表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
田舎娘ミレーヌが妖精になるまでの物語  作者: 葉裏
第一章 見かけは十才の女の子
1/52

訛りのひどい女の子

最初からとても読みづらいです。地の文も訛りですから慣れるまで時間がかかると思います。

慣れたころに普通の文に戻ると思いますが……。

 わだしは大きな門の前に並んでいだ。

 前にいる大きな荷物をかずいだ人は門番のおじさんに証明書を見せでいだ。

「行商人か、よし通れ」

 わだしの番になったので、証明書を出して見せだ。

「ミレーヌ、十五才か。出身はワミール村。女一人で来たのか」

「はい、狩りとかしで来ただから」

「目的はなんだ?」

「仕事見ずけに来だ」

「当てはあるのか?」

「わがんね。でも捜すだ」

「見つかると良いな。冒険者はあまり勧められないぞ。女の子には結構きついからな」

「はい、考えておぎます」

「よし、行って良い。仕事探すなら商業ギルドに行くと良いぞ」

「ありがどうございまず」

 わだしは傭兵経験のある祖母ばばちゃんに仕込まれたけど、傭兵は嫌だ。

 傭兵は人殺すから嫌だ。

 まだ冒険者の方がましだと思うけど、それだって危ないことが多いらしいし、できればやりたぐないっ。

 商業ギルドの建物はすぐ見ずがっだ。

 天秤棒担いだ物売りのシルエットが看板だ。

 で、『商業ギルド』の字の方は隅っこにちっちゃぐ書いであっだし、逆にすれば良いのにと思っだ。

 だけど中に入っだら、びっくりしだっ。

 女の人たぢがいっぱいあふれででだっ。

「はい、並んで並んで。きちんと並ばなきゃ駄目だよ」

 若いお兄さんが女の人だぢを並ばせでいだ。そのお兄さんがわだしを捕まえで引っ張っで行ぐ。

「ほら、君。聞こえないの。伯爵家の家政婦の募集に来たんでしょ? ぼさっと立ってたら駄目じゃないの」

「あっ、ここに並べば雇っでもだえるんだ」

「君、なまりすごいね。田舎から出て来たの」

「ワミール村から来ましだ」

「ええっ、それってかなり遠いよね。ほとんど原始林の中にあるとこじゃない」

「原始林って? 木は生えてるけど人も住んでだよ」

「大丈夫かな? 悪いこと言わないけどやめといた方がいいんじゃないか?」

「どうしてだ? わだし働き者だよ」

 そのお兄さんの所に綺麗なお姉さんが来て言った。

「トニーさん、どうしたの、その子」

「はい、ノラ主任。ワミール村ってところから来たというんですが、訛りがひどいですし、町のことは何も知らないと思うので、伯爵家の家政婦は無理かなと」 

ノラ「そうね。他にも侍女の募集もあるけど、田舎から出て来たばかりじゃ、最初から無理だから外しておいてね」

トニー「そういう訳だから、君そっちの請負課の窓口に行って別の仕事を捜してくれるかな」

「はい、分がりましだ」

 わだしは教えられだ窓口に行ぐと、そこのおじさんが村長から渡された身分証を見で言っだ。

おじさん「背中に何背負ってんの?」

「弓矢だ」

おじ「腰に差してんのは?」

「短剣と長剣だ」

おじ「スカートの下に履いてんのは?」

「ズボンだよ、なんでそんなこど聞くだ?」

おじ「どう見たって冒険者ギルドに行った方が良いんじゃないの」

「だってこれは長旅するとき食べて行くのに狩りしなきゃいけないから仕方なぐしでんだ」

おじ「じゃあ、そういう恰好はやめて剣や弓矢はどこかに置いて出直して来た方が良い」

「それならそうするがら、働くとご世話してほしいだけど」

おじ「キンブル商会で小間使いを募集してるから、行ってみたら。だけど、行っても採用されるかどうかは向こうが決めるから」

「はい、ありがどうございまず」

 わだしは紹介状というのを貰っで、キンブル商会ってとごに行ぐごとになっだ。


 わだしは『ふるさどバッグ』に余分なものはしまっで紹介先に行ぐごどにしだ。

 キンブル商会に行ぐど、紹介状を見せだら丸っこい顔しだ眼鏡のおばさんが出で来だ。

「あーら、あんたね。可愛い顔してんじゃない。あたしは女中頭のナンシーよ。ふーん、ワミール村ね。炊事とかできる?」

