土壁の部屋 3
入り口を入るとホコリだらけの靴箱がある、
おそらく、ここで靴を脱いで一段高くなった廊下へと上がるのだろう。
しかし、佐野さんは靴を履いたまま廊下へと上がったではないか?!
まっ、まさか? ここっ?!
今朝までピカピカにしていた廊下とは大違いだ!
施設より酷いやないか!シンは目を疑った。
廊下のすぐ右には欠けたタイル張りの流しがある。
蛇口が3つ並んでいる排水口には、
得体のしれない異物が詰まっていて淀んだ水が溜まっていた。
流しと洗面所と共有なのか?横に並んで、腐りかけた、
木の開き戸がひとつ。ツーンと嫌な匂いがした。
おそらく汲み取り式のトイレだろう、
思わず息を止めた。
軋む廊下を歩く、そのすぐ角の左の部屋の前で佐野さんは立ち止まった。
ところどころガラスにヒビの入った引き戸を開けながら、
「ちょっと、汚れてるけど掃除すれば大丈夫、ここが君の部屋だよ」
とシンの肩を叩いた。そして、
「荷物があるなら運んでください」と平気で言った。
おいおい!まじかよって思うシンの心が通じたのか、
流石に親父も問いかけた。
「先ほどの社宅は空いて居ないのですか?」と聞く。
すると佐野さんは、
「そうなんですよ、いっぱいで、それに独身者は
こちらの社宅になるんですよ」と答えた。
「わかりました、おい、荷物運べ」
親父はあっさり納得しやがった。どうせ人ごとである。
さっさと運んでこの場から立ち去りたい感が半端ない。
「じゃ、如月くん、7時に夕食用意してるから、私の家にきてね」
と言って佐野さんは会社へと戻って行ったのだ。
親父は車のトランクを開けた。荷物と言っても家具やラジオ、
ましてやテレビなどあるはずもない。
そこにはひと組の布団が詰め込んであった。
たった、ひと組の布団と施設から持ってきた手提げカバンひとつ。
それだけを朽ちかけた部屋へと運び込んだ。