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田舎娘ミレーヌが妖精になるまでの物語  作者: 葉裏
第一章 見かけは十才の女の子
13/52

厄介なことが起きる

この回で厄介なことが何かが判明します。今回は少し長いです。

 私はアークス坊ちゃんの様子を見てほぼ間違いないと思った。

 これは厄介なことになった。

 だが暫く様子を見ることにしようと、この件は保留にした。


 とにかくやることは色々ある。

 色々聞くとアークス坊ちゃんは金銭感覚がかなりおかしい。

 お金は服や装飾品などは貴族の必需品なので執事管轄の会計から出費されるらしい。

 ワインなどもその類になる。

 それとは別に小遣いなるものが領主の方からという形で出され、領主夫人からは不定期におねだりによって引き出されるとのことだ。

 さてお忍び用の平民服については大した額ではないが、執事経由だと何を買ってどうする積りか全部明るみになってしまうので、それは避ける。

 それで坊ちゃまの懐からお金を頂くことになるが、ここで説得活動がまた始まる。


アークス「なんだ? その経済観念というのは?

 耳慣れない言葉で俺を惑わせるな、ミレーヌ」

ミレーヌ「要するに未然に反乱を防ぐ手立てとして、お坊ちゃまは平民の経済観念を学ぶ必要があるのです」

アークス「だからっ、その経済なんたらってのが分からないと言ってるだろがっ」

ミレーヌ「お金の稼ぎ方と使い方のことです。

 平民はお金を稼ぐのにも大変苦労をします。

 だからこそお金を使うときも慎重に少しずつ使うのです。

 でもお坊ちゃまはなんの苦労もせずにお金を貰うので、使う時もぱっぱっと湯水のように使い果たします。

 だから平民の経済観念が理解できない。

 理解できないから反乱が起きて、叛徒に捕まり殺されることになるのです。

 多少は理解できているなら、同じ殺されるにしても首をちょん切られるだけで済みますが」

アークス「なんだ? 首を斬られるより酷いこともありそうな口ぶりだな」

ミレーヌ「はい、今程度のお坊ちゃまですと、全く経済観念がないので叛徒たちの怒りもマックスになりますので、首チョンのような簡単な殺し方はしないと思います。

 手足と首を五方向から馬に引っ張らせて全部もいでしまう八つ裂きの刑とか、竹の鋸で通行人に一回ずつ斬らせるじわじわの首切りとか、水からゆっくり煮る釜茹での刑とか、それとアイアンメイドと言って……」

アークス「もうやめろっ。お前はどこでそういう刑のことを覚えたんだ? 田舎娘が知ってることじゃないだろう」

 まあ、古今東西の拷問とか刑罰については、想像の上で上司を罰する為に研究したから、うん。

ミレーヌ「ですからお坊ちゃまは私も協力しますので、これから経済観念のことを学びましょう。

 とりあえずの目標は反乱が起きて捕まっても首チョンですむレベルまで学ぶことです」

アークス「いやいや、反乱そのものを防ぐのを目標にしてくれっ」


 私とお坊ちゃまは床に並べられた金貨を挟んで向かい合わせに座っていた。

ミレーヌ「もうありませんか?

ちょっと床の上をジャンプしてみて下さい」

アークス「それはさっきお前にやらされただろう。

 ないったら、ないっ。もう一ギニーもないっ」

ミレーヌ「ではこのうち金貨百枚はご領主さまから貰い、五十枚は奥方様からせしめたのですね」

アークス「それもさっき言ったろう」

ミレーヌ「おかしいですね。では何故幾ら数えても金貨が四十二枚しかないんですか?

 百五十枚あったのですよ。残りの百八枚はどこに消えたんですか?