ミレーヌ「家で炊事はしでましだがら、できるです」

ナンシー「縫物は?」

ミレーヌ「わだしが今着でるのは自分で縫いましだ」

 ナンシーさんはわだしの服を掴んで引っ張っだりしながら調べだ。

ナンシー「あら、縫い目は雑だけど頑丈に縫ってるね。それじゃあ」

「ちょっと待ったぁぁ。その女は断ってくれ」

 話が決まろうとしてるどごに現れだのは、わだしより二三個上ぐらいの少し阿保臭い顔したアンちゃんだった。

ナンシー「あっ、ボビー坊ちゃま。何故です?」

ボビー「俺のダチのハンク知ってるか?」

ナンシー「ああ、あの半端者の」

ボビー「聞こえてるぞっ。そのハンクの妹のウテナを連れて来た。こっちを雇え」

 するとボビーの後ろからヒョコッとなんかケバケバシイ娘が顔を出した。

ウテナ「こんにちわぁ。宜しくぅう、ナンシーさぁん」

ナンシー「こんな子使えないから連れて帰って下さい、ボビー坊ちゃま」

ボビー「この俺が連れて来たんだ。雇え」

ナンシー「それじゃあ、いちおうテストしますから、それで良いですか?」

ボビー「ちょっと待て。そっちの女は先に帰すんだ。ウテナのテストの邪魔だ」

ナンシー「いえいえこの子にも平等にテストを受けさせます」

ウテナ「良いわよ。あたし、こんなダッサイ女なんかに負けないから」

ボビー「そうか。じゃあウテナ、がんばれ。俺がここで見ててやる」

ウテナ「任せてよ、ボビー。あたしの実力を見せつけてやるから」

ナンシー「スージー、ちょっとっ。布の端切れ持って来てっ」

 女中頭のナンシーおばさんが叫ぶと、顔の細長い馬面のおばさんが布がいっぱい入っている箱を抱えて持って来た。

ナンシー「金を入れる袋をそこにある布で縫ってみな。針と糸はいるかい?」

ウテナ「いるわよ。貸して」

ミレーヌ「わだしは自分のを使うだ」

ナンシー「ハサミはそこにあるのを使うと良い」

 ウテナって子はスージーさんの貸してくれた糸を突き返していた。

ウテナ「ちょっとっ。もっと綺麗な色の糸を貸してよ。こんな太いみっともない糸はいらないわ。センスないんだから」

スージー「じゃあここに色々な糸があるから、勝手に選んで使いな」

ウテナ「なーんだ、あるじゃない。初めから出せば良いのに」


 わだしは生成りの丈夫な生地を選んだ。

 で床に腰を下ろすど、股を広げ胡坐をかぐどスカートの前をお皿のように広げだ。

 そしで生地を適当に切って、切り屑はスカートの上に落どしだ。

 そしで中表なかおもてに縫っでがら表に返し、さらに脇を表がらががり縫いにしだ。

 でもなんか気配がしだがら顔を上げると、ウテナが勝ち誇った顔でわだしを見下ろしでいだ。

ウテナ「おっほっほっほ、あなたおっそいわねぇ。私とっくに終わって待ちくたびれたじゃない。

 それになに? その汚い布は?色のセンスってないの? それに、なにグルグル巻きに縫ってるの? 縫い目も粗いし、やる気あるの?」

 ウテナはそう言いながら私の縫った袋の倍もあるような大きな袋をヒラヒラと見せびらかした。

 縫い目は表に出ていたけれど、布も柄物で糸も綺麗な色を使っている。

 でも布は中表なかおもてにしないで外表そとおもてにしでるし、底の部分を『わ』にしないで二枚合わせでいる。しかも縫い方はただの並縫いを一列にしただけ。

 わだしならこんな袋に金は入れられない。

 でも阿保面のボビーはウテナと同じく勝ち誇って言った。

ボビー「これはもう勝負あったな。どう見てもウテナの袋の方がきれいだし、金もたくさん入る。これでテスト終了だ」

ナンシー「待って下さい、坊ちゃん。まだテストは終わってません。スージーお金を持って来て」

 スージーおばさんが硬貨の入った箱を両手に抱えて運んで来だ。そしてわだしだぢの前に置いた。

ナンシー「自分の作った袋に好きなだけ金を入れな」

 中を見るど銀貨と銅貨がいっぱい入っていだ。まあ、銅貨が八に銀貨が二といっだ割合だ。

 私はスカートについた布の切り滓を集めるど部屋の隅に置いてあっだゴミ入れに入れだ。

 ウテナは椅子に腰かけて縫っていだらしく椅子の下に切り滓が落ちでいだ。さらに彼女はスカートの前をパッパッと手で払うど金の箱の方に走っで行っだ。床が切り滓で汚れだままだ。

