


 おっ、たんこぶができてるね。


 痛みがひどかったら水で冷やすんだ。


 あんたは血が出てる。黴菌が入って化膿したらいけないから、薬を塗ってやるよ。次……」


 そんな調子で面倒を見てやった後、飴玉を一個ずつくれてやった。飴と鞭ってやつだね。


 ああ、本当に危なかった。


「あのう、姐御のお名前はなんというのでしょうか?」


ミレーヌ「お前たち私のこと呼んでいたろう、牛女ブルガールって。


 この痣あざを見てそう呼んだんだろう?


 じゃあ、それで良いよ」


 以来私は彼らから牛女ブルガールとよばれるようになった。


 この呼び方はこの先広まって行くということはこの頃まだ知らなかった。 








 ある日娼館に行くとイーリア婆さんが浮かない顔をしていた。


イーリア「いやね、借金を返して勤めていた娼婦がいたんだけど、体が弱くて休みがちだったんだ。


 その子にはヒモがいて辞めさせて看病したいって言って来たから餞別もつけてここから送り出してやったと思いな。


 そのヒモの奴どうしたと思う。奴隷商館に叩き売ったんだよっ。


 まあまあ、いるんだよ。そういう子が奴隷商館にね。


 ここをやめた後、悪い奴に捕まって、奴隷に身を落とす子がね。


 分かってることだけど、気が滅入ってね」


ミレーヌ「奴隷商もたくさんありますよね」


イーリア「ここから出た子は大抵下級奴隷館のシャーク商館に売られている。高級奴隷にはなれないからね」


 それから一人ひとりの娼婦の暗く不幸な身の上を一通り聞かされた後、私はシャーク商館に行ってみた。


「なんだ、お前は気味の悪い奴だな。向こうへ行け」


ミレーヌ「野菜とか薬を買ってくれないかね」


「いらないよっ。おい、いらないって言ってるだろ」


ミレーヌ「おじさん、このエプロンしていれば前が汚れないよ」


「なんだ、それ? 水を弾くのか? だが色が気に入らない」


ミレーヌ「男用のもあるよ。サイズも大きくなってる。十五ギニーで良いよ」


「十にしてくれれば買ってやる」


ミレーヌ「じゃあ、野菜も買ってくれれば」


「調子に乗るな。もう帰れ」


ミレーヌ「分かったよ。十で良いよ。また来るよ」


「もう来るな」





 ところがエプロンが気に入ったらしく、次に行ったときは追加で二着売れた。しかも野菜も買ってくれたのだ。


 だが薬については、怪しい薬はいらないと断られた。





 それでも私は野菜を売りに行った。奴隷にも維持費がかかるから、私の持って行く屑野菜は重宝なのだ。


「おい、お前薬も売ってると言ってたな。本当に効くのか」


ミレーヌ「普通の薬屋で売ってるものに負けないですよ。何の薬が欲しいんですか?」


「本当はお前から買いたくないんだが、ちょうど切らしてしまってな。傷薬と腹を壊した奴隷の」


ミレーヌ「傷薬はこれです。値段も安いですよ。あと腹を壊した奴隷は症状を詳しく言ってください」


「ああ、面倒だ。お前が実際に見れば良いだろう。来い」


 ついに私は奴隷商館の中にはいることができた。


 私は奴隷の症状を見たり聞いたりして、最適な薬を出して安い値段で売った。


 安くしないと薬を使わないし奴隷が死んでしまうことになるからだ。


ミレーヌ「ついでに様子のおかしい人がいないか、見させて下さい。


薬も特別サービスしますので」


「分かった。ちょっと待ってくれ商館の館長を呼んで来る」


 やって来たのは頭が薄くなった肥満気味の男だった。


館長「儂が館長のシャークだ。 弱っている奴隷は今までは森に捨てに行ったりして処理してたんだ。


 残酷なようだが維持費の方が奴隷の値段より高くなると赤字になるからな。


 だから薬を安く分けてくれるというのは助かるが、助けても売れない場合は赤字になるから、あまり売れそうにない奴隷には薬を与えないでくれ。


ミレーヌ「分かりました。 薬を与えたい人を先に教えて下さい。その人の薬だけは買って貰います。


 その他の人に私が薬を与えることがあるかもしれませんが、それについてはお金は取らないようにしましょう」


シャーク「値段がかなり安いようだが、効かなければ何にもならないから、そんな場合は次からは出入り禁止にするぞ」


ミレーヌ「明日あたりになれば、薬の効果は徐々に分かると思います」


 私は、その後具合の悪そうな奴隷をピックアップして自ら薬を飲ませた。


 経過を見る為、次の日も行くと殆どの患者が経過が良好だった。


 これには館長のシャーク氏も機嫌が良かった。


シャーク「あんたさえ良ければ、ちょいちょい奴隷たちの様子を見に来てくれ。


 出入りを自由にさせるということで、儂の鑑札を預ける」


 そんな訳で、あっという間に待遇が良くなった。





 シャーク奴隷商館に一人の貴族がやって来た。


 だが身分を明かさないから誰だか分からない。


 こういう下級奴隷を扱う所に来るような人間ではないことだけは確かだ。


シャーク「あのう、ここは下級奴隷専門の所でして、貴族様が来られるような所とは違いまして」


貴族青年「ある噂を聞いたのだ。


 下級奴隷に関しては高級奴隷を扱う商館にもいる。


 だがその高級奴隷館にいる下級奴隷よりもこっちの奴隷の方が元気が良く質が良いというのだ。


 その原因を調べに来た」


シャーク「えええっ?」


貴族青年「どうなんだ、何か原因らしきものに心当たりはないか?」


シャーク「いっ、いいえっ、全くっ。 あ……ありません」


貴族青年「怪しいな、それならこっちで勝手に調べさせてもらう」


シャーク「か、勘弁してください。本当に心当たりがないんです」


貴族青年「だからこっちで勝手に調べると言ってるだろう。


 そうだ、奴隷たちと話をさせてくれ」


 シャーク館長はもちろん心当たりはあるが、まさかブルガールのことを言う訳には行かないと思った。


 もし彼女を引き抜かれたら大変だからだ。


 いまやシャーク奴隷館にとってブルガールはなくてはならない存在なのだ。


 シャークは先手を打って、奴隷たちにブルガールのことについて緘口令をしいた。


 結果貴族青年は奴隷たちから何も聞き出すことはできなかった。


 その青年の正体はついに分からずじまいだったという。


 けれども後になってこの貴族青年はミレーヌの前に立ちはだかることになる。



最後まで読んで頂きありがとうございます。

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