 今月貰ったばかりで、まだ今月の期間は半分以上も残っているというのにですよ」

 それから私は出納帳を作り、支出の明細をアークス坊ちゃんから根ほり葉ほり聞き出した。

 召使や護衛にぽんとくれてやったり、中には騙し取られたりとか目も当てられない使い方だった。

ミレーヌ「今のままでは、お坊ちゃまは叛徒に捕まったら『ファラリスの雄牛』という刑で焼き殺されますね」

アークス「なんだそれは?聞いたことないぞ」

 私はその内容を詳しく教えた。

アークス「なんと恐ろしいことだっ。お前が考えたのかっ?」

ミレーヌ「違います。遠い国の話です。私は虫も殺せないです」

 またしれっと嘘を言ってしまった。イノシシも片目の灰色熊もゴブラリンも殺してました、はい。

ミレーヌ「とにかくこの四十二枚の金貨四十二万ギニーは私が預かります。

 坊ちゃまはしばらくの間は勝手にお金を使ってはいけません」

 それから金貨一枚以外は『ふるさとバッグ』に入れて封印した。



 私は街に出ると商業ギルドに行ってノラ主任に会った。

ノラ「ミレーヌさん、あなたのお陰で私たちは命が助かったわ。

 なにかできることがあったら何でも言って下さい」

ミレーヌ「この金貨一枚を銀貨九十枚と銅貨千枚に両替してくれませんか? 手数料なしで。それでチャラにします」

ノラ「トニー、聞いた? 命の恩人のミレーヌさんからの頼みよ。すぐ崩してやって」

トニー「はい、ミレーヌさん、その節はありがとうございました。

 さあさ、どうぞこちらへ。

 今お茶をいれますからそこでお待ちください」


 次にトニーから紹介された古着屋に行った。

 そこでアークス坊ちゃまの寸法に会う服を何種類か購入し、店を出るとケリー団のメンバーが待ち構えていた。

ケリー「ミレーヌさんを見かけたというから、急いで仲間を集めたんです」

ミレーヌ「今何をしてるの?」

ケリー「キノコ採り以来、キンブル商会の方からちょびちょび仕事貰って稼いでいます。

 ミレーヌさんのお陰です」

ケリー「買い物をしてるようだから、荷物持ちをしようと来たんですが、何も買わなかったんですか?」

 実は店を出る前に買ったものは『ふるさとバッグ』にしまい込んだのだ。

ミレーヌ「ええ、特に何も。そうだ、君たちに頼むことがあったんだ」

ケリー「なんですか?」

そこで彼らに用件を伝えると私は彼らと別れた。



 そしてキンブル商会に行った。

 面会を申し込むと旦那様は会ってくれた。


キンブル「そう謝らなくても良いんだ。

 無理やり連れて行かれたことは知っているからね。

 それより慣れないお屋敷勤めで体を壊してないかい?

 体には気を付けてしっかり食べるのだよ」

 私は優しいキンブル氏の言葉に涙が出そうになった。

 キンブル氏は理想の上司だぁ。

ミレーヌ「旦那様のご恩は忘れません。それからケリー団のことを面倒見て頂いてありがとうございました。

 私がもし伯爵家を出て行く事態になっても、ここにご迷惑をかけるので戻っては来ません。

 どうかナンシーさんやスージーさん、シェフさん、アランさんやサムソンさんやヤコブさんたちに宜しく」

 するとキンブル氏は何か考え込んでいたが、私を待たせてから手紙を持って来た。

キンブル氏「もし万が一この領内から逃げ出すような事態になった時、この手紙を読むように。

 では元気で」

 そういうと背中を向けて足早に去って行った。

 一度も振り返らなかったキンブル氏の肩が小刻みに震えて見えた。

 私はその後ろ姿に深く礼をしたのだった。

 ありがとうございました、旦那様。

 私はその手紙をそっと『ふるさとバッグ』にしまった。

 