 そしで後がら来だわだしを睨みつけるど手で追い払っだ。

ウテナ「あんたは私の後っ。順番守ってっ」

 順番って意味わがんない。一緒にやれば良いど思うけど、わだしは仕方ないがら待ってるごどにしだ。

ウテナ「うふふふ、あたしの袋は大きいからたくさん入るよ。入った分全部貰えるのかなぁ」

 そう言いながら彼女は銀貨中心にどんどん入れで行ぐ。

 わだしはそばで立っで見でいだけど、ウテナが取ったあどは箱の中は銅貨ばかりで銀貨は三枚しか残っでながった。

ウテナ「良いわよっ。後はあんたが入れてもいいわよっ」

 わだしは銀貨三枚と銅貨を二三回掴んで入れるどそごでやめだ。硬貨は結構重いのでこのぐらいがちょうど良いど思っだ。

ナンシー「じゃあ、それをスージーに渡して」

 わだしはスージーさんに金の入った袋を渡しだ。

 ウテナは金の袋を持ち上げようとしたが結構重いらしく両手でグイグイと上に引っ張っていたが。

「ビリィィッ」「ジャラジャラ」

 ウテナの金の袋は破けてしまった。

ナンシー「匂い袋なら良かったかもしれないけどね。二枚を使って底を縫ったのがまずかったね。それに中に金を入れすぎだよ」

ボビー「待て、まだテストがあるんだろう?最後までやらせろっ」

ナンシー「困ったねぇ、時間がないからスージー、袋貸してやんな」

 スージーは金の袋をウテナに手渡した。

 ウテナは今度は銀貨が殆どだったものの、私と同じくらいの量を入れた。

 スージーがそれを受け取ろうとすると、ウテナは手放さない。わだしは渡したけどウテナはがんばっでいる。

ナンシー「何やってる? それはお前にやる金じゃないよ。一度預けてこっちの説明を聞きな」

 口を尖らせでウテナはいやいや袋をスージーさんに渡しだ。よほど金が好きなんだなと思っだ。

 スージーはわだしとウテナの袋を持って部屋の隅に行っだ。

 それがらナンシーは砂時計を持って来だ。

「金の勘定をしてもらう。お前たちが勘定した後それが正しいかどうか判定する。

 ただし時間内に数え終わること。終わったらすぐ金額を知らせること良いねっ?」

 ナンシーさんが目配せするとスージーさんは二人の前にそれぞれの金の袋を置いだ。ウテナは今度は私と同じぐ床に座っでいる。

 スージーさんは金の入った箱を抱えると奥の方に引っ込んで行っだ。

ナンシー「用意は良いかい? じゃあ始めっ」

 ナンシーさんは砂時計をひっくり返すど後は手元にあった本を広げで読み始めだ。

 ジャラジャラと貨幣を床に広げるどわだしもウテナも数え始めだ。

 わだしの村ではあまりお金は使わない。銅貨ぐらいは見だごどがあるが、銀貨は殆ど見だごどがない。

