土壁の部屋 最終話
「これは施設から出た祝い金や」
そう言って、財布から3千円をシンに手渡し、
車へと背を向けた。
見送るシンに運転席から、
「それじゃ、がんばれよ、もうマズイことはするなよ、
なんかやらかしたらすぐ戻されるからな。」
と言いながら、親父は去って行った。
自ら家を飛び出したシンにとって、去って行った
父親や義母には何の感情も湧いてはこなかった。
義母に関しては彼が施設に入ってからは音信不通で
まだ親父と暮らしているのかも定かでないままであった。
このあと父親や義母とは成人を超えるまで話すことも、
会うことすらもなかった。
シンは部屋に戻った、一人きりになったのは久しぶりだ。
本来なら心弾む心情なのだが、退院した喜びも、
今、目の前にある現状があまりにも理想と違っていて
何ををどうすればいいのか解らず、大きくため息をついた。
そして、へたり込むように布団に倒れこんだ。
ガタッ、ガタガタッ!ガラス式の引き戸が風で煽られ、揺れている。
身震いを感じて目が覚める。
あたりはもう薄暗く、隙間風が薄気味悪く笛を吹く。
どうやら、眠ってしまっていたらしい。
今日は色々ありすぎて疲れて居たのだろう。無理もない。
日が暮れると、やはりまだ寒さが身を指す。
親父からもらった薄っぺらい掛け布団を手繰り寄せ、
身を丸めた。
この感じ、前にも何度かあったな。
あの時とは違いまだ布団や屋根があるだけマシじゃないか?
監視の元とはゆえ、昨日までは教護院で守られて来たんだ。
それなりに寮の仲間たちとも笑顔や会話があった。
そんなことを思いながら細く開いた目で天井を見上げる。
微かに揺れる裸電球。
手を伸ばすと壁に触れる。ザラついていて少し湿っている。
ここで暮らすのか。
なんだか寒い…