 その一時間後私は平民服を纏ったアークス坊ちゃまと一緒に領主館を抜け出して『お忍び』の冒険に出ていた。

 私も着替えていて平民の兄と妹という触れ込みで歩き回った。


ミレーヌ「さて、一通りの店とかを見て回って、だいたい物の値段というものが分かったところで、今度はお金の稼ぎ方の勉強をしましょうね」

アークス「いよいよ金の稼ぎ方を知ることになるか。

 さて、それじゃあ金貨の十枚もとりあえず稼いでみるか?」

ミレーヌ「何を言ってるんですか? だから坊ちゃまは『ファラリスの雄牛』で焼き殺されるというんですよ。

 まず、一ギニーからです」

 私は一枚の銅貨を見せた。

アークス「これはなんだ? 見たことないものだな?」

ミレーヌ「これが一ギニーの銅貨です。これが一万枚集まって金貨一枚になるんですよ」

アークス「こんなゴミみたいなもの、稼ぐのは簡単だろう」

 私は陰ながらついて来たケリー団のラルズに合図をした。

 彼はケリーに頼まれて数人を連れてわたしたちの後をつけて来たのだ。

ラルズ「えーっと、ミレーヌさんのお兄さんのアークスさんですね。

 なんでも長い間病気で臥せっていて、仕事をしたことがないとか」

アークス「なんだって?」

ミレーヌ「しーっ、そういう設定だから黙って従って下さい」

アークス「わ……わかった」

ラルズ「まず一ギニーでしたね。おい、エスタ」

 すると六歳くらいの女の子が前に出て来た。

エスタ「なに?」

ラルズ「お前が頼まれたお使いをこの人にさせる」

エスタ「じゃあ、私一ギニー貰えないよぅ」

ラルズ「大丈夫だ。お前にはミレーヌさんが二ギニーくれるそうだ」

エスタ「わぁ、それじゃあ仕事譲るね。はいこのお金」

アークス「ええとこれは銅貨が十枚だな」

エスタ「うん、そのうち九枚使って市場の肉まんじゅうを三個買って来て、アンナお婆さんに持って行ってやるの」

アークス「そうか。市場の肉饅頭屋はどこにあるんだ?」

エスタ「一緒に行こうっ」


アークス「おい、まだか。市場は遠いな」

エスタ「そんあことないよ。十数分で着くじゃん。ほらもう見えて来た」


 私たちはラルズらと離れてついて行き様子を見守っていた。

 アークス坊ちゃんはなにやら饅頭屋に言って、エスタになにか注意された。

 とにかく無事に饅頭を買って来たので、いったい何を言ってたのか聞いたらエスタが答えてくれた。

エスタ「このお兄さんね、お店の人に饅頭屋の店をいくらで売ってくれるんだって聞いたから、あたしが冗談だよってお店の人に言って謝ったの」

 なんたる馬鹿なことを聞くんだ。もう余計なことは喋らないで貰いたい。

 また同じ距離を戻ってアークスは買って来た饅頭をエスタに手渡した。

エスタ「待ってね、いまお婆さんに渡して来るから」

 戻ったエスタは私から二ギニー貰うと喜んでどこかに行ってしまった。

アークス「ところで俺が稼いだという一ギニーはどこにあるんだ?」

「「「えっ?」」」

 これには私もラルズも呆れてしまった。

ラルズ「アークスさん、あんたエスタから十ギニー貰って饅頭屋に九ギニー渡したんだろう?