 でも銅貨一枚が一ギニーで銀貨一枚が百ギニーだっでごどは村から出る前に教えでもらっでだから助がっだ。

 あどお金の計算は一枚でも間違っだら大変なごどになるっで聞いでいだがら慎重にやるごどにしだ。

ウテナ「終わりました。一万一千二百ギニーです」

 早くにウテナは数え終わっていだ。さすがに都市の子だがら数えるのが速い。

 わだしは確がめながら数えだので砂時計の限界ぎりぎりまでかがった。

 銅貨十枚ずづ重ねで山を作り十二の山と八枚が残っだ。そしで銀貨は三枚だ。

ミレーヌ「終わりましだ。四百二十八ギニーです」

 まだ阿保面のボビーが偉そうに言っだ。

ボビー「決まったな。金の勘定は素早い方が良い。こっちの女はとろくさくて使い物にならない」

ナンシー「スージー、額を確かめて」

ボビー「おいおい、確かめるまでもないだろう。明らかにウテナの方が早かったぞ」


スージー「二人とも金額はあっていますが」

 少し経ってからスージーさんは金額が申告通りだと言った。それにしても二人分の金額を数えたのに、ウテナ一人分より早い。

ボビー「ほら俺の言った通りだろう。今時金の勘定間違える奴はいないって。だけどな、ここは商家だ。商家に勤める者は金を素早く数えなければ使い物にならないってことだ」

ナンシー「待って下さい。ボビー坊ちゃま、このテストは数える速さを競うものではありません」

ボビー「じゃあ、どういうことだ。何のために砂時計で時間を計ったんだ」

ナンシー「スージー、結果を言いなさい」

スージー「はい、ミレーヌは合格で、ウテナは不合格です」

ウテナ「どうしてよぉっ。あたしちゃんと数えたじゃない。あたし見てたけどその女の数え方三歳児より遅かったよっ」 

ボビー「そうだ。俺も見てた。話にならない。小間使いなら買い物とかもするだろう。こんな女に任せていたら日が暮れてしまうぞ」

 わだしはこれは駄目だなと思っだ。仕方がないがら、この後冒険者ギルドにでも行っで……と思ったらナンシーさんは毅然と言い放った。

ナンシー「数える速さは慣れてくれば改善できますが、なかなか改善しにくいことがあります。スージー、例のことも報告して」

 わだしもウテナもボビーのあんちゃんもぽかーんとしでだ。スージーさんは無表情にこう言っだ。

スージー「ウテナの袋は数える前と後では銀貨三枚分重さが違いました」

 ウテナは涙目になってポケットから銀貨三枚を出した。

ウテナ「罠ね。罠だったのねっ。あんたはいなくなるし、そっちのおばさんは本を読みだすし。お金数えた様子もないから少しくらい貰ってもわかんないと思って……ひどいっ、いつの間に重さを計ったのよっ」

