退院そして卒業4
朝食後、私物を纏め退院の準備をする、私物といっても、何があるわけではない、数枚の下着と着替えの洋服と筆記用具のみだ。
小さな手提げカバンひとつであまるほどだった。
午前8時を過ぎる頃、大和寮に残る下級生たちに別れを告げ、寮の教員の先生とその妻が職員室への狭い通路を彼を連れて歩く。
先生の妻だが、奥さんも職員なのである、寮には住込みで勤務しており、寮生と共に暮らしている、もちろん部屋は区別してあって
生活部分は寮生は立ち入ることはできない、職員側も寮生を決して入れてはいけないのである。
先生夫婦には、小学生の男の子と、中学生の男の子がいた、その子達は大和寮から地区の学校へ通っている。
今思えば、どんな気持ちで寮生を見ていたんだろう。【こいつらと僕とは一緒の屋根の下で暮らしてるとはいえ、格が違うんだよ】ってなことを
思っていたんではないかと捻くれた考えしか思いつかなかった。
非行行為でここに送られてきた少年、少女もいるが、学校生活に適応できずにさまよい、助けを求めて保護、教育を受けるために入所してきた者もいるのである。
同じ年頃の先生夫婦の子供たちをみていてシンはいつも嫉妬感が止まなかった、心の底で家族と言う物に憧れとか、ぬくもりとか、何かお腹の中を
手のひらでギュッと握られたような感覚を覚えさせられてきたからなのか?
いや、寮母であった奥さんに、母親像を重ねていたのかもしれない‥‥。
これからひとりきり、社会へと送り込まれるシンにとってこの家族への感情がひとつの糧になっていたのかもしれない。
地域や個人名、団体名などは個人情報に基づき仮名にしてあります。
ご了承ください。
著者【shingetu】新月