 それなら一ギニー残ってるだろうさ。

 それが買い物のお駄賃だろうよ」

アークス「しまった。全部渡してしまった。あの饅頭屋数えていたけど、何も言わなかったぞ。

 今から行って取り返さなきゃ」

ラルズ「無駄だよ。変な冗談を言ったから、詫びを兼ねてのチップだと思って受け取ったに違いないよ。

 行っても返してくれないよ。

 それより、今度は一気に十ギニーの仕事だよ。ベルク」

 今度は十才くらいの男の子が前に出て来た。

ラルズ「お前が持って来た仕事をこの人に譲ればミレーヌさんが二十ギニーくれるそうだ」

ベルク「ヤルタさんの物置の掃除だよ。本当は十五ギニー欲しいとこだけど、十ギニーにまけて引き受けたんだ」

アークス「何故安くする? 十五で受ければ良いだろう」

ベルク「今サービスして丁寧な仕事をすれば、次につながりやすくなるんだ。

 俺っちを信用してもらうためさ。

 だから俺っちが監督するから、アークスさんは手を抜かないでくれ。信用がかかってるんだ」


 ヤルタさんの物置は六畳くらいの小さな小屋だが、中には物が一杯詰まっていた。

 しかもゴチャゴチャになっていて、何がどこに置いてあるか分からない。

ベルク「まず中のものを外に全部だしてくれ。

 そして物の種類ごとに纏めて並べるんだ。

 俺っちは手伝えないから全部一人でやってくれ。

 ミレーヌさんがそうしろと言うんだ」

アークス「うわぁぁ、ゴチャゴチャで何が何だかわからん。

 これ全部ゴミだろうっ」

ベルク「駄目だ。一つも捨てちゃいけない。全部必要な物と考えてくれ。

 ほらほら材木とか木の切れ端は同じところに置いてくれ。

 その壺にはなにか入っているから中を零さないように慎重に運んで」

アークス「いちいち面倒だな。そうしなきゃいけないのか」

ベルク「何故そうしなきゃいけないのか、全部終われば分かるよ。

本当にミレーヌさんの兄さんは仕事をしたことがないって本当なんだな」


アークス「全部外に出して地面に並べたぞ。後はどうするんだ」

ベルク「ほうきとハタキで中を掃除してくれ。

 あっ、布で鼻や口を覆ってくれ。それでなきゃ埃が凄いから」

アークス「もしこの掃除を俺が頼むなら金貨五枚は払ってやるぜ」

ベルク「冗談でしょ。お城を丸ごと一つ掃除してもそんなに貰えないよ。稼ぐって厳しいんだから」


 掃除が終わると、今度は外に出した資材を中に収納する番だ。

ベルク「良いかい、一つでも物がなくなっていたら、次から仕事が来ない。

 物を壊しても駄目なんだ。お金を貰うどころか、逆にお金を払わなきゃいけない。

 普段からよく使いそうなものは入り口近くとか、すぐに出しやすい所に置く。

 木材は一番奥で良いよ。ダメダメきちんと並べて」


 そうやってやっと終わってからベルクはヤルタさんを呼ぶ。

 アークスも私たちも離れた所でその様子を見ている。


 ヤルタさんは足の悪いお爺さんだった。

ヤルタ「うんうん、きれいに並べてくれてすっきりした。なんだか物の量が減っていないか」

ベルク「木切れのかけら一つだってなくしてないよ、ヤルタさん。

 きちんと種類ごとに詰めて並べたから減ったように見えるんだよ。誓って良いよ」

ヤルタ「わかった、わかった。信用してるよ。それじゃあ、約束通り十ギニーだ」

ベルク「へい、毎度。ありがとう」


  ベルクは手にした十ギニーをアークス坊ちゃんに渡した。

「はい、ご苦労さん。あんたが稼いだお金だぜ。おや、どうしたんだ?」

 アークス坊ちゃんは両手に銅貨を載せてそれを見つめて涙を垂らしていた。

アークス「たった十枚の銅貨がこんなに値打ちがあるものだったとは夢にも思ったことがなかった。

 俺は……俺は何も知らない馬鹿だった」


 アークス坊ちゃんは常にバンダナで金髪を包み隠し、顔はわざと煤けた汚れをつけて『お忍び』に出るようになった。

 というのは次の日からいくらか実入りの良い、肉体労働だったからだ。

 それでもいくら稼いでも銀貨一枚を稼ぐのが精いっぱいで、それが終わるとこっそり屋敷に戻って風呂に入ってから筋肉痛に悩ませながら寝転がる毎日だった。

 何故か十枚の銅貨を手にして泣いたあの日からアークス坊ちゃんは変わった。


アークス「何故かな? 下働きに来た若い娘を押し倒して得た楽しみよりも、働いて汗を流して休憩のときにお茶を運んで来てくれた親方の娘さんの笑顔を見たときの方が何倍も何十倍も心が楽しいんだ。