スージー「ひどいのはお前だと思うよ、ウテナ」

 スージーさんはウテナの手から三枚の銀貨を取り上げて奥に戻って行った。

ナンシー「という訳で、分からないと思ってお金を誤魔化す者は信用がおけないので、雇う訳にはいきません」

ボビー「ああ畜生っ。この糞女が来なければ、こんな余計な茶番のテストもしなくて済んだのにっ。こうなったら、どうでも良いっ。ウテナを雇えっ」

ナンシー「ボビー坊ちゃま、仰ってる意味が分かりませんが、私どもは信頼のおけない者を雇う訳には行きません」

ボビー「俺の顔はどうなるっ。ハンクに約束したんだっ。俺の顔をつぶす気かっ。金を扱わせなきゃ良いだろうっ。厨房でもどこでも雇えっ」

ナンシー「金を扱わなくても、必ず品物に触れることがあります。盗癖のある子はなんだって盗みます。ですから無理です。旦那様や奥様に知られたら」

ボビー「わかった。じゃあ、こうしよう。俺が雇うっ。俺専用の小間使いだっ。行くぞ、ウテナ!」

 ボビーあんちゃんとウテナは二人で行っでしまっだ。

 わだしは呆気にとられてそこに立ち尽くしでだ。

ナンシー「それじゃあ、今日から働いて貰うよ。ミレーヌ、これから湯を沸かすから薪を三束持ってきておくれ」

ミレーヌ「どこにあるんですか?」

 わだしはナンシーさんが教えてくれた薪小屋の場所に向かった。

 薪小屋には薪になる前の切った丸太がたくさんあった。

 けれど切った薪がなかったので、わだしは『ふるさとバッグ』から斧を取り出して三束分の薪を割った。

 斧は戦斧だげど、薪割り用の柄の長い斧が見当たらなかったので、それでチャッチャッど薪を割っだ。

 そして割っだ薪をかがえで水場に戻っだ。

ナンシー「おや戻ったね。悪いけど窯に燃やす薪も持ってきておくれ。それは厨房にね。窯は三つあるから、二束ずつ六束あれば間に合うよ」

ミレーヌ「はい」

ナンシー「ところで薪は十分あったろうね」

ミレーヌ「はい、薪≪にする丸太≫は十分ありましだ」

 わだしは薪小屋に急いで行ぐど丸太を六つ分斧で割っだ。

 それを傍らに置いてあっだ背負子に積んで、背負って厨房に運んだ。

 厨房にはまだ誰も来てながっだ。わだしは窯のそばに薪の束を置ぐど、ナンシーさんのとごろに他に用事はないかと聞いだ。

「もう終わったのかい。少し休みなさい。小一時間もしたら厨房で働いて貰うから」

 わだしは暇になっだので庭を散歩しでみようど思っだ。

 ところがある一角が雑草がぼうぼうど茂っていでみっどもない。

 しかもそごは洗濯物を干す場所になっでいだがら、草が生えでいるど洗濯物が汚れる。

 わだしは『ふるさどバッグ』がら大鎌を出しでザァァァザァァァと刈っでやっだ。

 ついでに細把こまざらいも出して刈っだ草を脇に集めでおいだ。

 よく見ると洗濯ものを干すロープが緩んでいだので、それもギュッと引っ張って張りなおししようど思っだ。

 腕の力だげだど男でもきづぐ張れない。わだしは立木に両足かげで全体重かげで引っ張る。

 つまりわだしの全身は幹の途中から真横に生えだようになっでロープに力が入るのだ。

 ビィィーンと張っでがら、ギシギシど幹どロープが擦り合わせで背骨まできしむくらいやっでがらグルンとロープを枝に巻いで縛っだ。

 それがらビンと張っだロープの真ん中を下がら引っ張っでみでもたるまないのでオーケーだ。

 

 時間になっだので厨房に行ぐど、わだしは野菜切りを任せられだ。

ナンシー「ミレーヌ、お前は切るのが速いね。慣れてる感じだよ」

ミレーヌ「村じゃなにがど宴会が多がっだがら、いつも大量に肉や野菜を切っでいだ」

ナンシー「なるほど。田舎じゃ宴会が楽しみだものねえ」

 そこに偉そうな感じのおじさんがやって来だ。

「おい、使用人のスープは後で良いだろう。窯を空けろ」

ナンシー「シェフ、三つあるんだから、使わせて下さいよ。もうすぐ終わりますから」

シェフ「駄目だ。三つ同時に使うから鍋を下ろしてくれ」

ナンシー「こんな大きな鍋、急に下ろせと言っても。それに熱いし」

ミナール「わだし下ろします」

 わだしは二十キロくらいある鍋を持ち上げで土間に下ろしだ。

ナンシー「ミレーヌ、お前、力あるねぇ。それに取っ手を素手で掴んでも熱くないのかい?」

 わだしの手はかなり大きぐで、皮があづい。手全体がタコで一杯で、まるでかかとの皮みだぐあづいんだ。

 剣を持づ人は剣のタコができる。槍、弓、斧などを使う人もそれぞれ独特のタコがでぎる。

 祖母ばあちゃんは、わだしにあらゆる武器を使わせだ。

 戦いの最中にどんな相手にぶづがるがわがんねがら、どんな武器でも使えるようにしでおげど言われだ。

 もちろん農具も持っでるがら、手の皮は薄ぐない。

 鍋の取ってを素手で持っでも、なんでごどはない。

ミレーヌ「大丈夫です。手の皮あづいでずがら」

ナンシー「そうかい。す……すごいね」

 そうしでいるうちに夕食が始まっだ。

 この邸宅には侍女さんたぢという人だぢがいで、専門にご主人だぢに給仕しだりお世話しだりするらしい。

 女中頭のナンシーさんが使用人で一番偉いと思っだが執事どが侍女長とがいう人だぢがその上にいるらしいのだ。

 夕食が終わるど突然使用人全員が集まんなきゃいけなぐなっだ。

スージー「執事のヤコブさんが洗濯干し場に全員集まるように言って来たよ」

 洗濯場に集まるど、頭の禿げた痩せたお爺さんが背中をピンと伸ばしでみんなの前に立っでいる。

 きっどこの人がヤコブさんだろう。

 眼鏡をかけたきつそうなおばさんが後ろにメイド服を着た女三人を従えて立っていたが、ヤコブさんにつっかかるように言っだ。

「ヤコブさん、私たちはこの家のご家族のお世話をしなければならないのですから、あまり時間はとれません。できれば早めに戻していただきたいのですが」

ヤコブ「エリザ侍女長、この件はご主人の了解を得ている。この邸内で不審なことが起きればきちんと解決しなければならないということだ」

エリザ「分かりました。もし問題が起きたら、あなたの方から言って下さいね」

 ヤコブさんは大きぐうなづぐど、みんなの方に向いた。

ヤコブ「実は下男のアランが昼前から具合が悪くて休んでいたんだが、夕方になって慌ててやって来たんだ。

 なんでも夕食用の薪を割っていなかったというので慌てて来たというんだが、それが薪はちゃんと足りていたようなんだ」

エリザ「まあ、それなら結構じゃないですか? 何が問題なのですか?」

ヤコブ「アラン、説明しなさい」

 するど、前に出で来だのは体の大きい男で、いがにも力のありそうな人だっだ。

アラン「昼前には薪がなかったんだ。

 で、いちおう薪小屋に鍵をかけて中に斧を置いてあるから、外には割っていない丸太しか積んでなかった。

 ところが何者かが九束くらいの薪を割ってくれた」

ヤコブ「薪小屋のカギはアランの他はご主人様しか持っていないのだ」

エリザ「騒ぐことじゃないわ。薪を割ることができる人がいるじゃない。ほらそこに」

 エリザ侍女長は端に並んでいた体格の良い男たちを指さした。

 そこには荒事に向いてそうな武器持ちが三人いて、一目でこの屋敷の護衛だとわがっだ。

護衛1「俺たちは護衛が仕事で薪割りなんかしねえよ」

護衛2「剣で割れないことはないが刃が傷むから頼まれてもしない」

護衛3「俺もだ。俺は確かに戦斧バトルアックスを持ってるが、これは薪割り用じゃねえし、誰にもこれを触らせていねえ」

ヤコブ「これでお分かりかな、エリザさん。誰も薪を割っていないんですよ」

エリザ「それじゃあ、新しく入ったという女中は?」

 わだしは急に言われでびっくりしだ。でもわだしがやっだとは言えない。

ミレーヌ「わ……わだしですか?」

エリザ「あら、お前かい? まだ子供じゃないか」

ナンシー「薪を運んだのはこの子です。ミレー、お前が言ったとき薪はあったって言ってたよね」

ミレーヌ「は……はい」

 実は薪にする丸太があっだという意味だっだ。でも今更違うども言えない。

 それに本当のこどを言うど、『ふるさどバッグ』のこどもいわなきゃいけなぐなる。

 レナール婆ちゃんから絶対言っではいげないど言われでるし。

エリザ「こんな子に薪を九束も割れるとは思えないしね。

 確かに不思議ね。」

アラン「それだけじゃないんです。見てくだせえ。この辺りの草は伸び放題なんで刈り取ろうと思っていたんですが、この通りきれいに刈ってあります。午前中はまだ刈ってなかった」