 その娘に指一本も触れてないし、思い通りにした訳でもないのに」

 アークス坊ちゃんはときどきそんなことを私に言った。

 もう以前の馬鹿坊ちゃまではなくなっていた。

 お忍びはいつの間にか終わり、預かっていた金貨もすべて坊ちゃまにお返しした。


 あれから何か月も経った。そして私が恐れていた厄介なことがとうとうやって来た。

 領主様に呼び出された私は、領主と夫人が並んで私を迎えているのを見て嫌な予感がした。


領主「ミレーヌ、お前が息子の侍女になってから、彼はすっかり変わった。

 女遊びをピタッとやめて、遊び惚けることもしなくなった。

 ときどき領地を見回り、作柄や商業の流通について学んでいるようだ。

 だからお前は侍女としての役割を十分果たしたので、その役を解いてやろうと思う。

 もちろん給金の他に特別に報奨を与える積りだ。

 さて、これからのお前の身の振り方について妃から提案があるという。

 儂は席を外すからよく聞いて考えるのだ」


 領主様が退室してから私は夫人と二人きりで向かい合っていた。

 そして暫くの沈黙の後、夫人が口を開いた。

 夫人は美しくそして柔和な笑顔で私に話しかけた。

夫人「アークスがお前を妻に娶りたいと言っている」

 そうだ。私が厄介なことだと言っていたのはこのことだったのだ。

 私には結婚して子を為すことはできない。

 そしてアークスは今や好青年になっているが、私は共に一生の時間を過ごすだけの愛を感じていない。

 そもそも私は、背景となる文化がまるで違うこの世界の人に対して、愛を感じることができるのだろうかと思う。

 夫人は続ける。

「お前は平民だが然るべきところに養子縁組をして貴族の身分にすれば妻として迎えることもできる。

 アークスはお前を妻に迎えることができなければ一生誰も娶る気はないとさえ言っているのだ。

 本当に困った息子だ。

 いくら私たちが反対しても頑として聞かない。

 最初お前に大金を渡して遠くにやろうとも考えたが、それをすれば自分も家を出るとまで言っている。

 それで一歩譲ったことにしてお前を一時息子の妻に迎えるが、正室とも側室とも明らかにしないでおく。

 内内に挙式をし、貴族たちを招待してのお披露目はしない。

 この意味が分かるな?

 伯爵家に迎える妻は対外的にも格が上でなければ軽く見られるのだ。

 たとえ飾り物になろうとも伯爵家以上の家から正室を迎えなければならない。

 そのことだけは納得して欲しい。

 それとここだけの話だが、主人の伯爵に尋ねられたらどうか断らないで欲しい。

 あの人はお前の意志を尊重するように言うかもしれないが、拒否権はないと考えてほしい。

 私は賢いお前が息子を立派な人間に変えたことを評価してるし嫁に迎えることに反対はしてない。

 だからお前があの人に逆らってひどい目に遭わせられることがないように願っている。

 わかっておくれ」


 私には逃げ場がないと思う。

 だがとにかくこの場は切り抜けなければならない。


ミレーヌ「奥方様、いちおう私はお申し出をお受けすると、そう伯爵様にはお伝えください。

 実際のところ、突然のことで少し考えたいのですが、とにかくお引き受けする方向で時間を頂きたいのです」

夫人「分かります。女には一生のことですからね。

 でも安心しました。受けることで主人には伝えます」

ミレーヌ「それと私は少し一人になって考えたいので、侍女部屋から移っても構いませんか?」

夫人「そうね。侍女の役目は解任されたと言ったから、それならゲストルームに移ってもらおうかしら、これが部屋の鍵です。ゆっくり休むと良いわ」

 私は二階のゲストルームに移動することにした。

 その際すばやく侍女部屋に行き、アークス坊ちゃんが気づかないうちに私物をすべて移動させた。

 ゲストルームは裏庭の眺めが良い所に窓が面していて、そこは裏手になるので人の目が届かない。

 私は息を深く吸い込んだ。

 さあ、これからこの伯爵家、いやこの伯爵領から脱出だ。 

最後まで読んで頂きありがとうございました。次話からは逃亡劇になります。

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