エリザ「このくらいなら新人の女中でもできそうね。田舎育ちならできそうよね」

 侍女長はまたわだしの方を見だ。わだしは首を振っだ。

アラン「草刈り鎌も薪小屋の中なので無理だと思う。

 それよりも、前からスージーさんに頼まれてた物干しロープの弛みを直すってやつなんだけど。

 この通りビンと張ってある。これも昼前は弛んでいたんだ。言っとくけど、これだけきつく張るのは俺でも難しいくらいだ」

 そう言っでアランさんは護衛だぢの方を見るが、三人ども首を振っで自分じゃないと否定しでいだ。

ヤコブ「以上だ。していることはアランの仕事を代わりにしてくれているので、良いことのようだが、誰がしたのか分からないというのは気味が悪い。

 このことについて誰か知らないか?」

 するとエリザ侍女長の後ろに並んでいた侍女が手を挙げた。

ヤコブ「ハンナ、何か知ってるか?」

ハンナ「はい、薪小屋の方で薪を割るような音が聞こえていました。でも普段と違って……その……」

エリザ「なんなの? なんでも気づいたことはお言い」

ハンナ「そのいつものアランさんが割る音とは違って、すごくパンパンパンって速く割っているんです」

アラン「柄の短い斧で割ってるのかな? でもそれならかなり力がいる筈だ」

 すると厨房にいたシェフが付け加えた。

シェフ「薪はいつもの丸太を四等分した太さじゃなくて、十かそれ以上細かく割ってあった。だから変だなとは思ってたけれど火をつけやすいし火力の微調整がしやすいのでそういう風にしたのだと思ってた」

アラン「そうか。真っ二つに割るより端っこから細かく割った方が力がいらないからな」

ハンナ「それとこの洗濯干し場の方から草を刈るような音が聞こえていました」

エリザ「お前はずいぶん庭の方に出ていたんだね。ボビー坊ちゃんの用事はなかったのかい?」

ハンナ「サボっていません。ただ、ウテナさんとかいう新しい坊ちゃん専用の侍女が来たので、わたしは邪魔扱いされてどこかに行けと言われたので、何かすることはないかと外回りをしていただけです」

ヤコブ「それでここに来て草を刈ってる者を見たのか?」

 わだしはドキッとしだ。誰にも見られでいないど思っでだのに。

ハンナ「いえ、なにかその音が気味が悪くて近づきませんでした」

ヤコブ「草刈る音が気味が悪いとはどういうことだ?」

ハンナ「はい、普通アランさんが刈るときはサクッサクッサクッて短い音なんですが、わたしの聞いたのはズサァァァァッ、ズサァァァッという間隔が長い音でまるで死神が大鎌を振るっているような音だったんです。わたしはアランさんがやっているのかと思いました」

アラン「大鎌は置いてあるけど、滅多に使わねえから、錆びている。柄が長いと狭い場所ではあちこちぶつけるから使わないんだ」

ヤコブ「ということは大鎌さえも楽々と扱える者ということか」

エリザ「ヤコブさん、ここまでにしませんか? 私たちではないということが分かったので、今度は侵入者がいたと考えて捜索しては?」

ヤコブ「誰か怪しい者を見ていないか? そうか。それじゃあ、護衛の人たち今後屋敷周辺の見回りを強化してみてくれ」

 臨時の集会?はそこで解散になった。

 わだしはごく気軽にしだこどが、大ごとになっでいるので驚いだ。

 その晩わだしはふど思っだ。

 いたずら妖精のせいにしではどうだろうど。

 いだずら妖精……それを思っだとぎ、突然自分のベッドの上にいだわだしは目が回りはじめだ.

 妖精……妖精……なぜかこの言葉がわだしの頭の中でぐるぐる回っだのだ。

 そしでわだしはそのまま意識を失っだ。

 次からは訛りがなくなります。最後まで読んで頂きありがとうごいざいます。

 特にこの第一話を読んで下さった方全員に粗品を差し上げたいほど、そのご苦労に感謝しています。

 差し上げたいほどの気持ちということで、実際は差し上げることはできません。

 その辺の意を汲んで頂きたいと切に思います。

 そして第二話以後もぜひ読んで頂きたいと願っています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